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第九章 戦いの中で……

16話 深淵への誘い

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 誰かに体を揺すられている気がする。
そんな気がして目を開けてみると……何となく見覚えのある顔が目の前にあって

「あ?起きたん?レース君」
「……君はえっと」
「現実世界では初めまして?マリステラさんの登場だよ」
「マリ……ステラ!?」

 驚いて体を起こそうとすると、マリステラと名乗った特徴的な髪色を持つ修道服の女性が両肩を押さえつけて来る。

「そんな動き方したら隣で寝てる子が起きちゃうよ?ほらゆっくり起きてそこの椅子に座って?」
「……分かった」

 隣を見るとダートが安らかな寝息を立てて眠っている。
その顔は安心しきっていてちょっとやそっとのことでは起きそうにない。
とりあえず指示された通りに起き上がり部屋に備え付けられている椅子にゆっくりと腰を下ろすと……

「ストラフィリアぶりだねレース君」
「……メセリーの時もずっとそばにいたんじゃないの?」
「あれは思念体だよ?あーしの魔力を分けて作った分身みたいなもの……、まぁこうやって会った時に回収して記憶を読み取らせて貰うつもりだったんだけどぉ、消されちゃったみたいだね」
「【魔王】ソフィア・メセリーと話してる時に見つけてくれたからね……、どうして監視なんて事をしてきたの?」
「それは勿論、レース君が私との約束を破らないか心配になっただけだよ?……で?その様子だと話したんでしょ?」

 目を細くして怪しげな笑みを浮かべながらマリステラが口を開くけど、そこに何ていうか困惑していると言うよりは現状を楽しんでいるかのような気がする。

「そりゃあ……ソフィアには隠し事出来ないから話したけど」
「へぇ……、レース君ってそんな人だったんだねぇ、特別にお母さんに合わせてあげたりしてあげたのに酷いなぁ、知らなかったよー」
「……ごめん」
「別に謝って欲しくて来たわけじゃないんだけどぉ……、今回はこれを一緒に見て欲しくってね?その後にお願いを聞いて欲しいなぁって」

 ぼくたちの前に半透明の何かが現れたかと思うと、それが僅かにぼくの顔を反射して映し出す。
そして暫くすると何かが映し出されて行き、そこに現れたのは……

「……ケイスニルとマスカレイド?」
「うんそうだよ?訳あってケイスニル君があーしに協力してくれる事になってね?、マスカレイド君とぉ戦う事になったんだぁ」
「訳合って……?ケイスニルがそんな簡単に力を貸すとは思えないんだけど?」
「ちょっとね?お母さんに命を狙われてるみたいだったから、あーしに協力してくれるなら助けてあげるって言ったら、協力してくれたんだよねぇ……でもね?ケイスニルくんはこの戦いには勝てないから意味無いんだけどね、でもぉルード君だけはちゃんと保護してあげるよ?本人にその気があるならだけどね」
「マリステラ……君はいったいどうしてそんな事を?」

 ……聞いたのが間違えだったのかもしれない。
マリステラの表情が、人が作る事が出来るのか分からない程に変わる。
まるて下弦の三日月のように歪み、青く美しい瞳は怪しげに光り輝く、それはまるで目の前にいるのが超常の存在のようで関わってはいけない者のように感じてしまい、呼吸が詰まりそうだ。

「それは勿論……あーしが楽しみたいからだよ?その為なら何が犠牲になっても構わないもの」
「……じゃあ何であの時助けてくれたの?」
「それは当然、この世界が壊れちゃったらあーしが楽しめないでしょ?少なからず世界を管理して守ってるんだから、娯楽の一つや二つ提供してくれないとやる気なくなっちゃうでしょ?」

 ダメだ、ぼく達とは根本からして物事の考え方が違う。
多分何を話してもまともな会話にはならない、そう感じる程に存在そのものが違うんだと感じる。

「……ケイスニルが死んだらどうするの?」
「え?どうもしないよ?楽しい見世物が見れて満足!終わり!ってだけかなー、あ、でもぉお願いを聞いて貰えたらちょっとだけ話が変わるかも?」
「……さっき言ってたのだよね、お願いってどういうの?」
「レース君は王族として、神をその身に封じる器でもあるでしょ?そこにあーしの分身を入れてくれない?勿論無理にとは言わないよ……?他の王族みたいに直ぐにSランク冒険者にも匹敵するほどの力を上げるし、それに君達に協力してあげる、あっ!勿論【神器開放】もできるよ?その時は【神器開放:マリステラ】って唱えてくれれば表に出て戦ってあげる……どう?私の提案に乗る?」

 つまりぼくに妹のミュラッカと同じ状態になれと言う事だろう。
……それに神器を開放したら、その瞬間に肉体が朽ちて死んでしまうのも既に知っている。
更にはぼくが死んだら、子孫の誰かの身体を器にすれば良いだけという意味では……この化け物に自由を与えてしまうと同じだ。

「あーしは分け合ってこの国から外に出れないからさ、だからお願い聞いてくれる?そうしたらケイスニル君の命を助けてあげるよ?、ほら君は優しいから一度繋がりを持った相手が殺されるところを見るの何て嫌でしょ?」
「……悪いけど断るよ」
「でしょ?だからあーしを受け入れて……え?」
「マリステラにはマリステラの事情があると思うけど……、ぼくにはもう大事な人やこれから産まれて来る家族がいるんだ、だから必要以上に家族を危険に晒すような事は出来ないししたくない、だから悪いんだけどこのまま帰って欲しい」
「あんた本気で言ってんの?ってレース君の事だからどうせ嘘を付けないだろうし、本気なんだろうね、後悔しても知らないよ?あの時あーしの分身を宿しておけば良かったって言っても遅いからね?」

……余程思い通りにならない事が勘に触ったのだろう。
先程とは違い鋭い目つきで睨みつけて来たかと思うと『あーしつまんなぁい!帰るっ!……でもレース君には特別に二人の戦いを最後まで見せてあげるからちゃんと見てよね?、だってこれは君が選んだ選択の結果なんだから責任を取らないと』と再び楽し気に笑いながら姿を消す。
そしてぼくの前には心器を顕現させたマスカレイドと獣化したケイスニルの姿が映し出されるのだった。
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