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第二部
12:猫又さまのこれから
しおりを挟む「ミケちゃんのこれからの診察なんですが、これからは私が担当させていただきます」
「はい」
岡本先生が、ピンと背筋を立てて続ける。それは、構わないと感じた。神崎先生と同じく、丁寧に診察してくれているのはしっかりと伝わった。だから、わたしは首を傾げた。
だけど、
「ですが、さすがにミケちゃんの年齢だと今までと同じように通っていただくのは無理かと……」
「え!?」
「あ、いえ。診察自体は勿論可能です。ですが、ミケちゃんは今25歳です。超長寿猫なんですよ」
「そうですね……?」
「今はまだ大丈夫です。ですが、これ以上の年齢になると、――」
言いにくそうに淀んだ。神崎先生は、ひとつ頷く。
(もしかして、どこからか取材がくるとか?)
わたしも、猫が何歳まで生きるのか調べたことはある。ミケが10歳を超えたぐらいから、あと何年一緒に居られるんだろうと不安になったからだ。
だから、過去の記録を探すこともした。ミケは25歳。人間で例えるなら116歳。
神崎先生が、岡本先生の言葉を引き継ぐ。
「なかなか、人の口に戸は立てられないんですよ……。特にこの時代です」
――そうだ。花屋敷家の長寿猫の話は近所の人も知っている。今ですら近所の人から広がる可能性もある。猫又になったなんて考えなくても、だ。
「どうしたらいいですか……?」
わたしは、二人を見る。
その言葉に返事をくれたのは岡本先生だった。
「次回以降は二代目ミケちゃんとして来ていただくのが安全かと……」
(それって)
このミケがいなくなったものにするってこと?
「ミケちゃんは猫又になって、若々しくなったと思います。25歳のミケちゃんが、いつまでも健康であるのはあまりに不自然なんです……」
「――わたしを、死んだことにするにゃ……?」
岡本先生の言葉に、ミケが弱々しく呟いた。
わたしも、そう思った。
ミケを死んだことにするの? って。
「申し訳ありません。ですが、ミケちゃんが注目されることを防ぐために必要なのです」
「……そうするのが、一番安全ってことですか……?」
頭では理解できている。きっと今がギリギリの年齢。
「――本当は、前回お伺いした時にお話しするべきことでした」
申し訳ありません、と神崎先生は頭を下げた。
だけど、あの時のわたしがこの話まで受け入れられるとは到底思えない。
ただでさえ、あの時の情報量は多かった。
(どうしよう。どうしたらいいの? ミケを死んだことになんてしたくない。でも、これ以上はやっぱり。――そう、わたしはどこまでも考えが浅かったんだ)
「……さくらちゃん……」
不安そうなミケの声がする。わたしだって嫌だよ。ミケを一度でも死んだことにするなんて。
「今すぐに結論を出そうとしなくても構いません。もし、風邪が悪化しそうな場合は――」
岡本先生が、胸ポケットから名刺を取り出す。
「こちらに、直接ご連絡お願いします」
装飾が最低限の、素っ気ない名刺。わたしは震える手でそれを受け取った。そうだ。わたしたちは、また選択しないとダメなんだ。
滲んだ涙で、電話番号がよく見えなかった。
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