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とりあえず

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美しく心地の良い朝。

だが、シンシアの心の中はまるで嵐。怒りとあきれの雨と風が吹き荒れる。


現段階では情報が足りないため、情報が集まるまではとりあえずレンシア・サンフラワー令嬢のふりをしてレイモンドの「教育」をすることにした。



「教育の段階で何かゲロってくれたら一石二鳥なんだけどね~」


実は素だと口も悪いシンシア。


幼い時から民の暮らしを知るために身分を隠して(ばれないように護衛もちゃんといる)平民たちと交流してきたためであるが、公の場では絶対にボロは出さない。


若くして公爵を継ぐにふさわしいと判断された女傑は公私の顔を完璧に使い分けている。








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「…なぜ貴様がいる」


「なぜ?妻が夫と朝食をとるのは貴族として常識ですわよ?」


「…くっ」



貴族の夫婦にとって朝食と夕食はとても重要な時間だ。

朝はその日のスケジュールを夜はその日の報告をお互いにし、すり合わせ確認する時間なのだ。

国にかかわる行事や災害などが起こったときでも食事だけは必ずとらなければならないため、いざというときでも話し合いが出来る時間としてこの国ではほぼ常識となっている。


レイモンドももちろんそのことは知っており、苦虫をかみつぶしたような顔でシンシアを見る。



「…今日は視察に行ってくる」

「視察に行く前に書類を確認しておくことをおススメしますわ」

「?」


いやいやながらもスケジュールを伝えるレイモンドだったが、シンシアの返答の意味が解らず困惑する。

これはシンシアなりのやさしさであったのだが彼は気づくことなどない。

それどころかこんな女の言うことなど聞くものか!と彼女の発言を無視して出発してしまうことになる。

ここで気が付いていればあんな目に遭うことは無かったかもしれないのに…










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「ほんとだめね…せっかく気が付けるように進言してあげたのに」


レイモンドが出発した後の執務室内にてシンシアがつぶやく。

机にある書類はシンシアの滞在についての物。

すでにサインが入っているが、昨日からの態度から見るにしっかりと中身の確認をしていないのは明白。

だからこそもう一度確認さえすればシンシアがレンシアでないことぐらいは分かるはずだったのだ。



「たとえ仮面夫婦であったとしても仕事だけはちゃんとやるのが貴族なのとレイモンド。なのに妻の忠告を無視するなんてお仕置きポイントに50P追加ね」


謎のポイントを追加したシンシアはにやりと笑う。

そんな彼女の顔を見た従者はこう思った。


盗賊の頭みたいだ…!

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