文字の大きさ
大
中
小
652 / 791
第三部 宰相閣下の婚約者
693 淑女による淑女のための紅茶教室(後)
「え、ギーレンは違ったの?」
シャルリーヌやシーグが私とほぼ同じリアクションを見せているので、ちょっと意外に思って聞いてみると、二人は一瞬だけ顔を見合わせていた。
ベクレル伯爵令嬢として王妃教育を受けていたシャルリーヌはもちろん、エドベリ王子の侍従として王宮に居たからには、シーグはシーグでお茶を飲んだ経験はあるのかも知れない――十中八九毒見役になる為だった気はするけど。
「私の場合はもう種類がありすぎて、どの産地の茶葉にどのお茶請けが合うかって言う組み合わせを覚えるのでいっぱいいっぱいだったのよ。超有名な高級茶区の四つの茶葉は絶対押さえておくにしても、少しグレードの落ちる品種まで加えたら50以上になるのだもの」
「私も……訪れたことのある邸宅で好まれていた茶葉を事前に調べておくのでいっぱいいっぱいでした」
シーグの説明に含みを感じたのは、裏稼業を知っている私とシャルリーヌだけだろう。
それよりも、シャルリーヌの「50種類以上の茶葉」の方に意識を持っていかれたのも、きっと理由としては大きいはず。
翻ってアンジェスの場合、ヨンナが説明をしてくれたハユハ以外でも、同じ産地の茶園ではなるべく争わないようにと、それぞれの茶園における旬の時期は少しずつずらしてあるそうだ。
そうすると、学び始めたの旬の時期から、まずは知って行けば良いと言う話になり、取っ掛かりとしては随分と楽なのかも知れない。
エリィ義母様は、テーブルに置かれた茶葉入りの瓶を、22個の中からまず7個ピックアップしていた。
「まずは、今がちょうど旬の茶葉と、少し前が旬だった茶葉から飲んでみましょうか」
いくらなんでも紅茶を一人22杯も飲むのは非現実的だ。
料理用の小鉢サイズの容器に2~3口で飲める量を淹れて試飲していこうと言う話になった。
「この辺りがストレートティー向き、この辺りがミルクティー向きと言われているかしらね。もしイオタちゃんが『ロゼーシャ』入りのフレーバーティーにしたいのなら、渋みの少ないストレートティー向きの茶葉が良いんじゃないかと思うんだけれど……」
そして既に全部の味を知るエリィ義母様は、シーグのヘルプに入って薔薇に合いそうな茶葉を考える方に回るつもりらしかった。
私とシャルリーヌは、とりあえず全部飲む一択だ。
「まあ最初のうちは『味が違う』『渋い』『クセがあまりない』あたりから区別がつけば良いのかしらね」
柔らかい、弾けるような爽やかさ、優しいコク……などと言い始めると、上級者のように思われて紅茶談義になだれ込む可能性が高いので、しばらくはおススメしないとエリィ義母様は苦笑いだった。
「イオタちゃん、このクヴィスト産のトゥシュとカシュヴァ、あとウチのミュクラとでまずは試してみない? きっと同じ『ロゼーシャ』の花では合わないと思うから、組み合わせを色々と試すことにはなるけれど……」
「あっ、はい、お願いします!」
クヴィスト産の茶葉のうち「トゥシュ」が最も多くの茶園を抱えて、王都中心街での流通もポピュラーなものらしい。
栽培、製茶含めての手間も少なく、年間を通じてそれなりの品質を保って出回る言わば汎用品。
下位貴族層や富裕層市民がアンジェスの茶葉として何を挙げるかと言えば、そのトゥシュをまず挙げるのだそうだ。
逆にカシュヴァは、高度の高い地域で収穫される、収穫量もあまり多くはない希少な品種。
国内で最も高い値付けがされる茶葉になるらしい。
そしてエリィ義母様お勧めのミュクラ。
これらが茶葉の中でもストレートティー向きの、渋みの少ない品種と言うことらしい。
「えっと、じゃあ私が〝アンブローシュ〟でいただいた茶葉だともしかしてカシュヴァかも知れないってことですか?」
高級な茶葉と聞けばアンブローシュで出されると勝手に認識してしまうのも、ある種の偏見あるいは弊害なのかも知れない。
エリィ義母様は「そうとも違うとも言えるわね」と、若干言い方が曖昧だった。
「確かにカシュヴァの茶葉がメインではあるでしょうね。けれど他にも何かブレンドされているはずよ? そう何度も行ったわけではないし、細かい配合は私には分からないけれど、まず確実にハウスワインと同じ葡萄の香りづけはされてるわ」
「…………」
予想よりも上な回答をいただきました、はい。さすが諸々手がこんでいます。
だからこそ「カシュヴァ」の茶葉に『ロゼーシャ』と合う可能性があると言うことらしい。
トゥシュの茶葉はベーシックであるが故に色々なブレンドの下地にもなっていること、ミュクルの茶葉も、好みが分かれがちなハユハの茶葉の味を和らげる組み合わせなため、フレーバーティーとしても合うかも知れないとのことだった。
言われてみればフォルシアン邸の紅茶は、イデオン邸のそれよりも口当たりが柔らかかった気はする。
なるほどチョコレートを引き立てるためのブレンドと言っていたのは、そういうことかと理解が進む。
私やシャルリーヌはまずそれぞれのストレートの味から確かめている中、シーグとエリィ義母様は早速三種に『ロゼーシャ』を入れて蒸らすところから始めていた。
「レイナちゃんとシャルリーヌ嬢は、そのまま他の茶葉も試飲していきましょう。イオタちゃんは、今の三つと『ロゼーシャ』が合わなければ、そこで次にいきましょうか」
これは、一口ずつにしてもお腹が膨れてしまいそうだった。
シャルリーヌやシーグが私とほぼ同じリアクションを見せているので、ちょっと意外に思って聞いてみると、二人は一瞬だけ顔を見合わせていた。
ベクレル伯爵令嬢として王妃教育を受けていたシャルリーヌはもちろん、エドベリ王子の侍従として王宮に居たからには、シーグはシーグでお茶を飲んだ経験はあるのかも知れない――十中八九毒見役になる為だった気はするけど。
「私の場合はもう種類がありすぎて、どの産地の茶葉にどのお茶請けが合うかって言う組み合わせを覚えるのでいっぱいいっぱいだったのよ。超有名な高級茶区の四つの茶葉は絶対押さえておくにしても、少しグレードの落ちる品種まで加えたら50以上になるのだもの」
「私も……訪れたことのある邸宅で好まれていた茶葉を事前に調べておくのでいっぱいいっぱいでした」
シーグの説明に含みを感じたのは、裏稼業を知っている私とシャルリーヌだけだろう。
それよりも、シャルリーヌの「50種類以上の茶葉」の方に意識を持っていかれたのも、きっと理由としては大きいはず。
翻ってアンジェスの場合、ヨンナが説明をしてくれたハユハ以外でも、同じ産地の茶園ではなるべく争わないようにと、それぞれの茶園における旬の時期は少しずつずらしてあるそうだ。
そうすると、学び始めたの旬の時期から、まずは知って行けば良いと言う話になり、取っ掛かりとしては随分と楽なのかも知れない。
エリィ義母様は、テーブルに置かれた茶葉入りの瓶を、22個の中からまず7個ピックアップしていた。
「まずは、今がちょうど旬の茶葉と、少し前が旬だった茶葉から飲んでみましょうか」
いくらなんでも紅茶を一人22杯も飲むのは非現実的だ。
料理用の小鉢サイズの容器に2~3口で飲める量を淹れて試飲していこうと言う話になった。
「この辺りがストレートティー向き、この辺りがミルクティー向きと言われているかしらね。もしイオタちゃんが『ロゼーシャ』入りのフレーバーティーにしたいのなら、渋みの少ないストレートティー向きの茶葉が良いんじゃないかと思うんだけれど……」
そして既に全部の味を知るエリィ義母様は、シーグのヘルプに入って薔薇に合いそうな茶葉を考える方に回るつもりらしかった。
私とシャルリーヌは、とりあえず全部飲む一択だ。
「まあ最初のうちは『味が違う』『渋い』『クセがあまりない』あたりから区別がつけば良いのかしらね」
柔らかい、弾けるような爽やかさ、優しいコク……などと言い始めると、上級者のように思われて紅茶談義になだれ込む可能性が高いので、しばらくはおススメしないとエリィ義母様は苦笑いだった。
「イオタちゃん、このクヴィスト産のトゥシュとカシュヴァ、あとウチのミュクラとでまずは試してみない? きっと同じ『ロゼーシャ』の花では合わないと思うから、組み合わせを色々と試すことにはなるけれど……」
「あっ、はい、お願いします!」
クヴィスト産の茶葉のうち「トゥシュ」が最も多くの茶園を抱えて、王都中心街での流通もポピュラーなものらしい。
栽培、製茶含めての手間も少なく、年間を通じてそれなりの品質を保って出回る言わば汎用品。
下位貴族層や富裕層市民がアンジェスの茶葉として何を挙げるかと言えば、そのトゥシュをまず挙げるのだそうだ。
逆にカシュヴァは、高度の高い地域で収穫される、収穫量もあまり多くはない希少な品種。
国内で最も高い値付けがされる茶葉になるらしい。
そしてエリィ義母様お勧めのミュクラ。
これらが茶葉の中でもストレートティー向きの、渋みの少ない品種と言うことらしい。
「えっと、じゃあ私が〝アンブローシュ〟でいただいた茶葉だともしかしてカシュヴァかも知れないってことですか?」
高級な茶葉と聞けばアンブローシュで出されると勝手に認識してしまうのも、ある種の偏見あるいは弊害なのかも知れない。
エリィ義母様は「そうとも違うとも言えるわね」と、若干言い方が曖昧だった。
「確かにカシュヴァの茶葉がメインではあるでしょうね。けれど他にも何かブレンドされているはずよ? そう何度も行ったわけではないし、細かい配合は私には分からないけれど、まず確実にハウスワインと同じ葡萄の香りづけはされてるわ」
「…………」
予想よりも上な回答をいただきました、はい。さすが諸々手がこんでいます。
だからこそ「カシュヴァ」の茶葉に『ロゼーシャ』と合う可能性があると言うことらしい。
トゥシュの茶葉はベーシックであるが故に色々なブレンドの下地にもなっていること、ミュクルの茶葉も、好みが分かれがちなハユハの茶葉の味を和らげる組み合わせなため、フレーバーティーとしても合うかも知れないとのことだった。
言われてみればフォルシアン邸の紅茶は、イデオン邸のそれよりも口当たりが柔らかかった気はする。
なるほどチョコレートを引き立てるためのブレンドと言っていたのは、そういうことかと理解が進む。
私やシャルリーヌはまずそれぞれのストレートの味から確かめている中、シーグとエリィ義母様は早速三種に『ロゼーシャ』を入れて蒸らすところから始めていた。
「レイナちゃんとシャルリーヌ嬢は、そのまま他の茶葉も試飲していきましょう。イオタちゃんは、今の三つと『ロゼーシャ』が合わなければ、そこで次にいきましょうか」
これは、一口ずつにしてもお腹が膨れてしまいそうだった。
感想 1,477
あなたにおすすめの小説
《完結》真実の愛のために廃妃ですか。では、王妃の仕事もお返しします。
さんけい結婚して三年、子がないことを理由に、王妃イザベルは廃妃を言い渡された。
若き王アルマンは、美しい側妃コレットを迎え、真実の愛を選んだつもりだった。
イザベルは静かに王妃の印璽と鍵を返し、王宮を去る。
だがその日から、神殿、諸侯、隣国、慈善事業――王妃が支えていたものが次々と止まり始めた。
廃妃にしたのだから、もう戻らない。
王は、周囲は、手放したものの重さを知るのだろうか?
王太子殿下、最初の一曲は私ではないのですね 〜我慢をやめた公爵令嬢は、婚約指輪をお返しいたします〜
ゆぷしろん 王太子カーティスの婚約者フローラは、彼に何度も「君なら分かってくれる」と我慢を強いられてきた。王宮の茶会や演奏会、誕生日の晩餐までも、殿下は王弟の落胤であるサビーナを優先し、フローラの傷を見ようとしない。ついに生誕舞踏会の最初の一曲まで奪われた彼女は、周囲の視線にさらされながらも笑顔の裏で限界を迎え、婚約解消を決意する。
翌日、王妃の前でこれまでの扱いを訴えると、サビーナもまた殿下の都合のよい言葉に利用されていたと判明。カーティスは自分の甘えと無責任さを認めきれず、国王は婚約解消と王太子活動の停止を命じる。
フローラは誰かの都合に合わせ続ける人生をやめ、自分の心を優先する穏やかな日々を取り戻す。そして、彼女を一人の人として尊重するルシアンの手を取り、初めて自ら望んだ新たな未来へ歩み出していく。
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~
水上「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」
夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。
王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。
「左様でございますか」
彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。
【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
「仕方ない」には疲れました ~三年続いた白い結婚を終わらせたら、辺境公爵の溺愛が待っていました~
ゆぷしろん 「仕方ない」と白い結婚に耐え続けていた伯爵夫人エリス。
彼女の誕生日、夫は幼なじみのセシリアを屋敷に連れ帰り、エリスが大切にしてきた猫を彼女に見せろと言う。冷めた晩餐の前で心が折れたエリスは、ついに離縁を宣言し実家へ戻った。
彼女の薬草知識と領地経営の才は、北方を守る公爵ディートリヒが目を留める。流行り病に苦しむ公爵領を救うため奮闘するエリスは、初めて努力を認められ、大切に扱われる喜びを知っていく。一方で彼女を失った元夫の伯爵家は傾き、身勝手な幼なじみの嘘も暴かれて――。
我慢をやめた傷心令嬢が、辺境公爵に溺愛され、自分らしい幸せを選び直す逆転愛されファンタジー。