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VOL:25 ラウロの気持ち
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メアリにカヌレを届け、その日の昼過ぎには見送った。
馬車が小さくなってもメアリがサーシャに向かって手を振るのが見える。
サーシャは前に走り出して、メアリに向かって手を振り続けた。
「ほら…涎出てるぞ」
馬車がすっかり見えなくなって、サーシャの手が降りるとラウロはハンカチを差し出した。
「涎じゃない」
「出てくる場所が違うだけだと思っとけ。製造元はサーシャだろが」
「そうだけど!!涎は酷いんじゃない?」
キっと顔をあげてサーシャはラウロを睨んだが、何故かラウロが顔を背けた
「そ、そうだな。ごめん」
いつもならさらに弄って来るのにすんなりと引いたラウロにサーシャは変だなと回り込んでラウロの顔を覗き込むと茹でたタコのように真っ赤になっていた。
「どうしたの?ラウロさん、顔が凄く赤い・・・耳まで真っ赤よ?」
「いや…何でもねぇよ」
「熱でもあるの?ねぇ…ラウロさん?」
ラウロはサーシャの泣き顔は見る機会も多かった。
リヒトの件で泣いた時は腕の中だったし、あの時はリヒトへの怒りもあった。
が、先程メアリを見送って泣き顔になったサーシャはもう幼い日にファルコの後を泣きながら追いかけて来たサーシャとは違っていた。
――不味いな。サーシャが女性に見えたぞ――
女性であることは間違いないのだが、昔のように冗談めかして「嫁いで来い」なんて冗談でももう言ってはいけない、言うなら本気とラウロは自分の気持ちに、やっと「言葉」が付いた事を自覚した。
どうしようもなくサーシャが可愛いのも、気になるのも、怒ってしまうのも全て「恋」であり「愛」で、決して「友人の妹」に対しての同情という誤魔化しが出来るような状況でもない事を知った。
気持ちを自覚してからはサーシャの隣にいる事に全身の血液が頭に集中してしまう気がして眩暈を起こしそうだった。
「ねぇ、ラウロさん。今日の晩御飯何が良い?お兄様はほうれん草の根っこスープって言うんだけど…あれ?どうしたの?」
「なっなんでもねぇよ」
必死で打ち消すものの、今日の晩御飯と言われてエプロン姿のサーシャが器を手にラウロに微笑んでいる絵面を想像してしまった。
「お前・・・ホント無自覚に俺の頭をかき混ぜるよな」
「え?どういうこと?」
「だから、なんでもねぇよ。帰るぞ」
が、帰るのはいいのだが、隣をちょこちょこと歩くサーシャが気になって仕方がない。
歩幅はこれでいいだろうか?とそれまでも合わせては来たけれど、その幅でいいのかを考えてしまう。
そして無自覚なサーシャが更にラウロを刺激してしまう。
「お兄様がね、もうラウロさんにしとけって言うの」
「俺に?何を?草むしり?荷物持ち?」
「じゃなくて、結婚するならラウロさんにしとけって。そんなのラウロさんだって困るわよね」
「‥‥いけど?」
「え?」
恥ずかしくなったラウロは空を見上げて指で頬をポリポリ。
なんと答えたらいいかと空を見たまま足を進める。
「俺なら、困らないけど‥‥サーシャが困るだろ?・・・っていない?!」
隣を見るとサーシャがいない。何処に行ったとキョロキョロ見回すとラウロが通り過ぎてしまった青果店の前で箱からほうれん草を両手に持ってどっちがいいかを悩んでいた。
慌てて戻るとサーシャは本気で悩んでいる。
「こっちは葉っぱの色が良いんだけど、こっちは根っこの方が大きいのよね」
「両方買えばいいじゃないか。出してやるぞ」
「そうすると食べ過ぎになるでしょ?!どうやって置いとくのよ」
「使えばいいだろ?全部食うさ」
「だぁかぁらぁ!そうなると食べ過ぎって言――」
「奥さん、旦那に食わせてやんなよ~どうせ夜は奥さん別腹で食べられちゃうんだからさ。2つ買うならニンニクもサービスしとくよ!」
どっちがいいかと言い合いをする2人に青果店の店主が割り込んだ。
ラウロもだが、サーシャの顔もジュボっと赤くなる。
「ちっ違うわよ!!」
「よし、親父買った!ニンニク忘れるなよ?」
「毎度あり!!2つで300クルだ!」
「すまない。千クルの札しかないんだがいいかな?」
「いいよ!はいっ700億クルのお釣りだ!頑張れよ!」
「おぅよ!」
ほうれん草を2束手渡されたサーシャは葉っぱで顔を隠してしまった。
少しだけ怒ったように「残したら許さないんだから!」というサーシャ。
もうラウロには何をしても可愛くて愛しくて仕方がない。
――制御が効かないって聞いた事があったがホントだな――
メアリが出立して、サーシャもラウロを護衛に1週間後には副王都に出立する。
その道中は基本が歩きで、途中少しだけ馬車に乗る。
日用品を副王都で買いそろえる事も出来るが、そうなれば出費は多くなる。
少しでも母の薬代への足しになればと日頃は使っていない食器や調理器具も持って行くので荷物が多くなり、馬車に乗るなら荷物も1人分の料金になってしまうのである。
市場から出る費用は一人分。
当初サーシャは副王都に行くことになれば、1人で荷物はゴロゴロと引っ張って歩くと言っていたので、「危ないからやめてくれ」とファルコがラウロに泣きついた結果、護衛としてラウロが同行する事になった。
サーシャはラウロも行くとなり、気分は遠足に近い。
それがラウロを「異性」としていない事を示すので周りだけがヤキモキしている。
「途中でご飯は任せてね!」
「途中だけじゃなく、ずっとサーシャの飯が食いたい」
「え?全部私?ダメよ!水汲みとか!火起こしとかラウロさんよ?!私、野営の経験ないもの」
――よくそれで1人で荷物を引いていくと言ったな…猛者かよ――
気持ちに気が付かなくても無理をするサーシャにラウロは頼まれなくても付いて行っただろうと考える。
「判ってるって。俺が作れる時は作るしさ。そうじゃなくて!」
「まさか!今になって用事が出来たから護衛はダメって事?!」
「んなわけないだろ!何を置いてもサーシャが優先だ!俺以外の男は半径5キロは近づく事を許さねぇよ」
「それだと仕事できないじゃない!半径5キロってどれくらいあるか知ってるの?直径で10キロなのよ?端から端が見えないんだからね?」
――ダメだ。直球じゃないと全然伝わってない――
そう思いつつも旅の道中は2人きり。幾らでもチャンスはあるだろう。
帰り道、ラウロがほうれん草、サーシャはニンニクを持って仲良く歩くのだった。
馬車が小さくなってもメアリがサーシャに向かって手を振るのが見える。
サーシャは前に走り出して、メアリに向かって手を振り続けた。
「ほら…涎出てるぞ」
馬車がすっかり見えなくなって、サーシャの手が降りるとラウロはハンカチを差し出した。
「涎じゃない」
「出てくる場所が違うだけだと思っとけ。製造元はサーシャだろが」
「そうだけど!!涎は酷いんじゃない?」
キっと顔をあげてサーシャはラウロを睨んだが、何故かラウロが顔を背けた
「そ、そうだな。ごめん」
いつもならさらに弄って来るのにすんなりと引いたラウロにサーシャは変だなと回り込んでラウロの顔を覗き込むと茹でたタコのように真っ赤になっていた。
「どうしたの?ラウロさん、顔が凄く赤い・・・耳まで真っ赤よ?」
「いや…何でもねぇよ」
「熱でもあるの?ねぇ…ラウロさん?」
ラウロはサーシャの泣き顔は見る機会も多かった。
リヒトの件で泣いた時は腕の中だったし、あの時はリヒトへの怒りもあった。
が、先程メアリを見送って泣き顔になったサーシャはもう幼い日にファルコの後を泣きながら追いかけて来たサーシャとは違っていた。
――不味いな。サーシャが女性に見えたぞ――
女性であることは間違いないのだが、昔のように冗談めかして「嫁いで来い」なんて冗談でももう言ってはいけない、言うなら本気とラウロは自分の気持ちに、やっと「言葉」が付いた事を自覚した。
どうしようもなくサーシャが可愛いのも、気になるのも、怒ってしまうのも全て「恋」であり「愛」で、決して「友人の妹」に対しての同情という誤魔化しが出来るような状況でもない事を知った。
気持ちを自覚してからはサーシャの隣にいる事に全身の血液が頭に集中してしまう気がして眩暈を起こしそうだった。
「ねぇ、ラウロさん。今日の晩御飯何が良い?お兄様はほうれん草の根っこスープって言うんだけど…あれ?どうしたの?」
「なっなんでもねぇよ」
必死で打ち消すものの、今日の晩御飯と言われてエプロン姿のサーシャが器を手にラウロに微笑んでいる絵面を想像してしまった。
「お前・・・ホント無自覚に俺の頭をかき混ぜるよな」
「え?どういうこと?」
「だから、なんでもねぇよ。帰るぞ」
が、帰るのはいいのだが、隣をちょこちょこと歩くサーシャが気になって仕方がない。
歩幅はこれでいいだろうか?とそれまでも合わせては来たけれど、その幅でいいのかを考えてしまう。
そして無自覚なサーシャが更にラウロを刺激してしまう。
「お兄様がね、もうラウロさんにしとけって言うの」
「俺に?何を?草むしり?荷物持ち?」
「じゃなくて、結婚するならラウロさんにしとけって。そんなのラウロさんだって困るわよね」
「‥‥いけど?」
「え?」
恥ずかしくなったラウロは空を見上げて指で頬をポリポリ。
なんと答えたらいいかと空を見たまま足を進める。
「俺なら、困らないけど‥‥サーシャが困るだろ?・・・っていない?!」
隣を見るとサーシャがいない。何処に行ったとキョロキョロ見回すとラウロが通り過ぎてしまった青果店の前で箱からほうれん草を両手に持ってどっちがいいかを悩んでいた。
慌てて戻るとサーシャは本気で悩んでいる。
「こっちは葉っぱの色が良いんだけど、こっちは根っこの方が大きいのよね」
「両方買えばいいじゃないか。出してやるぞ」
「そうすると食べ過ぎになるでしょ?!どうやって置いとくのよ」
「使えばいいだろ?全部食うさ」
「だぁかぁらぁ!そうなると食べ過ぎって言――」
「奥さん、旦那に食わせてやんなよ~どうせ夜は奥さん別腹で食べられちゃうんだからさ。2つ買うならニンニクもサービスしとくよ!」
どっちがいいかと言い合いをする2人に青果店の店主が割り込んだ。
ラウロもだが、サーシャの顔もジュボっと赤くなる。
「ちっ違うわよ!!」
「よし、親父買った!ニンニク忘れるなよ?」
「毎度あり!!2つで300クルだ!」
「すまない。千クルの札しかないんだがいいかな?」
「いいよ!はいっ700億クルのお釣りだ!頑張れよ!」
「おぅよ!」
ほうれん草を2束手渡されたサーシャは葉っぱで顔を隠してしまった。
少しだけ怒ったように「残したら許さないんだから!」というサーシャ。
もうラウロには何をしても可愛くて愛しくて仕方がない。
――制御が効かないって聞いた事があったがホントだな――
メアリが出立して、サーシャもラウロを護衛に1週間後には副王都に出立する。
その道中は基本が歩きで、途中少しだけ馬車に乗る。
日用品を副王都で買いそろえる事も出来るが、そうなれば出費は多くなる。
少しでも母の薬代への足しになればと日頃は使っていない食器や調理器具も持って行くので荷物が多くなり、馬車に乗るなら荷物も1人分の料金になってしまうのである。
市場から出る費用は一人分。
当初サーシャは副王都に行くことになれば、1人で荷物はゴロゴロと引っ張って歩くと言っていたので、「危ないからやめてくれ」とファルコがラウロに泣きついた結果、護衛としてラウロが同行する事になった。
サーシャはラウロも行くとなり、気分は遠足に近い。
それがラウロを「異性」としていない事を示すので周りだけがヤキモキしている。
「途中でご飯は任せてね!」
「途中だけじゃなく、ずっとサーシャの飯が食いたい」
「え?全部私?ダメよ!水汲みとか!火起こしとかラウロさんよ?!私、野営の経験ないもの」
――よくそれで1人で荷物を引いていくと言ったな…猛者かよ――
気持ちに気が付かなくても無理をするサーシャにラウロは頼まれなくても付いて行っただろうと考える。
「判ってるって。俺が作れる時は作るしさ。そうじゃなくて!」
「まさか!今になって用事が出来たから護衛はダメって事?!」
「んなわけないだろ!何を置いてもサーシャが優先だ!俺以外の男は半径5キロは近づく事を許さねぇよ」
「それだと仕事できないじゃない!半径5キロってどれくらいあるか知ってるの?直径で10キロなのよ?端から端が見えないんだからね?」
――ダメだ。直球じゃないと全然伝わってない――
そう思いつつも旅の道中は2人きり。幾らでもチャンスはあるだろう。
帰り道、ラウロがほうれん草、サーシャはニンニクを持って仲良く歩くのだった。
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