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第三部 宰相閣下の婚約者
784 悪女か魔女か
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「そこの狭量な宰相のコトは放っておけばいい。今の姉君は王都商業ギルドを上手くなだめすかすための補助要員として、この場に呼んだようなものだ。宰相の婚約者、あるいはフォルシアン公爵の義理の娘という立場は、しばし横に置いて貰わねば困る」
「……なるほど」
そんなことを国王陛下は言っているけれど、多分エドヴァルドも分かっているんだと思う。
王都に限らず、ギルド組織そのものが王以外に膝をつかない組織。
宰相であれ、たとえば高等法院の法院長であれ、その発言は組織の中で浸透しづらいのかも知れない。
その点私には「ユングベリ商会の商会長」としての肩書がある。
それがただの伝言役、建前でしかないとしても、緩衝役として私の存在は必要なんだろう。
好悪の情は別にしなければならないと、何とか自分を落ち着かせようとしての――腕組みに目を閉じるという、あの体勢に落ち着いたに違いなかった。
「その……じゃあ、気になる話が出て来たら、ということで……」
この場では、とにかく私もそれ以外に言いようがないと思ったし、エドヴァルド以外のところからも、何の反論も上がらなかった。
「うむ。他の皆も異存はないようだな」
今回に限って言えば、国王陛下が自論を無理に押し通したわけじゃなく、皆がそれぞれに、度合いは違えど納得した。……と、いうように私にも見えた。
その陛下が軽く片手を上げたところで、パタンと扉の閉まる音だけが静かな部屋に響く。
多分、誰かがそのことを「軍神の間」に告げ、エモニエ先代侯爵夫人をこの場に連れてくるように指示しに行ったんだろう。
引き止める声は、誰からも上がらなかった。
.゚*。:゚ .゚*。:゚ .゚*。:゚.゚*。:゚ .゚*。:゚ .゚*。:゚
そしてテーブルを囲む全員が書類に目を通し終えた頃、閣議の間の扉が再びノックされた。
どうやらエモニエ先代侯爵夫人が連れて来られたようだ。
そうなると、さすがにこちらには、彼らが読んだ「取り調べ書面」は回ってこない。そもそもが、国政に携わる人間だけが見るべきであって、いくら気になろうと、私から「見たい」と言ってしまえば、それは婚約者の足元を掬って下さいと言っているようなものだ。
閣議の間で、最終的にどういったやりとりになったのかは、これからの話の中で予測するよりほかなさそうだった。
「ここは謁見の間ではない。咎人にまで礼の強要はせぬ故、頭を上げるが良かろう」
国王陛下が、サレステーデのキリアン第一王子やその後見であるバルキン公爵の態度に腹を立てていたのは、来訪時の彼らはまだ、国を背負う立場、つまりは外交を目的とする身であったからだ。
既に拘束された身、しかもそれでいて深く頭を下げたまま王の声掛けを待つ姿勢を見せたアレンカ・エモニエ先代侯爵夫人は、礼儀作法だけを問うのであれば、よほど彼らよりも秀でた優雅さを持っていた。
燃えるようなオレンジの髪。裾の部分だけ黄色みが濃いのは、しばらく手入れが出来ずにいる現状の所為だろうか。
意志の強そうな目元を見ても、夫人からの怯えは全く感じない。
今、拘束されている王族や高位貴族の誰よりも、威風堂々としている気がした。
ギーレンのエヴェリーナ妃や、アンジェスのブレンダ・オルセン侯爵夫人を思わせる、それは強さだ。
取り調べの担当者が、ちょっとやそっと恫喝したところで、話さないと決めてしまえば墓場まで黙って持っていくようにしか見えなかった。
(これは手強い……)
多分、私以外にも何人か、同じように思った人間はいるんじゃないだろうか。
「王都は何年ぶりだ? 私が即位した際も、既に先代侯爵は領主の座を退いていたから、式には当代の侯爵夫妻とその子どもらしか来てはいなかったはずだ。確か私がまだ第三王子だった頃には、何かしらの式典で来ていたように思うが」
「仰る通りにございます。先代の国王陛下の……何年目かは失念致しましたが、ご即位の記念式典で、亡くなった夫と共に伺い、ご挨拶をさせて頂きました。アレンカ・エモニエにございます。陛下におかれましては、御身のご健勝、心よりお慶び申し上げます」
「大仰な挨拶は不要――と言っても、今のその立場ではそうもいかぬか。受けておこう。さて、これ以上の無駄話は好まぬ故に聞かせて貰うが、軍神の間で『大公殿下以外には話さぬ』と大見得を切ったと言うのは誠か?」
テオドル大公に話したい、と言っている以上、特に大公よりも下の立場の者が何かを尋ねた際には、夫人は口を噤んでしまう可能性が高い。
王か、大公か、宰相か――考えた末に、国王陛下がまず儀礼的に声をかけるのに合わせて、ある程度までを誘導することにした。
そんな気がした。
「正確には『話をするのであれば、今、この場ではなく大公殿下の御前で』と、そう申し上げました」
大仰な挨拶は不要、と王が予め断った手前、頭を下げたり〝カーテシー〟をすることにも限度がある。
その代わりと言うべきか、エモニエ先代侯爵夫人はゆったりと、優雅な目礼を返した。
「――だ、そうだ」
そして、この場を仕切る義務は果たしたと言わんばかりに、国王陛下がテオドル大公に視線を投げた。
話を振られたテオドル大公は、仕方がないとでも言いたげなため息を一度吐き出してから、ピンと背筋を伸ばしてエモニエ先代侯爵夫人に向き直った。
「其方がわざわざ儂を名指しした理由を、まずは聞くとしようか? 言ってはなんだが、其方どころか先代侯爵とすら、数えるほどの交流しかなかったのだがな」
「……まずは私のような咎人と、このように直に向き合って下さる時間をお取りいただいたことに感謝申し上げます」
元王族、しかも近々「元」の文字が一時的にせよ取れるであろう格上の人間に対し、一切怯むことをせず応対するエモニエ先代侯爵夫人は、明らかにサレステーデの王族やアンジェスの高位貴族たちよりも上手だった。
「そして『何故、大公殿下を』――との問いに、畏れ多くも答えさせていただくならば、私を身売り同然にこの国に追いやった実家、フレイヤ伯爵家の寄り親であるベッカリーア公爵家にまでは、私の手は届かないからだと。それが噓偽りのない、私の答えにございますわ」
それは、ある意味予想通りの答えだとも言えた。
「……ほう」
テオドル大公が、そんな彼女に対して何を答えるのか。
私でなくとも、閣議の間にいた全員が、大公殿下の言葉の続きを待った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
いつも読んでいただき、応援&エール有難うございます!
さて、ついにコミカライズ化された本作。たくさんの「いいね」やコメントをいただいた第一話から約ひと月が経ち、いよいよ今日から第二話がupされることになりました!!
https://www.alphapolis.co.jp/manga/official/54000568 (アルファポリス・公式Web漫画ページより)
|ω・`)コソッ.
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また、原作小説の続刊や、1巻の更なる販売にも繋がりますので、引き続き応援どうぞ宜しくお願い致します……! m(_ _)m
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