聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?

渡邊 香梨

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第二部 宰相閣下の謹慎事情

255 チョコレートとミカ君に癒されましょう

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※1日複数話更新です。お気を付け下さい。

「レイナ様!」

 チョコレートカフェ〝ヘンリエッタ〟個室の扉がノックされて「お連れ様がお越しです」と、お店の従業員と思しき男性の声が聞こえた後で、しずしずと扉が開かれた。

 小走りで丸テーブルの前まで来て、私とシャルリーヌに可愛らしい〝ボウ・アンド・スクレープ〟を披露する。

「遅くなり申し訳ありません。ハルヴァラ伯爵家嫡子ミカ、レイナ様、シャルリーヌ様にお会い出来て嬉しく思います」

 私を忘れてくれていなくて嬉しいわ、と微笑わらうシャルリーヌに、ミカ君が悪戯を見つかった子供の様な笑みを見せた。

「すみません、レイナ様の無事のお戻りが嬉しくて、つい……」
「良いのよ、気持ちはよく分かるもの」
「ふふ、ありがとう。ミカ君も座って?今日はフォルシアン公爵閣下が、オススメのチョコレート製品を選んで出して下さるそうだから、いただきましょう?」

 時間がずれると言っても、それほどの差はなかったので、私とシャルリーヌも、紅茶だけでミカ君の到着を待っていたのだ。

「フォルシアン公爵領下アムレアン侯爵領が、チョコレートの原料…えっと、カカオの一大産地だと、ボードリエ伯爵様に伺いました」

 そう言って、ミカ君からの視線を受けたシャルリーヌが、やんわりと微笑わらって私に説明してくれた。

邸宅ウチに来て、義父ちちから学園の話を聞く傍ら、このアンジェスくにの五公爵家に、それぞれどう言った特産があるのか…とか、ちょっと教わっていたみたい。入学試験に出るんだそうよ?」

 数学や語学は学園の中でも充分学べるし、まずは自領、次に周りの領が何をして生計を成り立たせているのか、高位貴族であれば尚更、早いうちから知っておくべきと言う事らしい。

「へぇ…」
「ああ、もちろん試験そのものの話はしないわよ?公平性に欠くって、お義父とう様も仰っていたし。このカフェの話が出たついでってところね。外交としても、きっとフォルシアン公爵閣下がお喜びになる、って」

 それはそうかも知れない、と私も思った。
 それは既に私自身が実感済みだ。

「僕もちょうど、筆頭家令チャペックからハルヴァラ領の事を少しずつ教わっていたんだけど、今回、イデオン公爵領の他の領の人たちとも顔見知りになれたし、ロッピアとか、このカフェで他の領の事も勉強出来たし、帰ったらチャペックと一緒に復習するんだ。それで学園に受かって、レイナ様のいる王都でもっと勉強するね!」

 小さな拳を握りしめての、ミカ君の「所信表明」に、私もシャルリーヌも、うっかり顔が綻んだ。

「頑張ってね。ミカ君なら、きっと良い領主になれると思う」

「…ねぇ、レイナはそのチャペックって言う家令の事は知ってるの?ボードリエ家に居た間も、ちょいちょい話題に上ったんだけど」

 ミカ君の素直さが前に出れば出る程、家令への依存が度を越していないか、心配になるシャルリーヌの気持ちは分からなくもない。

 家令次第でおかしな育ち方をするのでは、と心配になったんだろう。

 私は苦笑して、かぶりを振った。

「会った事はないけど、宰相閣下がイデオン公爵領のトップにいる限りは大丈夫なんじゃないかな」

 エドヴァルドが、ハルヴァラ伯爵領を粗雑に扱わないと証明している限りは、カミル・チャペックはスヴェンテの家名を永遠に胸の中に沈めて、ミカに仕えるだろう。

「学園出身者で、先の政争に負けた貴族家の出でもあるみたいだから、ミカ君に領政を教えられるだけの下地はあるし、先代ハルヴァラ伯爵が政争時の恩人だそうだから、そのままミカ君にも…って感じっぽいのよ」

 私はスヴェンテの名を出さずに「チャペック」としての立ち位置をシャルリーヌに説明する。

 むしろ過保護?とシャルリーヌは首を傾げたけど。

「どうだろう…政争経験者だから、社交界のアレコレを察していて、薫陶受けて腹黒に育つ方を私は心配してるんだけど」

 私とシャルリーヌは若干小声だったけど、チャペックの名前が耳に入ったのか、ミカ君がふと顔を上げた。

「そうそう、この前帰った時に、レイナ様からの手紙を読んだチャペック、良く分からないけど頭を抱えてた。詳しくは教えてくれなかったけど、物凄く難しいお願い事された…って」

 何言ったの、と呟くシャルリーヌに、私はイイ笑顔で「…秘密」と返しておいた。

「ミカ君の為だったから、全然イイんだけど、勝手に巻き込まれて働かされたから、の仕事を頼んだだけよ?彼なら出来ると思って」

「…お返しの意味が違って聞こえるんだけど」
「気のせい、気のせい」

 ひらひらと手を振る私に、ミカ君が「いいなぁ…」と呟いた。

「僕もレイナ様とシャルリーヌ様みたいに、気軽に話し合える友達欲しいなぁ……話していて勉強になる人とは今回たくさん知り合えたんだけどな」

 私とシャルリーヌは、顔を見合わせて、互いに微笑わらった。

「きっと学園に行けば、知り合えると思うわよ?エドヴァルド様と、王都にドレス工房を持ってる、デザイナーのフェリクス・ヘルマンさんは、学園で知り合った友人だそうだから」

「そうね、家や領だと、どうしても主従関係が表に出て来ちゃうでしょうから、学園に入学するのが、きっと良い機会なんじゃないかしら」

 そっか!と、ミカ君が再び学園入学への意欲を高めたところで、個室の扉がノックされて、複数のお皿に乗る沢山の種類の高級チョコが、ティーワゴンに乗せられて、運ばれてきた。

「…これがフォルシアン公爵様自慢のチョコ」
「はい、スゴイですよね!」

 目を輝かせて、チョコを見つめるのはシャルリーヌもミカ君も一緒だ。

 ピエール何とか的な…と呟いたシャルリーヌの言葉の意味が分かったのは、多分私だけだろうけど。

「私のオススメは、ホットミルクにチョコを溶かして飲むチョコレートドリンクね。氷の仕入れが限られるらしいから、どれもこれも、言わば王都限定。イリナ様へのお土産に出来ない代わりに、次に王都に来る時には連れて来てあげると良いんじゃないかな」

「はい、そうします!きっと、母上喜びます!」

 これ、ハルヴァラの器ですよね!なんて目を輝かせながらもミカ君は、食べたいと思ったチョコを次々に自分のお皿に乗せて貰っている。

「果物が乗ったり、ソースに色付けされていたら、ガラス皿でも良いかも知れないけど、シンプルなチョコだったら白磁の方が映えるものね」

「ハイ、僕、実際にハルヴァラの器がどう言った使われ方をしているのか、あまり目にする事がなかったので、今回すっごく勉強になりました!」

 話しているうちに、もうすぐ帰らないといけない事に気がついたのか、ちょっと背中が丸くなっている。

 …カワイイ。あ、いやいや。そんなショタ趣味はない筈なんだけど。

「いつ帰るか決まったの?」

「今…将軍と副長の間で、ルート決めたり必要な食料とか計算して買い出しされてるみたいです。多分『南の館』に戻ったら、説明あると思います。仕方ないですよね。領で母上もチャペックも待ってくれているので」

 名残り惜しそうに、ミカ君が微笑わらう。

 また来てね、と声をかけるシャルリーヌも、多分似たような気持ちでいる筈。

 その後は、エドヴァルドとフォルシアン公爵が戻って来るまで、3人で他愛もない話を楽しんだ。

 途中でミカ君が私のを心配してくれて、シャルリーヌが爆笑していたのも、他愛のない話――と言う事にしておこう。

 何がなんでも。
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