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VOL:23 リヒトは考えた
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両親たちの中からセニーゼン公爵だけが立ち上がると4人の前に来て紙に書かれた文字を読み上げた。
「お前たちがした事は不敬罪に当たる。が、エトナ男爵家は訴えないと言ってくれた。慰謝料もいらない。寛大すぎる有難い言葉を頂いている。が、言葉に甘え何もしないと言う事は出来ない」
「お、お父様?わたくし・・・不敬罪って…どうして?」
ビアンカが声を落とし、父のセニーゼン公爵に問うがセニーゼン公爵は応えなかった。代わりにアベルがまるで朗読をするようにビアンカだけではなくリヒトとエルサにも聞こえるように答えを返した。
「ビアンカが言った。リヒトが金を払うならチケットを買う前に声を掛けろ。女が買うなら買った後に声を掛けろ。侯爵子息だった自分が近衛騎士だったリヒトに招集という言葉を掛けろ。ビアンカの案に全員が賛成し、それを実行した。近衛隊の招集は王族が襲われた事を意味する。自分たちは快楽の為に虚偽とは言え王族の身に危害がおよんだと公の場で口にしたんだ。クーデターを企んだと言われても仕方がない。救いだったのはエトナ男爵令嬢がその場で騒ぎ立てなかった事だ」
「そんな・・・たったそれだけで?誰にも迷惑かけてないじゃない・・・そ、それに訴えないと言ってるなら御咎めなしでしょう?ひっ秘密にすれば?そうよ!誰にも知られな――」
「バカかお前は!‥‥あぁすまないバカだったな」
セニーゼン公爵は秘密にすればいいと言うビアンカを一喝した。
「慰謝料はお前達の私財全てを売り払い用意する。当然足りない分もあるが、お前達5人はとても仲がいいと聞いた。ハゼーク侯爵家が東の領で就労する場も用意してくれた。浮き小島のようになった渓谷の真ん中に柱と屋根だけの休憩場もある。獣のように盛るお前達でも洞穴よりはマシだろう。安心しろお前たちが渡った後は吊り橋も落としてやる。命尽きるまで5人で仲良くすればいい」
「そんなところ!!深さが200mはある渓谷に四方を囲まれたあの場所でしょう?!生きていくなんて無理!お父様!わたくしは公爵令嬢から侯爵令嬢になってもちゃんとしてたでしょう?!」
リヒトを突き飛ばすように前に出たエルサはセニーゼン公爵も押しのけてハゼーク侯爵に訴えた。
「エルサ、ちゃんとした子は異母兄とまぐわろうなんてしないと考えるがね」
「だから!あれはアベルが!!アベルも言ってよ!わたくし行きたくない!」
エルサはアベルの腕を掴むがアベルはその手を払った。
「今更ゴチャゴチャ五月蠅いんだよ」
1人だけ落ち着き払ったアベルにリヒトは両親たちにではなくアベルに向かって声を掛けた。
「お前が・・・こうしたのか?!お前がサーシャに・・・」
アベルはフッと笑うとリヒトに告げる。
「賭けを教えたのはお嬢さん達さ。カフェなんて場で大声で、しかも隣に誰がいるかも判らないのに話す内容じゃない。おかげでこの通りのあり様。全てが上手くいってたのに…」
この場で初めてアベルの表情が歪んだ。
保身の為だけに叫び打づけるビアンカとエルサは遂には口枷を嵌められ、出立の日まで監視されることになった。
リヒトはその場では大人しく従った。
ハゼーク侯爵家の東の領に行く気はないが、ここで暴れればビアンカたちのように監視付きで拘束される。
監視が付くのは当然だろうが、従順な姿勢を見せる事で人には隙が出来る事を知っていたからである。
リヒトはまだ諦めていなかった。
★~★
「全く・・・手が掛からないと思っていたが」
続いて出る言葉は「残念だ」だろうか。それとも「出来が悪い」だろうか。
リヒトはどうでもいいと両親の前で俯いたまま策を練った。
ハゼーク侯爵家の東の領に行けばおそらく死んでも出て来れないだろう。
渓谷に飛び込めば若干位置は移動するだろうが出られない事に変わりはない。
かつては王家が政治犯を収容する監獄として利用されていた事は騎士であるリヒトも知っている。難攻不落で脱出も出来ないが外から逃亡を助ける事も出来ない。
つり橋を架けるにも事故が多く自分たちが渡らされるつり橋はもう100年ほど前のもの。
5人の重みで朽ちた綱が切れても・・・いや切れた方が面倒がないと思われているのだろう。
――誰が行くものか!――
王都にいる間は厳しい監視下に置かれるだろうから逃げる事はまず無理だろう。
コナー伯爵家にはもう使われなくなった地下牢がある。
暴れるならそこで生涯を終わらされる可能性だって無きにしも非ず。
チャンスは王都を出て移動する最中に限られてくる。
休憩地で止まる度に逃げる素振りをしていては相手も警戒をする。
リヒトは最初から近衛騎士だったわけでは無く、短期間だが第3騎士団と第1騎士団に籍があった事もある。代3騎士団は王都周辺に逃げた野盗などを護送した事もある。
考えているリヒトはふとある場所が思い浮かんだ。
第3騎士団から第1騎士団に移って少し経った頃、護送中の野盗が脱走した事を聞いた覚えがあった。大抵は道中で野営をする時に仲間に襲わせたりするのだが、生憎とリヒトにそんな仲間はいない。
逃げ出したのは単独犯だったが、後日副王都に潜伏しているところを捕縛された。
その時に逃げ道としたのが湖。街道から15mほどの高さを飛び込み、水温5度ほどを対岸まで泳ぎ切ったという供述があったのだ。
捜索はしたのだが、生きてはいないだろうというのが大半の見解。
だが、生きていた。
ハゼーク侯爵家の東の領に行くには副王都も通るしその湖も湖岸に添うように走る。
――隊長も言ってたじゃないか。苦しい時は漢になれと!――
たしか副王都にはただっ広い使われなくなった倉庫もあったはず。
暫くはそこに潜伏し、時間をかけて王都に戻ればいい。
そうまでして戻ってきたリヒトのサーシャに対する気持ちは伝わるはずだ。
きっとサーシャも心が動いて受け入れてくれる。
考えが纏まるとリヒトには力がわいてくる気がした。
末の妹、カーラの大好きな恋愛小説も書かれてあった。
苦難を乗り越えて結ばれる愛は強いのだと。
「お前たちがした事は不敬罪に当たる。が、エトナ男爵家は訴えないと言ってくれた。慰謝料もいらない。寛大すぎる有難い言葉を頂いている。が、言葉に甘え何もしないと言う事は出来ない」
「お、お父様?わたくし・・・不敬罪って…どうして?」
ビアンカが声を落とし、父のセニーゼン公爵に問うがセニーゼン公爵は応えなかった。代わりにアベルがまるで朗読をするようにビアンカだけではなくリヒトとエルサにも聞こえるように答えを返した。
「ビアンカが言った。リヒトが金を払うならチケットを買う前に声を掛けろ。女が買うなら買った後に声を掛けろ。侯爵子息だった自分が近衛騎士だったリヒトに招集という言葉を掛けろ。ビアンカの案に全員が賛成し、それを実行した。近衛隊の招集は王族が襲われた事を意味する。自分たちは快楽の為に虚偽とは言え王族の身に危害がおよんだと公の場で口にしたんだ。クーデターを企んだと言われても仕方がない。救いだったのはエトナ男爵令嬢がその場で騒ぎ立てなかった事だ」
「そんな・・・たったそれだけで?誰にも迷惑かけてないじゃない・・・そ、それに訴えないと言ってるなら御咎めなしでしょう?ひっ秘密にすれば?そうよ!誰にも知られな――」
「バカかお前は!‥‥あぁすまないバカだったな」
セニーゼン公爵は秘密にすればいいと言うビアンカを一喝した。
「慰謝料はお前達の私財全てを売り払い用意する。当然足りない分もあるが、お前達5人はとても仲がいいと聞いた。ハゼーク侯爵家が東の領で就労する場も用意してくれた。浮き小島のようになった渓谷の真ん中に柱と屋根だけの休憩場もある。獣のように盛るお前達でも洞穴よりはマシだろう。安心しろお前たちが渡った後は吊り橋も落としてやる。命尽きるまで5人で仲良くすればいい」
「そんなところ!!深さが200mはある渓谷に四方を囲まれたあの場所でしょう?!生きていくなんて無理!お父様!わたくしは公爵令嬢から侯爵令嬢になってもちゃんとしてたでしょう?!」
リヒトを突き飛ばすように前に出たエルサはセニーゼン公爵も押しのけてハゼーク侯爵に訴えた。
「エルサ、ちゃんとした子は異母兄とまぐわろうなんてしないと考えるがね」
「だから!あれはアベルが!!アベルも言ってよ!わたくし行きたくない!」
エルサはアベルの腕を掴むがアベルはその手を払った。
「今更ゴチャゴチャ五月蠅いんだよ」
1人だけ落ち着き払ったアベルにリヒトは両親たちにではなくアベルに向かって声を掛けた。
「お前が・・・こうしたのか?!お前がサーシャに・・・」
アベルはフッと笑うとリヒトに告げる。
「賭けを教えたのはお嬢さん達さ。カフェなんて場で大声で、しかも隣に誰がいるかも判らないのに話す内容じゃない。おかげでこの通りのあり様。全てが上手くいってたのに…」
この場で初めてアベルの表情が歪んだ。
保身の為だけに叫び打づけるビアンカとエルサは遂には口枷を嵌められ、出立の日まで監視されることになった。
リヒトはその場では大人しく従った。
ハゼーク侯爵家の東の領に行く気はないが、ここで暴れればビアンカたちのように監視付きで拘束される。
監視が付くのは当然だろうが、従順な姿勢を見せる事で人には隙が出来る事を知っていたからである。
リヒトはまだ諦めていなかった。
★~★
「全く・・・手が掛からないと思っていたが」
続いて出る言葉は「残念だ」だろうか。それとも「出来が悪い」だろうか。
リヒトはどうでもいいと両親の前で俯いたまま策を練った。
ハゼーク侯爵家の東の領に行けばおそらく死んでも出て来れないだろう。
渓谷に飛び込めば若干位置は移動するだろうが出られない事に変わりはない。
かつては王家が政治犯を収容する監獄として利用されていた事は騎士であるリヒトも知っている。難攻不落で脱出も出来ないが外から逃亡を助ける事も出来ない。
つり橋を架けるにも事故が多く自分たちが渡らされるつり橋はもう100年ほど前のもの。
5人の重みで朽ちた綱が切れても・・・いや切れた方が面倒がないと思われているのだろう。
――誰が行くものか!――
王都にいる間は厳しい監視下に置かれるだろうから逃げる事はまず無理だろう。
コナー伯爵家にはもう使われなくなった地下牢がある。
暴れるならそこで生涯を終わらされる可能性だって無きにしも非ず。
チャンスは王都を出て移動する最中に限られてくる。
休憩地で止まる度に逃げる素振りをしていては相手も警戒をする。
リヒトは最初から近衛騎士だったわけでは無く、短期間だが第3騎士団と第1騎士団に籍があった事もある。代3騎士団は王都周辺に逃げた野盗などを護送した事もある。
考えているリヒトはふとある場所が思い浮かんだ。
第3騎士団から第1騎士団に移って少し経った頃、護送中の野盗が脱走した事を聞いた覚えがあった。大抵は道中で野営をする時に仲間に襲わせたりするのだが、生憎とリヒトにそんな仲間はいない。
逃げ出したのは単独犯だったが、後日副王都に潜伏しているところを捕縛された。
その時に逃げ道としたのが湖。街道から15mほどの高さを飛び込み、水温5度ほどを対岸まで泳ぎ切ったという供述があったのだ。
捜索はしたのだが、生きてはいないだろうというのが大半の見解。
だが、生きていた。
ハゼーク侯爵家の東の領に行くには副王都も通るしその湖も湖岸に添うように走る。
――隊長も言ってたじゃないか。苦しい時は漢になれと!――
たしか副王都にはただっ広い使われなくなった倉庫もあったはず。
暫くはそこに潜伏し、時間をかけて王都に戻ればいい。
そうまでして戻ってきたリヒトのサーシャに対する気持ちは伝わるはずだ。
きっとサーシャも心が動いて受け入れてくれる。
考えが纏まるとリヒトには力がわいてくる気がした。
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苦難を乗り越えて結ばれる愛は強いのだと。
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