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男爵令嬢の真実
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人間椅子から解放されたレイモンドは応接室のソファに座らされていた。
自分自身が行ったことの愚かしさを自覚しつつある彼の顔色は悪い。
そんなレイモンドの様子など目に見えていないようにシンシアはテキパキと調査資料をまとめていた。
用意したのはヴィオーラ公爵家に仕える諜報一族の現当主・ジン。
一体どうやったのか一晩の間にさらに情報を集めていたのだ。
「さて、いまからあなたの馬鹿であほらしい勘違いを訂正します」
「馬鹿であほらしい勘違い?」
戦々恐々と言った様子でシンシアを見るレイモンド。
肉食獣を前にした小動物のようなその姿にシンシアはため息をついた。
「(精神面での教育も必要ね…)まずは貴方が付きまとっていたリリア・ソフィオーネ男爵令嬢についてよ」
「リリア嬢のこと…?」
てっきりレンシア関連だと思っていたレイモンドは意外な人物の名前が出たことで目を丸くしていた。
「彼女は元々隣国の男爵令嬢だったんだけど、内戦により散り散りなって孤児になったの。その後は割愛するけど色々あって、この国の孤児院で暮らしていたの」
「孤児院出身なのは知っていましたが…元々貴族だったのか…」
レイモンドは自身が知らなかった…知ろうともしなかった事実に驚いた。
彼はリリアは平民出身の孤児で、見た目の美しさから政略結婚に利用するためにソフィオーネ男爵が引き取ったのだと思い込んでいた。そう物語のように。
だが、レイモンドが知らない真実はここからが本番だ。
「ええ、そうよ。そして孤児院で過ごしていた彼女の元にある日叔父が訪ねてくるの」
「それってまさか…」
「そ、ソフィオーネ男爵はリリア嬢にとっては母親の弟。当時はかなり騒ぎになったそうよ?男爵は姉一家は全滅したと思っていたみたいだから、姪が生きていたことを知った時に何時間も泣いて喜んだんですって!」
レイモンドの顔がさらに悪くなる。
「ソフィオーネ男爵家と姉一家は元々大変仲が良かったそうでね。リリア嬢とソフィオーネ男爵家の嫡男と長女とも実の兄弟のように仲良しなんですって?」
シンシアのさらなる追撃。
「ちなみにリリア嬢は学園に通いながら家族の行方をさがしているんですって!偉いわね!しかもソフィオーネ男爵家も全面バックアップしているんだとか!まさしく愛ね!!」
とどめとばかりに嫌味を込めて言葉を紡ぐシンシア。とても良い笑顔だ。
対してレイモンドはもはや真っ青となった顔に脂汗をかき、目じりに涙が浮かんでいた。
自身がしてしまった無礼とそれを自覚した羞恥心で今にも倒れそうだ。
そんな彼の様子をみたシンシアの目がわずかに柔らかくなるそして、幼子に諭すように告げる。
「…レイ…物語は現実ではないものを愉しむためにあるの、現実ではないのよ(…まあ実話がモデルの話とかもあるけどね)」
「…愉しむためのもの…現実ではない…生きた人間が描いているのなら、事実が反映されているのだと思っていました…そうじゃないんですね…」
レイモンドは本来バカではない。
だが、どのような天才でも知らないことは知らないのだ。
物語は偽物という当たり前のことさえも知る機会が無ければ、理解はできない。
「かわいそうな男爵令嬢がいないなら、意地悪な悪役令嬢も居ない…わかるわね?」
「…はい」
「レンシア嬢はねオレンジの鮮やかな髪の毛のそれはもう美少女でね。性格もとってもいいこなの。今も災害の被害に遭った領民のために自ら畑を耕したりしているんだとか、すごいわね」
公爵であるシンシアが他者の評価を口にするときは慎重にならねばならない。
権力のあるものの言葉は大きな力を持ち、時には他者の人生さえも左右してしまうことがあるからだ。
そんなシンシアがべた褒めするということはレンシアはそれだけの価値がある存在だということに他ならない。
その事実にレイモンドは押し黙ることしかできないでいる。
あの女などと呼んでよい女性ではない、いやそもそもよく知らない女性に対してあの女などと呼んではいけない。今更ながらにそんな当たり前を自覚する。
「今回はレンシア嬢に馬鹿なことを言う前に訂正できたからよかったものの、一歩間違えば侯爵家を切り捨てなければならなかったでしょう」
自身の勘違いが最悪の結果をもたらしていたかもしれない事実にレイモンドの精神力はほぼ0だ。
だが、その程度で許すシンシアではない。
うなだれる彼の前に本が積み上げられる。
「というわけで、二度とこのような愚行を行わないために今からあなたにはドキドキ☆彡24時間耐久読書大会をしてもらいます」
レイモンドの前に積み上げられたのは平均厚さ5cm、50冊の小説。
幼児向けから大人向け、マニア向けなどの様々なジャンルが取り揃えられたシンシアセレクト!
「食事と排泄の時間は用意するから御安心なさい」
「ふえ…」
いつの間にか入ってきていた屈強な護衛騎士に本と共の連行されるレイモンド。
その後ろにはこれ待ていつの間にか来ていた監視兼世話係の従者の姿。
「さて、お茶でも飲みますか」
部屋に残されたシンシアは何事もなかったかのようにティータイムの準備を始めたのだった。
自分自身が行ったことの愚かしさを自覚しつつある彼の顔色は悪い。
そんなレイモンドの様子など目に見えていないようにシンシアはテキパキと調査資料をまとめていた。
用意したのはヴィオーラ公爵家に仕える諜報一族の現当主・ジン。
一体どうやったのか一晩の間にさらに情報を集めていたのだ。
「さて、いまからあなたの馬鹿であほらしい勘違いを訂正します」
「馬鹿であほらしい勘違い?」
戦々恐々と言った様子でシンシアを見るレイモンド。
肉食獣を前にした小動物のようなその姿にシンシアはため息をついた。
「(精神面での教育も必要ね…)まずは貴方が付きまとっていたリリア・ソフィオーネ男爵令嬢についてよ」
「リリア嬢のこと…?」
てっきりレンシア関連だと思っていたレイモンドは意外な人物の名前が出たことで目を丸くしていた。
「彼女は元々隣国の男爵令嬢だったんだけど、内戦により散り散りなって孤児になったの。その後は割愛するけど色々あって、この国の孤児院で暮らしていたの」
「孤児院出身なのは知っていましたが…元々貴族だったのか…」
レイモンドは自身が知らなかった…知ろうともしなかった事実に驚いた。
彼はリリアは平民出身の孤児で、見た目の美しさから政略結婚に利用するためにソフィオーネ男爵が引き取ったのだと思い込んでいた。そう物語のように。
だが、レイモンドが知らない真実はここからが本番だ。
「ええ、そうよ。そして孤児院で過ごしていた彼女の元にある日叔父が訪ねてくるの」
「それってまさか…」
「そ、ソフィオーネ男爵はリリア嬢にとっては母親の弟。当時はかなり騒ぎになったそうよ?男爵は姉一家は全滅したと思っていたみたいだから、姪が生きていたことを知った時に何時間も泣いて喜んだんですって!」
レイモンドの顔がさらに悪くなる。
「ソフィオーネ男爵家と姉一家は元々大変仲が良かったそうでね。リリア嬢とソフィオーネ男爵家の嫡男と長女とも実の兄弟のように仲良しなんですって?」
シンシアのさらなる追撃。
「ちなみにリリア嬢は学園に通いながら家族の行方をさがしているんですって!偉いわね!しかもソフィオーネ男爵家も全面バックアップしているんだとか!まさしく愛ね!!」
とどめとばかりに嫌味を込めて言葉を紡ぐシンシア。とても良い笑顔だ。
対してレイモンドはもはや真っ青となった顔に脂汗をかき、目じりに涙が浮かんでいた。
自身がしてしまった無礼とそれを自覚した羞恥心で今にも倒れそうだ。
そんな彼の様子をみたシンシアの目がわずかに柔らかくなるそして、幼子に諭すように告げる。
「…レイ…物語は現実ではないものを愉しむためにあるの、現実ではないのよ(…まあ実話がモデルの話とかもあるけどね)」
「…愉しむためのもの…現実ではない…生きた人間が描いているのなら、事実が反映されているのだと思っていました…そうじゃないんですね…」
レイモンドは本来バカではない。
だが、どのような天才でも知らないことは知らないのだ。
物語は偽物という当たり前のことさえも知る機会が無ければ、理解はできない。
「かわいそうな男爵令嬢がいないなら、意地悪な悪役令嬢も居ない…わかるわね?」
「…はい」
「レンシア嬢はねオレンジの鮮やかな髪の毛のそれはもう美少女でね。性格もとってもいいこなの。今も災害の被害に遭った領民のために自ら畑を耕したりしているんだとか、すごいわね」
公爵であるシンシアが他者の評価を口にするときは慎重にならねばならない。
権力のあるものの言葉は大きな力を持ち、時には他者の人生さえも左右してしまうことがあるからだ。
そんなシンシアがべた褒めするということはレンシアはそれだけの価値がある存在だということに他ならない。
その事実にレイモンドは押し黙ることしかできないでいる。
あの女などと呼んでよい女性ではない、いやそもそもよく知らない女性に対してあの女などと呼んではいけない。今更ながらにそんな当たり前を自覚する。
「今回はレンシア嬢に馬鹿なことを言う前に訂正できたからよかったものの、一歩間違えば侯爵家を切り捨てなければならなかったでしょう」
自身の勘違いが最悪の結果をもたらしていたかもしれない事実にレイモンドの精神力はほぼ0だ。
だが、その程度で許すシンシアではない。
うなだれる彼の前に本が積み上げられる。
「というわけで、二度とこのような愚行を行わないために今からあなたにはドキドキ☆彡24時間耐久読書大会をしてもらいます」
レイモンドの前に積み上げられたのは平均厚さ5cm、50冊の小説。
幼児向けから大人向け、マニア向けなどの様々なジャンルが取り揃えられたシンシアセレクト!
「食事と排泄の時間は用意するから御安心なさい」
「ふえ…」
いつの間にか入ってきていた屈強な護衛騎士に本と共の連行されるレイモンド。
その後ろにはこれ待ていつの間にか来ていた監視兼世話係の従者の姿。
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