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第二部 宰相閣下の謹慎事情

456 その鳥にはライバルがいた

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 ハタラ族のガエターノ族長の親戚が、サレステーデ側に暮らす少数民族ダルジーザ族の中にいるらしい。

 街道が封鎖されているところ、どうやって…と思ったら、対岸に迎えを呼んでおく形で、川を渡れば良いのだと、ガエターノ族長は言った。

『いや、国境付近、川や湖が入り組んで点在していて、整備された街道以外を通ろうとしても、ほぼ間違いなく方向を見失って野垂れ死にだ。互いの土地を知る者がそれぞれにいて、初めて街道以外を通ると言う選択肢が出て来るのだよ』

 なるほど、地元民がいないと、某日本一の山の麓の樹海を彷徨う様なものなのかも知れない。

 どの部族も、川や湖で魚を獲る時の為に、それほど大きくはない葦船あしぶねを何艘か持っているらしく、人を二人対岸に渡すくらいなら、わけないと言う事らしかった。

『カゼッリ族長、其方そちらの〝ナイクティア〟を借りる事は出来るかね?』

 ナイクティアとは何だろう、と思う私の前でカゼッリ族長が『ふむ…』と、口元に手をあてた。

『貸す事自体に否やはないが……それはもう、イラクシ族のどもをどこかで挟み撃ちにする前提と言う事で良いのかね』

『実際の戦闘にまではならなかったとしても、イラクシ族以外の北方遊牧民族は、王都に敵対するつもりはないと意思表示をしておくのには、分かりやすい動き方ではないか?』

 ガエターノ族長の言葉に『確かにな』と、バラッキ族長も賛同の意を見せた。

『どこの対岸に渡すかによっては、ネーミウチから葦船ふねを出しても構わんしな』

 そこへちょうど、王宮への連絡が済んだのかジーノ青年が再び顔を出し、そこにカゼッリ族長が『ああ、ジーノ、ちょうど良かった』と、彼が入るや否や声をかけた。

『ジーノ、今から〝ナイクティア〟を出そうと思う。ここに連れて来てくれるか』

『……〝ナイクティア〟を?ちなみに、どこへ』

 眉を顰めるジーノ青年に、カゼッリ族長がガエターノ族長の考えを代弁する形で説明をしていた。

『あの二人には、一度私とバリエンダールの王宮に入って貰って〝転移扉〟をサレステーデに繋いで貰おうかと思っていたんですが……』

『それはサレステーデ王都だろう?』

『ええ、まあ』

『それでは、封鎖されたサレステーデ側の街道に関して、対策をとるのが遅れるだろう。ダルジーザ族がもし協力してくれるとなれば、良い王宮への意思表示になると思うがな』

『それは……確かに……』

『万一協力を拒まれたら、お前の言うやり方を採ると言う形で、今はとれる手立ては試しておくべきだろう』

 見た目の体格ガタイや性格はともかく、ガゼッリ族長とジーノ青年との間には、確かに血の繋がりを感じさせる頭の回転の速さがある様に思えた。

 分かりました、と少し気圧される形でジーノ青年が再度部屋を後にする。

 それを目で追いながら、ガゼッリ族長が『すまんな』と、私に微笑わらいかけた。

『王都で何かあったのかも知れんが、ちょっと焦っている様だな』
『ガゼッリ族長……』
『ああ、いい。養子に行った先の事を考えれば、伯父と言えど話せん事も色々とあるだろうしな』

 根掘り葉掘り聞こうとは思わない、とガゼッリ族長は軽く頷いて見せる。

『お互いに思うところはあるだろうが、北部の争いは北部で収めさせて欲しいと言うのが我々の言い分ではある。今の王宮であれば、その間目を瞑ってくれるのでは、と思うのは都合が良すぎるかね?』

『……いえ』

 とは言え、それはテオドル大公が無傷で保護された場合の事に限られる。
 あれば、王都からの兵力介入が避けられない事態になりかねない。

 私がそう続けると、三族長共に、分かっていると言わんばかりの表情を見せた。

『王都からの客人に関しては、今、各部族から手分けして人を出している。何か分かればすぐに連絡が入る予定だ』

 宜しくお願いします、と私も頭を下げるより他なかった。

『――伯父上』

 どうやら戻って来たらしい、ジーノ青年の声に振り返った私は、思わず「うわぁ……」と、場にそぐわない感嘆の声を上げてしまった。

 曲げられた前腕部分に、シロフクロウが一羽留まっていたからだ。

 某魔法使いの少年の使い魔、ヘ〇ヴィクが目の前に実体化している……‼

「ああ、ユングベリ嬢は〝ナイクティア〟を見るのは初めてですか?」

 空いた片手で頭頂部を撫でているジーノ青年に、私はコクコクと首を縦に振った。

 さすがにシマエナガサイズのリファちゃんに比べると、シロフクロウは遥かに大きい。
 撫でて愛でるには、ちょっと大きすぎる気がする。

(いや、私にはリファちゃんが一番だからね⁉ちょっとリアル〇ドヴィクにテンション上がっちゃっただけだからね⁉)

 心の中でリファちゃんに盛大に主張しつつも、目線はシロフクロウに釘付けだ。

「この地域は、カラハティと共に移動している者も多いですしね。各部族の拠点の村から、放牧中の家族に連絡を取ったりするのに、この〝ナイクティア〟を飛ばしたりするんですよ。主に手紙を運びますが、1~2食分の干し肉程度であれば、緊急用の食料として運んだりもしますよ」

「ナイクティアと言うのは、種族名ですか、それともこの子の名前ですか?」

「種族名ですよ。名前は……もしかしたら、世話係が付けているかも知れませんが、今は聞いて来ませんでした。確か他の部族ではニクティアとかニークティアとか、微妙に発音が異なっているようですが、基本はこの鳥のことを指します」

「え、フォサーティ卿、このコ売れますよ!」

「⁉」

 うっかりテンションが上がったまま口にしてしまった私に、ジーノ青年と三族長達がちょっとギョッとしていた。

 私は誤解をばら撒いたらしいと察して、慌てて両手を振る。

「ああ、ごめんなさい、違うんです!このコも人形にして売れば、売れるんじゃないかな……?って言う提案です。このコそのものを売り飛ばす話じゃないです!」

 某関西のテーマパークに、ヘド〇ィクのぬいぐるみが売ってあったとかで、高校時代の数少ない友人にお土産に貰った覚えがある。

 いつの間にか「可愛かったから、私の部屋の方が似合う」と、勝手に移動させられていた、イヤな思い出までくっついてきたけど。

 この世界、人形はあってもぬいぐるみがあるのか……とは思ったけど、なければこれから考えれば良いだけの話だ。

「何か白い毛の動物に心当たりがあれば、その毛を使って上手く縫って作れないかな、と」

「なるほど……民族衣装を着た人形を作る際に、作り手となってくれそうな人達に一緒に聞いてみるのもアリかも知れませんね」

「そうですね、ぜひ」

 私の様な不器用ブッキーちゃんには出来ない芸当ですので、そのあたりは部族の皆様方で創意工夫をして頂きたいところです。

「とりあえず、今はこの子には仕事をして貰いましょう」

 シロフクロウを撫でたまま、ジーノ青年はそう言った。
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