上 下
21 / 238
第4章 シルビアーナはもふもふと出会う

020★前世が同時期な理由

しおりを挟む


 泣きそうな声での思念波に、私はコウちゃんを抱きしめて問いかける。

 「別に、そのことに怒っているわけじゃないのよ。ただ疑問に思っただけだから……ね。でも、どうして? 3人が同時期に同じ地域で生きていたことが、コウちゃんのセイなの?」

 そう問いかけた私に、コウちゃんはびくんっと身体を震わせてから、オズオズと答える。

 『あのね……俺は…魔力も…能力も…全部失った状態で………異世界……そう、ますたぁーの…前世が生きていた世界に…この世界から、跳ばされてちゃったんだ……』

 その言葉に、私は考える。

 もしかして、異世界の前世の私達がやっていた、あの色々とてんこ盛りのRPG【黄昏の解放】という、この世界とよく似たモノが何らかの媒体となって、何らかの理由で弱りきったコウちゃんを呼び込んじゃったってことかな?

 『この世界から弾き飛ばされた先の異世界には、魔素(マソ)も真素(マナ)も無い世界だったんで、慌てて防護結界を張ったんだ………そこで力つきちゃって………』

(※マナという言葉に漢字が無かったので、見た目重視の漢字を当て字として入れました。  真素=マナでどうかな? と思いまして………。by.作者)

 「そう、力尽きちゃったんだ。それじゃしょうがないね。それで、跳ばされた後はどうしたの?」

 『うん…あのね。そのまま人々の思いがドロドロに詰まった、なんか神殿の祭壇みたいなところに、そのまま封印されちゃったの………』

 なるほど、それがあの市役所職員で、陸上自衛隊の予備役に入っていた、見た目は良いのに残念なオタク男性の私が行った古代遺跡ってことね。

 『ますたぁーが、あの神殿の祭壇から、俺を連れ出して、太陽の下に翳してくれたから………魔素(マソ)も真素(マナ)も無い世界で、唯一の力となる、光のエネルギーを採り入れていた時、ますたぁーの熱い生命力の血潮を浴びて、防護結界が解けちゃってね………ますたぁーの魂の中に慌てて逃げ込んじゃったんだ』

 えっとぉ……それって、あの古代神殿から出て、私が胸を撃たれた時のことよね。
 いや待って、慌てて魂の中に逃げこんだって………どうして?

 「コウちゃん、なんで魂の中に逃げ込む必要があったの?」

 素朴な質問に、コウちゃんはその時のことを思い出してか、興奮して3対の翼を無意識にパタパタさせながら答える。

 『えっとね……あの世界には、魔素(マソ)も真素(マナ)も無い世界だったから、もう力尽き寸前だった俺は、自分の存在を守る為の防護結界を張れなかったんだ……ちょっとでも遅かったら、俺は消滅していたんだ………勝手に魂に入ってごめんなさい………』

 ショボンとして謝るコウちゃんに、私は笑いかける。

 「馬鹿ね、コウちゃん。怒ってないって言ったでしょう…くすくす…それで、コウちゃんが消滅をまぬがれたなら幸いだわ。お陰で、こうしてコウちゃんと一緒に居られるもの…ね……だから、そんなことは気にしないの……」

 そう言って、コウちゃんの顔や首筋を優しく撫でる。

 『うん…ますたぁー大好きっ……』

 なるほど、どうやらそのままコウちゃんが私の魂の中に入っちゃったお陰で、その時空間に固定された痕跡のセイで、同時期に転生したってことね。
 でも良かったわぁ~…日本に転生できて………。
 下手したら、あの古代遺跡近くに住む者に転生していた可能性だってあったんだから………。

 もしかしたら、日本の八百万(やおよろず)の神々のお陰かも………。
 特に、あの時にコウちゃんを太陽に翳していたことを考えると、天照大神(あまてらすおおみかみ)様が、異郷の地で果てるヤマトの民である私を不憫に思って、魂だけでもってヤマト(日本)に戻してくれたのかも………そう思えてならないわ。
 
 私はコウちゃんを抱きしめながら、改めて言う。

 「私も、コウちゃんのことが大好きよ。ってことで、ここを出て一緒に美味しいモノを食べ歩いたり、冒険とかをしようねぇ~………」

 うん? なんか、妙に食にこだわりが………。
 そう言えば、アラフィフの喪女の時は、お取り寄せとかにもかなりこだわっていたわね。
 前世の記憶を思い出したことで、そういうのが出て来たってことかな?

 ただ、残念なのは、ラノベとかにあるような前世の人格とかが一切無いってことね。
 脳内会議とかしたら、色々と助かっただろうに………。
 そう、女性視点と男性視点じゃ違うし…年齢によっても、視点や思考がちがうから………3人寄れば文殊の知恵っていうのに………。

 まぁ、無いものはしょうがないわね。
 とにかく、やっぱりコウちゃんは、この世界の子ってことは確かなんだから、その知識を生かして、この難攻不落の深淵の絶望ダンジョンの《狂いし神子の討伐》イベントをなんとかやり過ごして脱出よ。

 『ますたぁー………魔物討伐しながら回廊を歩いて脱出する? それとも、この奥に進んでぇ~…ぱぱっと迷宮のお外に転移するぅ?』








しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

浮気の認識の違いが結婚式当日に判明しました。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:4,735pt お気に入り:1,219

あなたが見放されたのは私のせいではありませんよ?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7,639pt お気に入り:1,660

月が導く異世界道中

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:50,447pt お気に入り:53,742

処理中です...