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第28話 求婚にまつわるプレゼン
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パンディトンに連れられて部屋から出てもグラシアナの怒りは収まらない。
手を引かれて歩いていくけれど、グラシアナはその手を振りほどこうとした。
「離してくださいっ」
「いいや、離さない。ちゃんと話をさせてくれるまで離さない」
「なら勝手に話せばいいわ」
ピタリと歩くのを止めてパンディトンは体を反転させるとグラシアナを横抱きにしてグラシアナの部屋に入った。
「あれ?お嬢様、旦那様のお話は終わったんですか?」
ベッドメイクをしていたメアリーが話しかけたがパンディトンの異様な雰囲気を感じ取り、ペコリと頭を下げた。
「何かあれば廊下にいますので」
そう言い残してメアリーは部屋を出ていく。丁度アリーが新しい枕カバーを持って来たようで小声で「今、入っちゃダメ」と聞こえる。
その声がアリーとメアリーの仕事の手を止めたようでさらにグラシアナを苛立たせた。
脚でちょいちょいと椅子を引き、グラシアナを座らせたパンディトンは直ぐに目の前に膝をついてグラシアナの手を握った。
「聞いてくれ」
「ふんっ(ぷいっ)」
「じゃぁ、独り言を言うから気になる所があれば何でも言ってくれ」
「それじゃ独り言になりません」
「そうだな。でも独り言だ。(こほん)何から言えばいいか…そうだな。俺がグラシアナへの気持ちに正直になろうと思ったのは最近だ。けがをしたと聞いて正気では居られなかった。それまでずっと誤魔化してきた。だって出会ったときグラシアナは6歳、俺は17歳。小さな王妃様は全然手が掛からない。子供じゃなかった。最初は・・・そうだな妹みたいな気持ちだった。後ろをちょこちょこ着いてくる可愛い妹だ」
――そうよね。6歳の幼女に女を感じてたら犯罪者よ――
だが、ふと思う。そう思うグラシアナも公爵家に戻る前までは何とも思わなかった。他国の王族では4、5歳で20歳以上も年の離れた王子に嫁ぐ王女もいる。
ある程度の年齢になるまではただの同居だが、年齢に違和感を感じなかった事を思い出し体がブルリと震えた。
「でも、気が付いたら・・・ずっとグラシアナの姿を追っていた。護衛の時は空気にならなきゃいけなかったから鍛錬の時くらいしか話が出来ない。クマのぬいぐるみを贈っただろう?あれは1人でいる時に俺だと思ってなんでも吐き出せるかなと思ったんだ」
「そうだったの・・・だからクマなのね」
「いや、買いに行った時にピンクの馬と、紫のウサギで迷った」
――ドキツイ色目のぬいぐるみね。私なら迷わないわ。どっちも要らない――
「でも、あのクマ。限定品で最後の1個だったんだ。掴んでみたら触り心地が良かった」
――触り心地??ぬいぐるみにそれを要求するの?――
「大事にしてくれててとても嬉しかった」
――貰ったものを捨てたり出来ないだけなの!――
「今回の事は俺もエリアスも腹に据えかねている。グラシアナにも思う所があるだろう。でも俺に守らせてくれないか。夢だった騎士も辞め、家も捨てるなんて愚かだと思うだろうし気持ちの負担にもなるだろうが、俺はもうグラシアナに我慢をさせたくないんだ」
「我慢・・・そうね。多分他の人より我慢は沢山してきたと思うわ。それを我慢だと思った事もなかったけれど…ここに来て私、笑えるようになったの。声を出して笑っても誰にも咎められないの。それだけじゃないわ。色んな事が出来るんじゃないかなってもっと思えるようになったの」
「なら色んなことをする時に、隣に俺を置いてくれ。同じ物を見て笑って同じ飯を食って同じ時間を過ごしたい。エリアスは関係ない。俺が!そうするために何もかも捨ててきたんだ。グラシアナ・アルベルタ・ロペ様。俺と結婚してくれないか?生涯をかけて愛すると誓う」
「ま、待って。判らないのよ。どうしてそんなに私の事を好きなの?色々と残念な所もあるのよ?アイスクリームだって失敗したし、未だに自分でワンピースを着るのに20分はかかるのよ?普通の事が何にも出来ないのよ?」
「それでいいんだ。グラシアナがグラシアナだから好きだし、愛しているんだ。この体に流れる血の一滴、細胞の1つまでグラシアナを愛してる」
「重っ!!重いわ!!そんなの重すぎるっ恥ずかしげもなくそんなっ!!今までそんな事ひとッことも言った事ないでしょう!おかしいわ。おかしいわよ」
「おかしくもなるさ。好きな女を口説いてるんだから。馬鹿にもなるしおかしくもなる。人生かかってるんだ」
――人生って…でもお兄様も推してるしなぁ――
うーん。グラシアナは小さく唸って天井を見上げ、またパンディトンを見る。真っ直ぐにグラシアナを見つめる目はとても優しいのだけれど迷ってしまう。
パンディトンの事は嫌いではないのだ。どちらかと言えば好きな部類に入る。
でも、その好きが「愛」かと言われると違うような気もする。
好きでもなかったクリスティアンと結婚をするのはそれが決められていたので、感情もなく受け入れることは出来たけれど、正直な気持ちとして全く初見の男性と結婚しなさいと言われた方が迷いなく嫁げる気がする。
知っている部分が多いからこそ、クリスティアンの時と同じように「判りました」とは言えないのだ。
でも、もう一度目の前に跪くパンディトンと目が合うと気持ちが揺れる。
――ぬいぐるみみたいなつぶらな瞳を向けないでぇ――
パンディトンは目を逸らさずにグラシアナの事だけを見てくれている。
迷いが続くグラシアナにパンディトンが突然プレゼンを始めた。
「迷っているようだから自分を売り込む事にする」
「売り込む?!」
そう言って何を思ったかグラシアナの指先にキスをするとその指をパンディトンは自分の頬に当てた。
ザリリ・・・
――んにゃ??なにこれ――
指先に伝わってくる少し伸びた髭の感触。そしてそのままパンディトンはグラシアナの手を側頭部に持っていき、髪を手のひらに触れさせた。
――ふぁっ?!柔らかい?!――
「結婚すると毎朝、好きなだけ撫でる事が出来る」
――撫でる?!撫でるの?――
違い過ぎる感触はギャップが大きくて気持ちの振れ幅も大きい。
自分の髪では感じないが、パンディトンの髪の柔らかさはぬいぐるみ以上。
――すんごく気持ちいいんだけど――
ごくりと生唾を飲んでしまう。
しかし、直ぐに気持ちが冷えた。
「胸もそれなりにあるんだ」
シャツから覗かせた胸。驚愕だった。
人は髪の毛、まつ毛に眉毛、そして体毛は同じ色だと聞くが髪の毛と同じ栗色をした胸の毛。
――胸は‥‥遠慮しとくわ――
引かれてしまったパンディトンは「冗談だよ」と言いながらトドメの言葉をグラシアナにかけた。
「海を見に行こう。いろんな国へ。青い海、白に輝く海、透明な海を見に行くんだ」
誰にも言った事のない小さな願い。
生きて来てこれ以上驚いた事はない。グラシアナの目から涙が溢れた。
★~★
この後、12時10分、14時10分と公開は偶数ターイム♡
手を引かれて歩いていくけれど、グラシアナはその手を振りほどこうとした。
「離してくださいっ」
「いいや、離さない。ちゃんと話をさせてくれるまで離さない」
「なら勝手に話せばいいわ」
ピタリと歩くのを止めてパンディトンは体を反転させるとグラシアナを横抱きにしてグラシアナの部屋に入った。
「あれ?お嬢様、旦那様のお話は終わったんですか?」
ベッドメイクをしていたメアリーが話しかけたがパンディトンの異様な雰囲気を感じ取り、ペコリと頭を下げた。
「何かあれば廊下にいますので」
そう言い残してメアリーは部屋を出ていく。丁度アリーが新しい枕カバーを持って来たようで小声で「今、入っちゃダメ」と聞こえる。
その声がアリーとメアリーの仕事の手を止めたようでさらにグラシアナを苛立たせた。
脚でちょいちょいと椅子を引き、グラシアナを座らせたパンディトンは直ぐに目の前に膝をついてグラシアナの手を握った。
「聞いてくれ」
「ふんっ(ぷいっ)」
「じゃぁ、独り言を言うから気になる所があれば何でも言ってくれ」
「それじゃ独り言になりません」
「そうだな。でも独り言だ。(こほん)何から言えばいいか…そうだな。俺がグラシアナへの気持ちに正直になろうと思ったのは最近だ。けがをしたと聞いて正気では居られなかった。それまでずっと誤魔化してきた。だって出会ったときグラシアナは6歳、俺は17歳。小さな王妃様は全然手が掛からない。子供じゃなかった。最初は・・・そうだな妹みたいな気持ちだった。後ろをちょこちょこ着いてくる可愛い妹だ」
――そうよね。6歳の幼女に女を感じてたら犯罪者よ――
だが、ふと思う。そう思うグラシアナも公爵家に戻る前までは何とも思わなかった。他国の王族では4、5歳で20歳以上も年の離れた王子に嫁ぐ王女もいる。
ある程度の年齢になるまではただの同居だが、年齢に違和感を感じなかった事を思い出し体がブルリと震えた。
「でも、気が付いたら・・・ずっとグラシアナの姿を追っていた。護衛の時は空気にならなきゃいけなかったから鍛錬の時くらいしか話が出来ない。クマのぬいぐるみを贈っただろう?あれは1人でいる時に俺だと思ってなんでも吐き出せるかなと思ったんだ」
「そうだったの・・・だからクマなのね」
「いや、買いに行った時にピンクの馬と、紫のウサギで迷った」
――ドキツイ色目のぬいぐるみね。私なら迷わないわ。どっちも要らない――
「でも、あのクマ。限定品で最後の1個だったんだ。掴んでみたら触り心地が良かった」
――触り心地??ぬいぐるみにそれを要求するの?――
「大事にしてくれててとても嬉しかった」
――貰ったものを捨てたり出来ないだけなの!――
「今回の事は俺もエリアスも腹に据えかねている。グラシアナにも思う所があるだろう。でも俺に守らせてくれないか。夢だった騎士も辞め、家も捨てるなんて愚かだと思うだろうし気持ちの負担にもなるだろうが、俺はもうグラシアナに我慢をさせたくないんだ」
「我慢・・・そうね。多分他の人より我慢は沢山してきたと思うわ。それを我慢だと思った事もなかったけれど…ここに来て私、笑えるようになったの。声を出して笑っても誰にも咎められないの。それだけじゃないわ。色んな事が出来るんじゃないかなってもっと思えるようになったの」
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「ま、待って。判らないのよ。どうしてそんなに私の事を好きなの?色々と残念な所もあるのよ?アイスクリームだって失敗したし、未だに自分でワンピースを着るのに20分はかかるのよ?普通の事が何にも出来ないのよ?」
「それでいいんだ。グラシアナがグラシアナだから好きだし、愛しているんだ。この体に流れる血の一滴、細胞の1つまでグラシアナを愛してる」
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パンディトンの事は嫌いではないのだ。どちらかと言えば好きな部類に入る。
でも、その好きが「愛」かと言われると違うような気もする。
好きでもなかったクリスティアンと結婚をするのはそれが決められていたので、感情もなく受け入れることは出来たけれど、正直な気持ちとして全く初見の男性と結婚しなさいと言われた方が迷いなく嫁げる気がする。
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パンディトンは目を逸らさずにグラシアナの事だけを見てくれている。
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「売り込む?!」
そう言って何を思ったかグラシアナの指先にキスをするとその指をパンディトンは自分の頬に当てた。
ザリリ・・・
――んにゃ??なにこれ――
指先に伝わってくる少し伸びた髭の感触。そしてそのままパンディトンはグラシアナの手を側頭部に持っていき、髪を手のひらに触れさせた。
――ふぁっ?!柔らかい?!――
「結婚すると毎朝、好きなだけ撫でる事が出来る」
――撫でる?!撫でるの?――
違い過ぎる感触はギャップが大きくて気持ちの振れ幅も大きい。
自分の髪では感じないが、パンディトンの髪の柔らかさはぬいぐるみ以上。
――すんごく気持ちいいんだけど――
ごくりと生唾を飲んでしまう。
しかし、直ぐに気持ちが冷えた。
「胸もそれなりにあるんだ」
シャツから覗かせた胸。驚愕だった。
人は髪の毛、まつ毛に眉毛、そして体毛は同じ色だと聞くが髪の毛と同じ栗色をした胸の毛。
――胸は‥‥遠慮しとくわ――
引かれてしまったパンディトンは「冗談だよ」と言いながらトドメの言葉をグラシアナにかけた。
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誰にも言った事のない小さな願い。
生きて来てこれ以上驚いた事はない。グラシアナの目から涙が溢れた。
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