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キッチンで並んでお料理
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「ンフウー!!フンフン!!」
口の中にコンデンスミルクのかかったイチゴが入っている間は興奮の坩堝。
喉を通って腹の中に入っても余韻を楽しむコレット。
「美味いか?」
「美味しいです。それに甘いっ。図書院で食べたイチゴより甘いですっ」
「そうだろ?給料日には1粒5万ミャゥのイチゴも買ってやるからな」
「ひっ一粒で5万ミャゥ?!そんなの食べられませんよ!国王陛下でもないのに」
「良いんだよ。俺の女王様なんだから」
「えっ?」と小さく零れた言葉は、コレットの口を閉じらせる事を忘れたようだ。
「さて、夕食は何が食いたい?と言っても作れるものは少ないがな」
「ジークハルト様が作るんですか?!男性なのに?」
「コレットが来る前までは一人暮らしだったんだから飯くらいは作ってたよ」
「掃除はしていなかったのに…」
「それは不問にしてくれ。反省している」
コレットを椅子に座らせたまま、ジークハルトは湯あみの時に体を洗うような手ぬぐいを広げ頭にバサっと被る。後ろでシュッシュと結んで「団長巻き」である。
「パスタだな。ニンニクは食えるか?」
「ニンニク?葉っぱはよく食べましたが…根っこに出来る方はお薬ですよね?」
「薬…でもないんだがな。匂いがあるから少な目にしとくか」
手際よくニンニクの皮を取るとポイっと捨てる。
「わぁぁ!何をしてるんです?!」
「何って料理だ」
「違いますよ。ニンニクも玉ねぎも外の皮は栄養があるんですよ?」
「皮に?」
「元々外側にあっただけで実でもあるんです。臼で挽いてスープに入れるんです」
ジークハルトの料理は大雑把ゆえに、生ごみが多く出る。
しかし、隣でコレットが丁寧に薄皮を向いて、細かく刻み刻み刻んでパラパラにしたものを湯に放り込んでいく。「うん。味が出てる」と小皿に入れた湯を飲んだコレット。
ジークハルトも少し飲んでみた。
「薄っす…味付いてるのか?これ?」
「付いてますよ。沢山入れたのでかなり濃く出ています」
ジークハルトには白湯との違いが若干ある程度にしか感じなかった。
「胡椒でも入れて見るか」
「胡椒?」
「あぁ、朝目玉焼きにかけてた黒い粒のやつだ」
「あの不思議な味!また食べられるんですか?!」
「胡椒そのものを食べるやつはいないだろ。調味料なんだから」
少しだけ胡椒を加えたものを小皿にとって味見をする。
クワっと目が開いたコレットは、パチパチと瞬きをする。
「美味いだろ?」
こくこくと首を縦に振り、コレットは胡椒の入った瓶を手に取って眺めた。
「魔法の粉ですね…」
「いや、粗びき胡椒な」
キッチンに並んで仲良く料理をする2人。
洗濯場でも使った水道栓を蛇口に取り付ければ水も出る。
鍵をひねり、水を出したり止めたりするだけで目を白黒させるコレットを隣に見てジークハルトはまた幸せな気持ちが増していった。
「美味しかったです。こんなにお腹いっぱい食べられる日がくるなんて」
「もっと食って太らないとな」
「え…もしかして私、食べられちゃうんですか?」
コレットとジークハルトは真逆の想像をしてしまった。
ジークハルトは夜の♡
対してコレットは、ニワトリや兎を飼って食料にする家は普通にあったのでニワトリと同列に考えている。
ポワポワと夜の寝台を想像してしまったジークハルト。
立っている体の一部分だけが飛び出してしまった。
隠そうと体を捩じったジークハルト。
「マズイっ」 ガンっ!! 「ワッフゥグゥ…」
テーブルの角にしたたかに打ち付けてしまった。
側面から加速の点いた打撃。攻めるも受けるも自分である事が恨めしい。
誰も責める事が出来ないではないか!!
誤魔化すようにつま先だけで屈伸をしてみたり、腰のあたりを拳で叩いてみたり、不自然にならない程度に深い深呼吸をしてみる。
脂汗を流しながらコレットをちらっと見れば気付かれていない。
セーフである。
「食べないでください。家事は頑張りますから」
「わ、わかってる。食ったりしないよ。安心しろ」
「良かったぁ…私、痩せぎすだから美味しくないと思うんです」
「そんな女性を太ってる痩せてるで俺は区別しないぞ」
「だけど、どうしてもとなれば‥‥仕方ありません。痛くしないでくださいね」
「だが最初は痛いと聞くんだが…」
「その時は出来れば一思いに…変に躊躇われるともっと痛そうなので…」
「いいのか?初めてなのに…いやでも前の相手とは…」
「元夫はそういう人ではなかったので」
ジークハルトは、コレットが結婚していたのに身綺麗なのだと思うと体がカっと熱くなってしまった。耳まで赤くなったジークハルト。
――前のご主人は男色だったんだろうか――
男として仮に政略結婚であっても、目の前に若くて可愛い妻がいればパクリと頂いてしまうだろう?と思考を巡らせる。男性の欲望が滾る辺境に3年もいればそれは否が応でも解ると言うものだ。
結婚前なら判らぬでもない。なのに結婚後も手を出さないとなれば女性は相手と出来ないバリなのだろうとジークハルトは思ったのだ。
今でも、結婚をしたのに夫に見向きもされない不遇な夫人はいる。
第三騎士団となれば、市井の者の犯罪を捕縛する事もあるのだ。男女の痴情の縺れは古今東西を問わない。他に愛人がいるというのもあるが、愛人が男だったとさめざめと泣く夫人もいたのだ。
「せめて相手が女だったら良かったのに…」
騎士団ではその夫人を慰める事が出来るものがいなかった。
非常にデリケートな問題である。
「辛かったな。まぁ、人には色々あるからな」
「いえ、夫よりも夫の家族のほうが面倒でしたから」
「夫の家族にも狙われてたのか?!それは…きついな」
ジークハルトは何時だったか捕縛した色ボケ舅を思い出した。若くてピチピチとした息子の嫁に手を出そうとして返り討ちにあったのだ。何時の時代もそういうジジイはいるんだなとコレットを憐れんだ。
「何にもしてくれないし、朝から夜中まで大変だったんです」
「そんな長時間っ?!よくそれで無事だったな」
噛み合ないようで通じ合う会話。
しかしこの後、ジークハルトは人生最大の試練に襲われるのだ。
口の中にコンデンスミルクのかかったイチゴが入っている間は興奮の坩堝。
喉を通って腹の中に入っても余韻を楽しむコレット。
「美味いか?」
「美味しいです。それに甘いっ。図書院で食べたイチゴより甘いですっ」
「そうだろ?給料日には1粒5万ミャゥのイチゴも買ってやるからな」
「ひっ一粒で5万ミャゥ?!そんなの食べられませんよ!国王陛下でもないのに」
「良いんだよ。俺の女王様なんだから」
「えっ?」と小さく零れた言葉は、コレットの口を閉じらせる事を忘れたようだ。
「さて、夕食は何が食いたい?と言っても作れるものは少ないがな」
「ジークハルト様が作るんですか?!男性なのに?」
「コレットが来る前までは一人暮らしだったんだから飯くらいは作ってたよ」
「掃除はしていなかったのに…」
「それは不問にしてくれ。反省している」
コレットを椅子に座らせたまま、ジークハルトは湯あみの時に体を洗うような手ぬぐいを広げ頭にバサっと被る。後ろでシュッシュと結んで「団長巻き」である。
「パスタだな。ニンニクは食えるか?」
「ニンニク?葉っぱはよく食べましたが…根っこに出来る方はお薬ですよね?」
「薬…でもないんだがな。匂いがあるから少な目にしとくか」
手際よくニンニクの皮を取るとポイっと捨てる。
「わぁぁ!何をしてるんです?!」
「何って料理だ」
「違いますよ。ニンニクも玉ねぎも外の皮は栄養があるんですよ?」
「皮に?」
「元々外側にあっただけで実でもあるんです。臼で挽いてスープに入れるんです」
ジークハルトの料理は大雑把ゆえに、生ごみが多く出る。
しかし、隣でコレットが丁寧に薄皮を向いて、細かく刻み刻み刻んでパラパラにしたものを湯に放り込んでいく。「うん。味が出てる」と小皿に入れた湯を飲んだコレット。
ジークハルトも少し飲んでみた。
「薄っす…味付いてるのか?これ?」
「付いてますよ。沢山入れたのでかなり濃く出ています」
ジークハルトには白湯との違いが若干ある程度にしか感じなかった。
「胡椒でも入れて見るか」
「胡椒?」
「あぁ、朝目玉焼きにかけてた黒い粒のやつだ」
「あの不思議な味!また食べられるんですか?!」
「胡椒そのものを食べるやつはいないだろ。調味料なんだから」
少しだけ胡椒を加えたものを小皿にとって味見をする。
クワっと目が開いたコレットは、パチパチと瞬きをする。
「美味いだろ?」
こくこくと首を縦に振り、コレットは胡椒の入った瓶を手に取って眺めた。
「魔法の粉ですね…」
「いや、粗びき胡椒な」
キッチンに並んで仲良く料理をする2人。
洗濯場でも使った水道栓を蛇口に取り付ければ水も出る。
鍵をひねり、水を出したり止めたりするだけで目を白黒させるコレットを隣に見てジークハルトはまた幸せな気持ちが増していった。
「美味しかったです。こんなにお腹いっぱい食べられる日がくるなんて」
「もっと食って太らないとな」
「え…もしかして私、食べられちゃうんですか?」
コレットとジークハルトは真逆の想像をしてしまった。
ジークハルトは夜の♡
対してコレットは、ニワトリや兎を飼って食料にする家は普通にあったのでニワトリと同列に考えている。
ポワポワと夜の寝台を想像してしまったジークハルト。
立っている体の一部分だけが飛び出してしまった。
隠そうと体を捩じったジークハルト。
「マズイっ」 ガンっ!! 「ワッフゥグゥ…」
テーブルの角にしたたかに打ち付けてしまった。
側面から加速の点いた打撃。攻めるも受けるも自分である事が恨めしい。
誰も責める事が出来ないではないか!!
誤魔化すようにつま先だけで屈伸をしてみたり、腰のあたりを拳で叩いてみたり、不自然にならない程度に深い深呼吸をしてみる。
脂汗を流しながらコレットをちらっと見れば気付かれていない。
セーフである。
「食べないでください。家事は頑張りますから」
「わ、わかってる。食ったりしないよ。安心しろ」
「良かったぁ…私、痩せぎすだから美味しくないと思うんです」
「そんな女性を太ってる痩せてるで俺は区別しないぞ」
「だけど、どうしてもとなれば‥‥仕方ありません。痛くしないでくださいね」
「だが最初は痛いと聞くんだが…」
「その時は出来れば一思いに…変に躊躇われるともっと痛そうなので…」
「いいのか?初めてなのに…いやでも前の相手とは…」
「元夫はそういう人ではなかったので」
ジークハルトは、コレットが結婚していたのに身綺麗なのだと思うと体がカっと熱くなってしまった。耳まで赤くなったジークハルト。
――前のご主人は男色だったんだろうか――
男として仮に政略結婚であっても、目の前に若くて可愛い妻がいればパクリと頂いてしまうだろう?と思考を巡らせる。男性の欲望が滾る辺境に3年もいればそれは否が応でも解ると言うものだ。
結婚前なら判らぬでもない。なのに結婚後も手を出さないとなれば女性は相手と出来ないバリなのだろうとジークハルトは思ったのだ。
今でも、結婚をしたのに夫に見向きもされない不遇な夫人はいる。
第三騎士団となれば、市井の者の犯罪を捕縛する事もあるのだ。男女の痴情の縺れは古今東西を問わない。他に愛人がいるというのもあるが、愛人が男だったとさめざめと泣く夫人もいたのだ。
「せめて相手が女だったら良かったのに…」
騎士団ではその夫人を慰める事が出来るものがいなかった。
非常にデリケートな問題である。
「辛かったな。まぁ、人には色々あるからな」
「いえ、夫よりも夫の家族のほうが面倒でしたから」
「夫の家族にも狙われてたのか?!それは…きついな」
ジークハルトは何時だったか捕縛した色ボケ舅を思い出した。若くてピチピチとした息子の嫁に手を出そうとして返り討ちにあったのだ。何時の時代もそういうジジイはいるんだなとコレットを憐れんだ。
「何にもしてくれないし、朝から夜中まで大変だったんです」
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