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3 カミール フランセ
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就寝前に義父の執務室にカミールは呼ばれていた。
話の内容は想像できた。次女のオリーヴが離縁されて戻ってくるのだ。
「カミール・・・オリーヴの面倒をみてやってくれないか」
(やはり)
カミールは舌打ちしたい気分だった。
義父が言う『面倒を見る』=『再婚相手になってくれ』だ。
(あと1年、エマが18歳になり、家督を相続できるまで待って欲しかった。恩ある義父に頼まれても、正直オリーヴは手に余る)
────3年前のあの騒ぎは何だったのか。
隣国のジョシュア王太子は我が国の第一王女の見合いの相手だった。
その歓迎の舞踏会で王太子は次女のオリーヴに惚れこみ一夜の関係を持ち、王家の顔に泥を塗ったのだ。
喜んで嫁いでいったオリーヴだが、侯爵家の信頼回復に義父が苦労したなんて彼女は知らない。
オリーヴはこの国の王家に・・・強いては王妃に睨まれている為、貴族との再婚は難しいと思われた。
「カミール?」
「父上、少し考えさせてください」
「ああ、頼むよ。カミールが頼りだ」
義父は娘たちに弱い。亡き妻に似ているオリーヴを特に溺愛して我儘を許してきた。
(溺愛した結果が今の状態だ。概ねオリーヴの性格が原因ではあるが、出戻って再び侯爵家の名を汚すのは許されない)
カミールは15歳の時に先代によって養子に選ばれ、侯爵家に尽くす様に命令された。彼は先代の弟の息子の次男。つまり下位ではあるが侯爵家の相続権はカミールにもある。
『オリーヴの選ぶ男など信頼に値せず』と先代は早々にカミールをオリーヴの婚約者として侯爵家に送り込んだのだ。
養子になった当初、オリーヴと絆を深めるべくカミールは努力したが報われることは無かった。
結果的にはカミールはオリーヴに裏切られたのだが、隣国の王太子妃となってくれたのは彼女に手を焼いていたカミールにとっては幸運だった。
(今はエマの幸せを第一に考えたい。オリーヴは後回しだ)
最近のエマは不安そうだ。
義妹は婚約者を一途に慕っているが、ユリウスが同じ気持ちなのかは疑問だ。
(侯爵家に婿入りできる幸運を軽んじられては困る)
どうすれば可愛い義妹が幸福になれるのか、カミールは考えを巡らせ続けた。
***
翌日カミールは登城してマリーナ第一王女殿下の執務室に向かった。
彼は義父の手伝いとマリーナ王女の執務補佐を兼ねている。
真面目なカミールは常に一番乗りだが、この日は珍しく王女殿下が待っていた。
「おはようカミール、オリーヴ殿が戻ってくるそうじゃないか」
「おはようございます。義父よりお目付け役を頼まれました」
「どうだ、いっそ私と婚約しないか。王命で整えさせるぞ?」
「ご冗談を」
「ふむ、かなり本気なのだけど?」
「殿下、ふざけてないで仕事を始めてくれ。私は忙しいのだよ」
二人は学園時代からの親友で気安い間柄だ。その親し気な様子にカミール王配候補の噂が流れ続けている。
「実はまた他国の王家から婚姻の要望があるんだ」
「今度は大丈夫なんだろうな? きちんと調べてから候補に挙げて欲しいね」
「まぁ前回はうまく回避できたじゃないか。君の元婚約者のお陰でね」
「頭が痛いことにもうすぐ戻ってくる」
他の同僚がやって来たのでカミールは話を切り上げて仕事を始めた。
(他国の王族か・・・)
才色兼備のマリーナ王女は近年、王太子候補の中で頭角を現してきた。
彼女を王太子にと推薦する貴族は多数いる。
だが、王妃はマリーナ王女を他国に嫁がせ、弟であるサミュエル第一王子殿下を王太子にしたいと思っているのだ。
(マリーナ王女ほどの切れ者を他国に渡してしまうなど愚かな事だ。サミュエル王子は温厚で十分優秀なのだが姉が優秀過ぎた)
2年前のマリーナ王女のお見合いはオリーヴがぶち壊してくれた。
今度こそ成功させたいと王妃は考えているはずだ。
マリーナ王女派と王妃派が対立している中、カミールは王女との婚約など遠慮したい。
カミールにとってマリーナ王女は上司であり、大切な親友なのだ。
話の内容は想像できた。次女のオリーヴが離縁されて戻ってくるのだ。
「カミール・・・オリーヴの面倒をみてやってくれないか」
(やはり)
カミールは舌打ちしたい気分だった。
義父が言う『面倒を見る』=『再婚相手になってくれ』だ。
(あと1年、エマが18歳になり、家督を相続できるまで待って欲しかった。恩ある義父に頼まれても、正直オリーヴは手に余る)
────3年前のあの騒ぎは何だったのか。
隣国のジョシュア王太子は我が国の第一王女の見合いの相手だった。
その歓迎の舞踏会で王太子は次女のオリーヴに惚れこみ一夜の関係を持ち、王家の顔に泥を塗ったのだ。
喜んで嫁いでいったオリーヴだが、侯爵家の信頼回復に義父が苦労したなんて彼女は知らない。
オリーヴはこの国の王家に・・・強いては王妃に睨まれている為、貴族との再婚は難しいと思われた。
「カミール?」
「父上、少し考えさせてください」
「ああ、頼むよ。カミールが頼りだ」
義父は娘たちに弱い。亡き妻に似ているオリーヴを特に溺愛して我儘を許してきた。
(溺愛した結果が今の状態だ。概ねオリーヴの性格が原因ではあるが、出戻って再び侯爵家の名を汚すのは許されない)
カミールは15歳の時に先代によって養子に選ばれ、侯爵家に尽くす様に命令された。彼は先代の弟の息子の次男。つまり下位ではあるが侯爵家の相続権はカミールにもある。
『オリーヴの選ぶ男など信頼に値せず』と先代は早々にカミールをオリーヴの婚約者として侯爵家に送り込んだのだ。
養子になった当初、オリーヴと絆を深めるべくカミールは努力したが報われることは無かった。
結果的にはカミールはオリーヴに裏切られたのだが、隣国の王太子妃となってくれたのは彼女に手を焼いていたカミールにとっては幸運だった。
(今はエマの幸せを第一に考えたい。オリーヴは後回しだ)
最近のエマは不安そうだ。
義妹は婚約者を一途に慕っているが、ユリウスが同じ気持ちなのかは疑問だ。
(侯爵家に婿入りできる幸運を軽んじられては困る)
どうすれば可愛い義妹が幸福になれるのか、カミールは考えを巡らせ続けた。
***
翌日カミールは登城してマリーナ第一王女殿下の執務室に向かった。
彼は義父の手伝いとマリーナ王女の執務補佐を兼ねている。
真面目なカミールは常に一番乗りだが、この日は珍しく王女殿下が待っていた。
「おはようカミール、オリーヴ殿が戻ってくるそうじゃないか」
「おはようございます。義父よりお目付け役を頼まれました」
「どうだ、いっそ私と婚約しないか。王命で整えさせるぞ?」
「ご冗談を」
「ふむ、かなり本気なのだけど?」
「殿下、ふざけてないで仕事を始めてくれ。私は忙しいのだよ」
二人は学園時代からの親友で気安い間柄だ。その親し気な様子にカミール王配候補の噂が流れ続けている。
「実はまた他国の王家から婚姻の要望があるんだ」
「今度は大丈夫なんだろうな? きちんと調べてから候補に挙げて欲しいね」
「まぁ前回はうまく回避できたじゃないか。君の元婚約者のお陰でね」
「頭が痛いことにもうすぐ戻ってくる」
他の同僚がやって来たのでカミールは話を切り上げて仕事を始めた。
(他国の王族か・・・)
才色兼備のマリーナ王女は近年、王太子候補の中で頭角を現してきた。
彼女を王太子にと推薦する貴族は多数いる。
だが、王妃はマリーナ王女を他国に嫁がせ、弟であるサミュエル第一王子殿下を王太子にしたいと思っているのだ。
(マリーナ王女ほどの切れ者を他国に渡してしまうなど愚かな事だ。サミュエル王子は温厚で十分優秀なのだが姉が優秀過ぎた)
2年前のマリーナ王女のお見合いはオリーヴがぶち壊してくれた。
今度こそ成功させたいと王妃は考えているはずだ。
マリーナ王女派と王妃派が対立している中、カミールは王女との婚約など遠慮したい。
カミールにとってマリーナ王女は上司であり、大切な親友なのだ。
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