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第三部 宰相閣下の婚約者
【宰相Side】エドヴァルドの誓願(2)
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バリエンダールのミルテ王女に「おねえさま」と呼ばれていたり、バリエンダール王都商業ギルド長と必要以上に距離が近かったり、どうしてこの短期間で色々と重要人物を釣り上げて来るのか。
出来るなら公爵邸で、誰の目にも触れさせず囲い込みたい。
だがそれでは、私が魅かれたレイナでなくなってしまう。
私はこの先、ずっとその葛藤に苛まれるのかも知れない。
せめて時々、誰の目にも触れさせないようにして、自分が誰を虜にしたのかをその身で知る時間を作ろう。
そのくらいなら、セルヴァンもヨンナも小言程度で抑えてくれるはずだ。
帰国してからの、フィルバートとの高度な交渉で、3日に満たないまでも休暇はもぎ取った。
次の日から休みとなれば、帰国当日のサレステーデへの召喚状作成に関する作業を外交部官吏と打ち合わせて、ある程度の目途を立てておくことは許容範囲と言えた。
ただ、深夜に帰宅した直後、自分が魔力枯渇寸前の状態になっていて、立つことも歩くことも覚束なくなってしまったのは想定外だった。
どうやらバリエンダールに行っていた間、ところかまわず氷の威圧を振りまいていた結果の産物らしい。
不調に気付いたセルヴァンに介抱されながら運ばれたのが「自分の部屋」だと分かってはいたが、眠っているであろうレイナの顔を見たい、などと言える雰囲気にはなく、魔力を回復させる薬はないから、せめて体力だけでも――と、公爵邸特製の〝魔法薬〟を持って来させた。
「魔力枯渇か……鑑定があった、子どもの頃以来か……?」
ぼんやりとしてきた頭でそんなことを呟けば、セルヴァンが微かに笑った様な気がした。
「王宮内の鑑定用の広間が凍り付いたとかで、どうやら制御は難しそうだと、管理部への推挙は立ち消えになったのでしたね」
通常であれば各領の領都で自身が持つ魔力の属性と量の鑑定が行われるが、王都在住の公爵家と王家のみ、王宮内で管理部がそれを行っている。
先代公爵が存命だった頃にその鑑定は行われ、調査の為に流れ込んで来た魔力に反発した結果、広間が凍り付いたのだ。
それは〝聖者〟にならないのが不思議なほどの魔力量で、年配の官吏たちの中では今でも語り草だ。
制御さえ出来るならと、管理部の何人かは魔道具製作と実験を先代公爵に持ちかけたらしいが、さすがに次期公爵としての勉強に差し障りが出ては困ると、当時先代が拒否していたらしいのだ。
「……結局、今、協力させられているがな」
珍しく先代が当主としての自覚ある仕事をしたと言えなくもないし、ここ最近の魔道具作成への協力は、ある意味管理部の悲願だったとも言えた。
私の愚痴を、いいから寝ろとばかりに聞き流しつつ、セルヴァンが「旦那様」と、ワゴンにスープを乗せて寝台脇までやって来た。
「こちらは、イザクとナシオとシーグが共同で開発中の『魔力を回復させるスープ』だそうです。まだ開発中と言うことからも分かるように、魔力の完全な回復は無理との事なのですが、身体が少し軽くなるくらいの症状改善は見込めるとか」
「…………何をやっているんだ」
名を聞いた面々からするに、ギーレンのシーカサーリ植物園で研究をしている成果と言うことか。
「恐らく明日の昼食頃まではお休みと言う形になるかとは思いますが、夜の外出が台無しにならないためにも、無理に眠気に抗わず、大人しくなさっていて下さい」
「それは……困るな」
仕事ではなく、朝食の場に現れないとなれば、さすがにレイナも驚くだろう。
だが、夜に出かけられないのが一番困る。
私は〝魔法薬〟を飲みほしたその後で、スープも口にしておくことにした。
もう、予約の変更をするわけにはいかない。
――そして、眠気に身を任せて目を閉じた。
* * *
どのくらい眠っていたのか。
ゆっくりと目を開いたところで視界に入った思わぬ光景に、らしくもなく私は言葉を詰まらせた。
「…………レイナ?」
声を出せば、レイナが慌ててこちらを覗き込んでくる。
どうやら「魔力枯渇」と言う事象も概念もないレイナからすると、過労で倒れたに等しい衝撃を受けたらしかった。
(ああ……)
そんな、不安げな表情を見せないで欲しい。
「――心配、してくれていたのか」
起き抜けだと言うのに、触れたくなってしまう。
水で喉を潤した私は、次に「足りないもの」を補充することにした。
「アヤしげな新薬より〝魔力薬〟より――今は、貴女が足りない」
レイナを寝台の上に抱き寄せた私は「補充させてくれ」と彼女の耳元で囁いた。
「あああっ、あの……っ⁉」
何の補充だと言わんばかりに私の腕の中でレイナが慌てふためいているが、私の声に動揺をしているその姿を眺めるのは、むしろ私には褒賞だ。
どうやらこの「声」を、彼女が好ましく思ってくれているようだと察してからは、つい、至近距離で囁いて彼女の反応を楽しんでしまう。
本来であれば、今頃は旅に出て、もっと貴女と二人だけの時間を過ごしている筈だったのだ。
せめて今の時間を、少しでも長く堪能させて欲しい。
「私の回復は貴女次第という事だ、レイナ」
あれこれと話題を逸らそうとしているようだが、そもそも私は、貴女が絡むと箍が外れて魔力が溢れ出てしまうのだ。
少なくとも私の魔力が元に戻るまでは、貴女の身に何事も起きないよう、こうして捕まえておかなくては――などと囁きながら、抱き寄せたレイナの首筋に唇を滑らせる。
「……名残惜しいが」
行先が〝アンブローシュ〟とあっては、さすがに王宮での式典参加に匹敵する正装が必要となる。
レイナだけではなく、私にも多少なりとの準備が必要なのだ。
「――旦那様。ご不在の間に宝石商からピアスも届けられておりますので、レイナ様がお部屋でお支度をされている間に、そちらもご用意いたします」
レイナには聞こえない声量での、有能な家令の囁きに、私は口元を綻ばせることで、それに答えた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
魔力枯渇でフラついたところも書きたくなり、(前)(中)(後)にしようと思っていたのを、番号フリに変えさせていただきました。
〝アンブローシュ〟は明日お届けします。引き続きよろしくお願いいたしますm(_ _)m
出来るなら公爵邸で、誰の目にも触れさせず囲い込みたい。
だがそれでは、私が魅かれたレイナでなくなってしまう。
私はこの先、ずっとその葛藤に苛まれるのかも知れない。
せめて時々、誰の目にも触れさせないようにして、自分が誰を虜にしたのかをその身で知る時間を作ろう。
そのくらいなら、セルヴァンもヨンナも小言程度で抑えてくれるはずだ。
帰国してからの、フィルバートとの高度な交渉で、3日に満たないまでも休暇はもぎ取った。
次の日から休みとなれば、帰国当日のサレステーデへの召喚状作成に関する作業を外交部官吏と打ち合わせて、ある程度の目途を立てておくことは許容範囲と言えた。
ただ、深夜に帰宅した直後、自分が魔力枯渇寸前の状態になっていて、立つことも歩くことも覚束なくなってしまったのは想定外だった。
どうやらバリエンダールに行っていた間、ところかまわず氷の威圧を振りまいていた結果の産物らしい。
不調に気付いたセルヴァンに介抱されながら運ばれたのが「自分の部屋」だと分かってはいたが、眠っているであろうレイナの顔を見たい、などと言える雰囲気にはなく、魔力を回復させる薬はないから、せめて体力だけでも――と、公爵邸特製の〝魔法薬〟を持って来させた。
「魔力枯渇か……鑑定があった、子どもの頃以来か……?」
ぼんやりとしてきた頭でそんなことを呟けば、セルヴァンが微かに笑った様な気がした。
「王宮内の鑑定用の広間が凍り付いたとかで、どうやら制御は難しそうだと、管理部への推挙は立ち消えになったのでしたね」
通常であれば各領の領都で自身が持つ魔力の属性と量の鑑定が行われるが、王都在住の公爵家と王家のみ、王宮内で管理部がそれを行っている。
先代公爵が存命だった頃にその鑑定は行われ、調査の為に流れ込んで来た魔力に反発した結果、広間が凍り付いたのだ。
それは〝聖者〟にならないのが不思議なほどの魔力量で、年配の官吏たちの中では今でも語り草だ。
制御さえ出来るならと、管理部の何人かは魔道具製作と実験を先代公爵に持ちかけたらしいが、さすがに次期公爵としての勉強に差し障りが出ては困ると、当時先代が拒否していたらしいのだ。
「……結局、今、協力させられているがな」
珍しく先代が当主としての自覚ある仕事をしたと言えなくもないし、ここ最近の魔道具作成への協力は、ある意味管理部の悲願だったとも言えた。
私の愚痴を、いいから寝ろとばかりに聞き流しつつ、セルヴァンが「旦那様」と、ワゴンにスープを乗せて寝台脇までやって来た。
「こちらは、イザクとナシオとシーグが共同で開発中の『魔力を回復させるスープ』だそうです。まだ開発中と言うことからも分かるように、魔力の完全な回復は無理との事なのですが、身体が少し軽くなるくらいの症状改善は見込めるとか」
「…………何をやっているんだ」
名を聞いた面々からするに、ギーレンのシーカサーリ植物園で研究をしている成果と言うことか。
「恐らく明日の昼食頃まではお休みと言う形になるかとは思いますが、夜の外出が台無しにならないためにも、無理に眠気に抗わず、大人しくなさっていて下さい」
「それは……困るな」
仕事ではなく、朝食の場に現れないとなれば、さすがにレイナも驚くだろう。
だが、夜に出かけられないのが一番困る。
私は〝魔法薬〟を飲みほしたその後で、スープも口にしておくことにした。
もう、予約の変更をするわけにはいかない。
――そして、眠気に身を任せて目を閉じた。
* * *
どのくらい眠っていたのか。
ゆっくりと目を開いたところで視界に入った思わぬ光景に、らしくもなく私は言葉を詰まらせた。
「…………レイナ?」
声を出せば、レイナが慌ててこちらを覗き込んでくる。
どうやら「魔力枯渇」と言う事象も概念もないレイナからすると、過労で倒れたに等しい衝撃を受けたらしかった。
(ああ……)
そんな、不安げな表情を見せないで欲しい。
「――心配、してくれていたのか」
起き抜けだと言うのに、触れたくなってしまう。
水で喉を潤した私は、次に「足りないもの」を補充することにした。
「アヤしげな新薬より〝魔力薬〟より――今は、貴女が足りない」
レイナを寝台の上に抱き寄せた私は「補充させてくれ」と彼女の耳元で囁いた。
「あああっ、あの……っ⁉」
何の補充だと言わんばかりに私の腕の中でレイナが慌てふためいているが、私の声に動揺をしているその姿を眺めるのは、むしろ私には褒賞だ。
どうやらこの「声」を、彼女が好ましく思ってくれているようだと察してからは、つい、至近距離で囁いて彼女の反応を楽しんでしまう。
本来であれば、今頃は旅に出て、もっと貴女と二人だけの時間を過ごしている筈だったのだ。
せめて今の時間を、少しでも長く堪能させて欲しい。
「私の回復は貴女次第という事だ、レイナ」
あれこれと話題を逸らそうとしているようだが、そもそも私は、貴女が絡むと箍が外れて魔力が溢れ出てしまうのだ。
少なくとも私の魔力が元に戻るまでは、貴女の身に何事も起きないよう、こうして捕まえておかなくては――などと囁きながら、抱き寄せたレイナの首筋に唇を滑らせる。
「……名残惜しいが」
行先が〝アンブローシュ〟とあっては、さすがに王宮での式典参加に匹敵する正装が必要となる。
レイナだけではなく、私にも多少なりとの準備が必要なのだ。
「――旦那様。ご不在の間に宝石商からピアスも届けられておりますので、レイナ様がお部屋でお支度をされている間に、そちらもご用意いたします」
レイナには聞こえない声量での、有能な家令の囁きに、私は口元を綻ばせることで、それに答えた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
魔力枯渇でフラついたところも書きたくなり、(前)(中)(後)にしようと思っていたのを、番号フリに変えさせていただきました。
〝アンブローシュ〟は明日お届けします。引き続きよろしくお願いいたしますm(_ _)m
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