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第五章 囚われの姫と紅の槍

5話 トレーディアスへ

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 朝になったのはいいんだけど、色んな事を考えてしまったおかげで寝不足だ。
この状態でトレーディアスに行くとか大丈夫なのだろうかと、カエデの作ってくれた朝食を皆で座って食べながら思っていると……

「えっと、レースなんか眠そうだけど大丈夫?」
「ちょっと今日の事で色々と考え込んじゃって余り寝れてないけど大丈夫だよ、ほら初めてこの国を出て海外に行くからさ」
「そうなの……?、何か遠足前でワクワクして寝れなくなっちゃった子供みたいでかわいいね」

 隣に座っているダートはそういうとぼくの頭を撫でながら笑顔になる。
本当は昨日の君の発言が気になって全然寝れませんでしたって言いたいけど、そんな事を言うと後が怖いから黙っていた方がいい。

「あ、そういえばレースさん、ヒジリさんなんですが先にトレーディアスの首都に行ってるらしいですよ、何でもやる事があるとかで」
「そうなんだ、ならこっちも朝ご飯食べ終えたら直ぐに行った方が良いよね」
「私もその方が良いと思う、ヒジリさんを待たせちゃうのは良くないと思うかな」

 ぼく達は残りの朝食を急いで食べて片付けると、自室に戻り必要な物を取り出すと意識を集中して空間収納を開いて中にしまって行く。
ダリアを使って空間魔術の練習を毎日していたおかげで、空間収納等の簡単な魔術を使えるようになったけど荷物を手で持たないでいいのは本当に便利だと思う。
ただ……、まだ意識を集中しないと使えないからまだ練習が必要だから実戦で使える程の精度はまだ無い。
こういう時ダリアがいてくれたら、無駄な所とかを教えてくれるんだろうけど……

「まぁ、こればっかりはダリアと合流出来た時に聞けばいいかな」

 そう思いながら一階診療所の物置部屋の前に行くと、既に二人が待っていた。
どうやらぼくが一番最後らしい……

「レース遅いよ?、昨日のうちに用意しておかなかったの?」
「ごめん、今日起きたら準備しようと思ってたから……」
「もう、準備をするのは早めにしないと駄目だよ?、次は気をつけてね?」
「うん、わかったよ」

 そんなやり取りをダートの隣で見ているカエデが何を思ったのか、素敵な物を見たかのような顔でぼく達を交互に見る。

「えっと…、どうしたの?」
「既に夫婦みたいだなぁって感じて羨ましいなぁって思って、二人の関係にほんとに憧れますっ!私も良い人が出来たら参考にしたいですっ!」
「カエデちゃん……、気持ちは嬉しいけど参考にはならないと思うよ?」
「でも、私が参考にしたいって思ったからそれでいいんです……じゃあ行きましょう!」
「そうしようか、そして早くヒジリさんに合流しないとね」

 そうしてぼく達は物置部屋から、栄花騎士団の副団長室へ行くとそこから廊下に出る。
初めて栄花に来たけど、思いの外ぼく達の住んでいる【メセリー】と雰囲気は変わらないせいか、特に違和感を感じないけど、時折すれ違う人達の仲にはカエデと同じ着物を着ている人がいるから、辛うじて外国何だと感じる。
ただ、会う人が皆、彼女の事を『姫ちゃん、姫様、カエデ姫』と呼んでいるせいか、カエデの顔がどんどん赤くなっていく。
多分、普段ならそこまで本人も気にしないのだろうけど、今はぼく達がいるから普段以上に意識してしまっているのだろう。
ダートも気になるようで、何かを言おうとしているけど、口を開いては閉じるを繰り返しているからきっと今何か言ったら追い打ちになるような気がして気を使っているのかもしれない。

「お二人共、さっきまで団員さん達が私の事を姫って呼んでる理由は、以前話したと思いますけど恥ずかしいので出来れば触れないでください……」
「まぁうん……、わかった」
「ありがとうございます、って事で着きました、こちらが冒険者ギルドに通じる転移の魔術がある部屋です」

 カエデはぼく達の返事を聞く前に扉を開けて中に入ると、早く来るように手で促してくる。
促された通りに中に入ると部屋の中には五つの扉がありドアノブの上にはダイヤルが取り付けられている。
雰囲気としては物置部屋の扉に似ているけど、転移の魔導具は似た形が多いのだろうか。

「この扉は、団長と副団長、最高幹部並びに、一時的に使用が許可された人以外は使う事が出来ません」
「一時的な許可って?」
「そうですね、例えばAランク冒険者の昇格試験を担当する幹部級の方々とかですね、最高幹部は栄花の国民しかなれない決まりがある為、国籍を栄花に移しているのですが、その下の幹部級の方々一般的には下級幹部や準幹部と呼ばれる人達は、それぞれの国から能力面が評価されて派遣されて来た人物が多いです、例えば今から行く西の大国トレーディアスと関係ある、北の大国ストラフィリア出身で傭兵部隊の元隊長さんとか、トレーディアスで兵役に就いていた方等がいますね、あっ勿論お二人も許可は出てるので大丈夫ですよ」
「という事は、メセリーからも派遣されていたりするの?」
「勿論です、メセリーからは優秀な治癒術師の先生や学園の元講師さんがいらっしゃいますね」

 そういえば魔術を学ぶ学園からある日、優秀な講師が栄転したという噂を師匠と一緒に暮らしていた時に聞いた事があるような気がする。

「実は、最近父上に教えて貰った話何ですがレースさんもその候補に入っていたらしいですよ?、何でも治癒術の禁忌に至る術を開発出来る程に優秀な治癒術師がいるという事で父上が声を掛けようとしたらしいのですけど、その頃にはメセリーの首都から姿を消していて行方不明になっていたとか」
「そうなんだ……、でも声を掛けられても当時のぼくだったら断ったと思うなぁ」「じゃあ……、今だったらどうですか?診療所の稼ぎよりも良いお給金を約束しますよ?」
「んー、今の生活に満足しているからいいよ、ぼくはダートとあの家で一緒に暮らして生きて行きたいから」
「わ、わぁ……聞きました?ダートさんっ!これってプロポーズですよ!?」

 カエデはダートの事を見てそう言うけど、彼女は嬉しそうな顔をしながら耳まで真っ赤にしてこちらを見ている。

「そ、そういうのはコーちゃん達を連れ帰ってからねっ!、とにかくこんな所でいつまでも話してないで早く行こっ!」
「もっと話をしていたいですが、確かにトレーディアスに向かいましょうか、ではついて来てくださいね」

……カエデは左から2番目のドアのダイヤルを一番に合わせると扉を開けて中へ入って行く。
ぼく達も急いで続くとそこには大きな集会所のような場所だった。
沢山の武器を持った人達に、ランク分けして壁に張り出されているらしい依頼書に、飲食が出来るだろうスペースで朝から大量の食事を食べていたり、お酒を飲んでいる人達の姿が見える。
ここが冒険者ギルドかと思っていると、奥の方で冒険者たちの対応をしている職員の中に銀色の髪をした見覚えのある女性がいるのだった。
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