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VOL:4 小鹿育成ゲーム開始
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サーシャに声を掛けた夜会の10日前、リヒトは3週間ほど付き合った恋人と別れた。
「また、捨てたの?ホント、酷い男。ふふっ」
噛みタバコしかなかった自国に最近流行り出した紙タバコの白い煙を口を窄めて吐き出しながらセニーゼン公爵家の次女ビアンカは本を読みながらリヒトには視線を向けずに言い放った。
本に弾かれた白い煙は横に伸びていく。
「酷い?まさか。ベッドの上では泣いて喜んでいたよ。ただ見た目だけだったし中身がない女は面白くない。飽きが来るのも早いだけさ」
「酷い男などとんでもない」とリヒトはやれやれ。手のひらを上に軽く手をあげて首を傾げた。
そこにフラキ侯爵家のフランクが口を挟む。
「あの子と別れたのか。いい尻してたのに勿体ない」
「声かけてみろよ。ほいほいノってくると思うが」
「マジか‥‥でもやめとく。お前と兄弟になるなんて目覚めが悪くなりそうだ」
「それは俺も同じさ。はぁ~面白いことないかなぁ。殿下の護衛は精神的に疲れる」
リヒトとフランクの会話にビアンカが「それだったら」と読んでいたページを開いたまま2人に向かって突き出した。
「へぇ。ビアンカが恋愛小説?アテクシ、王子様と恋に落ちましたのぉ~って。ガハハ」
「バカ言わないで。そこまで花畑じゃないわよ。だいたい公爵家ってだけでも堅っ苦しいのに王家?冗談じゃないわ。王子様なんてこっちから願い下げよ。そうじゃなくて。恋愛ゲームしてみない?」
<< 恋愛ゲーム? >>
リヒトとフランクの声が重なった。
「この本、今、市井でかなり売れてるのよ。演目にもなってるから市民権は得てる話なの」
「へぇ~平民が王太子と愛を育む?ないない。ないわー」
ビアンカの本を手に取ったフランクは本の帯にサッと目を通して「信じる方がどうかしてる」とまで言った。
「それが信じてる平民多いのよ。こっちがビックリするくらいにね。そうね…子爵、男爵あたりの女なら信じてるかも。それこそ恋愛小説みたいに美丈夫で金を持ってて、身分も上の男に愛を囁かれたらヒロイン気取りで演じてくれると思うわよ?」
「本気にさせて捨てるって事か」
「本気にさせなきゃ面白くないでしょう?低位貴族の女なら仕事もしてるでしょう?僕と仕事、どっちが大事なんだ!って仕事を捨てるって選択するまで恋に溺れさせるの。で、仕事捨てたら男にも捨てられるってのはどう?あぁでもただ恋愛させるだけじゃ面白くないわね。孤立無援、四面楚歌に追い込んで精神を鍛えてあげるってのはどうかしら」
「精神を鍛えるって…えげつないな。それに仕事を捨てさせたら食っていけなくなるんじゃないか?なぁリヒト?」
「そうだなぁ。でも低位貴族の子なら庶民感覚で新鮮そうだな。世間は甘くないってのも教えてやる事も出来るだろうし面白そうだな。仕事も直ぐに見つかるんじゃないか?街角に立つって選択肢もあるしさ」
「うっわぁ~リヒト怖ぇぇ~」
「フランク。リヒトの言う通りよ。恋は盲目っていうじゃない。それが危険だって教えてあげるのよ。それにある意味「本気の恋」も出来るし、助けがいない状況に追い込むんだからメンタルも鍛えられるわ。あら?慈善活動になっちゃうかしら?ふふっ」
「じゃぁリヒト頑張れよ。俺は無理。なんか情が移りそうだし…無理だわ」
「俺?」
「リヒトしかないでしょう?フランクは侯爵家だし、今日は来てないけどアベルもエルサも侯爵家だもの。子爵、男爵の子からすれば現実味がないわ。よりリアルな絶望じゃないと面白くないわ」
「小説鵜呑みにして婚約騒ぎになったらどうすんだよ」
「そこが駆け引きよ。そうね、結婚を前提に程度なら使用人に伝えて貰っても良いんじゃない?その後に婚約があると思わせれば良いだけだもの。婚約までの楽しい時間って事よ。わたくしたちは選ばれた人間、高位貴族なのよ?婚約なんて言ったら親の承諾やらが必要でしょう?引けなくなった時に困るじゃない。そのワードを言わせないのもテクってものじゃない?」
「ビアンカの方がよっぽど酷いな。まぁいいや。じゃ10日くらい後に低位貴族の連中がメインの夜会があるからモテなさそうな女の子でも釣り上げて来るとするか」
「いいこと?わたくしは裏で令嬢達に色々吹き込むからリヒトは善人面して、追い込まれていく小鹿をカバー。小鹿を恋愛に溺れさせて仕事を辞めるかどうかの選択を迫る。そこでゲーム終了よ」
「仕事を辞めると言ったらどうするんだ?」
「おんぶに抱っこはごめんだ。寄生虫のような女はお断りだと別れればいいわ」
「仕事を辞めなかったらどうなる?」
「僕より仕事なんだねって別れて終わり。どっちにしてもリヒトはフリーだし、仕事を辞めるかどうかの決定権は小鹿にあるんだもの。わたくしたちがどうこうする訳じゃないし問題ないわ」
「じゃぁ、リヒトより仕事を選ぶか、選ばないか。そういう事で良いんだな?」
「そうよ。そして別れを告げた時の絶望の深さがわたくし達を愉しませるオマケってことよ」
そしてその場にいないハゼーク侯爵家のアベルとエルサ以外の3人はベットを始めた。
フランクは「辞めない」に賭け、ビアンカは「辞める」に賭けた。
その場にいないアベルとエルサは先に到着したほうが好きな方を選び、後になった方は逆に賭ける。これはこの5人のルールのようなもの。賭けに勝てば掛けた金が倍になって返って来る。
対象を「カモ」と呼ばないのは単純に聞こえが悪いから。
当事者となるリヒトは2人が出した同額を双方に賭ける。片方だけならリヒトの心次第にそうなるように動いてしまう事から両方に賭けて、どっちの結果になってもリヒトだけは損をしない。
こうして彼らの暇つぶしと趣味の悪いゲームが始まったのだった。
「また、捨てたの?ホント、酷い男。ふふっ」
噛みタバコしかなかった自国に最近流行り出した紙タバコの白い煙を口を窄めて吐き出しながらセニーゼン公爵家の次女ビアンカは本を読みながらリヒトには視線を向けずに言い放った。
本に弾かれた白い煙は横に伸びていく。
「酷い?まさか。ベッドの上では泣いて喜んでいたよ。ただ見た目だけだったし中身がない女は面白くない。飽きが来るのも早いだけさ」
「酷い男などとんでもない」とリヒトはやれやれ。手のひらを上に軽く手をあげて首を傾げた。
そこにフラキ侯爵家のフランクが口を挟む。
「あの子と別れたのか。いい尻してたのに勿体ない」
「声かけてみろよ。ほいほいノってくると思うが」
「マジか‥‥でもやめとく。お前と兄弟になるなんて目覚めが悪くなりそうだ」
「それは俺も同じさ。はぁ~面白いことないかなぁ。殿下の護衛は精神的に疲れる」
リヒトとフランクの会話にビアンカが「それだったら」と読んでいたページを開いたまま2人に向かって突き出した。
「へぇ。ビアンカが恋愛小説?アテクシ、王子様と恋に落ちましたのぉ~って。ガハハ」
「バカ言わないで。そこまで花畑じゃないわよ。だいたい公爵家ってだけでも堅っ苦しいのに王家?冗談じゃないわ。王子様なんてこっちから願い下げよ。そうじゃなくて。恋愛ゲームしてみない?」
<< 恋愛ゲーム? >>
リヒトとフランクの声が重なった。
「この本、今、市井でかなり売れてるのよ。演目にもなってるから市民権は得てる話なの」
「へぇ~平民が王太子と愛を育む?ないない。ないわー」
ビアンカの本を手に取ったフランクは本の帯にサッと目を通して「信じる方がどうかしてる」とまで言った。
「それが信じてる平民多いのよ。こっちがビックリするくらいにね。そうね…子爵、男爵あたりの女なら信じてるかも。それこそ恋愛小説みたいに美丈夫で金を持ってて、身分も上の男に愛を囁かれたらヒロイン気取りで演じてくれると思うわよ?」
「本気にさせて捨てるって事か」
「本気にさせなきゃ面白くないでしょう?低位貴族の女なら仕事もしてるでしょう?僕と仕事、どっちが大事なんだ!って仕事を捨てるって選択するまで恋に溺れさせるの。で、仕事捨てたら男にも捨てられるってのはどう?あぁでもただ恋愛させるだけじゃ面白くないわね。孤立無援、四面楚歌に追い込んで精神を鍛えてあげるってのはどうかしら」
「精神を鍛えるって…えげつないな。それに仕事を捨てさせたら食っていけなくなるんじゃないか?なぁリヒト?」
「そうだなぁ。でも低位貴族の子なら庶民感覚で新鮮そうだな。世間は甘くないってのも教えてやる事も出来るだろうし面白そうだな。仕事も直ぐに見つかるんじゃないか?街角に立つって選択肢もあるしさ」
「うっわぁ~リヒト怖ぇぇ~」
「フランク。リヒトの言う通りよ。恋は盲目っていうじゃない。それが危険だって教えてあげるのよ。それにある意味「本気の恋」も出来るし、助けがいない状況に追い込むんだからメンタルも鍛えられるわ。あら?慈善活動になっちゃうかしら?ふふっ」
「じゃぁリヒト頑張れよ。俺は無理。なんか情が移りそうだし…無理だわ」
「俺?」
「リヒトしかないでしょう?フランクは侯爵家だし、今日は来てないけどアベルもエルサも侯爵家だもの。子爵、男爵の子からすれば現実味がないわ。よりリアルな絶望じゃないと面白くないわ」
「小説鵜呑みにして婚約騒ぎになったらどうすんだよ」
「そこが駆け引きよ。そうね、結婚を前提に程度なら使用人に伝えて貰っても良いんじゃない?その後に婚約があると思わせれば良いだけだもの。婚約までの楽しい時間って事よ。わたくしたちは選ばれた人間、高位貴族なのよ?婚約なんて言ったら親の承諾やらが必要でしょう?引けなくなった時に困るじゃない。そのワードを言わせないのもテクってものじゃない?」
「ビアンカの方がよっぽど酷いな。まぁいいや。じゃ10日くらい後に低位貴族の連中がメインの夜会があるからモテなさそうな女の子でも釣り上げて来るとするか」
「いいこと?わたくしは裏で令嬢達に色々吹き込むからリヒトは善人面して、追い込まれていく小鹿をカバー。小鹿を恋愛に溺れさせて仕事を辞めるかどうかの選択を迫る。そこでゲーム終了よ」
「仕事を辞めると言ったらどうするんだ?」
「おんぶに抱っこはごめんだ。寄生虫のような女はお断りだと別れればいいわ」
「仕事を辞めなかったらどうなる?」
「僕より仕事なんだねって別れて終わり。どっちにしてもリヒトはフリーだし、仕事を辞めるかどうかの決定権は小鹿にあるんだもの。わたくしたちがどうこうする訳じゃないし問題ないわ」
「じゃぁ、リヒトより仕事を選ぶか、選ばないか。そういう事で良いんだな?」
「そうよ。そして別れを告げた時の絶望の深さがわたくし達を愉しませるオマケってことよ」
そしてその場にいないハゼーク侯爵家のアベルとエルサ以外の3人はベットを始めた。
フランクは「辞めない」に賭け、ビアンカは「辞める」に賭けた。
その場にいないアベルとエルサは先に到着したほうが好きな方を選び、後になった方は逆に賭ける。これはこの5人のルールのようなもの。賭けに勝てば掛けた金が倍になって返って来る。
対象を「カモ」と呼ばないのは単純に聞こえが悪いから。
当事者となるリヒトは2人が出した同額を双方に賭ける。片方だけならリヒトの心次第にそうなるように動いてしまう事から両方に賭けて、どっちの結果になってもリヒトだけは損をしない。
こうして彼らの暇つぶしと趣味の悪いゲームが始まったのだった。
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