あなたに本当の事が言えなくて

cyaru

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VOL:15  メアリとサーシャ

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「大丈夫?サーシャ・・・今夜は泊まろうか?それともウチに来る?荷物はもう片付いてるし来ても大丈夫だよ?相談も聞いてないし。今夜は果実水だけど夜通し飲もう?」

酒を飲んで良いのは20歳から。まだ18歳のサーシャとメアリは飲酒禁止。
果実水だというのがなんだかおかしくて、サーシャは泣き笑いになってしまった。

「だい・・・じょぶ。えへっ・・・ひっく・・・うん…大丈夫」
「ダメ!まだ大丈夫じゃない!何年付き合ってると思ってんの!」

サーシャが落ち着くまで辻馬車に乗る事も出来ず、メアリは公園の片隅にあるベンチにサーシャと並んで腰かけた。

「だいたいさ、賭けってなによ!バカにすんじゃないわ。その上・・・あんな思わせぶりな態度取っておきながら浮気だなんて!いい?サーシャ!これはね、ラッキーなの。おじさんやおばさん、ファルコさんに会わせる前で良かったのよ。話が進んでいたらきっと慰謝料だのなんだのと爵位を盾に言ってきたはず!あ~もう!腹立つわぁ!!」

「もう・・・メアリが怒るから私が怒れないわ」

「いいのよ。サーシャがね、あんなドクズの為に怒る!泣く!笑うなんて勿体ない!無視よ。無視!忘れちゃえと言っても無理かもだけど、少なくとも考える必要は微塵もないわ」

「うん…丁度いい機会かもしれない。相談をしようと思ったんだけどしなくて良くなっちゃった」

「え?ドユコト?」


サーシャはメアリに市場長から打診された副王都への経理主任として赴任する話がきたことを話した。隠した所で今更だ。正直に迷っていたのはリヒトとの結婚を見据えた付き合いがあったからで、こうなってしまえばリヒトの事を考える必要もない。「迷いなく副王都に行く」そう伝えた。

「いいじゃない。おばさんの事もあるから年に一度は帰省しなきゃいけないかもだけど、副王都でパーッと楽しんでしまえばいいのよ。私が引っ越しするところはその途中だし、4日も馬車に揺られたら雨が降ったって行き来できる。ウチに遊びにも来られるじゃない」

「そうね。2週間くらいの休みがあれば遊びに行けるわ」

「そうじゃないでしょ。私も旦那は遠征で1カ月とか留守にする事もあるし、私が遊びに行けばいいんだもの。サーシャだけがいつも移動しなくていいんだってば。サーシャが仕事に行ってる時に部屋くらい掃除しとくわよ」


公園のベンチに並んで座りどれくらい話をしただろうか。
家のある方面への辻馬車の時刻になり、2人は立ち上がった。

乗合場までの途中、メアリはずっと前に「リヒトには注意しろ」と告げなかった事をサーシャに詫びた。


「いいのよ。そんな事。綺麗な薔薇には棘があるっていうじゃない。俳優さんへの憧れみたいな気持ちで浮足立ってた私の反省点だわ。気にしないで。それよりも持つべきは親友だって今すご~く実感してるの」

「やっとこのメアリ様の魅力が判ったと見えるわね。あははっ」

じゃれ合って仲良く辻馬車でも隣同士に腰掛けた2人。
サーシャはメアリが出立する日、今日じっくりと味わえなかったカヌレをお持ち帰りして手渡そう。そう決めた。

そしてもう一つ。

――今度から自分の事は自分で決めるわ。メアリには結果を報告しなきゃ――

思えば知り合った頃からメアリには助けられてばかり。
メアリは思った事をズバズバと言うし、行動力もある。
サーシャはどちらかと言えば他人に合わせてしまいがちで、魚の選別をするにも棘があったりする魚を意図的に回されたり、12、13歳の頃は先輩に仕事を押し付けられて手柄だけ横取りをされていた。

そんなサーシャに手を貸してくれたのもメアリ。

だけど、メアリもまたサーシャには助けられていた。
裁縫が苦手で、いつもエプロンの解れを刺繍などで誤魔化してくれたのはサーシャだし、経理の仕事も要領よく終わらせるような手順を考えたのもサーシャ。

それが無ければ恋人と満足に会う時間も作れなかった。

夫となる恋人は騎士で、騎士は最愛の人から贈られた刺繍入りのハンカチがステイタス。
ウーパールーパーを刺繍したくて何度も失敗した。何枚も白いハンカチが買えるほどお金もなく、針を通し過ぎて穴だらけになったハンカチをサーシャは丁寧に直して「針を刺すのはメアリの役目」と1針1針「ここに通して」「次はここを交差させて」と声だけのアドバイスでサーシャは最後まで付き合ってくれた。

17歳も年上の恋人と結婚できるのはサーシャのおかげ。


いつものように先にメアリが辻馬車を降りた。

「サーシャ。またね!」
「うん。メアリ。またね!」

メアリの降りた停車場からサーシャの降りる停車場は4つ先。
振り返ればメアリはまだ立ってサーシャの乗った馬車を見送っていた。



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