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第2章 -少女期 復讐の決意-

65.プレデビュタント -2-

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 Side アイリーン

 (ふっふっふ、やっぱりアイリの超絶可憐な美しさに度肝を抜かれるわよね!!そう、主役は遅れて登場するものなのよ!王子達もやっとフロアに到着したし、これで私へ興味深々になること間違いなしだわ!!それにしても・・・あのクソガキの隣にいるのがルーカス王子かしら??・・・なんって完璧な容姿なのっ!!涼やかなクール系大人男子に決まってるわ!アイリの運命の王子様はやっぱりルーカス様だったのね!!)


 アイリは周囲の人々が自分の悪い噂や陰口を話しているとはまったく思っておらず、ただただ注目を集めていることに鼻を高くして澄ましていた。


 実はアイリはリリーナ達が来る前には既に入り口に到着していたが、気に食わない女と目当ての王子達がいないことを確認して、両者が揃うまで目立たない所で待機していたのだ。

 初めに着いた時にリリーナの姿が見えなかったため(分かったわ!あの女・・・わざと遅れて目立とうって魂胆ね!なんて低俗な考えなのかしら!)と勝手に推測し、自分がその計画を狂わせてやろうと燃えたのだ。
 最後に到着して周囲の視線を独り占めしている姿を王子達に見せつけるために、ドレス姿という防寒もクソもない恰好で随分と待っていたのだ。


 (それに何?あんなダッサい恰好!あの公爵令嬢もだけど、バッチリ決めちゃって・・・これだから男心が分かってない奴等は!髪はちょっとほぐれるくらいの抜け感が守りたい系女子を演出できて男ウケがいいのよ。ドレスはあえて地味目の色で、普段よりちょっと肌を見せることで男をドキッとさせる・・・この私の完璧なコーデ!!見えないところも全部綺麗にして、屋敷のオバチャン達が慣れてなくて時間かかったけど何とか間に合ってよかったわ!!)

 ───実際は、見れたものじゃないアイリーンの状態を何とか正常に戻そうとメイド達が必死になって頑張っていたのだが、アイリーンの強い主張に最終的には匙を投げて好きにさせたのだ。

 ”せいぜい公で恥をかいて、もう外に出たいなどと言わないくらいに罵倒されて来い”とメイド一同皆思っていた。



 アイリーンの前世でバカな男相手に培ったスキルは・・・周囲の様子を見るとこの世界(貴族社会)では通用しないようだ。

 「なんだあの酷い髪形は」「幼い少女があんな暗い色のドレスを着るなど・・・」
 「いやいや、大人のマダムでもあんな色を着る方など、中々いないだろう」「はしたない・・・伯爵家はどの様な教育を・・・」

 騒めきだけを感じて悦に浸っているアイリーンは、周囲で囁かれている言葉に依然気付くこともなく、しばらく澄ました顔で周囲を練り歩いた。




 ◇





 あぁ~、奴が思ってることが手に取るように分かるぞ~??
 多分あんな澄まし顔して”皆私の可愛さに度肝を抜かれてるのね♪”とか思ってそう~。
 (あら、伊達に前世で世話させられてただけあるわね!多分あってるんじゃない?全然気にした素振りないし。・・・奴って本当に図太いのね、何だか質の悪さがハンパなさそうじゃない・・・。)


 リリーナはリベアと遠い目をしながら話していると、ルーカス王子が何やらクリス王子にボソッと耳打ちしているのが見えた。
 ・・・まさかと思うが、ルーカス王子は奴を気に入ったのだろうか??
 だとしたら・・・女の趣味悪すぎて普通に引くわ。


 ──────リリーナが白い目を向けているが、実際はそんなこと全くなかった。


 「クリス、お父様から言われたこと覚えてるだろう?・・・実際見ると中々だが、ここは男としてお前が折れてもいいじゃないか?」

 「・・・・あ!!これで招待者皆揃ったみたいだぞ!!兄様!僕は皆へ開会の挨拶をしにステージに行ってくる!!」

 すたこらサッサとクリス王子はステージに向かって逃げていった。


 「・・・はぁ、」(全く、頑固なのは義母に似ているなぁ。)
 ルーカスがため息を吐きながらも、憎めない弟に苦笑いしながらステージに目を向けた。


 リーーーン、リィーーーーーーンという音がステージから聞こえ、主にアイリーンについてざわついていた会場内の人々の注目が集まる。
 その時を見計らって、水やお茶やジュースなどがそれぞれに渡されていく。


 「今日は僕が10歳を迎えたということで・・・このような大勢が集まってくれて大変嬉しく思う。ランチ会に参加した令嬢達には、失礼をお詫びしたい。皆さんとお会いできた嬉しさのあまり、少し思慮が欠けていたようだ。・・・今後とも、まだまだ不甲斐ない僕だが仲良くして。では、今日は色んな交友を持ち、それぞれにとって良い会になることを願う。・・・乾杯!」


 「「「乾杯!!」」」という掛け声の後は、クリス王子・ルーカス王子共に子息令嬢達に囲まれた。
 そして公爵家であるポートマン姉弟を中心に、リリーナ達のところにもぞろぞろと挨拶をして・・・あわよくば仲良くして欲しい者達が群がった。


 エディはリリーナを片手でギュウッと支え自分から離れないように、他の(特に男)人があまり不用意に近づかないように注意しつつも対応していた。




 (あぁ、面倒だな。・・・さっさとリリー達の下へ行きたいんだが。)

 挨拶に来る者達を交わしたり適当に対応したりしている内に少し離れてしまったルーカスは、不機嫌さを隠しもせずに来る者達の対応をしていた。

 見るからに”仕方なく挨拶しに来ました”という子息やどこか怯えながら挨拶しにくる令嬢など・・・本当に、面倒くさいことこの上ない。
 さっきエディ達と話していた時は久々に楽しかったのに・・・対応を放棄できない自分の身分を恨みつつも、出来るだけ早く且つ少しずつリリー達に近づきながら対応していく。



 ────すると、今まで聞いたことのない甲高い耳障りな声が聞こえた。

 「まったく・・・!そんな嫌そうな態度で、ルーカス様に失礼じゃない!!いくら側妃の子どもだからって、そんな態度するなんて・・・恥を知りなさい!!」

 その声は、不気味な髪色をした・・・あの”例の”令嬢から発せられたようだ。
 恐らくその言葉を吐かれたであろう、子息令嬢達がギョッとした表情をして・・・まるで未知の生物を見るような視線をアイリーンに送っていた。

 「は・・・?い、いやそういうつもりでは・・・!」「ちょっと目つきが怖かっただけで・・・」

 などと弁解している彼等を、アイリーンは鼻で笑った。

 (ずーーーっと見てたけど、やっぱりルーカス様は王宮で冷遇されてるんだわ!!だって皆が挙動不審に近づくし、王子なのに凄い短い挨拶で終わってるもの!・・・ここで私はコイツ等と違う、ちゃんとルーカス様本人を見てるってことをアピールしたら・・・うふふふっ!!)

 乾杯の後、アイリーンの下に挨拶しに来る者など現れず、ひたすらルーカス王子に近づくチャンスを伺っていた。
 実際はルーカスが冷たくしている方が多いのだが、アイリーンは”自分の推察していた状態と全く一緒だ!”と勘違いし舞い上がり、あの様な・・・逆にルーカスの名を汚す様な言葉を発したのだ。


 (何だコイツは・・・。側妃の子どもだからという言葉が出ると言うことは、コイツ自身が俺に対してそう思ってるんだろうな・・・胸糞悪い。俺に恩を売ったつもりなのか?それとも自分に酔っているのか・・・。クリス、すまない。俺が間違っていたようだ。コイツに謝るなど、どれだけ自分に非があっても出来やしないだろうな。)

 段々とより一層冷えていくルーカスの眼を見て、子息令嬢達は顔色を悪くさせ・・・アイリーンは逆に確信を持ったのだろう、キラキラと目を輝かせた。


 子息令嬢達はそそくさと挨拶を終えて逃げるように去っていき、ルーカスに挨拶しようとしていた者はその空気の悪さに二の足を踏んでいた。


 「ルーカス様、お初に」
 「では私はこれで。ちょっと話をしたい者達がいるのでね。君たちも、無理して挨拶に来なくても良い。今日は弟の会だ。気楽に楽しんでくれ。」


 ルーカスはアイリーンが挨拶しようとした途端割り込んで別れを告げ、アイリーンなど視界に入っていないように振る舞いリリー達の方へと去っていった。



 「んなっ、」
 (な、なんでアイリのこと無視しちゃってんの?!貴方を助けたアイリにお礼もなしで去っていく何て有り得ないんですけど!!)

 王子が去ったことで、周りにいた者達も散り散りになりポツン・・・と一人でアイリーンは地団駄を踏んでいた。


 (・・・はっ!!!そうか!!まだ信じられないのね!!今まで味方が一人もいなかったんだもの!そりゃ信じられるわけないわよね・・・それに、あんな態度取られてたのに怒りもせずに窘めるなんて、やっぱりルーカス様は大人ね!!どっかの誰かさんみたいにお子ちゃまじゃないし・・・近くで見たら益々カッコよかったし・・・!!はぁ、今日は最高の日ね!・・・奥手のルーカス様に、アタックしないとね!)


 アイリーンは突然上機嫌になり、るんるん♪とした様子でルーカスの後を追いかけた。


 周囲は「見た目だけでなく、頭も奇妙らしいな・・・」と身震いしながら、今後も絶対に関わらないでおこうと心に誓っていた。






 

 
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