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「……でも颯は何だか少し大人びたような気がするな」
「そ、そうかな!? 気のせいじゃないかな」
鋭い瞳でじっと見つめられて、僅かに緊張する。
お邪魔している朔の部屋はエアコンが効いていて涼しいはずなのに、頬が熱い。
「良い感じの人はいたりしてな」
「え!? や、そんな人なんて……」
「あやしいなー」
「あは、あはは……」
「……ま、いいけどさ。付き合ったら教えて」
ラグの上に座り、ローテーブルに片肘をついて僕を見る朔は何気ない様子で言った。
「朔もね」
Nさんのことを朔に言うのは、思っていたより照れくさくて無理だった。
◇
「あれ? チョコ」
「あ、Nさん」
八月に入り、実家で昼間にFTOにログインして、はじまりの街を歩いていたら、仲間の人と三人で歩いているNさんと鉢合わせた。
「N、知り合い?」
「ああ。俺の特別」
「え、噂のチョコくん?」
「そ。俺のだから手を出さないよーに」
「ま……まだ、付き合ってません!」
金髪碧眼のお兄さんと薄茶髪茶眼のお兄さんが、揃って笑い声をあげる。
「大丈夫、大丈夫。わかってるから」
「こっちの金髪がレンジで、俺が白坂。俺達もアルファだから、仲良くしてね」
「おい」
白坂さんが僕に手を伸ばしたところで、Nさんが白坂さんの手を払いのけた。
「Nってば怖い」
「お前が悪い」
「困ったお兄さん達だね」
レンジさんが苦笑しながら、二人の肩をぽんぽん叩いた。
「仲良しですね」
「リア友だから」
白坂さんが明るく応えて、Nさんとレンジさんの三人で肩を組む。
「この後もリアルで三人で出掛ける予定なんだ」
「そうなんですね。今日も暑いですから熱中症には気をつけて下さいね」
「ありがとう。チョコくんはこの後は?」
「僕はゆっくりFTOを楽しみます」
僕と話していた白坂さんから肩を外して僕の近くに近寄ったNさんが、ふいに僕の頭に手をのせる。
「知らない人について行くなよ」
「僕は小さい子供じゃありません」
笑って言うとNさんが僕の頭にのせた手をそのまま左右に撫でて、ふっと息を吐いた。
「拐かされないように」
おまじない、と続けたNさんが僕の額に軽く口付けた。
「な、何を」
「余裕なさすぎ」
レンジさんがNさんの後頭部をぱしっと叩いて、僕から引き剥がしてくれる。
「見ろよ、チョコくん凄い動揺してる」
真っ赤になったであろう顔の額を片手でおさえる僕を見たレンジさんの一言に、Nさんが吹き出す。
「ヤバい。可愛い」
「も、もう! 何言ってるんですかっ」
僕は顔を両手で隠して、その場にしゃがみ込みたくなってしまうのを耐えて、後ろを向いた。
「Nは反省しなさい。チョコくん困ってるだろ」
「俺のだって知らしめないと安心出来ないだろ」
「俺達は手を出さないよ、な、白坂」
「あ、ああ。うん……」
「じゃあ、俺達はログアウトするからもう行くね。チョコくん、また会おうね」
「あ、はい。またです」
レンジさんの言葉に向き直ると、三人は手を振ってくれていた。
「チョコくん、バイバイ」
「連絡するからな」
まだ顔が赤い気がするので、三人にお辞儀をしたあと、手を振ってから走り出す。
もう、心臓に悪いよ……!
◇
無心になれる作業は良い。
忍の里で手裏剣を板から抜くというクエストをこなしながら、僕は汗を拭った。
終わったらはじまりの街のカフェでキャラメルラテを飲もうと決めて、手裏剣を掴んだ手に力を込めた。
「ふっっ」
心の中でNさんのバカっと叫んで。
どうしてもこのまま好きになってもいいのか、迷ってしまう。
恋愛に向き合うのはまだ少し躊躇してしまっているのに、相手はもう走り出していて。
もっとゆっくり歩いてきて欲しいのに、そうされたら物足りなくなりそうな自分もいて。
こんなに気持ちが揺さぶられるのは何故なんだろうって思うのに、答えは見つからなくて。
Nさんの気持ちに応えるのはまだ難しいかもしれない。
だけどいっそのこと、リアルで会ってしまった方がいいんだろうか……となやみつつ、クエストを続けた。
◇
「そ、そうかな!? 気のせいじゃないかな」
鋭い瞳でじっと見つめられて、僅かに緊張する。
お邪魔している朔の部屋はエアコンが効いていて涼しいはずなのに、頬が熱い。
「良い感じの人はいたりしてな」
「え!? や、そんな人なんて……」
「あやしいなー」
「あは、あはは……」
「……ま、いいけどさ。付き合ったら教えて」
ラグの上に座り、ローテーブルに片肘をついて僕を見る朔は何気ない様子で言った。
「朔もね」
Nさんのことを朔に言うのは、思っていたより照れくさくて無理だった。
◇
「あれ? チョコ」
「あ、Nさん」
八月に入り、実家で昼間にFTOにログインして、はじまりの街を歩いていたら、仲間の人と三人で歩いているNさんと鉢合わせた。
「N、知り合い?」
「ああ。俺の特別」
「え、噂のチョコくん?」
「そ。俺のだから手を出さないよーに」
「ま……まだ、付き合ってません!」
金髪碧眼のお兄さんと薄茶髪茶眼のお兄さんが、揃って笑い声をあげる。
「大丈夫、大丈夫。わかってるから」
「こっちの金髪がレンジで、俺が白坂。俺達もアルファだから、仲良くしてね」
「おい」
白坂さんが僕に手を伸ばしたところで、Nさんが白坂さんの手を払いのけた。
「Nってば怖い」
「お前が悪い」
「困ったお兄さん達だね」
レンジさんが苦笑しながら、二人の肩をぽんぽん叩いた。
「仲良しですね」
「リア友だから」
白坂さんが明るく応えて、Nさんとレンジさんの三人で肩を組む。
「この後もリアルで三人で出掛ける予定なんだ」
「そうなんですね。今日も暑いですから熱中症には気をつけて下さいね」
「ありがとう。チョコくんはこの後は?」
「僕はゆっくりFTOを楽しみます」
僕と話していた白坂さんから肩を外して僕の近くに近寄ったNさんが、ふいに僕の頭に手をのせる。
「知らない人について行くなよ」
「僕は小さい子供じゃありません」
笑って言うとNさんが僕の頭にのせた手をそのまま左右に撫でて、ふっと息を吐いた。
「拐かされないように」
おまじない、と続けたNさんが僕の額に軽く口付けた。
「な、何を」
「余裕なさすぎ」
レンジさんがNさんの後頭部をぱしっと叩いて、僕から引き剥がしてくれる。
「見ろよ、チョコくん凄い動揺してる」
真っ赤になったであろう顔の額を片手でおさえる僕を見たレンジさんの一言に、Nさんが吹き出す。
「ヤバい。可愛い」
「も、もう! 何言ってるんですかっ」
僕は顔を両手で隠して、その場にしゃがみ込みたくなってしまうのを耐えて、後ろを向いた。
「Nは反省しなさい。チョコくん困ってるだろ」
「俺のだって知らしめないと安心出来ないだろ」
「俺達は手を出さないよ、な、白坂」
「あ、ああ。うん……」
「じゃあ、俺達はログアウトするからもう行くね。チョコくん、また会おうね」
「あ、はい。またです」
レンジさんの言葉に向き直ると、三人は手を振ってくれていた。
「チョコくん、バイバイ」
「連絡するからな」
まだ顔が赤い気がするので、三人にお辞儀をしたあと、手を振ってから走り出す。
もう、心臓に悪いよ……!
◇
無心になれる作業は良い。
忍の里で手裏剣を板から抜くというクエストをこなしながら、僕は汗を拭った。
終わったらはじまりの街のカフェでキャラメルラテを飲もうと決めて、手裏剣を掴んだ手に力を込めた。
「ふっっ」
心の中でNさんのバカっと叫んで。
どうしてもこのまま好きになってもいいのか、迷ってしまう。
恋愛に向き合うのはまだ少し躊躇してしまっているのに、相手はもう走り出していて。
もっとゆっくり歩いてきて欲しいのに、そうされたら物足りなくなりそうな自分もいて。
こんなに気持ちが揺さぶられるのは何故なんだろうって思うのに、答えは見つからなくて。
Nさんの気持ちに応えるのはまだ難しいかもしれない。
だけどいっそのこと、リアルで会ってしまった方がいいんだろうか……となやみつつ、クエストを続けた。
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