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第二部 宰相閣下の謹慎事情
265 仲良く旅に…?
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※1日複数話更新です。お気を付け下さい。
――結論から言うと、セルヴァンとヨンナへのSOSは敢えなく玉砕した訳で。
「その…得体の知れない輩に目を付けられていると仰る旦那様の言が確かでしたら、確かに私どもも一つ所に居ていただいた方が安心と申しましょうか……」
出てもいない汗を拭く仕種のセルヴァン。
「扉は封じたまま、とりあえずは得体の知れない連中が手を引くまでと妥協されると、私どもも反論に困ると申しましょうか……」
ハンカチを口元にあてて、くっ…と不本意そうに横を向くヨンナ。
ああ…うん、二人も粘ってみてはくれたんだ。
続き部屋とは言え、廊下側から隣の部屋にヨンナに付いて移動をするとなると、気分は売られていく子牛。
もしかしたら、右手と右足が一緒に出るくらいの勢いだったかも知れない。
「その、もしもの際は不敬罪覚悟でセルヴァンと扉をぶち壊しますから、私どもの名前を呼んで下さいませね⁉︎」
「――お前達の中では、主人の立ち位置はどうなっているんだ」
恐らくは廊下で、中に聞こえる様に私に訴えたヨンナに、不機嫌全開のエドヴァルドが、中から扉を開けた。
「とりあえず、温かい飲み物を何かレイナに淹れてやってくれ。まだ〝チェカル〟での事は落ち着いていないかも知れないからな」
かしこまりました、とヨンナが一礼して下がって行く。
それを横目にエドヴァルドがスッと私の手を取り、実にスムーズな流れで私を部屋の中へと招き入れた。
「まだ眠るには少し早い。今後の事を少し話しておこうと思う」
「今後…ですか?」
首を傾げる私にエドヴァルドは、ボードリエ伯爵とは王宮で会うように算段をつけたいと言った。
「……御礼を言うのであれば、邸宅をお訪ねした方が良い気がしますけど……」
「もちろん普通なら、そうだろう。だが今回はサレステーデの王子の件がある。下手にボードリエ伯爵邸で会って、クヴィスト家や王子の肩書を楯に乗り込まれると、逆らえる者がいない。その点王宮であれば、私なりフォルシアン公爵なり国王陛下なりが楯になり得る。ボードリエ伯爵令嬢はこちらの邸宅に招いて、茶会でもパーティーでもすれば良いが、伯爵とは王宮での謁見式にした方が良い」
私が、既に一度手紙を書いて、ボードリエ伯爵の予定をシャルリーヌに確認して貰っていると言うと、エドヴァルドは一瞬だけ考える仕種を見せた。
「分かった。なら私が王宮からとしてボードリエ伯爵に手紙を出そう。サレステーデの王子の件を支障のない範囲で仄めかせば、恐らく理解は得られるだろう。どのみち伯爵とは、令嬢の次代〝扉の守護者〟就任に関して、一度は向かい合って話すべきだろうからな」
王宮内での駆け引きは、正直私の手に負える所にはない。
私は「お任せします」と答える事しか出来なかった。
「じゃあ私からもシャルリーヌ嬢に、公爵邸で会いたいって言う話と、ボードリエ伯爵とは王宮で会う事になりそうだと、追加の手紙を明日送っても構いませんか?」
「ああ、まだ確実ではない情報は伏せておいてくれるのであれば、構わない。レイナ、しつこくてすまないが、サレステーデの王子王女が帰国するまでの間は、基本、この公爵邸から出ないでくれるか。フォルシアン公爵家よりも、クヴィスト公爵家よりも、恐らくはこのイデオン公爵家の使用人達が〝鷹の眼〟含め最も腕が立つんだ」
特にベルセリウス将軍とファルコは、さすが手合わせの度に庭を破壊しているだけあって、人外レベルに片足を突っ込む程の手練れらしい。
「まあ、いっそ街中をついでに破壊させて、私の『謹慎期間』を延ばして貰うのも良いかも知れないがな」
…どうにも幾許かの本気が挟まっている気がします、宰相閣下。
「とりあえず、サレステーデの国王にはフィルバート名義で抗議文を送ってある。どう言う出方をしてくるかにもよるが、なるべく早くカタはつけるつもりだ。店舗の下見やハーグルンド、リリアートの視察の話もあるしな」
「あっ、はい」
「それと出来れば、貴女が読んだ『物語』の話を、もう少し詳しく知りたい。ドナート第二王子とドロテア第一王女に関しては『バリエンダールの王太子と王女様に縁組を拒否されて、正妃腹である第一王子派との力関係が不利になっている側妃腹の二人』だと聞いたが、それ以外にも知っている情報があるなら、明日のために予め知っておきたい」
どうやら明日には、王宮でイヤでもドナート王子と顔を合わせる羽目になるらしい。
私はエドヴァルドに断って一度部屋を出ると、隣の寝所から、ちょうど覚えている内容を書き出していた紙を持って、再度エドヴァルドの部屋へと戻った。
「これは……?」
「えーっと…こんな事になるとは思っていなかったんですけど、一応、読んだ内容を書き出してまとめている途中でした」
私が読んだ『物語』は、バリエンダール国のミルテ王女が主人公視点となっている事や、縁組を潰したのが、自分への分も含めて、王太子ミランである事なんかを話した。
「ミラン王太子は、婚約者である侯爵令嬢を、政略ではなく望んでいると。ミルテ王女に関しては、あまり身体が丈夫ではないと言う事も含めて、サレステーデの内紛に巻き込みたくはないと言うのが王太子の本音――と、ありました。兄妹仲が良いのか、一方的な溺愛なのかまでは分かりませんけれど」
「……なるほど。バリエンダールの側からは、サレステーデの内紛に積極的に関わるつもりはないと言う事か」
「どうなんでしょう……舞菜がギーレンに残った事を、当事者国以外が利用しようとする事自体、私が読んだ『物語』にはない事ですから。もしかしたら、サレステーデの対応次第で、ミラン王太子と手を組む必要性とかも出てくるかも知れませんし」
私は何気なく、一つの可能性として口にしただけの筈だったのに、何故かエドヴァルドに、それはそれは黒い笑みを向けられてしまった。
「エ、エドヴァルド様……?」
「そうか。バリエンダールの上層部を動かして、国ごとサレステーデを乗っ取らせる、あるいは潰させると言う事も選択肢に入れられると言う訳か」
「え⁉︎いや、私はそこまでは――」
「助かった。有益な話が聞けた。また何か思い出したら、都度遠慮なく声をかけてくれ」
「………」
えーっと…「国ごと潰してくれよう」とか呟いていらっしゃったのは、実は結構本気ですか…?
「――レイナ」
ヨンナがお茶を淹れてくれて、渋々と言った態も顕に下がったところで、カップを持たない方の手の上に、そっとエドヴァルドの手が置かれた。
「‼︎」
ビクッと身体を震わせたのが、明らかに伝わったんだろう。
見れば苦笑未満の表情を浮かべていた。
「私は確かに公爵家当主であり宰相位にはあるが、それを笠に着て貴女を求めているつもりはない。あくまでただのエドヴァルド・イデオンとして、貴女を望んでいるつもりだ。それだけは誤解して欲しくない。あの馬鹿王子やクヴィスト公爵家がこの先何を言おうと、それに惑わされて欲しくない。――だから、貴女を抱きたい。そして言葉だけじゃなく、私の全てで貴女にそれを伝えたい」
「エドヴァルド様……」
ゆっくりと、エドヴァルドの整った顔が近づいてくる。
それに、と微かに唇が動いた。
「貴女が受け入れてくれる限りは、貴女の心も私の側にあると、安心する事が出来る。どうか王子になど惑わされないと――私を安心させてはくれないだろうか」
「……っ」
サレステーデの王子など、どうでも良い――つまりはエドヴァルドを選ぶと、そう言う事になるのだろうか……?
「狡い…それ…拒否権が……っ」
「ふっ……そこでそのまま流されてくれないのが、貴女らしいな……」
微笑いながらいつの間にか唇を奪われていて、あっという間にソファに押し倒されていた。
「⁉︎」
「いや、さすがにここではしないが…とりあえず私の気持ちを伝えておきたかった。それだけだ」
それだけと言いながらも、気付けば抱え上げられていての「お姫様抱っこ」状態だった。
「ああっ、あのっ、エドヴァルド様……その…『手加減』の文字は……」
ヨンナのセリフを思い返しながら、真っ赤になってパクパクと口を開く私に、エドヴァルドの揶揄い気味の視線が向けられた。
「さあな。どうやら貴女の『懲りる』か『自重』と仲良く旅に出たみたいだな」
――戻って来てくれると良いな?
…腹黒宰相サマの微笑みに、目の前が真っ暗になりました…
――結論から言うと、セルヴァンとヨンナへのSOSは敢えなく玉砕した訳で。
「その…得体の知れない輩に目を付けられていると仰る旦那様の言が確かでしたら、確かに私どもも一つ所に居ていただいた方が安心と申しましょうか……」
出てもいない汗を拭く仕種のセルヴァン。
「扉は封じたまま、とりあえずは得体の知れない連中が手を引くまでと妥協されると、私どもも反論に困ると申しましょうか……」
ハンカチを口元にあてて、くっ…と不本意そうに横を向くヨンナ。
ああ…うん、二人も粘ってみてはくれたんだ。
続き部屋とは言え、廊下側から隣の部屋にヨンナに付いて移動をするとなると、気分は売られていく子牛。
もしかしたら、右手と右足が一緒に出るくらいの勢いだったかも知れない。
「その、もしもの際は不敬罪覚悟でセルヴァンと扉をぶち壊しますから、私どもの名前を呼んで下さいませね⁉︎」
「――お前達の中では、主人の立ち位置はどうなっているんだ」
恐らくは廊下で、中に聞こえる様に私に訴えたヨンナに、不機嫌全開のエドヴァルドが、中から扉を開けた。
「とりあえず、温かい飲み物を何かレイナに淹れてやってくれ。まだ〝チェカル〟での事は落ち着いていないかも知れないからな」
かしこまりました、とヨンナが一礼して下がって行く。
それを横目にエドヴァルドがスッと私の手を取り、実にスムーズな流れで私を部屋の中へと招き入れた。
「まだ眠るには少し早い。今後の事を少し話しておこうと思う」
「今後…ですか?」
首を傾げる私にエドヴァルドは、ボードリエ伯爵とは王宮で会うように算段をつけたいと言った。
「……御礼を言うのであれば、邸宅をお訪ねした方が良い気がしますけど……」
「もちろん普通なら、そうだろう。だが今回はサレステーデの王子の件がある。下手にボードリエ伯爵邸で会って、クヴィスト家や王子の肩書を楯に乗り込まれると、逆らえる者がいない。その点王宮であれば、私なりフォルシアン公爵なり国王陛下なりが楯になり得る。ボードリエ伯爵令嬢はこちらの邸宅に招いて、茶会でもパーティーでもすれば良いが、伯爵とは王宮での謁見式にした方が良い」
私が、既に一度手紙を書いて、ボードリエ伯爵の予定をシャルリーヌに確認して貰っていると言うと、エドヴァルドは一瞬だけ考える仕種を見せた。
「分かった。なら私が王宮からとしてボードリエ伯爵に手紙を出そう。サレステーデの王子の件を支障のない範囲で仄めかせば、恐らく理解は得られるだろう。どのみち伯爵とは、令嬢の次代〝扉の守護者〟就任に関して、一度は向かい合って話すべきだろうからな」
王宮内での駆け引きは、正直私の手に負える所にはない。
私は「お任せします」と答える事しか出来なかった。
「じゃあ私からもシャルリーヌ嬢に、公爵邸で会いたいって言う話と、ボードリエ伯爵とは王宮で会う事になりそうだと、追加の手紙を明日送っても構いませんか?」
「ああ、まだ確実ではない情報は伏せておいてくれるのであれば、構わない。レイナ、しつこくてすまないが、サレステーデの王子王女が帰国するまでの間は、基本、この公爵邸から出ないでくれるか。フォルシアン公爵家よりも、クヴィスト公爵家よりも、恐らくはこのイデオン公爵家の使用人達が〝鷹の眼〟含め最も腕が立つんだ」
特にベルセリウス将軍とファルコは、さすが手合わせの度に庭を破壊しているだけあって、人外レベルに片足を突っ込む程の手練れらしい。
「まあ、いっそ街中をついでに破壊させて、私の『謹慎期間』を延ばして貰うのも良いかも知れないがな」
…どうにも幾許かの本気が挟まっている気がします、宰相閣下。
「とりあえず、サレステーデの国王にはフィルバート名義で抗議文を送ってある。どう言う出方をしてくるかにもよるが、なるべく早くカタはつけるつもりだ。店舗の下見やハーグルンド、リリアートの視察の話もあるしな」
「あっ、はい」
「それと出来れば、貴女が読んだ『物語』の話を、もう少し詳しく知りたい。ドナート第二王子とドロテア第一王女に関しては『バリエンダールの王太子と王女様に縁組を拒否されて、正妃腹である第一王子派との力関係が不利になっている側妃腹の二人』だと聞いたが、それ以外にも知っている情報があるなら、明日のために予め知っておきたい」
どうやら明日には、王宮でイヤでもドナート王子と顔を合わせる羽目になるらしい。
私はエドヴァルドに断って一度部屋を出ると、隣の寝所から、ちょうど覚えている内容を書き出していた紙を持って、再度エドヴァルドの部屋へと戻った。
「これは……?」
「えーっと…こんな事になるとは思っていなかったんですけど、一応、読んだ内容を書き出してまとめている途中でした」
私が読んだ『物語』は、バリエンダール国のミルテ王女が主人公視点となっている事や、縁組を潰したのが、自分への分も含めて、王太子ミランである事なんかを話した。
「ミラン王太子は、婚約者である侯爵令嬢を、政略ではなく望んでいると。ミルテ王女に関しては、あまり身体が丈夫ではないと言う事も含めて、サレステーデの内紛に巻き込みたくはないと言うのが王太子の本音――と、ありました。兄妹仲が良いのか、一方的な溺愛なのかまでは分かりませんけれど」
「……なるほど。バリエンダールの側からは、サレステーデの内紛に積極的に関わるつもりはないと言う事か」
「どうなんでしょう……舞菜がギーレンに残った事を、当事者国以外が利用しようとする事自体、私が読んだ『物語』にはない事ですから。もしかしたら、サレステーデの対応次第で、ミラン王太子と手を組む必要性とかも出てくるかも知れませんし」
私は何気なく、一つの可能性として口にしただけの筈だったのに、何故かエドヴァルドに、それはそれは黒い笑みを向けられてしまった。
「エ、エドヴァルド様……?」
「そうか。バリエンダールの上層部を動かして、国ごとサレステーデを乗っ取らせる、あるいは潰させると言う事も選択肢に入れられると言う訳か」
「え⁉︎いや、私はそこまでは――」
「助かった。有益な話が聞けた。また何か思い出したら、都度遠慮なく声をかけてくれ」
「………」
えーっと…「国ごと潰してくれよう」とか呟いていらっしゃったのは、実は結構本気ですか…?
「――レイナ」
ヨンナがお茶を淹れてくれて、渋々と言った態も顕に下がったところで、カップを持たない方の手の上に、そっとエドヴァルドの手が置かれた。
「‼︎」
ビクッと身体を震わせたのが、明らかに伝わったんだろう。
見れば苦笑未満の表情を浮かべていた。
「私は確かに公爵家当主であり宰相位にはあるが、それを笠に着て貴女を求めているつもりはない。あくまでただのエドヴァルド・イデオンとして、貴女を望んでいるつもりだ。それだけは誤解して欲しくない。あの馬鹿王子やクヴィスト公爵家がこの先何を言おうと、それに惑わされて欲しくない。――だから、貴女を抱きたい。そして言葉だけじゃなく、私の全てで貴女にそれを伝えたい」
「エドヴァルド様……」
ゆっくりと、エドヴァルドの整った顔が近づいてくる。
それに、と微かに唇が動いた。
「貴女が受け入れてくれる限りは、貴女の心も私の側にあると、安心する事が出来る。どうか王子になど惑わされないと――私を安心させてはくれないだろうか」
「……っ」
サレステーデの王子など、どうでも良い――つまりはエドヴァルドを選ぶと、そう言う事になるのだろうか……?
「狡い…それ…拒否権が……っ」
「ふっ……そこでそのまま流されてくれないのが、貴女らしいな……」
微笑いながらいつの間にか唇を奪われていて、あっという間にソファに押し倒されていた。
「⁉︎」
「いや、さすがにここではしないが…とりあえず私の気持ちを伝えておきたかった。それだけだ」
それだけと言いながらも、気付けば抱え上げられていての「お姫様抱っこ」状態だった。
「ああっ、あのっ、エドヴァルド様……その…『手加減』の文字は……」
ヨンナのセリフを思い返しながら、真っ赤になってパクパクと口を開く私に、エドヴァルドの揶揄い気味の視線が向けられた。
「さあな。どうやら貴女の『懲りる』か『自重』と仲良く旅に出たみたいだな」
――戻って来てくれると良いな?
…腹黒宰相サマの微笑みに、目の前が真っ暗になりました…
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