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♡俺の愛に溺れろ
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本日はマクシム様と一緒に山に入っております。
どこに行くのかと申しますと、日々の生活に必要な水を滝壺にいただきに参りました。
マクシム様は大きな水瓶を2つ、わたくしは麻で編んだ袋を手にしております。
相変わらず竈の一件からはわたくしに火起こしは頼んで頂けないのですが、あのカチカチという音は石を打ち付ける音だと教えて頂きました。
一度戦力外通告を受けると復帰の道は厳しいのです。
今日はその他に、毎晩使用する寝台のシーツも持ってきております。
滝壺で洗うためで御座います。
「今日は天気もいいから早めに洗えば帰るまでには乾くだろう」
わたくし、今までシーツを洗うと言う交換方法を存じあげませんでした。
公爵家では、朝起きた時は皺になっていても夜眠る時は綺麗になっておりました。
きっと使用人さんがどこかの滝壺で洗ってくださっていたのでしょう。
「もうちょっとだ。足は痛くないか?」
「大丈夫で御座います。思ったよりも近くなのですね」
「そうだな。本気の大雨の次の日は家から虹が見えるぞ」
実を申しますとわたくし、滝や滝壺と言うものを書物の挿絵でしか見た事が御座いません。
虹は王都の空に何度か見た事は御座いますが、どんな匂いなのか、音なのか。楽しみで御座います。
【雨の翌日は凄いから、もうちょっとな】
小屋、いえ家屋に到着した夜は雨でございましたが、危険だからと連れて来て頂けなかったのです。数日経って【落ち着かないとダメ】なのだそうで、滝や滝壺は非常に繊細なのかも知れません。
――はぁはぁ…まだなのかしら…もうちょっとと言って半刻ですわ――
【もうちょっと】という単位は非常に面倒な単位で御座います。
わたくしは時刻であれば数分ですし、距離であれば目的とする場がもう見えている時で御座いますけれど、マクシム様の単位は非常に長いようで御座います。
王妃様の【もうちょっと待ってくれるかしら?】が最長3か月、最短で2時間半の幅がある事を考えれば少々の事には目を瞑ることが出来ましょう。
何度か8時間程待たされた挙句に【あら?待っていたの?もうちょっとと言ったのに明後日まではかかるわよ】と受け取る側の推測領域を軽く超えていく【もうちょっと】も御座いますから、持久戦は得意ですわよ。
歩いていくと、頬に何か水滴?雫?のような物が触れるようになり、サーサーと音がいたします。なんの音だろうと思いながら歩みを進めていると…。
「ついたぞ。疲れただろう」
「わぁぁぁ♡」
挿絵でしか見た事がなかった滝と滝壺が目の前に現れました。
空ほどに高い崖のようになった部分から落下してくる水の帯が御座います。
下には青い湖のような滝壺が広がっており、水の帯が吸い込まれていく部分は白く靄のようになっていて虹が幾つも架かっております。
「マクシム様っ!虹が沢山ございます。ほら、あそこも!あそこも!」
「今日は落ち着いてるかと思ったがまだ多いな」
「虹がもっと沢山ある日があるのですか?」
「虹じゃなくて、水量な。雨の次の日はここも豪雨かと思うくらい水飛沫が飛んでくる」
「ファァッ♡そんなに?見てみたいですわぁ」
「本気で言ってるのが怖いな。ずぶ濡れになるぞ」
マクシム様の表情から推測するより方法が御座いませんが、目の前よりも更に凄い状態なのでございますね。ここの生活に慣れれば見る事が出来るでしょうか。
少し、そんな日が来るのが楽しみですわ。
手前に来るほど滝壺の水は澄んでいて、底の景色が美しいです。
小さな細長いものは何だと問えば、魚なのだそうです。動きも素早く手ですくおうとしたのですが水に手を入れると何処かに行ってしまいます。
「まだ稚魚だからな。大きくなったら体に赤い斑点が出る。ソルト草を巻きつけて焼くと旨いぞ」
手で大きさを示されますが、見えているお魚は小指よりも小さいのに数倍になると言います。水が余りにも青い透明で、冷とうございます。
そっとすくってみると…あら不思議です。青い水なのに透明で御座います。
水瓶に汲む水と同じ透明の水。滝壺にあると青ですのに不思議で御座います。
「疲れただろう。シーツを洗う間、そこにある石で休んでいるといい」
――底にある石?――
確かに、滝壺の底には大きな石が見えますけれど、休めるのでしょうか。
滝壺の水は冷たいのですが…。休むのであれば底の石がここのマナーで御座いますわね。
わたくしは、そろそろお役御免な皮の靴を脱いで素足を水につけました。
――あら‥‥おかしいわね。足が底に届きません――
膝くらいまでかしら…と両足を水に浸けてその場に立とうと致しました。
ドボン!!
――ゴボゴボゴボ…なんですの?足が!足が!!――
水面より上から見た時よりも、かなり底は深い所にあったようで上を見ると水面が見えます。
――まぁ♡水面を上下で見る事が出来るなんて!――
っと、思った瞬間!!
「ゴブッ!!ガブブブッ!!(くっ苦しいっ!)」
知らなかったのです。水の中では呼吸が出来ないなんて。【水の中で呼吸は出来ません】なんて誰も教えてくださいませんでしたし、本にも書いておりませんでしたわ。
水面を水中から見た事で、嬉しくなったわたくしは思い切り水を吸い込んでしまったのです。
藻掻いていると、目の前が白くなった途端、水面に出て空が見えました。
――あ、空も滝壺みたいに青い――
と、ちょっと嬉しくなる発見をしたと思ったのですが…。
「何やってんだ!石で休んでろと言っただろう!」
「ごほっごほっ…ヒューヒュー…マクシ…ム様っ…ゼェゼェ…」
「水吸い込んだだろ、鼻抑えて、フンって出せ!」
――そんな恥ずかしい事出来ません!!――
フルフルと息も絶え絶えな中、首を横に振ると「俺が吸ってやろうか」と。
――お止めくださいませ!!恥ずか死してしまいます――
呼吸も落ち着いて参りました。水の中で息をするとこんなに苦しいのですね。
水の中でも相当に苦しかったですが、水面に上がっても苦しいとは。初体験でございます。
「マクシム様が底にある石で休めと…」
あら?何故遠くを見るような目をしていらっしゃるの?
「溺れる所だったぞ。溺れるのは俺の愛だけにしとけ」
わたくしもつい、遠くを見てしまいました。
遠くの緑は目に優しい…本に書いてあった通りでした。
ブルっ…寒い。
この寒さは滝壺の水の寒さだけではないと本能が訴えるのは何故かしら。
どこに行くのかと申しますと、日々の生活に必要な水を滝壺にいただきに参りました。
マクシム様は大きな水瓶を2つ、わたくしは麻で編んだ袋を手にしております。
相変わらず竈の一件からはわたくしに火起こしは頼んで頂けないのですが、あのカチカチという音は石を打ち付ける音だと教えて頂きました。
一度戦力外通告を受けると復帰の道は厳しいのです。
今日はその他に、毎晩使用する寝台のシーツも持ってきております。
滝壺で洗うためで御座います。
「今日は天気もいいから早めに洗えば帰るまでには乾くだろう」
わたくし、今までシーツを洗うと言う交換方法を存じあげませんでした。
公爵家では、朝起きた時は皺になっていても夜眠る時は綺麗になっておりました。
きっと使用人さんがどこかの滝壺で洗ってくださっていたのでしょう。
「もうちょっとだ。足は痛くないか?」
「大丈夫で御座います。思ったよりも近くなのですね」
「そうだな。本気の大雨の次の日は家から虹が見えるぞ」
実を申しますとわたくし、滝や滝壺と言うものを書物の挿絵でしか見た事が御座いません。
虹は王都の空に何度か見た事は御座いますが、どんな匂いなのか、音なのか。楽しみで御座います。
【雨の翌日は凄いから、もうちょっとな】
小屋、いえ家屋に到着した夜は雨でございましたが、危険だからと連れて来て頂けなかったのです。数日経って【落ち着かないとダメ】なのだそうで、滝や滝壺は非常に繊細なのかも知れません。
――はぁはぁ…まだなのかしら…もうちょっとと言って半刻ですわ――
【もうちょっと】という単位は非常に面倒な単位で御座います。
わたくしは時刻であれば数分ですし、距離であれば目的とする場がもう見えている時で御座いますけれど、マクシム様の単位は非常に長いようで御座います。
王妃様の【もうちょっと待ってくれるかしら?】が最長3か月、最短で2時間半の幅がある事を考えれば少々の事には目を瞑ることが出来ましょう。
何度か8時間程待たされた挙句に【あら?待っていたの?もうちょっとと言ったのに明後日まではかかるわよ】と受け取る側の推測領域を軽く超えていく【もうちょっと】も御座いますから、持久戦は得意ですわよ。
歩いていくと、頬に何か水滴?雫?のような物が触れるようになり、サーサーと音がいたします。なんの音だろうと思いながら歩みを進めていると…。
「ついたぞ。疲れただろう」
「わぁぁぁ♡」
挿絵でしか見た事がなかった滝と滝壺が目の前に現れました。
空ほどに高い崖のようになった部分から落下してくる水の帯が御座います。
下には青い湖のような滝壺が広がっており、水の帯が吸い込まれていく部分は白く靄のようになっていて虹が幾つも架かっております。
「マクシム様っ!虹が沢山ございます。ほら、あそこも!あそこも!」
「今日は落ち着いてるかと思ったがまだ多いな」
「虹がもっと沢山ある日があるのですか?」
「虹じゃなくて、水量な。雨の次の日はここも豪雨かと思うくらい水飛沫が飛んでくる」
「ファァッ♡そんなに?見てみたいですわぁ」
「本気で言ってるのが怖いな。ずぶ濡れになるぞ」
マクシム様の表情から推測するより方法が御座いませんが、目の前よりも更に凄い状態なのでございますね。ここの生活に慣れれば見る事が出来るでしょうか。
少し、そんな日が来るのが楽しみですわ。
手前に来るほど滝壺の水は澄んでいて、底の景色が美しいです。
小さな細長いものは何だと問えば、魚なのだそうです。動きも素早く手ですくおうとしたのですが水に手を入れると何処かに行ってしまいます。
「まだ稚魚だからな。大きくなったら体に赤い斑点が出る。ソルト草を巻きつけて焼くと旨いぞ」
手で大きさを示されますが、見えているお魚は小指よりも小さいのに数倍になると言います。水が余りにも青い透明で、冷とうございます。
そっとすくってみると…あら不思議です。青い水なのに透明で御座います。
水瓶に汲む水と同じ透明の水。滝壺にあると青ですのに不思議で御座います。
「疲れただろう。シーツを洗う間、そこにある石で休んでいるといい」
――底にある石?――
確かに、滝壺の底には大きな石が見えますけれど、休めるのでしょうか。
滝壺の水は冷たいのですが…。休むのであれば底の石がここのマナーで御座いますわね。
わたくしは、そろそろお役御免な皮の靴を脱いで素足を水につけました。
――あら‥‥おかしいわね。足が底に届きません――
膝くらいまでかしら…と両足を水に浸けてその場に立とうと致しました。
ドボン!!
――ゴボゴボゴボ…なんですの?足が!足が!!――
水面より上から見た時よりも、かなり底は深い所にあったようで上を見ると水面が見えます。
――まぁ♡水面を上下で見る事が出来るなんて!――
っと、思った瞬間!!
「ゴブッ!!ガブブブッ!!(くっ苦しいっ!)」
知らなかったのです。水の中では呼吸が出来ないなんて。【水の中で呼吸は出来ません】なんて誰も教えてくださいませんでしたし、本にも書いておりませんでしたわ。
水面を水中から見た事で、嬉しくなったわたくしは思い切り水を吸い込んでしまったのです。
藻掻いていると、目の前が白くなった途端、水面に出て空が見えました。
――あ、空も滝壺みたいに青い――
と、ちょっと嬉しくなる発見をしたと思ったのですが…。
「何やってんだ!石で休んでろと言っただろう!」
「ごほっごほっ…ヒューヒュー…マクシ…ム様っ…ゼェゼェ…」
「水吸い込んだだろ、鼻抑えて、フンって出せ!」
――そんな恥ずかしい事出来ません!!――
フルフルと息も絶え絶えな中、首を横に振ると「俺が吸ってやろうか」と。
――お止めくださいませ!!恥ずか死してしまいます――
呼吸も落ち着いて参りました。水の中で息をするとこんなに苦しいのですね。
水の中でも相当に苦しかったですが、水面に上がっても苦しいとは。初体験でございます。
「マクシム様が底にある石で休めと…」
あら?何故遠くを見るような目をしていらっしゃるの?
「溺れる所だったぞ。溺れるのは俺の愛だけにしとけ」
わたくしもつい、遠くを見てしまいました。
遠くの緑は目に優しい…本に書いてあった通りでした。
ブルっ…寒い。
この寒さは滝壺の水の寒さだけではないと本能が訴えるのは何故かしら。
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