あなたに本当の事が言えなくて

cyaru

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VOL:16  ラウロの贈り物

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サーシャが辻馬車を降りて家に向かって歩いていると何処かからかサーシャを呼ぶ声がする。どこから聞こえているのだろうかと附近ふきんを見回すものの声はすれど姿は見えず。

「おーい。ここだ!」

頭の上から声が降ってきた気がして手を額にかざして上を見ればエトナ男爵家の斜向かいはすむかい。コッポ準男爵家の屋根の上からラウロが手を振っていた。

「今帰りか?」

その言葉に大きく手を使って頭の上で輪を作ってラウロに知らせる。

「そこで待ってろ!」

軒先に引っかけた梯子をスルスルと途中まで降りてラウロは「せいっ!」掛け声をかけて飛び降りた。反動で梯子は横向きに滑って倒れ、物凄い音がする。

なのにラウロはパンパンと手をはたきながら「これで雨漏りの心配はない」とサーシャに声を掛けてきたのだが、倒れた梯子があたって壁に穴が開いたようでラウロの父親が「何やってんだ!」と叫ぶ声もおまけでついて来た。

「逆に倒れれば穴は開かなかったのにな~。利き足で踏ん張ったのが不味かったな」

まるで他人事のようにサーシャに向かってラウロはヘラっと笑った。


「知りませんよ?おじさん。凄く怒ってるわ」
「良いんだよ。たまには大声出すのも大事って言うだろ?」
「そんなの聞いた事ないわ」
「さっき聞いただろ?ラウロ語録で」
「・・・・・」


辺境警備に就く兵士には決まりごとがあり、100日従軍すれば3か月。200日従軍すれば7か月。1年従軍をすると翌年は従軍する事が出来ない。

基本的に休みはなく、数日敵兵の襲撃を警戒し寝られない事もある。給料は良いのだがメンタルをやられてしまうので休養期間を設けねばならなくなっている。

結果的に働けない期間があるので均等にすれば中級文官の所得ほどしか稼げない。それでも志願する者が多いのは王都に人が多くても仕事がないからである。

例年100日ほど従軍して3、4カ月帰省しまた100日従軍を繰り返していたラウロだったが今回は1年従軍をしたので現在は自宅警備員をボランティアで行なっている。


「それはそうとサーシャ、飯、食ったか?」
「あのね、ラウロさん。見て判らない?今帰ってる途中なの。まだに決まってるでしょ」
「じゃ、飯に付き合え。腹減って仕方ねぇんだ」
「私、お腹空いてないからいい」
「流行りのダイエットって奴か?お前、骨と皮じゃねぇか。それ以上痩せてどうすんだ」
「これで骨と皮ですって!?お生憎様!余分なお肉だらけですっ!」
「余分な肉か…よし!肉を食いに行こうぜ」
「話、聞いてる?!お腹空いてないの!」
「心配すんな。俺、肉は別腹なんだ」


話が通じないラウロは「肉!肉~」とサーシャの肩に手を回して夕市が開かれている平民街の大通りに連行していった。


「肉じゃなかったの?」

ラウロが連れて行ったのは雑貨店。大柄でいかにも武骨な兵士であるラウロにはおよそ似つかわしくないファンシーな雑貨店。

「何でも好きなの買ってやるから選べ。女の子はこういうの好きなんだろ?」
「嫌いではないけど…どうして?誕生日でもないわ。買ってもらう理由がないわよ」
「理由なんて幾らでも後付け出来るだろ?ほら、これなんかどうだ?」

節くれたラウロの指が抓みあげると壊れそうな髪留め。
ラウロは「もうちょっと明るい色が良いかな~」鼻歌のように言葉を発してサーシャの髪に髪留めをあてる。

「どうしてここに?ご飯だとか肉だとか言ってたのに。もう訳わからないわ」
「サーシャは副王都に行くんだろう?毎日同じのじゃなくて色々とあったら楽しいだろ?餞別だ」
「どうしてラウロさんがそのこと知ってるの?」
「ファルコが言ってた。ついでに副王都まで護衛してやってくれと頼まれてる」
「そう・・・兄さんから聞いたの」
「どうした?元気ないな。彼氏が反対してんのか?」


斜向かいはすむかいに住むラウロもリヒトがサーシャを近くまで送っている場を何度か見た事がある。直ぐにあの劇場の時の男だと気が付いたが、男と女の仲など物差しで計れるものでもなくサーシャが選んだのなら外野であるラウロが物申す事などあるはずもない。

盗み聞きするつもりもなかったが、リヒトがサーシャの両親に挨拶をしたいと告げていた言葉も聞いてしまった。はにかんだサーシャに「1人の兄」として祝福するつもりだった。

サーシャが副王都に行くとファルコから話を聞いて、てっきりその男もサーシャと副王都に行くものだとばかり思っていた。結婚も見据えているのだからラウロとして何か贈ろうかと思ったのだが、ラウロ自身も妻になる女性に値の張るものを家族でもない男が贈ったとなれば良い気はしない。

なので、副王都に主任として就任する祝いで、雑貨店なら宝石商とは違い気にもならないかと考えた結果だったのだが、「彼氏が反対してんのか」の言葉にサーシャの顔が曇ったのをラウロは見逃さなかった。


「彼氏なんかいないわ」
「だけど…家まで送って――」
「いないって言ってるでしょ!ラウロさんのばかっ!」


キッとラウロを睨んだサーシャは雑貨店から出ていってしまった。
他の客や店員の目がラウロに突き刺さる。

――あれ?俺、やっちゃった?――

考えているより追いかけねば!とラウルは手にしていた髪留めとポケットから無造作に取り出した札を店員に握らせて「後で取りに来るから包んでおいて」と言い残しサーシャを追いかけた。
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