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第二部 宰相閣下の謹慎事情
383 銀狼父子と昼食を
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※1日複数話更新です。お気を付け下さい。
出発前、エドヴァルドが王宮資料室から借りてきてくれていた資料によると、バリエンダール王宮は、中庭を取り囲む形で東西南北に棟がそれぞれ存在しており、それらを袖廊が繋いでいて、王宮内を一周出来るよう繋がっているらしかった。
儀典用の広間や晩餐会などが行われるバンケットなど、公式行事関連の部屋は北の正面棟に集中しているとの事で、案内された西の正面棟は、国王一家が日常的に暮らす部屋が建物の大半を占めており、後は、国王や王妃、王太子などがプライベートな面会の場として使用する為の会議室があるのだと言う事だった。
今回は、会談を申し込む使者がテオドル大公と言う事もあって、どうやら西の正面棟への案内となったらしい。
食事は話の後――と言う事で、まずは先日のサレステーデ王族との夕食会にも似た、対面形式での話し合いからスタートする事になった。
とは言え、バリエンダール側は国王を真ん中に、その両隣に王太子と宰相がそれぞれ腰を下ろしたのに比べて、こちらは国王に向かい合う形でテオドル大公が腰を下ろしたのみで、私とマトヴェイ外交部長は、最も下座になる二席に、隣同士で腰を下ろす形になっていた。
あくまで書記官と外交官だとの態を表向き貫いている感じだった。
歩いている途中で、ミラン王太子がテオドル大公に「今、会議室にいるのは陛下と宰相のみ。話は私を交えて三人で聞くと言う事になっている」と言っていたので、形式としての自己紹介や挨拶がなくとも、真ん中に座ったのが、目元まではよく見えないにしても、髪色のところでミラン王太子と同じ「王家の色」を持つメダルド国王陛下であり、ミラン王太子と反対隣りに腰を下ろした褐色の髪の男性がフォサーティ宰相だと、あたりをつける事が出来た。
「久しいな、テオ殿。ユリア殿は息災か?」
そしてこちらも、ミラン王太子同様に、テオドル大公にかける声は柔らかく、気安い。
見た目にも、転がした方が早そうとか、生え際が心配とか言う事もなく、普通?に「ミラン王太子が年齢を重ねたらこうなる」と言った感じだった。
陛下もお変わりがなさそうで何よりですな、とテオドル大公も穏やかな笑みを浮かべた。
「ただ今回は、起きた事態も事態ですし、前回の様にのんびりと滞在させて貰う訳にもいきませんのでな、妻は近いうちに……また」
社交辞令に社交辞令を返しつつ、さりげなく本題に入ったテオドル大公に、メダルド国王も「うむ…そうだな」と、重々しく頷いていた。
「とは言え、また5年も6年も空くのでは困る。なるべく早くにな」
「承りました」
テオドル大公は恭しく頭を下げ、そこから話は本題へと入っていった。
書記官などと、とってつけたように言われても、さてどうしよう…と考えた末に、私とマトヴェイ外交部長、それぞれが聞き取ったメモを、後で突き合わせて報告書に仕上げようと言う話になった。
流石に速記の技術はないし、レコーダーがある訳でもない。
普段、アンジェスの王宮はどうしているんだろうとエドヴァルドに聞いた時には、やっぱり複数でメモをとって後で突き合わせている様な事を言っていたからだ。
(機会があったら管理部――と言うかレヴの友達の術者さんに、魔道具としての録音機を開発出来ないか聞いてみて貰おうっと)
魔道具は万能じゃないとトーカレヴァは言うけれど、リファちゃん関連の魔道具を見ていると、何でもアリじゃないかと思うのだ。
挑戦くらいしてみたって、バチはあたるまい。
ただ今回は潔く諦めて、かつ私にとっては現状日本語が一番早いので、頑張ってひたすら書くしかなかった。
馬鹿な……!とか、仮にも王族がそのように愚かな……とか、改めて聞いても信じられないとでも言う様な声が色々と聞こえてはくるものの、こちらは書く事に集中しなければならず、彼らの感情や表情の推移を窺い知る事は出来なかった。
「言いたい事は分からぬでもないがな。玉座が終着点になっておる者に、その先に崖がある事を説明したとて聞きはすまいよ。おぬしたちとて、そんな阿呆どもはいくらでも見てきたであろう?」
「それは……そうですが……」
「少なくとも、我が国の公爵令息が一時的にせよ行方不明になった事と、夕食会の場において刺客が現れた事に関しては、儂以外の証言者も連れて来ておるからな」
「⁉」
テオドル大公が明らかにこちらを向いた事を察した私は、驚いて、書きかけた字を紙の上で不自然に滑らせてしまった。
隣にいたマトヴェイ外交部長が「其方も夕食会にいたのか?聞いたのではなく?」と、小声で聞いてきたので、とりあえずコクリと頷いておく。
「私と――その、ベルセリウス侯爵閣下は、夕食会の場にいました。あと護衛としても、あの中の何人かは壁側に控えていましたので、見た「だけ」であるなら、そこも数に入れて頂いて宜しいかと」
後から駆け付けた者もいる…とか言い出したらキリがないので、私は扉付近に立つ将軍や軍の面々に視線を向けつつ、ここはとりあえず他にも目撃者がいるのだとだけ仄めかせておく。
「ほう?そこな書記官に外交官が夜の晩餐に参加していたと申されるか」
メダルド国王の意外そうな声と、ミラン王太子やフォサーティ宰相の視線がこちらに突き刺さる。
いえ、私は――と言いかけるマトヴェイ外交部長を、遮ったのはテオドル大公だった。
「参加していたのは、書記官である彼女と、その向こうで護衛に立つ、飛び抜けて背の高いあの男よ。あの二人は、儂が王宮を退いて以降、居を構えている公爵領の当主の婚約者と、領の防衛軍を束ねる、誉れ高き武門の系譜である侯爵家の当主本人であるからな。証言の信憑性は保証しますぞ、陛下?」
一瞬「えっ」とは思ったものの、良く考えれば、テオドル大公は「居を構えている公爵領」と言っただけで、エドヴァルドの名前は表に出していない。
イデオン公爵領の名前さえ出さなければ、それが「宰相」とは繋がらず、ひいては「聖女の姉」とも繋がらない。
そして領防衛軍とて、公爵領の数だけ、すなわち5つ存在している以上、現段階ではどの家の事かが表沙汰になっていない。
嘘は言っていない。
けれど全てを説明している訳でもない。
私やエドヴァルドもちょいちょい使う策を、今日はしれっとテオドル大公が使っていた。
「テ…テオ殿、しかし先ほど彼の女性は『ユングベリ商会』の商会長と――」
先ほどの会話を思い起こしながら、ミラン王太子が最もな疑問を口にしているけど、これにもテオドル大公は微塵の動揺も見せなかった。
「それも間違ってはおらぬよ。彼女の才を買ったのは、儂だけではないと言う事だ。儂の様な年寄りに出来るのは、せいぜい商会への出資や後見だが、公爵家当主ともなれば、自らの伴侶にと望む事も、そうおかしな事ではあるまい」
「ではもしや、テオ殿の養女に……?」
「まあ、そのあたりは王宮上層部の思惑も絡むのでな。ここでは答えかねる。ともかく今は、証言者としては充分だと言う事を理解してくれれば、それで良いのだが?」
確かに養女の話は、エドヴァルドが「考えている」と言った話をしていた。
ただそれは、テオドル大公の事ではない雰囲気だった。
とは言っても意味深さを醸し出しているテオドル大公の様子を見ていると、話自体は耳にしているのかも知れなかった。
…それにしても、婚約とか伴侶とか、他人の口から聞くと、これほど公開処刑な事はない。
早く陛下なりミラン王太子なりが納得してくれないと、こちらのライフがガリガリ削られてしまいそうだった。
出発前、エドヴァルドが王宮資料室から借りてきてくれていた資料によると、バリエンダール王宮は、中庭を取り囲む形で東西南北に棟がそれぞれ存在しており、それらを袖廊が繋いでいて、王宮内を一周出来るよう繋がっているらしかった。
儀典用の広間や晩餐会などが行われるバンケットなど、公式行事関連の部屋は北の正面棟に集中しているとの事で、案内された西の正面棟は、国王一家が日常的に暮らす部屋が建物の大半を占めており、後は、国王や王妃、王太子などがプライベートな面会の場として使用する為の会議室があるのだと言う事だった。
今回は、会談を申し込む使者がテオドル大公と言う事もあって、どうやら西の正面棟への案内となったらしい。
食事は話の後――と言う事で、まずは先日のサレステーデ王族との夕食会にも似た、対面形式での話し合いからスタートする事になった。
とは言え、バリエンダール側は国王を真ん中に、その両隣に王太子と宰相がそれぞれ腰を下ろしたのに比べて、こちらは国王に向かい合う形でテオドル大公が腰を下ろしたのみで、私とマトヴェイ外交部長は、最も下座になる二席に、隣同士で腰を下ろす形になっていた。
あくまで書記官と外交官だとの態を表向き貫いている感じだった。
歩いている途中で、ミラン王太子がテオドル大公に「今、会議室にいるのは陛下と宰相のみ。話は私を交えて三人で聞くと言う事になっている」と言っていたので、形式としての自己紹介や挨拶がなくとも、真ん中に座ったのが、目元まではよく見えないにしても、髪色のところでミラン王太子と同じ「王家の色」を持つメダルド国王陛下であり、ミラン王太子と反対隣りに腰を下ろした褐色の髪の男性がフォサーティ宰相だと、あたりをつける事が出来た。
「久しいな、テオ殿。ユリア殿は息災か?」
そしてこちらも、ミラン王太子同様に、テオドル大公にかける声は柔らかく、気安い。
見た目にも、転がした方が早そうとか、生え際が心配とか言う事もなく、普通?に「ミラン王太子が年齢を重ねたらこうなる」と言った感じだった。
陛下もお変わりがなさそうで何よりですな、とテオドル大公も穏やかな笑みを浮かべた。
「ただ今回は、起きた事態も事態ですし、前回の様にのんびりと滞在させて貰う訳にもいきませんのでな、妻は近いうちに……また」
社交辞令に社交辞令を返しつつ、さりげなく本題に入ったテオドル大公に、メダルド国王も「うむ…そうだな」と、重々しく頷いていた。
「とは言え、また5年も6年も空くのでは困る。なるべく早くにな」
「承りました」
テオドル大公は恭しく頭を下げ、そこから話は本題へと入っていった。
書記官などと、とってつけたように言われても、さてどうしよう…と考えた末に、私とマトヴェイ外交部長、それぞれが聞き取ったメモを、後で突き合わせて報告書に仕上げようと言う話になった。
流石に速記の技術はないし、レコーダーがある訳でもない。
普段、アンジェスの王宮はどうしているんだろうとエドヴァルドに聞いた時には、やっぱり複数でメモをとって後で突き合わせている様な事を言っていたからだ。
(機会があったら管理部――と言うかレヴの友達の術者さんに、魔道具としての録音機を開発出来ないか聞いてみて貰おうっと)
魔道具は万能じゃないとトーカレヴァは言うけれど、リファちゃん関連の魔道具を見ていると、何でもアリじゃないかと思うのだ。
挑戦くらいしてみたって、バチはあたるまい。
ただ今回は潔く諦めて、かつ私にとっては現状日本語が一番早いので、頑張ってひたすら書くしかなかった。
馬鹿な……!とか、仮にも王族がそのように愚かな……とか、改めて聞いても信じられないとでも言う様な声が色々と聞こえてはくるものの、こちらは書く事に集中しなければならず、彼らの感情や表情の推移を窺い知る事は出来なかった。
「言いたい事は分からぬでもないがな。玉座が終着点になっておる者に、その先に崖がある事を説明したとて聞きはすまいよ。おぬしたちとて、そんな阿呆どもはいくらでも見てきたであろう?」
「それは……そうですが……」
「少なくとも、我が国の公爵令息が一時的にせよ行方不明になった事と、夕食会の場において刺客が現れた事に関しては、儂以外の証言者も連れて来ておるからな」
「⁉」
テオドル大公が明らかにこちらを向いた事を察した私は、驚いて、書きかけた字を紙の上で不自然に滑らせてしまった。
隣にいたマトヴェイ外交部長が「其方も夕食会にいたのか?聞いたのではなく?」と、小声で聞いてきたので、とりあえずコクリと頷いておく。
「私と――その、ベルセリウス侯爵閣下は、夕食会の場にいました。あと護衛としても、あの中の何人かは壁側に控えていましたので、見た「だけ」であるなら、そこも数に入れて頂いて宜しいかと」
後から駆け付けた者もいる…とか言い出したらキリがないので、私は扉付近に立つ将軍や軍の面々に視線を向けつつ、ここはとりあえず他にも目撃者がいるのだとだけ仄めかせておく。
「ほう?そこな書記官に外交官が夜の晩餐に参加していたと申されるか」
メダルド国王の意外そうな声と、ミラン王太子やフォサーティ宰相の視線がこちらに突き刺さる。
いえ、私は――と言いかけるマトヴェイ外交部長を、遮ったのはテオドル大公だった。
「参加していたのは、書記官である彼女と、その向こうで護衛に立つ、飛び抜けて背の高いあの男よ。あの二人は、儂が王宮を退いて以降、居を構えている公爵領の当主の婚約者と、領の防衛軍を束ねる、誉れ高き武門の系譜である侯爵家の当主本人であるからな。証言の信憑性は保証しますぞ、陛下?」
一瞬「えっ」とは思ったものの、良く考えれば、テオドル大公は「居を構えている公爵領」と言っただけで、エドヴァルドの名前は表に出していない。
イデオン公爵領の名前さえ出さなければ、それが「宰相」とは繋がらず、ひいては「聖女の姉」とも繋がらない。
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嘘は言っていない。
けれど全てを説明している訳でもない。
私やエドヴァルドもちょいちょい使う策を、今日はしれっとテオドル大公が使っていた。
「テ…テオ殿、しかし先ほど彼の女性は『ユングベリ商会』の商会長と――」
先ほどの会話を思い起こしながら、ミラン王太子が最もな疑問を口にしているけど、これにもテオドル大公は微塵の動揺も見せなかった。
「それも間違ってはおらぬよ。彼女の才を買ったのは、儂だけではないと言う事だ。儂の様な年寄りに出来るのは、せいぜい商会への出資や後見だが、公爵家当主ともなれば、自らの伴侶にと望む事も、そうおかしな事ではあるまい」
「ではもしや、テオ殿の養女に……?」
「まあ、そのあたりは王宮上層部の思惑も絡むのでな。ここでは答えかねる。ともかく今は、証言者としては充分だと言う事を理解してくれれば、それで良いのだが?」
確かに養女の話は、エドヴァルドが「考えている」と言った話をしていた。
ただそれは、テオドル大公の事ではない雰囲気だった。
とは言っても意味深さを醸し出しているテオドル大公の様子を見ていると、話自体は耳にしているのかも知れなかった。
…それにしても、婚約とか伴侶とか、他人の口から聞くと、これほど公開処刑な事はない。
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