聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?

渡邊 香梨

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第二部 宰相閣下の謹慎事情

457 湖畔地域のヒミツ

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 ダルジーザ族にいると言う、ガエターノ族長の親戚に向けて、シロフクロウナイクティアが飛び立って行き、そして、ちょうどそれと入れ違うように、三族長が放っていたと言う調査隊の青年達が数名、戻って来た。

 それはマトヴェイ外交部長やベルセリウス将軍たちにも分かったらしく、建物全体に、えも言われぬ緊張感が走る。

『――ご苦労。何か分かったか』

 カゼッリ族長の声かけによって、青年達が語ったところによると、彼らは拠点の村をいきなり探る事は避け、カラハティを連れて放牧している者達を中心に、事情を確認して回ったらしい。

 他の部族に語る事はないと、けんもほろろに立ち去る者達もいる中、何とか情報をかき集めて、とりあえず分かった部分だけを携えて、いったん戻って来たと言う事だった。

 要約すると、

 ・族長が倒れて、拠点の村で療養している。倒れた原因は不明。

 ・族長の側には側室の子だと言う息子が付き添っていて、姉妹はそれぞれに人を率いて、村の外に天幕を張って、その息子に次期族長にはならないと誓約するよう迫っている。

 ・姉妹はそれぞれが、自分が一族の跡取りになると吹聴していて、息子の方には食料や武器類が届かないよう、出入りの商人を止めた。

 と言う事らしく、恐らくはその最後の「出入りの商人を止めた」と言うのが、街道封鎖に繋がっているんだろうとの話だった。

『イーゴス族長が倒れたのか』
『イーゴス族長の息子は確か、側室夫人の子だったな……』
『うむ…まあ、あの正室夫人や娘達であれば、跡継ぎを自分にと言い出しかねんな……』

 他の部族に比べると閉鎖的な民族であるとは言え、カラハティを連れて移動をしていれば遭遇する機会も多い。

 バラッキ族長曰く、息子の方が拠点の村を普段から切り盛りしており、娘二人は結婚相手を求めて放牧に付いて回っている事の方が多かったらしい。

 草食系男子と肉食系女子。
 勝手にそんなイメージを抱いてしまった。

 そして正室夫人の兄弟が姉妹の後ろ楯になったりして、じわじわと村に残る息子とその側近を追い込んでいると言う情報もあるらしかった。

 姉妹どちらにも相手がいないままでは、次期族長を主張しづらいと思ったのか、側室夫人の息子と張り合えそうな結婚相手を――との怪気炎が見当違いの方向に上がった末に、王都のイユノヴァさんにまで白羽の矢が立ったと思われた。

『伯父上』

 眉間に皺を寄せて、腕組みをしているカゼッリ族長に、ジーノ青年がお伺いを立てる様に声をかけた。

 彼なりに考えている事はあっても、伯父とは言え族長の意向を無視する事は出来ない。
 王都と北部地域との間をこじれさせない事が、そもそもの大前提にあるからだ。

『……王都からの「客人」は見つかりそうか?』

 斥候役の青年達は、カゼッリ族長を見て首を横に振った。

『聞いていた湖の近くまで行ってみたのですが、どうやら先代か先々代かの関係者が近くに居を構えているとかで、今回の争いとは別に、日頃から警戒が強く、外からの人間を近付けさせまいとしているようなのです。何人か残して、今、近付く隙がないか確認はさせているんですが』

 その関係者によって保護されている可能性もあるものの、確証が掴めない状況だとの事だった。

『ふむ……今、イラクシ族は完全に分裂していると言う事か』

 口元に手をやりながら、ガエターノ族長も何とも言えない表情を浮かべている。

『あまり他所の一族の跡目争いに口を挟みたくはないのだが、ここまで他者に迷惑をかけているとあっては、ある程度のは致し方あるまいな……?』

『確かに気乗りはせんが、仕方がないのだろうな……』

 ガエターノ族長の隣で、バラッキ族長も何とも言えない表情を浮かべている。

『街道封鎖を解かせて、最終的には我らの名で息子を推す――といったところか?』

『姉妹が利口でないのは既に窺えるが、息子とて、必ずしも推せるだけの器とは限るまい。まずは街道封鎖を解く事に集中してはどうか』

『うむ。イーゴス族長の体調が回復すれば、我らが口を挟む必要もなくなる訳だからな』

 どうやら、イラクシ族の拠点の村近くから、側室夫人の息子を包囲しようとしているらしい、正室夫人とその娘二人を、それぞれこちらから押さえてしまおうと言う事らしい。

 表向きは「街道封鎖を解く様、王宮からの依頼で説得に来た」として会談を求めれば、向こうとて受けざるを得ないだろうし、聞く耳持たずで襲い掛かってくるなら、こちらは堂々と正当防衛を主張出来ると言う話になり、王宮側の意見として、ジーノ青年も異は唱えなかった。

『……あの』

 そこで私は、ちょっと気になっていた事を確かめる為に、おずおずと片手を上げた。

『その、先代か先々代かの関係者がいるらしい湖の近くは、イラクシ族の拠点からは近いですか?』

 私の問いかけに、顔を見合わせた末に斥候役の青年の一人が答えてくれた。

『イラクシ族の拠点の村よりもシェーヴォラ寄りで、イラクシ族の活動地域ギリギリの所にありますから、もし客人がその近辺にいるのだとしたら、もうしばらくは静かな環境に守られるのではないかと』

『物理的にちょっと距離がある?』

『ええ』

 その瞬間、ウルリック副長とジーノ青年が「まさか…」と表情を痙攣ひきつらせたけど、私は構わずポンっと両手を合わせた。

『じゃあもし、その地域にこちらの探している方がいらっしゃると分かれば、私達が迎えに行って、そこにお住まいの方と話し合いの場を持ちます』

『……っ、それはさすがに……』

『あまり王宮や他国の人間に、北部地域の奥深くにまで立ち入らせたくないのは分かります。ですが今回に限っては、その方を無事に連れ帰る事が最重要課題です。イラクシ族の拠点の村を包囲する件に関しては皆さまにお任せして、こちらは捜索に没頭させて頂いたほうが良いのでは、と思いまして』

 絶句するジーノ青年を横目に、三族長達は真面目に悩んで、あれこれ天秤にかけているように見えた。

ユングベリ商会ウチの護衛は皆、優秀ですよ?真面目な話、攻め滅ぼしに来たと誤解されずに話を聞いて貰うには、私が行く方が良い気がするので』

 湖畔地域に誰がいるにせよ、拠点の村から距離を置いて、静かに過ごしていると言うのなら、むやみやたらにはこちらに敵対しないだろう。

 リファちゃん次第だけど、何となくその「誰か」が、テオドル大公を保護しているのではないかと言う気がしているのだ。

 何に利用するでもなく、ほとぼりが冷めるまでの、純粋な「保護」。
 亡くなった「姫」の、もし関係者であれば、きっとそうする。

 ならば、少なくとも私とマトヴェイ外交部長とは、きっと行かなくちゃいけない。
 他人任せにしたら、きっと門戸は閉ざされる。

『皆さんは、街道封鎖解除にぜひ全面的なご協力をお願い致します』

 私はそう言って、三族長達に頭を下げた。
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