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VOL:22 リヒトは諦めない!
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リヒトはサーシャの一言で賭けがバレた事を知った。
フラフラと立ち上がると、賢くその場から動く事もなかった愛馬の手綱を握ったまでは覚えているが、どうやって屋敷まで戻ったのか覚えていない。
足の裏が痛いので歩いて戻ったのだろうと思ったが、その足の裏がどうして痛むのかと考えると、リヒトの目から涙が溢れて頬を伝い、顎からポタポタと床にシミを作った。
翌日連絡もせずに騎士団に出仕もしなかった。
部屋の中で椅子に座るでもなく、寝台に寝転ぶでもなく、真ん中に座り込んで寝たのかも覚えていない。
頭の中では「もう賭けに付き合う気はないの」とたった一言だけサーシャの声がグルグルと回って耳を塞いでもその声が聞こえてくる。
「うあぁぁぁぁ!!」
リヒトの叫び声に食事のトレーを持った執事が扉が開けた。
「坊ちゃま、何か召し上がらないと・・・朝食も手付かずではありませんか」
「朝食?」
リヒトはハッと窓を見た。
――もしかして、全部夢だったのか?――
ここ2週間は何の変哲もない毎日だった。
ビアンカもいないし、迎えに行ってもサーシャはちっとも出てこない。
リヒトにとって何の刺激も無い毎日だったのだ。
だからリヒトは頭の中でグルグルと回るサーシャの言葉が「気のせい」なんじゃないかと思った。
――そうだよ。サーシャが賭けの事を知っているはずがない――
リヒトの心の中だけがラウロと共に歩くサーシャに出会う前に戻っていた。
「なんだぁ。夢見てたのか。嫌な夢だな」
「夢・・・坊ちゃま寝る時は寝台で御座います」
「そうだ、そうだ。そうだった。あはは」
「旦那様と奥様がお待ちですので早く食べてください。ミルクは入れ直して参りますので」
「何故父上と母上が?朝食を食べたら出仕だろう?」
「何を仰ってるんです。おとといお戻りになってから部屋に閉じこもった切り。昨日はお休みをされたでしょうに」
執事の声に、ふくらみのあるポケットが目に入る。
震える手でポケットに手を入れるとそこには小さな箱があった。
そっと抜き取って箱をあけるとサーシャに渡そうと買った指輪が目に映った。
「あはっ・・・あはは‥‥あぁっ…あぅっ」
リヒトは天井を見上げて、サーシャの言葉が夢ではない事を自覚し声をあげて泣いた。
放心状態となったリヒトは泣き腫らした顔のまま執事に抱えられて両親と共に馬車に乗せられた。ガタガタと揺れる振動は「あぁ馬車に乗ってるんだ」と判るのだが、何処に向かっているのかは判らない。
窓の景色を見るのも面倒で、目を開けたまま馬車の壁の一点を茫然と見つめた。
ガタンと馬車が止まり、両親はさっさと降りて先に歩いて行ってしまう。
執事だけがリヒトに「歩けますか?」と声を掛け、リヒトは「あぁ」小さく返事をした。
場所はセニーゼン公爵家。本宅に来たのは何年ぶりだろう。公爵家の使用人は公爵家で働くと挨拶もしないんだろうか。すれ違う使用人は一旦立ち止まる事もなくすれ違っていく。リヒトはそんな事を思いながら執事と共に廊下を歩いた。
部屋に入ると、何故か両親はソファに腰かけているのにビアンカ、アベル、エルサが立たされていた。執事は「こちらへ」とエルサの隣にリヒトを立たせた。
アベルだけは真っ直ぐに両親たちを見ているがビアンカは俯いているし、エルサは不貞腐れていた。
――どうしてフランクがいないんだろう――
リヒトの小さな疑問は直ぐに解消された。
フランクは足首の骨も折れている事が判り、医療院に入院していると言う。
「では、始めましょうか」
セニーゼン公爵の言葉がリヒトの耳に聞こえると両親たちが一斉に姿勢を直す。
そのわずかな動きの音をかき消すようにビアンカが叫んだ。
「お父様ッ!わたくしは何もしていないわ!あとの4人のした事まで一緒にしないで!!」
ビアンカの声にエルサの顔がハッとした。直ぐにアベルの顔を見るが横顔だけがエルサの瞳に映り、その途端エルサは両親たちから隠れるようにリヒトの背に回った。
リヒトの後ろからエルサもビアンカに負けじと叫ぶ。
「わたくしは逆らえなかっただけ!ビアンカがやったの!アベルもリヒトもフランクもわたくしを散々に弄んで逃げられなかっただけなの!!悪くない!わたくしは悪くないわ!」
しかしビアンカとエルサが甲高いキンキンした声で叫ぶのに両親たちは誰一人こちらの方を見ない。リヒトは背に縋り浮くエルサをそのまま連れるように横に1歩寄り、アベルに近寄った。
アベルは直立不動でピクリとも動かない。
「アベルがチクったのか?」
「・・・・」
「答えろよ。アベル、お前がサーシャにチクったのか?」
「‥‥ない」
アベルは小さく口を動かして言葉を発したが、エルサの叫び声でリヒトには聞き取れなかった。
「では、これで異論はない?よろしいですな?」
「同意します」
「当家も異議なし」
「右に同じく」
両親たちが何を話し合ったのか。リヒト達には判らない。アベルの顔を見ても表情は変わらずアベルは覚悟を決めているように見えた。
フラフラと立ち上がると、賢くその場から動く事もなかった愛馬の手綱を握ったまでは覚えているが、どうやって屋敷まで戻ったのか覚えていない。
足の裏が痛いので歩いて戻ったのだろうと思ったが、その足の裏がどうして痛むのかと考えると、リヒトの目から涙が溢れて頬を伝い、顎からポタポタと床にシミを作った。
翌日連絡もせずに騎士団に出仕もしなかった。
部屋の中で椅子に座るでもなく、寝台に寝転ぶでもなく、真ん中に座り込んで寝たのかも覚えていない。
頭の中では「もう賭けに付き合う気はないの」とたった一言だけサーシャの声がグルグルと回って耳を塞いでもその声が聞こえてくる。
「うあぁぁぁぁ!!」
リヒトの叫び声に食事のトレーを持った執事が扉が開けた。
「坊ちゃま、何か召し上がらないと・・・朝食も手付かずではありませんか」
「朝食?」
リヒトはハッと窓を見た。
――もしかして、全部夢だったのか?――
ここ2週間は何の変哲もない毎日だった。
ビアンカもいないし、迎えに行ってもサーシャはちっとも出てこない。
リヒトにとって何の刺激も無い毎日だったのだ。
だからリヒトは頭の中でグルグルと回るサーシャの言葉が「気のせい」なんじゃないかと思った。
――そうだよ。サーシャが賭けの事を知っているはずがない――
リヒトの心の中だけがラウロと共に歩くサーシャに出会う前に戻っていた。
「なんだぁ。夢見てたのか。嫌な夢だな」
「夢・・・坊ちゃま寝る時は寝台で御座います」
「そうだ、そうだ。そうだった。あはは」
「旦那様と奥様がお待ちですので早く食べてください。ミルクは入れ直して参りますので」
「何故父上と母上が?朝食を食べたら出仕だろう?」
「何を仰ってるんです。おとといお戻りになってから部屋に閉じこもった切り。昨日はお休みをされたでしょうに」
執事の声に、ふくらみのあるポケットが目に入る。
震える手でポケットに手を入れるとそこには小さな箱があった。
そっと抜き取って箱をあけるとサーシャに渡そうと買った指輪が目に映った。
「あはっ・・・あはは‥‥あぁっ…あぅっ」
リヒトは天井を見上げて、サーシャの言葉が夢ではない事を自覚し声をあげて泣いた。
放心状態となったリヒトは泣き腫らした顔のまま執事に抱えられて両親と共に馬車に乗せられた。ガタガタと揺れる振動は「あぁ馬車に乗ってるんだ」と判るのだが、何処に向かっているのかは判らない。
窓の景色を見るのも面倒で、目を開けたまま馬車の壁の一点を茫然と見つめた。
ガタンと馬車が止まり、両親はさっさと降りて先に歩いて行ってしまう。
執事だけがリヒトに「歩けますか?」と声を掛け、リヒトは「あぁ」小さく返事をした。
場所はセニーゼン公爵家。本宅に来たのは何年ぶりだろう。公爵家の使用人は公爵家で働くと挨拶もしないんだろうか。すれ違う使用人は一旦立ち止まる事もなくすれ違っていく。リヒトはそんな事を思いながら執事と共に廊下を歩いた。
部屋に入ると、何故か両親はソファに腰かけているのにビアンカ、アベル、エルサが立たされていた。執事は「こちらへ」とエルサの隣にリヒトを立たせた。
アベルだけは真っ直ぐに両親たちを見ているがビアンカは俯いているし、エルサは不貞腐れていた。
――どうしてフランクがいないんだろう――
リヒトの小さな疑問は直ぐに解消された。
フランクは足首の骨も折れている事が判り、医療院に入院していると言う。
「では、始めましょうか」
セニーゼン公爵の言葉がリヒトの耳に聞こえると両親たちが一斉に姿勢を直す。
そのわずかな動きの音をかき消すようにビアンカが叫んだ。
「お父様ッ!わたくしは何もしていないわ!あとの4人のした事まで一緒にしないで!!」
ビアンカの声にエルサの顔がハッとした。直ぐにアベルの顔を見るが横顔だけがエルサの瞳に映り、その途端エルサは両親たちから隠れるようにリヒトの背に回った。
リヒトの後ろからエルサもビアンカに負けじと叫ぶ。
「わたくしは逆らえなかっただけ!ビアンカがやったの!アベルもリヒトもフランクもわたくしを散々に弄んで逃げられなかっただけなの!!悪くない!わたくしは悪くないわ!」
しかしビアンカとエルサが甲高いキンキンした声で叫ぶのに両親たちは誰一人こちらの方を見ない。リヒトは背に縋り浮くエルサをそのまま連れるように横に1歩寄り、アベルに近寄った。
アベルは直立不動でピクリとも動かない。
「アベルがチクったのか?」
「・・・・」
「答えろよ。アベル、お前がサーシャにチクったのか?」
「‥‥ない」
アベルは小さく口を動かして言葉を発したが、エルサの叫び声でリヒトには聞き取れなかった。
「では、これで異論はない?よろしいですな?」
「同意します」
「当家も異議なし」
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