私のお猫さま 25歳を迎えて猫又さまになりました

月見こだま

文字の大きさ
31 / 62
第二部

12:猫又さまのこれから

しおりを挟む


「ミケちゃんのこれからの診察なんですが、これからは私が担当させていただきます」
「はい」

 岡本先生が、ピンと背筋を立てて続ける。それは、構わないと感じた。神崎先生と同じく、丁寧に診察してくれているのはしっかりと伝わった。だから、わたしは首を傾げた。
 だけど、

「ですが、さすがにミケちゃんの年齢だと今までと同じように通っていただくのは無理かと……」
「え!?」
「あ、いえ。診察自体は勿論可能です。ですが、ミケちゃんは今25歳です。超長寿猫なんですよ」
「そうですね……?」
「今はまだ大丈夫です。ですが、これ以上の年齢になると、――」

 言いにくそうに淀んだ。神崎先生は、ひとつ頷く。

(もしかして、どこからか取材がくるとか?)

 わたしも、猫が何歳まで生きるのか調べたことはある。ミケが10歳を超えたぐらいから、あと何年一緒に居られるんだろうと不安になったからだ。
 だから、過去の記録を探すこともした。ミケは25歳。人間で例えるなら116歳。
 神崎先生が、岡本先生の言葉を引き継ぐ。

「なかなか、人の口に戸は立てられないんですよ……。特にこの時代です」

 ――そうだ。花屋敷家の長寿猫の話は近所の人も知っている。今ですら近所の人から広がる可能性もある。猫又になったなんて考えなくても、だ。

「どうしたらいいですか……?」

 わたしは、二人を見る。
 その言葉に返事をくれたのは岡本先生だった。

「次回以降は二代目ミケちゃんとして来ていただくのが安全かと……」

(それって)

 このミケがいなくなったものにするってこと?

「ミケちゃんは猫又になって、若々しくなったと思います。25歳のミケちゃんが、いつまでも健康であるのはあまりに不自然なんです……」
「――わたしを、死んだことにするにゃ……?」

 岡本先生の言葉に、ミケが弱々しく呟いた。
 わたしも、そう思った。
 ミケを死んだことにするの? って。

「申し訳ありません。ですが、ミケちゃんが注目されることを防ぐために必要なのです」
「……そうするのが、一番安全ってことですか……?」

 頭では理解できている。きっと今がギリギリの年齢。

「――本当は、前回お伺いした時にお話しするべきことでした」

 申し訳ありません、と神崎先生は頭を下げた。
 だけど、あの時のわたしがこの話まで受け入れられるとは到底思えない。

 ただでさえ、あの時の情報量は多かった。

(どうしよう。どうしたらいいの? ミケを死んだことになんてしたくない。でも、これ以上はやっぱり。――そう、わたしはどこまでも考えが浅かったんだ)

「……さくらちゃん……」

 不安そうなミケの声がする。わたしだって嫌だよ。ミケを一度でも死んだことにするなんて。

「今すぐに結論を出そうとしなくても構いません。もし、風邪が悪化しそうな場合は――」

 岡本先生が、胸ポケットから名刺を取り出す。

「こちらに、直接ご連絡お願いします」

 装飾が最低限の、素っ気ない名刺。わたしは震える手でそれを受け取った。そうだ。わたしたちは、また選択しないとダメなんだ。
 滲んだ涙で、電話番号がよく見えなかった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

腹に彼の子が宿っている? そうですか、ではお幸せに。

四季
恋愛
「わたくしの腹には彼の子が宿っていますの! 貴女はさっさと消えてくださる?」 突然やって来た金髪ロングヘアの女性は私にそんなことを告げた。

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

旦那様、愛人を作ってもいいですか?

ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。 「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」 これ、旦那様から、初夜での言葉です。 んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと? ’18/10/21…おまけ小話追加

この離婚は契約違反です【一話完結】

鏑木 うりこ
恋愛
突然離婚を言い渡されたディーネは静かに消えるのでした。

婚約者が聖女を選ぶことくらい分かっていたので、先に婚約破棄します。

黒蜜きな粉
恋愛
魔王討伐を終え、王都に凱旋した英雄たち。 その中心には、異世界から来た聖女と、彼女に寄り添う王太子の姿があった。 王太子の婚約者として壇上に立ちながらも、私は自分が選ばれない側だと理解していた。 だから、泣かない。縋らない。 私は自分から婚約破棄を願い出る。 選ばれなかった人生を終わらせるために。 そして、私自身の人生を始めるために。 短いお話です。 ※第19回恋愛小説大賞にエントリーしております。

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

処理中です...