聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?

渡邊 香梨

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第二部 宰相閣下の謹慎事情

295 お気持ちは十二分に

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※1日複数話更新です。お気を付け下さい。

「何とか間に合いましたね……」

 開かずの間と密かに呼ばれていたらしい大広間ボールルームは、これぞ本領です!と言わんばかりに、部屋全体が磨きあげられていた。

 着席ビュッフェ形式で並ぶ料理と、昼間なのでお酒は置かずに紅茶を用意したところで、家令補佐のユーハンが、最終確認と言って、私の所にやって来た。

「二種類の〝異国風バーミセリ〟は小さめの容器に一種類ずつ、それ以外は一枚のお皿に少しずつ盛って、それぞれ公爵様方にはお渡しする形で良かったでしょうか?スヴァレーフの素揚げと、チョコレートがけはそれぞれ最初は大きめのボウルに盛っておいて、お食事の方が終わりかけた頃に、小分けのお皿に移して、お渡しをする形で」

 イメージとしては、カルグクスと天ざるは、お椀サイズの容器でそれぞれ試食をして貰って、ロールキャベツ、コロッケ、ラムチョップ、ジンギスカンはワンプレートランチ的に味わって貰って、最後ポテチとチョコがけポテチは、デザート代わりに摘まんで貰う――そんな感じだ。

 この世界、パスタ…と言うか、ニョッキやトルテリーニ風の料理は存在していて、そちらが「バーミセリ」と一般的には呼ばれているために「うどん」と言いにくい使用人達には「異国風バーミセリ」と仮名称で呼ばれていた。

 いずれにせよ、絶対、と言うかまず間違いなく自分で料理をよそう習慣のない皆さんにお出しするのには、その形式が一番良いだろうと、セルヴァン達と話し合ったのだ。

 そもそもが、コース料理よろしく畏まった席で出すような料理ではないのだから。

 後は侍女何人か、大皿に盛った料理の周辺にいて貰って、お代わりが食べたいと言う人が出れば、追加でよそって貰えば良い筈だ。

「ええ、大丈夫。あとひと息、最後王宮にお戻りになられるまで、皆で頑張らないとね」

 一応料理は見栄えも考慮して、人数以上の盛り付けをそれぞれにしてある。

 当然余る事を見越して、公爵サマ方が王宮に戻った後、使用人料理人一同の昼食にスライドされる予定だ。
 多分私も、料理の説明に追われて、食べるのは後になるクチだろうと思う。

 最悪、カルグクスと天ざる「もどき」だけでもシャーリーに避けておいて貰おう、うん。

 そうこうしているうちに、大広間ボールルームの外から複数の足音が聞こえてきた。

 エドヴァルドが、他の公爵サマ方とフォルシアン公爵夫人を連れて、戻って来たんだろう。

 扉が開くタイミングで、私とシャルリーヌが〝カーテシー〟の、ミカ君が〝ボウ・アンド・スクレープ〟の姿勢を、それぞれとった。

「三人での気軽な昼食会だったところを、急な変更を余儀なくさせてしまって、すまなかった。あまり畏まらずとも良い。他の皆にも了解は得た」

 そんなエドヴァルドの言葉に合わせるように、こちらも頭を上げる。

「レイナ嬢、我が領のチョコレートを使った料理も気にはなるが、まずは妻を紹介させて貰えるかな?エリサベトと言う」

 エドヴァルドのすぐ後ろから現れたフォルシアン公爵が、エスコートしていた隣の女性を紹介する。

「初めまして。フォルシアン公爵イェルムが妻、エリサベトです。お名前だけは以前から夫に聞いておりましたのよ。…わたくしも『レイナ嬢』と呼ばせて頂いて宜しいかしら?」

(び…美男美女……)

 そう言えばフォルシアン公爵家のユティラ嬢は、綺麗な金髪の持ち主だった。

 フォルシアン公爵自身はどちらかと言うとプラチナブロンドに近い髪の持ち主のため、ユティラ嬢は父と母を足して二で割った様な雰囲気になっているんだなと〝ロッピア〟で会った時を思い出しながら、一人納得した。

 と言うか、フォルシアン公爵自身が飛び抜けて美形なんだと思っていたけど、その奥様も大概に美女だった。

 映画業界主催で発表されていた「世界で最も美しい顔」の、一位に輝いた事があるフランス人女優を彷彿とさせるような女性ひとだ。

 なるべく、驚愕を押し隠すようにしながら、再度頭を下げた。

「どのような噂かは存じませんが、さぞお耳汚しだったのではないでしょうか。改めまして、レイナ・ソガワにございます。過分なご挨拶恐れ入ります。まだこの国の作法には不慣れな部分もございますので、今しばらくはお目こぼしを下されば幸いです。もちろんわたくしの事はレイナとお呼び下さいませ。名乗れる程の家名ではございませんので」

 その様子に、エドヴァルドやそれ以外の公爵様方も、僅かに眉を動かしていたけれど、誰も、何も言わなかった。

 慌てたのはむしろエリサベト夫人で、私の方まで急いでやって来ると、両手でそっと私の手をとった。

「本当に、畏まって下さらなくて良いのよ?貴女には本当に、何度頭を下げても足りないくらいにお世話になりましたもの。いずれ改めて、夫と息子ユセフと三人で、お時間を下さいませね」

「え…あ、いえ、私は大したことは――」

「――レイナ」

 大したことはしていない、と言いかけたところで、エドヴァルドがそれを遮ってきた。
 無言で首を横に振っているところからも、それ以上は会話の堂々巡りになると言いたかったに違いない。

 なので私も、諦めて先に〝ヘンリエッタ〟から届いたチョコのお礼を言う事にした。

「…失礼致しました。あの、今朝がたカフェ〝ヘンリエッタ〟の従業員の方が、チョコをお届け下さったと聞きました。お気遣い頂いて有難うございます。そちらに関しては、食後にお召し上がり頂けるようにご用意させて頂きましたので、後ほどぜひ」

 そうなのか?と、エドヴァルドが呟いているからには、聞かされていなかったんだろう。
 フォルシアン公爵は、ひらひらと片手を振った。

「ウチの従業員も言ったと思うけど、料理に使う分とは別に、売り物の方を今は持って来たんだ。これは夜でも明日でも、また別に食べると良い」

 その声に合わせるかのように、エリサベト夫人が、夫から受け取った袋を、こちらへと手渡した。

「貴女がお店でとても気に入って、来る度に注文して下さっていると聞きましたの。本当なら、持ち帰りは一切不可としているのだけれど、今回はこれが一番御礼になるんじゃないかと、夫と相談して決めましたのよ」

 その袋からは、一部スティックが顔を覗かせていて、もしやと私は顔を輝かせた。
 ――ミルクに溶かす、スティックチョコだ。

 来る度…?と、気のせいかひんやりとした声がして、背後でシャルリーヌが表情かお痙攣ひきつらせている事に、私は気が付かず、一人袋を眺めて喜んでいた。
 ちなみにミカ君も、私が受け取った袋の方に視線が向いていて、気が付かなかったらしい。

「あ…有難うございます!はい、私、これが大好きなんです!もうこれだけで充分です!嬉しいです‼」

 充分どころか、十二分です。
 コクコクと首を縦に振る私に「だと思ったよ」と、フォルシアン公爵が微笑わらった。

「ただ、知っているとは思うけど、持ち帰りが出来ない理由の一つが『溶けやすい』と言うのもあってね。これはちょっと、大きな声では言えない方法で運んで来たから、まあ、二度は出来ない方法かな。そんな訳だから、先に侍女に渡して、気温の低いところで保管をして貰うと良い」

 どんな方法だ、なんて言うのは聞くだけ野暮だ――と、エドヴァルドの表情を見て、私は察した。

 何だかものすごく呆れた視線をフォルシアン公爵に向けているところから言っても、何かしらの「職権乱用」をした事だけは確かだ。

 私はフォルシアン公爵の「有難いアドバイス」に従って、受け取った袋を早々にヨンナに預けた。

 エドヴァルドも、多分フォルシアン公爵に言ったところで「暖簾に腕押し」にしかならないと思ったに違いない。

 私の方に向き直って「レイナ、料理の説明を頼んでも?」と、話題を変えた。
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