ブバルディアのために

橘五月

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サバイバルピクニック

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「うわああぁぁぁぁぁぁああ!助けてえぇぇぇぇぇ!!!」

「ほら、しっかりしなさい。そいつが今日のお昼ご飯なんだから」

「なこと言ったってさあ!逆に僕が昼ごはんにされちゃうよー!!!」

 僕は今、デカくて立派なツノを持つ勇猛な鹿に追いかけられている。
 何でこんな事になったのか、姉さんと楽しくピクニックに行くはずが、いや、最初から楽しいピクニックなどではなかったのだ……

 ーー1時間前ーー

 準備はできているから、とヘルローザの森へと連れてこられた。この森に入るには事前に申請が必要で、さらに2人以上でないと入ることができない。名前からも想像できる通り、危険な場所がいくつかあるからだ。
 しかしながら美しい自然の多いヘルローザの森は、観光地としても人気だ。そんなところでピクニックができるなんて。

「ねえ姉さん、レジャーシートとかお弁当とか、ピクニックっぽいもの一つも無いけど、大丈夫なの?」

「あれ、言ってなかったっけ?水も食料も他の道具も全部現地調達。サバイバルピクニックよ?」

「はっ!?何それ聞いてない!」

「じゃあ今聞いたね。まずお昼ご飯の準備ね」

 そういって姉さんは3本の指を立てた。

「レッドリーフにホットガーリック、それからウマシカのお肉を採ってきて。水の確保と調理係は私がやるから、よろしく!」

 そう捲し立てると、ニット微笑んで手を振る。

「それと、もうここウマシカの縄張りだから。見つかったら血も涙もなく串刺しよ」

 そんな物騒なことを、そんな笑顔で良く言えるなあ。

「ああ、もう!!!」

 諦めて食料確保に向かおうと振り返ると、大きなツノを持つ獣がこちらを睨んでいる。
 さっきの叫び声を威嚇と受け取ったのだろう。毛を逆立たせ、前脚で地面を掻いている。

「姉さん、なんかあの方、怒ってない?」

「じゃ、頑張ってね」にっこり。

 ウマシカが雄叫びをあげ、猛スピードで突進してくる。

「いやあぁぁぁぁぁぁぁ来ないでぇぇぇぇ」

 ○

 そして現在。レッドリーフとホットガーリックは逃げる途中で引きちぎり、左腕に抱えている。

「グォぉぉぉふ!」

 ウマシカとは未だに格闘中。いや、逃走中。

「とってこいって言われても、どうすれば。首をちょん切るのは可哀想だし、脚を切り落とすのも痛いだろうし。」

 というか何でこの子は食べられなきゃいけないの?それ以前に、このままだとホントに僕が食べられちゃ……

「ぐへぇぇぇ……っ!」

 こんなことを考えるうちに、足が止まっていた。そこへウマシカ渾身の蹴りが、僕の鳩尾に炸裂。

 あ、ツノじゃないんだ。

 不意の急所突きは効果抜群だった。後ろへ蹴り飛ばされた僕は、しばらく動くことができなたった。
 そこへ、非情にもウマシカのツノによる追撃がやってくる。10枚くらい鉄板を重ねても防げなそうな、鹿角一閃。すぐそこまで迫っている。これは死ぬ!

「それは洒落にならないって!」

 生命の危機を感じた瞬間、少し体が動いた。僕は迷わずに壁を張った。姉さんと同じ、透明な壁。
 ズドン、と鈍い音がした。危機一髪。ギリギリのところで攻撃を防ぐことができた。ウマシカを見ると、右のツノが折れている。

「ええ!?僕ってこんな丈夫な壁作れるんだ!」

 自分の思わぬ力に驚いていると、ウマシカは再びこちらへと突進をする。
 しかし一本のツノでは当然壁を破ることはできず、左のツノも折れてしまった。
 それでも戦意は衰えず、侵入者を排除するため何度も壁に頭突きをする。その度に頭からは血が飛び散り、小さく呻き声をあげていた。

「ちょっと、もうやめなよ!それ以上やったら君が死んじゃうよ!僕帰るから、もうやめてよ!」

 当然、僕の声が届くはずもなく、ウマシカは頭突きをやめなかった。ツノが折れているとはいえ、壁を消せば僕がやられる。でもこのままでは自傷ダメージでこの子が死ぬ。
 何もできないでウマシカを眺めていると、やがてウマシカはうへぇ、と鳴いて倒れてしまった。

「ウマシカさん。ご、ごめんね。」

 食料として捉えてやろうとは微塵も思っていなかった。自分から傷つけようともしなかった。でも自分を守るために壁を貼り、ウマシカは血を流して倒れている。どんな思いであったにしろ、結果ウマシカを殺してしまった。僕がこの子を殺してしまったのだ。

「うえええぇっ。」

 殺生を自覚した瞬間、胃から酸いものが逆流してきた。罪悪感に押しつぶされ、立っていられなくなった。何ならこのまま圧殺されるべきだとも思った。
 そこへ、横から優しい声がやってきった。

「大変だったね、お疲れ様」

「ううっ……、姉さんっ!僕は。僕は……!」

 涙と吐瀉物で汚れた顔を、姉さんは優しく肩へと抱き寄せた。

「ごめんなさいっ。ごめんなさい……」

「どうして、謝るの?」

「だって、僕がこの子を殺しちゃったんだ……ううっ」

「ん?“この子たち“じゃないの?」

 僕の足元を指差し、姉さんはそういった。
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