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第2章 -少女期 復讐の決意-

66.プレデビュタント -3-

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 どれくらい経った頃だろうか、エディの完璧なフォローのもとリリーナは貴族相手に対応を頑張ってきたが・・・初めてという事もありとても疲労していた。
 ドレスを着ているから余計息苦しい・・・本当に早く帰りたくなったが、まだまだ終わりそうにない挨拶の人だかりにリリーナは気が遠くなっていると、エディが心配そうに顔を覗いた。

 「リリー、大丈夫かい?・・・すまない、慣れない場で妹の気分が優れない様だ。ちょっと外の空気を吸ってくるので、我々は失礼するよ。」

 有無を言わさない強い口調でエディが伝え、リリーをテラスの方へエスコートしていく。


 お・・・お兄様!!!!なんてイイ男!!紳士!!ここに小さな紳士がいます!!
 (リリー・・・本当疲れてんのね、普段より変なテンションになってるわよ、落ち着きなさい。)
 だ、だって・・・!あんな絶妙なタイミングで連れ出してくれるなんて!お兄様大好き!!
 (はぁ、まったく・・・調子が良いんだからっ。)


 疲れがピークだったからか、そんな状況から救い出してくれたエディがメシアに見えたのだ。
 テラスに着きそよ風に当たるとちょっとスッキリしたが・・・やはり体調は優れない。

 「リリー!!エディ!!・・・大丈夫?具合が悪そうだったから、お水を持ってきたよ!」
 「エディ様が頑張ってらしたけど・・・それでもあの多さじゃ気分も悪くなるわね。」

 ポートマン姉弟も心配して様子を見に来てくれたみたいだ。
 グレンから貰ったお水を飲むと、さっきよりはスッキリしたように感じた。


 「ありがとう、グレン。お兄様もセシルお姉様も・・・。ちょっとだけ疲れてしまったわ。でも、グレンから貰ったお水と外の空気を吸ったおかげで大分良くなりました!本当にありがとう!」

 まだまだ顔色は悪いが、ニコっと笑顔が浮かんだリリーに一同はホっとした。

 「リリー、王子達にも挨拶したことだし、ここでちょっと休んだら今日はもう帰ろうか。」
 「そうね、そうした方が良さそうだわ!・・・私達も大半の方達には挨拶が終わってるし、一緒に帰りましょう。」
 「そうだね!王子様達には僕がまた会った時に伝えとくよ!」

 「・・・ふふふっ、皆ありがとう。じゃあ・・・お言葉に甘えて」
 「あぁ!皆ここにいたのか!探したぞ!!・・・??どうかしたのか?テラスにいるなんて。」


 帰るムードでこの場がまとまった時だった。
 ルーカスが急ぎ足でテラスにいたエディ達を見つけると、嬉しそうに近づいてきた。


 「あぁ、ルーカス!丁度良かった。実は俺達今日はこれで」


 「ルーカス様!!・・・あら!グレンじゃない!貴方も来てたのねっ♪最近全然会えないんだもの、アイリ寂しかったわ!!・・・!なっ!!グ、グレンっ、そこのイケメっゴホン、その方はお友達?アイリに紹介してくれないかしら。」



 ────エディがルーカスに帰ることを伝えていると、聞こえてほしくなかった声が聞こえた。

 ルーカスを追いかけてきたアイリーンは、リリーナやセシルに目もくれずルーカスと最近会っていなかった幼馴染にそれぞれ声をかけた。
 そして・・・グレンの傍にいる、正装でいつにも増して好青年度が上がった美青年であるエディに衝撃を受け、何とか平静を保ちつつもグレンに紹介する様に要求を忘れない。


 先程の事もあり、ルーカスは思いっきり顔をしかめ「チッ」と舌打ちした。
 グレンも先程リリー達に見せていた優しそうな顔がどこへ行ったのかと思う程、冷たい目で表情の一切が消えていた。
 セシルは扇で口元を隠しながら眉をひそめ、エディは(ほう、コイツが例の・・・)と少し目を細めてアイリーンを観察した。

 「・・・断るよ。大事な友人に、君の様な非常識な人間を紹介なんてしたくない。大体君のその恰好は何なんだ?だらしがない。ステイン伯爵家にはちゃんと支度できるメイドがいないらしい。」

 「んなっ、な、なんですって?!」

 侮蔑の表情を浮かべたグレンがアイリーンに吐き捨てるように返事をした。
 アイリーンは美少年な幼馴染であるグレンから、そんな言葉を吐かれると思っておらず絶句した。

 「ちょっとグレン!!いくらアイリが他の男の子に興味を持ったからって、そんなヤキモチ全然可愛くないんだけど?!そういう時は素直に「アイリには僕がいるから必要ないでしょ??」って言ってればいいのにっ!!そんなこというグレンなんて嫌いになっちゃうからね!!??」

 顔を真っ赤にするほど怒っているのか、唾が飛ぶくらい大きく吠える。


 「はぁ、ヤキモチ?僕が?君に?なんで嫌いな相手にそんな感情抱かなきゃいけないんだい?本当、君は何年経っても理解できなくて疲れるよ。・・・まさか今まで僕に好かれているとでも思っていたの?本当に?なんて君はバカなんだ、脳みそ本当に詰まってるの?それともずっと寝てて夢ばっか見てたのかな?君のどこに好きになる要素があるの?容姿もだけど性格が最悪だ。僕は穏やかで誰にでも優しい偏見のない子が好きなんだ。君と全く別の性格だね?」

 アイリーンの戯言に”聞いてられない”とばかりにため息をついて冷静に突き放した。

 グレンは何故かリリー達の前でそんな有り得ない戯言、嘘と分かることでもそのままにすることが出来ず・・・今までの鬱憤も相まって言葉が止まらなかった。

 「な、なっ・・・・!!」

 今まで大人しかったグレンから、こんな怒涛の悪口が出てくるなど思いもせず・・・アイリーンは口をパクパクさせて言葉がもはや出なかった。


 そんなアイリーンの様子を見ていた一同は、愉快な気持ちで大声を出して笑うのを我慢していた。
 特にセシルは(小っちゃい頃あんなに虐められてたのに・・・!グレン大人になって・・・!!)と感動も相まって今にでも駆け寄ってわしゃわしゃと頭を撫でてあげたいのを我慢していた。


 ちょwwwグレンさんwwwそんなトドメ指しちゃwww
 (あら!グレンやるじゃないっ!結構ヘタレだと思ってたけど、認識を改めなくちゃね!)


 リリーナは一瞬体調の悪さを忘れる程内心爆笑していた。
 リベアと愉快な会話をしていると・・・このままでは腹がよじれそうだと、エディが意を決して声を出した。

 「っま、まぁっ、グレンっ、そのくらいでいいんじゃないかな?俺も彼女に自己紹介したいと思ってたしっ」
 ゴホン、とちょっと笑いが出たことを誤魔化すエディの姿に、アイリーンはパッと顔が明るくなった。

 (な、なによ!やっぱり同い年の男達はクソガキしかいないのね!グレンのツンデレはアイリのタイプじゃ無さすぎてガッカリだわ!!やっぱりアイリの相手は年上のイケメンが相応しいわ!!彼もアイリに夢中っぽいし!)
 何か期待している様子のアイリーンを無視しながら、エディは横にいるリリーナを大切そうに片腕で抱き込みながら自己紹介した。


 「初めまして。俺はエディール・バジル、君が随分と怒らせたリリーの実の兄だよ。バジル辺境伯爵の嫡男だ。・・・君にとっては”田舎者”らしいから、興味ないと思うけどね。」

 ニーーッコリと笑いながら、しかし目は笑っていない・・・どこか威圧のある姿で決めていた。


 「あ・・・・あらっ!私その様なこと言ってないわよ??ただ、ちょっと遠いですわねと言っただけで・・・!わ、私アイリーン・タンジ、公爵令嬢ですわ!エディール様と仰るのね!ルーカス様もエディと呼んでいるようですし、私もエディ様とお呼びしてもよろしいかしら?」

 まさか気に食わなかった女の身内だとは思わず、しかも自分が”田舎者”と侮辱した領の嫡男だったなんて・・・!と焦り(ここは何事もなかったように流すしかないわね!)と割と強引に話をすり替えようと必死だった。


 「いや、エディは親しい人にしか呼んで欲しくないんだ。君に呼ばれる筋合いはないよ、遠慮してくれ。それに・・・君は自分の発言も覚えていないのかい?随分と軽い頭をお持ちの様だ。でも・・・君が俺達の大事な使用人やリリー、そして我が領の事を侮辱したことは忘れないでくれよ?俺は死んでも忘れないからね?」

 もはや笑みも浮かべない本気のエディに、アイリーンは後退りしていた。


 (エディもやるぅ~♪成長してるのはグレンだけじゃなかったわね!リリー、アンタの言った通りエディはイイ男ね!!・・・リリー??)

 リベアの意見に全力で同意したいが、今まで耐えてきた体調の悪さがピークになってきてそれどころではなくなってきた。

 ・・・まずい、本気で・・・気持ち悪い・・・。  


 「!!リリー、大丈夫??辛いなら力を抜いて!兄様に寄りかかりなさい!」
 「リリー!大丈夫?・・・僕父様達に伝えてくるっ!」
 「エディ、城の救護室を使いなさい!すぐにリリーを休ませよう!」

 フラっとよろけたリリーをエディは抱き支えて心配そうに見つめると、願ってもないルーカスの申し出に頷く。
 するとそこまでしてもらうのは申し訳ないと、リリーは弱弱しくエディの服を摘まむ。

 「お、お兄様、大丈夫ですわ。ちょっとフラッとしただけですの。だから・・・」
 「リリー、そんな顔色で言っても説得力が無いわ。そのまま支えてもらいなさい。」

 セシルがリリーの頬を撫でる様に窘める。

 「リリー、大丈夫か?・・・やはり病弱なのは変わってなかったんだな・・・。今日は初めての社交場でキツかっただろう、早く休みなさい。救護室が嫌なら迎賓室を用意しよう、安心して休める。・・・私は君が苦しんでいる姿を見たくないんだ、頼むから言うことを聞いておくれ。」

 ルーカスがリリーの手を取り、切なげな表情で懇願している時、

 「リリー!!大丈夫か??さっきグレンから体調を崩したようだと聞いて・・・!」
 とクリス王子もやってきた。


 なんだか大事になってきてしまった・・・。
 止めてくれ、私は何事もなく今日を終えたいんだ!このまま自然にフェードアウトさせてくれ!


 リリーナが切実に、涙目になりながら戸惑っていると・・・話の中心を奪われたあげく今までまるでいないかの様に無視されたアイリーンが吠えた。

 「何仮病使ってんのよ!!今アイリがエディ様と話してたのに!!そんなに自分に注目されないと気が済まないわけ?!本当サイッテー!!性格悪すぎ!!・・・エディ様っルーカス様っ騙されないでください!!その子本当は何ともないんです!病弱な私は分かるんです、彼女が演技だって!!・・・ほら、そんなエディ様に迷惑かけてっ!妹だからって何でも許されるなんて思わないでよね!」


 アイリーンはドスドスと近寄ってきたのを見て、クリスが前に出ようとすると・・・ここは女同士の方が後々面倒くさくないだろうと考えたセシルが制し、自らリリーの前に立つ。

 「ちょっと、何よ?!」
 「何よ、とは私のセリフです。リリーに近づいて何をする気ですの?不用意に近づかないでくださいまし。」

 「はぁ??別に何もする気ないんですけど?!人聞きの悪いこと言わないでくれない??はっ!!アンタ公爵令嬢で・・・ま、まさか悪役令嬢?!アイリの事をこうやって陥れるつもりなの?!」
 「・・・はぁ、そちらこそ陥れるなどと人聞きの悪いことは止めてくださいまし。・・・というか、今日一日ずっと思ってましたが貴女はちゃんとした会話が出来ないお方なのかしら?お家で一体どんなお話をしているのかしら?」


 ───女同士のキャットファイトが始まった。
 ギャーギャーと喚いているのを後目に、ルーカスとエディはアイコンタクトをしてリリーを休ませる算段を立てる。



 「うるさいうるさいうるさーーい!!アンタなんてお呼びじゃないのよっ!!!────アンタもエディ様に寄りかかってないで自分で立ちなさいよ!!」

 ・・・するといくら言葉を発しても口で勝てないことにイラついたアイリーンがセシルを力いっぱいどかし、リリーナの腕を引っ張った。

 「キャア!!!」
 「っ・・・!!!」

 セシルは斜め後ろに倒れ、咄嗟にルーカスが支え・・・リリーナは足に力が入らずそのまま倒れてしまった。
 咄嗟にエディが受け止めたため床に倒れることはなかったが、足を捻ったのか・・・リリーナは痛みに耐えるような痛々しい表情を浮かべた。


 「「「「リリー!!!!!」」」」


 倒れたセシルもルーカスも、クリスも受け止めたエディも初めて見るリリーの痛みを耐える様子に悲痛な悲鳴をあげた。

 


 「ダイス!ハヤト!!リリーを、そんなのに構わず!早く救護室へ!!」


 いつの間にか潜んでいたところから出て、二人してアイリーンを拘束・・・若干力を入れながら血走った目で見ていたダイスとハヤトに声をかける。
 すると拘束していた手を放し、アイリーンを足蹴にしてリリーを抱きかかえていった。


 「ちょっと、何なのよ!!アイツ等何?!急に現れてアイリを押さえつけるなんて・・・!!アイリは公爵令嬢ってこと知らないわけ?!後で見つけて処刑してやるんだから!!!」


 立ち上がり、汚れに汚れたドレスをパタパタと叩きながら苛立った様子で文句を言う。


 ──────その場に残った者の威圧で、心なしか気温が下がったようだ。



 「まったく、・・・さぁ!邪魔者・・・はまだ一人いるけど、エディ様もあんな子の子守しなくてよくなりましたね!ルーカス様も!あの子は病弱じゃないんですよ?病弱のふりをして王宮で虐げられてる王子の加護欲を掻き立てて気を引こうとしていたに違いないですわ!アイリが気づいて良かったですね!あ、アイリはルーカス様の為って思って行動しただけですから!・・・側妃の子でも、ルーカス様はルーカス様ですからね、そんなの関係な」
 「黙れ」


 「・・・え?」

 「貴様の聞くだけで反吐が出る声など、もう聞きたくもないわ。」




 ──────アイリーンが思わず見つめたルーカスの眼は・・・これ以上ない程冷え切っていた。









 


 
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