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第二部 宰相閣下の謹慎事情
267 色々カオスな王宮リポート(前)
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※1日複数話更新です。お気を付け下さい。
夜。
夕食前に戻って来たエドヴァルドから、ダイニングで今日の王宮の様子を聞く事が出来たものの、聞けばなかなかにシュールな光景が展開されていたみたいだった。
まずそもそも、ユセフ・フォルシアン公爵令息は、地方領の境界線トラブルが、高等法院案件になるのか、領都の地方法院止まりで済む案件なのかの最終確認の為に王都を離れており、戻って来るのがちょうど明日――との態で、数日間の「延命」を図ったらしかった。
「それって実際は、王都を離れていないって言う事ですか?」
「そう言う事になるな。一応、サレステーデ王家への抗議文に対する返答を待った恰好になる。即時の強制送還となれば、会わせるだけ無駄だからな。実際のところは、フォルシアン公爵邸内で外出禁止――まあ、今の貴女と似た状況にある訳だ」
「その…フォルシアン公爵令息がいくら筋金入りの女性嫌いにしろ、キヴェカス卿とは違って、公爵家嫡子ですよね?結婚しないと言う選択肢って、許されるんですか?自薦とは言え王女様が降嫁しても良いなんて言ってきているのって、普通に考えたら歓迎される案件な気もするんですけど……」
素朴な疑問とばかりに私が小首を傾げると、何故かエドヴァルドの方が、決まり悪そうな表情になっていた。
「まあ…今までは、公爵家嫡子以上の存在が、婚約者すら持たない状態でまかり通っていたからな……」
――国王陛下しかり、エドヴァルドしかり。
フォローをしそこねた私に、話が逸れたとばかりにエドヴァルドが片手を振った。
「貴女の言う通り『普通に考えれば』だ。フォルシアン公爵とて、まがりなりにも五公爵の一人。正式な手順に則ってこの国を訪れて、一目惚れしたとでも何でも、正式に王家を通じて申込が来たならば、父親ではなく公爵家当主としての判断を下しただろう。だが今回は違う。相手が正式な手順を踏まない限りは、ユセフを説き伏せる為の理がない。だから現状は『会わせない』の一択なんだ」
ユセフが女性嫌いでなかったとしても、会わせないだろうとエドヴァルドは言う。
「レイナの目にどう映っているのかは知らないが、彼は決して見た目に見える様な博愛主義者じゃない。むしろ私は、彼以上に自領第一主義の当主を知らない。彼を侮った先に待っているのは、実は破滅でしかない」
私にも何となく、エドヴァルドの言いたい事は分かった。
多分フォルシアン公爵は、チャラさの仮面の向こうに公爵家当主としての冷徹な顔を隠していると、私も思う。
ただ、領の利益に影響がなければ、普通に家族思いのイイ人だとも思うけど。
「ちょっと人より二面性の強めな方――私はそんな感じの認識ですけど、間違ってますか?」
「ああ…そうかも知れないな。エリサベト夫人への溺愛ぶりは、それはそれで本気だしな」
エドヴァルド曰く、ユティラ嬢をもうちょっと優しげにした感じの女性らしい。
「話が逸れたな。ともかく、サレステーデ王家の回答次第で、ユセフも貴女も、一度は王宮で連中に会って貰わないといけない可能性があるんだ」
「……私もですか?」
この前、レストラン〝チェカル〟で会っただろう…と言いたいところだったけど、アレは名乗らないまま勝手に突撃して来た上に、顔すらキチンと見ていないのだから、ノーカウントと言う事になるんだろう。
…いっそ開き直って、会わない理由にしても良い気はするけど。
どうやら私の表情からそれを読み取ったらしいエドヴァルドが、苦笑いを見せた。
「まあ…それは最終手段だな」
一応二人とも、今日はしれっと「初めまして」で挨拶を交わしたらしい。
「あの、実際のドナート王子とドロテア王女って、どんな感じの方でしたか?」
「………」
あれ、ノーコメントなんですか?
表情が抜け落ちちゃいましたけど。
「えーっと…黙り込むほど酷かった、とかですか…?」
「………そうだな」
聞けば王女様は、ユセフ・フォルシアン公爵令息の絵姿を手に「この方こそ私に相応しい御方ですわ!」と謁見の間で怪気炎をあげていたらしい。
何なら帰国前の最終宿泊地が分かれば、そこに行っても良いとまで言い始めて、周囲を慌てさせていたとか。
サレステーデから付いて来ている従者らが必死で説得しているが、今度はアンジェス国の名産品は何だとか、商人を呼べとか叫んでいるらしい。
私は無意識に「うわ、イタイ子だ……」と呟いていた。
せめて来るなら、相手国の主要貿易品くらいは調べて来るべきだと思う。特に王族の一員なら。
私の呟きが聞き慣れなかったのか、エドヴァルドが「うん?」と反応を見せた。
「レイナ。いたい……とは?」
「あ、ああ、すみません。えっと…空気を読めない人とか常識がない人とか、そんな感じです」
「貴女の居た国は、色々と面白い言い回しが多いな。しかも割と納得がいく」
空気の読めない王女には違いない、とエドヴァルドが頷いている。
美人の基準は人それぞれなので、私はエドヴァルドに「美人ですか?」とは聞かなかった。
代わりに「フォルシアン公爵令息が一目で惚れそうな感じではなかったんですか?」と変化球で聞いてみる。
「わざわざ本来の茶色の髪を、サンゴみたいな下品な色に染めている時点で、まあ無理だろうな。頭を振ったら音が鳴りそうだ。逆にユセフが一番嫌うタイプだろうよ」
…染めてから少し日が経過していたのか、所謂「逆プリン」な状態になっている事が推測された。
いや、仮にも国を背負う王家の一員なんだから、周りもそんな「逆プリン」を放置しちゃダメでしょ。
と言うか、よくライトノベルの婚約破棄モノで、原因になる男爵令嬢とかが大抵ピンクの髪で表現されがちなんだけど、あんな感じなんだろうか。
――この世界、マトモな王族はいったいどこに。
「レイナ、声に出ている」
どうやら最後、ちょっと声に出ていたっぽい。
いやいや、どこぞのサイコパス陛下とか、粘着質王子とかを思い浮かべて――いたかも。
私は慌てて両手を振って、ドナート王子の話に無理矢理方向転換させた。
「ええっと……ちなみにドナート王子の方は、実際にはどんな印象で……」
「……気になるのか?」
瞬間、部屋の空気がちょっと冷えた気がした。
「ええっ、一般論で聞いてもダメなんですか⁉当事者なのに……」
若干ビクつきながら聞く私に、エドヴァルドが自分を落ち着かせようとするかの様に、息をひとつついていた。
「……妹の傍若無人ぶりを、煽っているようなところはあるな。自分はと言えば、アンジェス王家とギーレンやバリエンダールと言った、周辺国との関係性をむしろ気にしている風だった。聖女マナや貴女の事が隠れ蓑に見える気がして仕方がない。――あくまで私の印象でしかないがな」
早く実物の私に会いたいと微笑う声が、どうにも薄っぺらいとエドヴァルドは言う。
「じゃあ…本人の意図を探る意味でも、私は私でドナート王子との面会が必要って事なんですね」
「不本意極まりないがな。だがさっきも言った様に、サレステーデからの返答次第では、今のまま二人とも強制送還させる。それはフォルシアン公爵や国王陛下とも意見は同じくしているところだ」
「それ、他の公爵方の意見は聞かなくて大丈夫なんですか?特にクヴィスト公爵とか」
「クヴィスト公爵は、今のところ『娘の伝手を楯に、あくまで勝手に相手が押しかけて来た』と言う態度を決め込んでいるな。一緒になって騒ぐなら騒ぐで、今度こそ潰してやろうかと思っていたんだが。まあそのあたりは、伊達に年は喰っていない」
そんな筈はないだろうと、誰もが内心で思ってはいても、確たる証拠もない上に、王子王女もそれに倣う態度を見せているらしい。
「コンティオラ公爵は、人事や典礼を司る職務の長であるところからも、基本的には全ての事柄において中立の立場にある。いや、それ以外の立場に在る事は認められていないと言うべきか?だから職務外の話には口を出さない。と言うか、出さないよう代々の国王から言い含められている。スヴェンテ家は、今は先々代が公爵代理、スヴェンテ老公として、政変で傾いた領を立て直すのに精一杯で、フィルバートからの余程の呼び出しがない限りは王宮には出て来ないし、スヴェンテ家の職務である国の財政運営に関しては、娘の嫁ぎ先であるブレヴァル侯爵家の領主に一任されている」
「……つまり今はまだ『よほど』じゃないと」
「ブレヴァル侯爵自体が、そもそも弟に領地運営を委ねている優秀な財務官僚だからな。それで支障がないんだ。まあスヴェンテ家のあれこれは、そのうちまたオルセン侯爵と夫人の離婚裁判が絡んできた時にでも、別途説明しよう。つまるところ、コンティオラとスヴェンテの動向は、今回気にする必要はないと言う事だ」
なるほどそれだと、クヴィスト公爵としても、何か思惑があったとしても、あまり強くは出られないに違いない。
フォルシアン公爵家を取り込めない限りは、自分達以外に味方がいないと言う事になる。
だからまだ余程の事態じゃないと、そう言う事になるんだろう。
…逆に国王陛下の考える「余程の事」って何なんだ、とは思わなくもなかったけど。
夜。
夕食前に戻って来たエドヴァルドから、ダイニングで今日の王宮の様子を聞く事が出来たものの、聞けばなかなかにシュールな光景が展開されていたみたいだった。
まずそもそも、ユセフ・フォルシアン公爵令息は、地方領の境界線トラブルが、高等法院案件になるのか、領都の地方法院止まりで済む案件なのかの最終確認の為に王都を離れており、戻って来るのがちょうど明日――との態で、数日間の「延命」を図ったらしかった。
「それって実際は、王都を離れていないって言う事ですか?」
「そう言う事になるな。一応、サレステーデ王家への抗議文に対する返答を待った恰好になる。即時の強制送還となれば、会わせるだけ無駄だからな。実際のところは、フォルシアン公爵邸内で外出禁止――まあ、今の貴女と似た状況にある訳だ」
「その…フォルシアン公爵令息がいくら筋金入りの女性嫌いにしろ、キヴェカス卿とは違って、公爵家嫡子ですよね?結婚しないと言う選択肢って、許されるんですか?自薦とは言え王女様が降嫁しても良いなんて言ってきているのって、普通に考えたら歓迎される案件な気もするんですけど……」
素朴な疑問とばかりに私が小首を傾げると、何故かエドヴァルドの方が、決まり悪そうな表情になっていた。
「まあ…今までは、公爵家嫡子以上の存在が、婚約者すら持たない状態でまかり通っていたからな……」
――国王陛下しかり、エドヴァルドしかり。
フォローをしそこねた私に、話が逸れたとばかりにエドヴァルドが片手を振った。
「貴女の言う通り『普通に考えれば』だ。フォルシアン公爵とて、まがりなりにも五公爵の一人。正式な手順に則ってこの国を訪れて、一目惚れしたとでも何でも、正式に王家を通じて申込が来たならば、父親ではなく公爵家当主としての判断を下しただろう。だが今回は違う。相手が正式な手順を踏まない限りは、ユセフを説き伏せる為の理がない。だから現状は『会わせない』の一択なんだ」
ユセフが女性嫌いでなかったとしても、会わせないだろうとエドヴァルドは言う。
「レイナの目にどう映っているのかは知らないが、彼は決して見た目に見える様な博愛主義者じゃない。むしろ私は、彼以上に自領第一主義の当主を知らない。彼を侮った先に待っているのは、実は破滅でしかない」
私にも何となく、エドヴァルドの言いたい事は分かった。
多分フォルシアン公爵は、チャラさの仮面の向こうに公爵家当主としての冷徹な顔を隠していると、私も思う。
ただ、領の利益に影響がなければ、普通に家族思いのイイ人だとも思うけど。
「ちょっと人より二面性の強めな方――私はそんな感じの認識ですけど、間違ってますか?」
「ああ…そうかも知れないな。エリサベト夫人への溺愛ぶりは、それはそれで本気だしな」
エドヴァルド曰く、ユティラ嬢をもうちょっと優しげにした感じの女性らしい。
「話が逸れたな。ともかく、サレステーデ王家の回答次第で、ユセフも貴女も、一度は王宮で連中に会って貰わないといけない可能性があるんだ」
「……私もですか?」
この前、レストラン〝チェカル〟で会っただろう…と言いたいところだったけど、アレは名乗らないまま勝手に突撃して来た上に、顔すらキチンと見ていないのだから、ノーカウントと言う事になるんだろう。
…いっそ開き直って、会わない理由にしても良い気はするけど。
どうやら私の表情からそれを読み取ったらしいエドヴァルドが、苦笑いを見せた。
「まあ…それは最終手段だな」
一応二人とも、今日はしれっと「初めまして」で挨拶を交わしたらしい。
「あの、実際のドナート王子とドロテア王女って、どんな感じの方でしたか?」
「………」
あれ、ノーコメントなんですか?
表情が抜け落ちちゃいましたけど。
「えーっと…黙り込むほど酷かった、とかですか…?」
「………そうだな」
聞けば王女様は、ユセフ・フォルシアン公爵令息の絵姿を手に「この方こそ私に相応しい御方ですわ!」と謁見の間で怪気炎をあげていたらしい。
何なら帰国前の最終宿泊地が分かれば、そこに行っても良いとまで言い始めて、周囲を慌てさせていたとか。
サレステーデから付いて来ている従者らが必死で説得しているが、今度はアンジェス国の名産品は何だとか、商人を呼べとか叫んでいるらしい。
私は無意識に「うわ、イタイ子だ……」と呟いていた。
せめて来るなら、相手国の主要貿易品くらいは調べて来るべきだと思う。特に王族の一員なら。
私の呟きが聞き慣れなかったのか、エドヴァルドが「うん?」と反応を見せた。
「レイナ。いたい……とは?」
「あ、ああ、すみません。えっと…空気を読めない人とか常識がない人とか、そんな感じです」
「貴女の居た国は、色々と面白い言い回しが多いな。しかも割と納得がいく」
空気の読めない王女には違いない、とエドヴァルドが頷いている。
美人の基準は人それぞれなので、私はエドヴァルドに「美人ですか?」とは聞かなかった。
代わりに「フォルシアン公爵令息が一目で惚れそうな感じではなかったんですか?」と変化球で聞いてみる。
「わざわざ本来の茶色の髪を、サンゴみたいな下品な色に染めている時点で、まあ無理だろうな。頭を振ったら音が鳴りそうだ。逆にユセフが一番嫌うタイプだろうよ」
…染めてから少し日が経過していたのか、所謂「逆プリン」な状態になっている事が推測された。
いや、仮にも国を背負う王家の一員なんだから、周りもそんな「逆プリン」を放置しちゃダメでしょ。
と言うか、よくライトノベルの婚約破棄モノで、原因になる男爵令嬢とかが大抵ピンクの髪で表現されがちなんだけど、あんな感じなんだろうか。
――この世界、マトモな王族はいったいどこに。
「レイナ、声に出ている」
どうやら最後、ちょっと声に出ていたっぽい。
いやいや、どこぞのサイコパス陛下とか、粘着質王子とかを思い浮かべて――いたかも。
私は慌てて両手を振って、ドナート王子の話に無理矢理方向転換させた。
「ええっと……ちなみにドナート王子の方は、実際にはどんな印象で……」
「……気になるのか?」
瞬間、部屋の空気がちょっと冷えた気がした。
「ええっ、一般論で聞いてもダメなんですか⁉当事者なのに……」
若干ビクつきながら聞く私に、エドヴァルドが自分を落ち着かせようとするかの様に、息をひとつついていた。
「……妹の傍若無人ぶりを、煽っているようなところはあるな。自分はと言えば、アンジェス王家とギーレンやバリエンダールと言った、周辺国との関係性をむしろ気にしている風だった。聖女マナや貴女の事が隠れ蓑に見える気がして仕方がない。――あくまで私の印象でしかないがな」
早く実物の私に会いたいと微笑う声が、どうにも薄っぺらいとエドヴァルドは言う。
「じゃあ…本人の意図を探る意味でも、私は私でドナート王子との面会が必要って事なんですね」
「不本意極まりないがな。だがさっきも言った様に、サレステーデからの返答次第では、今のまま二人とも強制送還させる。それはフォルシアン公爵や国王陛下とも意見は同じくしているところだ」
「それ、他の公爵方の意見は聞かなくて大丈夫なんですか?特にクヴィスト公爵とか」
「クヴィスト公爵は、今のところ『娘の伝手を楯に、あくまで勝手に相手が押しかけて来た』と言う態度を決め込んでいるな。一緒になって騒ぐなら騒ぐで、今度こそ潰してやろうかと思っていたんだが。まあそのあたりは、伊達に年は喰っていない」
そんな筈はないだろうと、誰もが内心で思ってはいても、確たる証拠もない上に、王子王女もそれに倣う態度を見せているらしい。
「コンティオラ公爵は、人事や典礼を司る職務の長であるところからも、基本的には全ての事柄において中立の立場にある。いや、それ以外の立場に在る事は認められていないと言うべきか?だから職務外の話には口を出さない。と言うか、出さないよう代々の国王から言い含められている。スヴェンテ家は、今は先々代が公爵代理、スヴェンテ老公として、政変で傾いた領を立て直すのに精一杯で、フィルバートからの余程の呼び出しがない限りは王宮には出て来ないし、スヴェンテ家の職務である国の財政運営に関しては、娘の嫁ぎ先であるブレヴァル侯爵家の領主に一任されている」
「……つまり今はまだ『よほど』じゃないと」
「ブレヴァル侯爵自体が、そもそも弟に領地運営を委ねている優秀な財務官僚だからな。それで支障がないんだ。まあスヴェンテ家のあれこれは、そのうちまたオルセン侯爵と夫人の離婚裁判が絡んできた時にでも、別途説明しよう。つまるところ、コンティオラとスヴェンテの動向は、今回気にする必要はないと言う事だ」
なるほどそれだと、クヴィスト公爵としても、何か思惑があったとしても、あまり強くは出られないに違いない。
フォルシアン公爵家を取り込めない限りは、自分達以外に味方がいないと言う事になる。
だからまだ余程の事態じゃないと、そう言う事になるんだろう。
…逆に国王陛下の考える「余程の事」って何なんだ、とは思わなくもなかったけど。
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