愛され転生者

げびゃーG81

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1章:正義が統べる王の国

6話

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 正義の寵愛者は、対等な友人を求めている。



 ◇ ◇ ◇



 ───結果として。

 俺はになるとだけ言い、詳細な契約は後回しにした。
 あまり良くない手であることは、他でもない俺自身が重々承知しているが───しかし、まだ世界の情勢が理解出来ていない以上、特定の勢力に肩入れする判断はできない。
 そのため、ナギは俺を図書館に連れていってくれるという話だったのだが・・・
 今の俺の周りに居るは、色々な道具を持った5人の女性。
 この体の色々な場所を採寸し、リアルタイムで服を作っている。

「なあ、これって・・・」
「心配しなくてもいいよ。君の意向はちゃんと反映されるから」

 言葉足らずな質問に対して、しっかりと的はずれな回答がされるのは、もはやお約束と言うべきか。
 たしかに、俺はまともな服を持っていないし、かといって自分で作ることができるほどの技量が無いのも事実。
 その点では、服を無償で制作してくれるというサービスは非常にありがたいことだ。

「そういえば、まだ君は自分の体を見たことがないんじゃない? 部屋にも鏡は置いてなかったし」
「・・・ああ、まあ。身長がだいたい分かってればいいかなと思ってた」

 動くなと言われていて暇な時間、俺とナギはこうして雑談を続けていた。
 そして、ニアは部屋の入口でマネキンのように突っ立っている。椅子があるから座ればいいのに。

「かなり自分に無頓着だね。転生して体の感覚が変わってたら、真っ先に見た目が気になったりしないの?」
「それどころじゃなかったとしか。少なくとも、今のところは前世で読んだ漫画みたいな展開にはなってない」

 ご都合主義とはよく言うが、レールが敷かれていると伝えられている分、こちらの方が多少は気が楽かもしれない。
 そのレールの中継地点や終着点が知らされていないという、これ以上ないほど致命的な欠点があることに関しては───一旦目を瞑ろう。
 そんなに気苦労を負って何になるという話だし。

「それに関してはまあ、僕としても申し訳ないけど・・・外交の絡みと議会に報告する分も含めて、しばらくの間、君は王都に滞在してなきゃいけないから。そこはよろしくね」
「それで俺が動きやすくなるなら喜んで。べつにデメリットもないし、王都近辺なら自由に活動できるんだろ?」
「監視は付けるけどね。そうしないと議会の老害が煩いから」
「・・・正義の名を関する男が言っちゃいけない気がする文言が聞こえたのは、スルーした方がいいか?」

 そんなことを話しつつ、採寸が終わるのを待つこと数分。
 なんとなく高校入学前のワクワクを思い出す数分間だった気がする。

「ちなみにだけど、どうして昨日、あの人が直々に君に会いに来たんだと思う?」
「なんでって・・・俺を警戒させないように、とかじゃないのか」

 俺の言葉を聞いて、ナギは鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をした。
 少しひねくれているかもしれないとは思っていたが、そんなに驚くほどか。

「随分と斜め方向からの回答が帰ってきたね・・・」

 一体どんな回答を予測していたのか、それは定かではないし、べつに聞く気もない。
 それはそれとして、彼は俺のことをなんだと思っているのか。

「間違ってるのか?」
「いや、間違いではないし、むしろ合っているけど───彼が君と会うという判断をした本命の理由は、僕の自己証明にあるんだ」

 んなことわかるかいと思いつつ、彼が続ける言葉に耳を傾ける。

「君はあの馬車の中での会話で、一切の嘘をつかなかったでしょ? 僕にはそれがわかる自己証明があってね」
「・・・逆に聞くが、あそこで嘘ついて得られるメリットはなんだよ」
「それはもう、みんな初対面なんだから、印象の操作だってし放題じゃないか。とくにフリーで活動したいなら、あそこで僕の好感度を稼いでおくことだってできたはず」

 なるほど。
 あの時、王がトンデモブラックジョークを言った理由が理解できた。
 こうして彼が提案できるほどに、は大量に居たってわけだ。
 それなら警戒するのも納得できるし、ふたりからの好感度が絶妙に高かったのも頷ける。

「後ろめたい事が無いから───もしくは、後ろめたいことを作りたくないから。だから嘘をつく必要はないし、嘘をつく気もない」

 、俺のこの考えは嘘ではない。
 もっとも、ハッタリや嘘が必要な場面であったのなら、俺は喜んでそれを使うが。
 そしてナギは、俺の台詞を噛みしめるように聞いたのち、納得したような表情で口を開いた。

「・・・だから、今もこうして反応していないんだろうね。僕の自己証明は」
「反応?」

 嘘を見抜く自己証明だと言うのなら、何かを代償にして嘘つきを攻撃する・・・というものだったりするのだろうか。

「うん。僕の自己証明は単純明快───僕を含め、周囲の人間が一切の嘘をつけなくなる能力だよ」

 ・・・チート能力だなんだと喚いていたのが恥ずかしくなるな。
 使いようによっては、彼の能力は心理戦において最強の能力となるだろう。
 冷静沈着な相手には効果が薄いかもしれないし、それを裏付けるように、現時点で俺も対処法を思いついているが───嘘をつくことができないという事実は、少しだけでも相手の判断能力を揺らがすことができる。

「・・・外交において最強のカードだろ」

 ぱっと思いついた感想を垂れつつ、俺は考える。
 何故、こんなチートまがいの能力があってなお、彼は嘘をつく輩を警戒するのだろう。

「そうだね。なんてったって、、相手が嘘をついているか否かは把握できるんだから」

 反応していない・・・というのは、そういうことだったのか。

「ならどうして、嘘をつく輩を警戒していたんだ?」
「・・・端的に言うなら、僕が甘いだけなんだけどね。普段は能力を発動せず、嘘を把握できるだけの状態にしてあったんだ」
「会話が不便だからか?」
「それもある。とくに、僕の自己証明を知っている人が話し相手の時は───あからさまに警戒されていたから」

 この世界のシステム───自己証明は、随分とねちっこい対価を要求するらしい。
 しかし同時に、合理的でもあるのが小賢しい部分でもある。
 能力そのものに対価を付属させるのではなく、日常的な、対人において対価が発動するようにするとは。
 それも踏まえれば、アレあの神はかなり良心的な能力設定をしてくれたというわけだな。

「漫画とかゲームでさ、心を読めるキャラクターが孤独になる演出ってあっただろう? オタクならよく知ってる、あの妖怪少女の・・・」
「ああ、もちろん知ってる。こう見えて、俺はゲームに関しては広範囲のオタクだ。遠慮せず話してくれて構わない」
「ありがとう。まあ、だから僕は、君のような新入りの転生者と対面する時は、基本的に自己証明を発動させておかなかったんだ」
「・・・その結果が」
「想像の通りさ」

 まあ、そうだな。
 かける言葉が見つからない。

「みんな欲まみれだ。確かに、異世界に来て楽しさや欲望が優先される気持ちは理解できる」
「・・・・・」
「それでも、希望に縋って頑張っても───片手で数えられるくらいしか居なかったんだ。純粋に、この世界を現実だと認識している転生者が」

 気持ちはわからなくもない。
 俺だって、あそこで現実だと思い知らされていなければ、この身体が確かなであることの実感ができなかったはずだ。
 普段は「もしも~なら」を考える性分ではないが、命がかかっている状況だったことを踏まえれば───振り返らざるをえない。
 あの時の選択や返答次第では、ここに居なかったかもしれないのだから。
 ・・・そして、俺はひとつ気になったことを、端的な言葉にして投げかける。

「・・・・・そんなに話していいのか。俺たちは、まだ初対面に近いんだぞ」

 入学式直後の微妙な沈黙が漂う教室で、無理やり友達作りをしようと後ろの奴に話しかけた俺でさえ、こうした重い話はしなかった。
 会話の話題を選ばない人間というのは、どの界隈にも一定数いるものだ。
 大抵、そういう人間はコミュニケーション能力に難があったり、家庭内で何か問題があったりするものだ。

「・・・そういうところがあるからだよ」

「なんのことだ」

 答えになっていない。
 察しろと言わんばかりの文言だが、俺は彼ではない───と、そんな思考をしていると、頭を抱えたナギが少し笑ってから答えを口にする。

「よく考えてみて。という、八方に敵を作りかねない肩書きを持っている人間が、君みたいに純粋な話し相手と出会う機会があったと思う?」
「・・・賢者みたいなのは居なかったのか」
「言われた文言に混ぜられたお世辞が分かってしまう体で・・・という条件も追加しようか。それに、僕が欲しかったのは対等な関係で、主従や恋人はもちろん、英雄と一般人みたいな関係も望んじゃいない」
「───ああ」

 意図しないものではあるのだろうが、俺に対して色々と説明するうち、彼の言葉が、表情が───少しずつ険しくなってきた。

「・・・・・なるほど」

 随分と重いな。
 そういう人間には寛容であると自覚しているが、彼は今まで出会ってきた人間の中では重さが随一だ。
 下手すれば、彼は前世の友人に似通っているかもしれない。
 あいつは彼女を作ってソレ感情を発散していたが、彼はそれが出来ないようだ。
 確実に求めるものを手に入れるまで、一切の妥協は許さない性格らしい。
 まさに正義らしい性格と言えるものの、相対する側としてはたまったものではない。

「お世辞も、気の利いた言葉のひとつも言えない俺の脳みそが、こうも役に立つ相手が居たとはな」

 淀みかけていた空気を払拭するため、俺は自虐混じりに言葉を吐く。
 こういう時に限って手助けというものは来ないもので、ニアは突っ立ったままこっちを───いや、寝てる。寝てるんだが。

「・・・むしろ、君のその個性は、こっちの世界の需要にぴったり合わさるだろうね」
「なんだその冗談は。それが本当なら、この世界じゃ上辺だけの甘言は通用しないってことになるが」

 俺の吐いた台詞に対し、言葉にはせず、ナギが頷いた。

「───マジ?」
「本当だよ。お世辞や心無い褒め言葉・・・そんなものは、この世界じゃ空気に溶けやすい木っ端の泡沫に過ぎない」

 かなり辛口だ。
 しかしそれほど、この世界における「上辺だけの文言」は薄っぺらいものという実感になる。

「とは言っても、伝わらないわけじゃなくてね。とくに一般人に近い人たちの感性は前世の僕らと大して変わらないから、問題はそれ以外。
 君がこれから頻繁に関わっていくであろう人たちは、それらの文言が基本的に意味をなさない。だから少なくとも、僕は苦労した」

 自己証明なんて目に見えて価値のあるスキルが存在する時点で、実力主義な社会であることは目に見えている。
 そう考えれば、お世辞を初めとした文言が通用しないのは当然なのだろうな。

「・・・・・はあ。少し話しすぎたかな」
「喉乾くよな」
「ほんとにそう・・・お水飲みたいよ」

 先程の話を踏まえれば、こうした何気ない言葉を交わす相手すら居なかったと見える。
 ハーレムの主人公も行き過ぎると大概、心労から大変だな。
 なんて、そんな感想を抱いていると、俺たちの会話がひと段落つくのを待っていたかのように───後ろから声がかかった。

「虚無の寵愛者様、お召し物が出来上がりましたので、確認と着替えを」
「───わかりました。今行きます」

 咄嗟に出てきた敬語で返し、俺は席を立つ。

「じゃ、行ってくる」
「僕は君の相棒を眺めて待ってるよ」
「・・・手ぇ出すなよ」

 俺が怪訝な顔でそう返すものだから、ナギはクスクスと笑いだした。
 先程の雰囲気とは違って、こんなしょうもない事で笑えるなら上々だ。

「・・・・・」

 さて、大まかな指定はしたとはいえ、一体どんな服が出来上がっているのか。
 この短時間でも、そわそわとしてしまうな。



 ◇ ◇ ◇





 思うがままに書こうとすると、どうにも長くなってしまいますね。
 まあしかし、私としても、このような展開にするつもりはなかったのですが・・・なぜかこんなにも、クッソ重い感情を持った人が誕生してしまいました。
 個人的に、正義くん───もといナギは、典型的ななろう系主人公のその後として描くつもりだったのに、なぜかこんなにも酷い状態に。
 どうして最初に人間キャラで好感度がMAXになるのが男なんですか・・・?

 ・・・ちなみに、戦闘パートはもう少し後になりそうです。
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