旦那様に離縁をつきつけたら

cyaru

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動き出す断罪劇①

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スース―と規則正しく寝息が聞こえる部屋。
ドレーユ侯爵はベッドで眠る男の額に手をかざす。
青白い光が小さく手のひらと額の間で点滅をする。

「不当に奪われた名前の半分は取り戻しましたよ」

かざしていた手を額から離す。
眠る男の変化は見られない。

「貴方の大切な奥様もですが、
貴方も大概に頑固なところがあるようだ」

よく見ると上半身はシーツに盛り上がりがあるが、
太ももがあろうかと思われる場所はつぶれている。
男をまとっている揺らぎは日を追うごとに男の体を
揺らぎの中に取り込んでいく。

「全てが揺らぎに吸収されてしまうまで10日もないでしょうね。
貴方を支えているのは神殿へ調停に呼び出されている日までなのでしょう。
もっと、みっとも無く縋っても良いと私は思いますがね。
いえ、むしろもっと足掻いて時間を稼いでほしいくらいなのですがね」

そう言って、ゆらぎに吸収された足元に目を移す。
後ろのほうでコンコンと扉を叩く音がすると
ドレーユ侯爵は扉に向かい、ゆっくり扉を開けて迎え入れる。

「今日もお言葉に甘えてお邪魔致しました」
「どうぞ。来て頂いているのはこちらのほうですよ」
「あの…纏っている膜が日を追うごとに小さくなっているのです。
大丈夫なのでしょうか」
「大丈夫…とは?」

シャロンは、妖精になった後は屍が残ると聞いていたが
数日前、足首から先がなくなったのに気が付いたのだが
日を追うごとに、脹脛、脛、太ももが消えていくことを
不思議に思っていた。

「妖精になった後は…屍が残ると仰っていたので」
「えぇ。徐々にゆらぎの中に取り込まれていますが
消えませんよ。最後の最期で屍だけが残されます」

ーーやはりどうあっても死んでしまうのねーー

「それはそうと、あと10日ほどで調停の日ですね」
「あ、はい。そうですが…この場合はどうなるのでしょう」

どう考えてもシリウスがやって来るとは思えない状況である。
片方の言い分は欠席という形となれば、シャロンの申し立ては
可とされるほうに大きく傾くであろう。

「そうそう。貴女も貴女のご家族も欠席となりますね」
「えっ?行かなくて良いのですか?」
「いいえ?行きたくても行けない事情が出来ますし、
神殿のほうから急ぎで延期の連絡が来るでしょう」

ーーどういう事なの?突然延期されるって事かしらーー

「先ず、貴女は今日ここから屋敷に戻ったら
伯爵夫妻と共に、少なくとも2週間は家に籠りなさい」

「えっ?それはどういうことなのです?」

「家から出ては行けませんし、外から人を入れてもいけません。
接触を限りなく絶ちなさい」

「あの、それはどうして…なのですか」

「簡単な事です。流感(インフルエンザ)がこの王都を襲います。
それも…貴族だけの間で猛威を振るいますので」

「り、流感が?で、ですが貴族の間だけとは、あり得ない話です」

「例えですよ。流感として置けば2週間はあなた方は
外部との接触を断つことが出来る。
意味は考えないように。とにかく屋敷に籠りなさい」

「え、えぇ…判りました。父にも伝えますわ」

狐に抓まれたようなシャロンであったが、帰宅後父に
侯爵からの話を伝えると、父は不思議そうにしながらも
数人の使用人と1か月分ほどの食料などを急ぎ確保し
翌日、城には家族、使用人の数名に高熱の初見ありと報告し
屋敷に籠った。
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