旦那様に離縁をつきつけたら

cyaru

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王家の秘宝

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王太子、第二王子の醜態と失態に国王は憤慨する。

そして、神殿からは本人がサインした離縁、離籍の届けが受理され、
神官長にも認可された証明書と、
王太子については離縁した妻である王太子妃の再婚許可証明までが届けられた。

国王は2人の愚息と文官に、間違いであれと願いながら
そしてこうあって欲しいと思いながら問う

「お前たちのサインで間違いないのか?」

2人の愚息は手に取って近くで見たり、遠く離して見るが
自分のサインで間違いないと項垂れる。
王族である彼らの使用するインクは特注品である。
兄弟でも滲み方が異なる。自身の手によるサイン以外ではこの滲み方はしない。
紛れもなく、本人がサインをした事に間違いないのである。

「こやつらの婚姻継続の願いは…だしておらんよのぅ」
「はい、お二人とも婚姻継続の書類は神殿に出しておりません。
また、元王太子妃殿下、元第二王子妃殿下も出されておりません。
そして一般の婚姻と異なり、王族の婚姻ですので
この場合は神官が何人見届けていようと、
【殿下】の意見が尊重されます」

一抹の望みをかけて初孫である王女についても国王は問う。

「チェルシーはどうなる?ここに残るのか?」

しかし文官は国王相手でも決まりは変えられないと前置きして

「親権は元王太子妃殿下です。離縁の書類…ここにございます。
上から17行目でございます。

如何なる場合も父として名乗り出る事、養育する事を放棄する

とありますので無理です」

大きくため息を吐くのは国王だけではない。
2人の王子も取り返しのつかない失態と書類に
立ち上がる事さえできない程、深く沈む。

「お前たちは…廃嫡だ。もう知らん!もういらん!
好きな所に行くがよい!」

2人の王子は、父上!と叫ぶが国王は聞く耳を持たない。
護衛の騎士を呼び、そのまま何も持たせずに城外に捨て置けと命じる。
逆らえる騎士などいない。ここは国王の執務室である。
とっくに成人したというのに2人の元王子の叫び声は
小さくなりながらも国王の執務室まで届いた。

2人の王子が片付くとドレーユ侯爵は腰を上げた。

「では、わたくしはこれにて」

国王は何かを思い出したようにドレーユ侯爵を呼び止める。

「ま、待ってくれ。ドレーユ。頼みがある」
「陛下、臣下にそのような態度は許されません」
「いや、良いのだ。それでだな」

国王はニキティスを城に上げて教育をし、
王太子として継承させたいとドレーユ侯爵に告げる。

「陛下。それは無理でございます」
「む、無理?何故無理なのだ。ニキティスはそなたの屋敷に
おるのであろう?この上ない上等の教育をする。
何一つ不便なく育て上げると言うておるのだ」

国王は神殿を通しての契約ではない事に気がつき、
ニキティスを次の王にするという。

「陛下、神殿は経由しておりませんが、ある意味それ以上の
束縛を持つ契約をされたのをお忘れですか?」

ドレーユ侯爵は、自身の胸、心臓のあたりをトントンとする。
その仕草に国王は、襟元を開けて自分の胸を見る。

そこには魔法契約をした刻印があった。

「あぁ・・・儂は…儂はどうすれば良いのだ」

項垂れる国王にドレーユ侯爵は言う

「第三王子殿下には王子が居られるではありませんか」

しかし、ドレーユ侯爵はこの茶番劇の仕掛け人である。
第三王子には、既に根回しを終えてある。
この先国王が言う言葉ですら、既に知っているのだ。

「ダメだ。先日久しぶりに手紙が来た。
家族で海の向こうの国に住んで研究がしたいそうだ。
こうなる事が判っていたなら許可はしなかった。
だが…昨日向こうの国籍に移動する事が決まってしまった。
国家間の取り決めもあってもう覆せないのだ」

海の向こうの国では一旦その国の国籍を取得すると
それまでの経歴が抹消されるのである。
国籍を取得した第三王子一家は既に出国していた。
もうこの国に戻る事はない。いや戻れないのだ。

魔法契約で国王は
ニキティスには王家は一切口出しをしない事を契約した。
その約束を違えた時は、
ドレーユ侯爵の望むものを差し出すという条件である

「望みはないか?な?何でも良いぞ。金か?領地か?」

ドレーユ侯爵は何度も何度も懇願する国王に言った。

「判りました。わたくしも臣下の端くれです。
ニキティスについての親権は陛下にお譲り致しましょう。
その代わり・・と言っては何ですが」

「な、何でもいいぞ?この城が欲しいならくれてやる
新しい屋敷が欲しいなら土地も全て用意しよう」

「いいえ。わたくしには既に屋敷もございますし、
領地からの収入がございますゆえ・・・そうですね」

「なんだ?何でも良いのだぞ」

「では、王家の秘宝である 女神の涙 と 死者の魂 を」

一瞬国王は迷った。もう1000年以上代々伝わっている2つの宝石。
石そのものは小指の爪程の大きさであるが、
共に王家の宝物殿で国王ですら触る事を制限される宝石である。
しかし、たった2つの宝石を手放すだけでニキティスが来るのだ。

「わかった。女神の涙と死者の魂だな。条件を飲もう」

国王は宝物殿からその宝石を持ってこさせた。

ーーあぁ、やっと手に入ったーー

ドレーユ侯爵と国王は、対象物は違っても同じことを考えた。
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