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第一部
06:猫又さま、動物病院の予約日
しおりを挟むミケが猫又になってから二週間。わたしは、カレンダーに書かれた『ミケ病院(健康診断)』という赤い丸印を見て、深いため息をついた。
「ミケ、大変だよ。今日、病院……」
「にゃ!? 病院は嫌いにゃ! あそこは、わたしの尊厳を傷つける魔窟にゃ!」
猫の姿のまま、ミケは二本のしっぽを逆立てて警戒する。……そう、問題は二本のしっぽだ。
前回病院に行った時はまだしっぽは一本しかなかった。
「どうしよう……。今、二本しっぽで連れて行ったら、先生驚くよね」
「そもそも行かないにゃ!」
「でも、ミケも二十五歳……いや、猫又年齢で言えば一歳? それか〇歳? とにかく、健康診断は大事だよ。それに、ワクチンの時期だし、この前お出かけしちゃったからノミ取りも貰わなきゃ」
「嫌にゃあ! あれ気持ち悪いにゃ!!」
「でも大事なことだよ。ミケは完全室内飼いだけど、ワクチンは毎年打たなきゃ。どうしよう。五種にするべきかな。お外で喧嘩することはないかもしれないけど、万が一白血病とかなってもこわいし」
「わたしは健康だにゃ!」
うんうんとわたしが悩んでいると、パートから帰ってきたお母さんは、事も無げに言う。
「先生もご高齢だし、他にも猫又見たことあるんじゃない?」
「いや、普通はないよね!? ない……よね?」
自分で言って、自信がなくなる。なにせ、医療の発達でご長寿猫も増えてる。ミケ以外にいないとは断言できなかった。
「それならいっそ、キャリーケースは持って、ミケは人間の姿で行くとか?」
「ええ!?」
「そうすれば、先生だけに対応してもらいやすいんじゃないかなって思うけど。さすがに看護師さんも一緒だとすぐ噂が広がっちゃうだろうし」
「ああ……ワクチンとノミ取り貰うぐらいなら看護師さんいなくても大丈夫だもんね。よし、行こう。ミケの好きなおやつ買ってあげるから」
(確かに、先生ご高齢だしな……しっぽぐらいならなんとか誤魔化すしかないか)
結局、わたしは苦肉の策をとることにした。
まず、おやつに釣られたミケには人の姿になってもらい、わたしのお古のダボっとしたパーカーとスウェットパンツを履かせる。頭の耳は、深めのニット帽で隠した。
「苦しいにゃ! 耳が折れるにゃ!」
「我慢して! 問題はしっぽだよ……どうしよう。腰に巻ける?」
二本のふさふさなしっぽは、腰に巻いてもらうことにした。SNSでバスったし、耳もしっぽも出すわけにはいかない。
「にゃあ……バランスとりにくいにゃ」
「そうだよね。……とはいえ、今日はキャリーケースもあるし」
「ねぇ、桜一人だと手一杯だし、お母さんも一緒に行くよ」
「いいよ。お母さん疲れたでしょ」
「じゃあせめておんぶにしない? 桜が小さい時に使ってたおんぶ紐、見つけたから」
「そんなの残してたの!?」
「そりゃ残すでしょ。こうやって着けて……どう、ミケ。苦しくない?」
「抱っこよりは安定してるにゃあ……」
なるほど。確かにこれならミケも安定してるし、キャリーケースも持てる。
財布とミケの健康手帳を持ったことを確認して、気合を入れる。
「いざ、出陣!」
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