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第一部 宰相家の居候

172 ひみつ道具を実体験⁉︎

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※1日複数話更新です。お気を付け下さい。

「これまで王宮に謁見に来た人間が持参した土産の中では、群を抜いて面白いな、姉君。アレはこちらで好きにして良いと言う事か」

 王宮に到着後、謁見の間ではなく、国王陛下の日常的な執務室の方へと通された。

 謁見の間はもちろんがあるが、公的な客人が使う事もあって、広さもそうだけど、公式な書記官も付いたりと、何かと会話に気を遣う。

 多分国王陛下フィルバートは、会話の内容が最初ハナからになる事を充分に分かっていて、敢えて執務室に通させたんだろう。

 そして予想通りにこの人、私の「手土産」に相好を崩していた。

 到着時、ファルコと、現在は王宮の護衛騎士であるトーカレヴァとの間で一瞬火花が散りかけていたけど、私が先に「手土産」を何とかするようにと口を挟んだところで、不承不承、公爵邸の侵入者たちを引きずって、どこかに連れて行った。

 彼らの姿を見ていなくても、フィルバートの所に情報だけは届いたんだろう。

「そうですね、一応。出来れば一番若い子だけは、処刑第一号と、こちらに戻して貰いたいんですけれど」

「ほう?」

「彼らはギーレン国から遣わされて、公爵邸を探りに来た『間者』です。ですから私は〝賭け〟は次の段階に入ったと認識しました。一往復きりの『簡易型転移装置』をお貸し下さい、陛下。それを使ってギーレンに入国します。手土産の中の一番若い子は、道案内に使いたいので、こちらにお戻し頂きたいんです」

 サイコパスに負けるな、私。
 ここが堪えどころだ。

「処刑第一号に見せかければ…と言うのは、単なる私からの提案です。一番若い子がいなくなると言う事で、残された面々がポッキリ心が折れるかなと思いまして。特にその設定にこだわっているワケじゃありませんので、その子だけ頂ければ、後はお任せします」

「仮に手足をいで、ギーレンに送り付けるんだとしてもか?」

 ほら、やっぱり言うと思った――!

「タイミングはお任せします。こちらはこちらで、動いて良いんですよね?」

 ちょっと乾いた笑いが浮かんでいたのを見透かされたのかも知れない。
 
 フィルバートは興味深げにこちらを眺めていた。

「普通の令嬢は、私の様な言い方をされれば、もう少し違う反応を示すものだと思うが」

「……気絶して欲しかったですか?」

「それでは話が進まんだろう。せめて『何てことを言うんですか!』と悲鳴をあげるとかだな」

「……私が言ったところで、嘘くさく見えませんか?」

「………」

 黙り込まないで下さい、陛下。言い出しておいて失礼です。

「その分では、姉君自身が動く事に、私が間者の手なり足なりを送り付ければ、ダメ押しになると考えたか」

「いえ…陛下だったら、首くらい送られるかと。公爵邸の家令は、そう言ったら目をむいてましたけど」

 多分エドヴァルド同様に、この陛下ヒトの前で色々と取り繕うのは無駄だ。

 性格はどうしようもないサイコパスでも、逆に言えば一般的な私利私欲、常識では動かない、国のあるじとしては、優秀な部類に振り分けられてしまうからだ。

 自分が面白いと思うかどうかが行動基準だなどと、おバカだったら普通、国が滅ぶ。
 エドヴァルドの補佐程度ではどうにもなるまい。

「そうだな…くくっ、一応、ご令嬢の前だから『首』とは言わなかったんだがな。姉君は気にしないか」

「気にしないとまでは申しておりません。私はあくまで、陛下だったらそうされるだろうと考えただけですので」

「その歯に衣着せぬ物言い、エディそっくりだ。一つ屋根の下で幾日も過ごせば言動も似るか」

「人聞きの悪い事を仰らないで下さい。と言うか、話がずれていますよ、陛下。一人こちらに戻して頂く話と一往復きりの『簡易型転移装置』の譲渡の話は、許可頂けるんですよね?」

 詰め寄る私に「ふむ…」とフィルバートは口元に手をあてた。

「まあ、良いだろう。見たところ、誘拐されても命を狙われてもいないようだが、その前段階で捕らえたとオマケで見做みなしておくか。その、一番若い間者だったか?道案内にしたいと言うなら好きにすれば良いが、使いこなせるのか?連れて行ったそばから王宮に駆け込まれては意味がないと思うがな」

「一応済みです。本人も納得はしていると思うんですが、それでも駆け込まれてしまったら、私の交渉力不足と言う事で諦めるしかないですね。その時には別のを考えます」

「………説得」

 どうして皆、そこで同じ様に不信感もあらわな表情を見せるのか。
 ちょっと解せない。

 ムッとした表情になった私に「一応これでも国王なんだがな」と呆れたように呟きながらも、フィルバートが立ち上がって執務机から離れた。

「では、ついて来い。管理部へ連れて行ってやろう。はそこで渡す」

 どうやら、まともに正面から譲渡書なんかの手続きをしていると、認可まで何日もかかると言う事らしい。

「私が行って、後で署名だけが必要な譲渡書を持って来させる方が余程早いからな。まあさすがに毎回こんな事はしないが、今回はギーレンからエディを一刻も早く帰らせる為と言う特例で、装置を譲渡させる事にしておこう」

「………有難うございます」

 私の謝礼に間が空いたのは勘弁して欲しい。
 そもそも管理部…って、勝手に私を召喚した、諸悪の根源じゃないか。

「陛下。もしその彼らが文句を言うようでしたら、私を勝手に召喚した慰謝料として寄越せと、横から言わせて頂いても構いませんか」

 気付けばするりと口にしていた私を、執務室の更に奥の部屋に入ろうとしていたフィルバートが、一瞬チラリとこちらを振り返った。

「勝手か……まあ、そうなるのか。マナがあまりに嬉々として召喚を受け入れていたから、考えが及んでいなかったな」

 あの子は、甘やかしてくれていた両親祖父母に会えない事を何とも思っていなかったんだろうか。
 チヤホヤしてくれるなら誰でも良かったのか。

 まぁ私は、両親祖父母より大学への未練の方が大きかったけど。

「理不尽に対する憤りは、一度宰相閣下が全て引き受けて下さったので、私もこれ以上どうこう言うつもりはないんですけど。それでも、もう何とも思わない…とかまでは、無理なので」

「エディが…か」

 さすがに一国の国王が、おいそれと頭を下げられないのは分かる。
 …と言う事を暗に言ってみたつもりだったけど、フィルバートの方も、それは理解しているようだった。

「ならばもう、最初から慰謝料として提出させてやろう。私の後ろで黙って立っていれば良い。まさか当人を目の前にして、余計なコトを言う馬鹿は管理部にはいまいよ」

 そう言うと、フィルバートは奥の扉の横にあった、カードリーダーの様な大きさの、壁に埋め込まれた、周囲と色の違う石に、そっと左の手で触れた。

 その瞬間、石自身が明らかに光を放った。

「まあ、国王特権だな。これで王宮内の望む所、どこでも扉伝いに行けると言う訳だ。そもそも管理部は、魔道具の実験を兼ねる研究室もあったりするから、王宮内でもかなり離れた所にある。いちいち歩いていては、廊下で狙ってくれと言っているようなものだ。もっとも、私から出向くような用事など滅多とないから、元は王宮に攻め込まれた時の脱出用なのかも知れんがな」

「………」

 こればっかりは、自分が異世界にいる事を痛感させられる瞬間である。

 王宮内限定と言っても、まさしく原理は某ネコ型ロボットがポケットから出す、どこへでも行ける扉。

 今、自分は馬鹿みたいに口を開けていなかっただろうか。
 ちょっと不安。

 そんな私の内心の葛藤には気付いた風もなく、フィルバートが扉を開けたその向こう側は――資料に埋もれた、混沌カオスな世界だった。
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