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モフモフの誘惑
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「案外立派にやってるのね、ススキ」
妹の家に来てから3日ほど、仕事ぶりを見せてもらった。企業相手に大したことをするもんだ。しっかり実績も残しているみたい。
「あ、ススキちゃん久しぶり。元気かい?」
「お久しぶりです、ケンさん。その後お変わりありませんか?」
「お陰様で大盛況。今度は人手が足りないんだよ。あ、新しい作業員連れてきてくれたんだ。でもこの子はダメだ。うちの連中が鼻の下と工期を伸ばしちまう」
遠回しに私を褒めてくれたこの気さくなおじさんは、この国唯一の建築会社の社長らしい。
「あはははー、そんな事ないですよー……いでででで!いだいよ姉さん!?」
お前が言うな、と思いっきり頬をつねってやった。懲りたのか、しゅんとなって社長と別れた。
「あら、ススキちゃんじゃない。こないだはありがとうね。その子はお友達かい?」
「ススキ様、またご相談があるのですが、最近既存のお客様の離脱率が大きくなってきておりまして……」
こんな調子で一日3~5件ほど、クライアントのところへ行っては相談事だったり、世間話だったりをしている。
決して人数は多くないが、この子は人に感謝され、笑顔にできる事をやっている。誰かに必要とされていた。私はどうだろうか。何かやってこれただろうか……
「そう言えばススキ。何でこんなボロい家に住んでるの?結構お金もらってるはずなのに」
「買い戻したいんだ、僕らの家。1人じゃどうにもならなかったから手放しちゃったけど」
それから悔しそうな表情を破顔させ、元気に続ける。
「でもね!この調子でいけば、あと半年くらいで買い戻せるんだよ!生活費も余分に貯めておきたいし、仕事の区切りもあるから、実際に住めるのは一年くらい先かもだけど」
馬鹿ね。そう一蹴する気にはなれなかった。目標を持って前に進んでいるんだ、この子は。強い意志を持って。でなきゃ13歳の子が家を買おうなんて思わない。
でも、認めたくなかった。何でだろう。ただ認めたくないという感情だけがあった。
あの子に会ってからどうも調子が狂う。あんなに怒ることも、こんな事で悩むことも無かったのに。これまでやってきたことが正しいのか、前に進んでいるのか。
家に帰ると、私は1人考えた。
「やっぱり魔女狩りのこともちゃんと向き合わせなきゃ」
母さんのためにも。あの子自身のためにも。
魔女狩りと戦えるようになるにはどうすればいいか。奴らは食べ物として私たちを襲う。私たちは生き延びるために抵抗する。この構図をうまくどこかで…………
「そうか!あれだ!」
考えがまとまった瞬間、急激に眠くなった。妹はまだお風呂に入っている。上がってくるまで少し休もう。
私はベッドに横になり、白いモフモフに頭を乗せた。
「明日は準備して、明後日には森に…………」
「姉さんお風呂空いたよー……って、ふふっ」
妹が微笑み、毛布をかける。そんな様子が閉じかかった目に映った気がした。
○
翌朝僕が目覚めると、机には手紙が置いてあった。
『今日は用事があるの。~~も仕事がんばってね。 ホオズキ』
姉さんは情報収集でこの国にやって来たんだから当然だよね。
「というか、何で昨日一昨日は僕について回ってたんだろう」
逆にそっちが気になったが、まあいいか。
今日もいつも通り仕事をして、家に帰って、ベッドに入った。
10時は回っていたと思う。
「姉さん、遅いなあ。何してるんだろう」
そう言い終わらないうちに、僕は夢の世界へと誘われた。
○
目が覚めると、そこは異世界でした。
そこは羊毛のような白いモフモフが支配する世界。僕とモフモフたち以外、誰もいない。
白いモフモフがこちらへ転がってきて、僕を歓迎する。
『ようこそモフモフの国へ。ここでは好きなだけ私たちをモフモフできます。さあ、早速如何ですか?』
何やて!?そんな夢見たいな国あるん!?
足元の白いモフモフをモフちゃんと名付けて抱き寄せる。
『はーーーーっ!めっちゃもふもふ!』もう君はずっと一緒だよモフちゃんー!』
「身勝手な約束は破棄されて、モフちゃんとはお別れの時間なのです!」
「ふへっ!?」
もふもふの世界が掻き消され、見知った天井が現れる。
「あっ、モフちゃん」
姉さんはモフちゃんを鷲掴みにして、白けた目でこちらを見る。
「モフちゃんって、これの事?」
「うん。姉さんが助けた人の奥さん、ダリアさんがくれた。お礼だって。」
夢の世界みたいに喋りはしないが、抱くとすぐに眠れる安眠グッズだ。
「へえあの人の。……じゃあ行くよ」
姉さんはモフちゃんを僕へ投げ返すと、ゆっくりと玄関に向かった。
「行くって、どこに!?」
待ってました!と言わんばかりの笑み。恰好良く杖を取り出し、くるりと胸の前で振るう。
「ピクニックよ」
「…………え?」
妹の家に来てから3日ほど、仕事ぶりを見せてもらった。企業相手に大したことをするもんだ。しっかり実績も残しているみたい。
「あ、ススキちゃん久しぶり。元気かい?」
「お久しぶりです、ケンさん。その後お変わりありませんか?」
「お陰様で大盛況。今度は人手が足りないんだよ。あ、新しい作業員連れてきてくれたんだ。でもこの子はダメだ。うちの連中が鼻の下と工期を伸ばしちまう」
遠回しに私を褒めてくれたこの気さくなおじさんは、この国唯一の建築会社の社長らしい。
「あはははー、そんな事ないですよー……いでででで!いだいよ姉さん!?」
お前が言うな、と思いっきり頬をつねってやった。懲りたのか、しゅんとなって社長と別れた。
「あら、ススキちゃんじゃない。こないだはありがとうね。その子はお友達かい?」
「ススキ様、またご相談があるのですが、最近既存のお客様の離脱率が大きくなってきておりまして……」
こんな調子で一日3~5件ほど、クライアントのところへ行っては相談事だったり、世間話だったりをしている。
決して人数は多くないが、この子は人に感謝され、笑顔にできる事をやっている。誰かに必要とされていた。私はどうだろうか。何かやってこれただろうか……
「そう言えばススキ。何でこんなボロい家に住んでるの?結構お金もらってるはずなのに」
「買い戻したいんだ、僕らの家。1人じゃどうにもならなかったから手放しちゃったけど」
それから悔しそうな表情を破顔させ、元気に続ける。
「でもね!この調子でいけば、あと半年くらいで買い戻せるんだよ!生活費も余分に貯めておきたいし、仕事の区切りもあるから、実際に住めるのは一年くらい先かもだけど」
馬鹿ね。そう一蹴する気にはなれなかった。目標を持って前に進んでいるんだ、この子は。強い意志を持って。でなきゃ13歳の子が家を買おうなんて思わない。
でも、認めたくなかった。何でだろう。ただ認めたくないという感情だけがあった。
あの子に会ってからどうも調子が狂う。あんなに怒ることも、こんな事で悩むことも無かったのに。これまでやってきたことが正しいのか、前に進んでいるのか。
家に帰ると、私は1人考えた。
「やっぱり魔女狩りのこともちゃんと向き合わせなきゃ」
母さんのためにも。あの子自身のためにも。
魔女狩りと戦えるようになるにはどうすればいいか。奴らは食べ物として私たちを襲う。私たちは生き延びるために抵抗する。この構図をうまくどこかで…………
「そうか!あれだ!」
考えがまとまった瞬間、急激に眠くなった。妹はまだお風呂に入っている。上がってくるまで少し休もう。
私はベッドに横になり、白いモフモフに頭を乗せた。
「明日は準備して、明後日には森に…………」
「姉さんお風呂空いたよー……って、ふふっ」
妹が微笑み、毛布をかける。そんな様子が閉じかかった目に映った気がした。
○
翌朝僕が目覚めると、机には手紙が置いてあった。
『今日は用事があるの。~~も仕事がんばってね。 ホオズキ』
姉さんは情報収集でこの国にやって来たんだから当然だよね。
「というか、何で昨日一昨日は僕について回ってたんだろう」
逆にそっちが気になったが、まあいいか。
今日もいつも通り仕事をして、家に帰って、ベッドに入った。
10時は回っていたと思う。
「姉さん、遅いなあ。何してるんだろう」
そう言い終わらないうちに、僕は夢の世界へと誘われた。
○
目が覚めると、そこは異世界でした。
そこは羊毛のような白いモフモフが支配する世界。僕とモフモフたち以外、誰もいない。
白いモフモフがこちらへ転がってきて、僕を歓迎する。
『ようこそモフモフの国へ。ここでは好きなだけ私たちをモフモフできます。さあ、早速如何ですか?』
何やて!?そんな夢見たいな国あるん!?
足元の白いモフモフをモフちゃんと名付けて抱き寄せる。
『はーーーーっ!めっちゃもふもふ!』もう君はずっと一緒だよモフちゃんー!』
「身勝手な約束は破棄されて、モフちゃんとはお別れの時間なのです!」
「ふへっ!?」
もふもふの世界が掻き消され、見知った天井が現れる。
「あっ、モフちゃん」
姉さんはモフちゃんを鷲掴みにして、白けた目でこちらを見る。
「モフちゃんって、これの事?」
「うん。姉さんが助けた人の奥さん、ダリアさんがくれた。お礼だって。」
夢の世界みたいに喋りはしないが、抱くとすぐに眠れる安眠グッズだ。
「へえあの人の。……じゃあ行くよ」
姉さんはモフちゃんを僕へ投げ返すと、ゆっくりと玄関に向かった。
「行くって、どこに!?」
待ってました!と言わんばかりの笑み。恰好良く杖を取り出し、くるりと胸の前で振るう。
「ピクニックよ」
「…………え?」
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