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♡試される勇気
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一頻り泣くととてもスッキリ致しました。
わたくし自身が想うよりも、ずっとマクシム様を騙していた事が負担になっていたのかも知れません。
しかし、お兄様と叔母様には無事だと言う事を知らせたい気持ちは変わりません。
お兄様は隣国に留学をしておりますし、叔母様は遠い領地に住んでおられます。過去に1、2か月手紙などのやり取りが無かった事は多々御座いますが、今は状況が違います。
せめて無事だと言う事は知らせておきたいのです。
「マクシム様、実は事情があって偶然こちらに来ることになったのですけれど、お兄様とわたくしの母の妹である叔母様に手紙を出したいのです」
「兄上と叔母上に?それは構わないがご両親には手紙は出さないのか?」
「母はもう亡くなっておりますし、父は…なんと申しましょうか…」
「ふむ。言いにくい事は無理に言うな。しかし手紙か…受付所がある一番近い町はここから馬車なら1週間はかかる。馬車の停車場は隣国ボンヌ国からは終点の地。そこからアルメイテ国の王都行きの馬車に乗って3日、時に4日目に休憩する一番大きな町まで行かないとないな」
「1週間でございますか…往復で2週間でございますね」
「馬車でな」
「え…」
そうで御座いました。停車場からここまでは牛車も御座いましたが3日半かかります。
歩けば倍の日数はかかりそうです。それに折角交換して頂いた皮の靴もこの頃はつま先の部分がカパカパとしておりますし、1日歩くとなれば靴が靴として形を保ってくれるかも問題で御座います。
と、申しますか…
「マクシム様、今、何と申されまして?」
「言いにくい事は無理に言わなく――」
「もっと先です!馬車の停車場って…隣国ボンヌ国と聞こえた気がいたします」
「そうだが?」
「なれば、ここはアルメイテ国と言う事ですの?」
「何を今更。もう1週間もここにいるし、何よりアルメイテ国境行の馬車に乗ったのはプリエラじゃないか」
滞在期間が長いからと知り得るわけでは御座いませんのよ?
そもそも、その馬車に乗ったのは…行き先を確認していないわたくしが悪いのは判りますが、あの時は場所を確認する暇もなかったのです。
「馬車に乗った時は、急いでいたのです。行き先は全く存じませんでした」
「ブッ!!なかなかの豪傑だな。行き先も判らずに出発点から終点の馬車に乗るか?片道の馬車代だけでもボンヌの一般文官の飲まず食わずで貯めた給料2、3か月分になるぞ?」
「えぇっ?!飲まず食わずって…倒れますわ」
「‥‥‥‥うん。まぁ、倒れるよな。だからそこは普通、半年から1年弱貯めると思わないか?何よりプリエラは金を払って馬車に乗ったんだろう?」
「…ってません…」
「え?」
「払っていません」
「いやいや、流石に無賃乗車は無理だろう?」
「あの時は急いでいて…お金と交換してくれるお店に行けなかったのです。なので髪飾りを…」
「髪飾りか…」
どうされたのでしょう。髪飾りと聞いてマクシム様はわたくしの髪を撫でてくださいますが、目がトロン?となっておりますわよ?まさか髪飾りまでお手製を作ってくださるのでしょうか。
「判った」
――何が判りましたの?――
「近いうちに叔父が来るから頼んでみよう」
「え?でも街に行くのは半年後だからと湯船を…」
「それは俺がここから出向く時だ。叔父は年に数回、と言っても1、2回だがここに来るからな」
――そう言えばそんな事を仰ってましたわね――
「さて、チュールップルはまた今度にするか」
――今度も何も、今日のご予定ではなく明後日でしたわよね?――
木で作った大きなスプーンを手にされたマクシム様は鼻歌をフンフンと歌いながら溝を掘って行かれます。そう、わたくし専用の御不浄を作ってくださっているのです。
何かお手伝いする事はないかと辺りを見回しますが、力仕事は無理です。
水瓶の水すら持ち上げる以前に壺を動かせないのですから、何かしようとするとマクシム様のお手を止めてしまう事になってしまいます。
このような時は、ご本人に聞くのが一番間違い御座いません。
出来ない事であれば、わたくしが「出来ません」と言えばいいのですから。
「マクシム様、何かお手伝いする事は御座いませんか?」
ザクッザクッ 「ん~そうだなぁ」 ザクッザクッ
「わたくしに出来る事であれば、お手伝い致しますわ」
ザクッザクッ 「ん~だったら…」 ザクッザクッ
「なんで御座いましょう(わくわく)」
ザクッザクッ 「ふぅ~歌でも歌ってくれよ。プリエラの歌が聞きてぇな」
一旦手を止めて、汗をぬぐいながらわたくしに微笑まれております。
わたくし、笑顔が上手く返せているかしら…貼りついてませんかしら…
簡単に出来るけれど、ものすごく難しい事を要求されてしまいました。
――人前で、歌う――
確かに大なり小なりの機材も不要で御座いますし、作業をされておられるマクシム様に聞えるようにとなれば、お腹に力を入れて、かなり気合を入れねばなりません。
この場合の気合とは、発声に対するものではなく、発声する己への羞恥心を吹き飛ばす気合で御座います。
選曲も大事で御座います。士気が高揚するような歌となれば身振り手振りもあった方がいいのかしら。ですがそうなると更に己を、かなぐり捨てる覚悟が必要で御座います。
派手なアクションとなれば息が続くかしら。
「プリエラ!!歌って」
わたくしの勇気が試されたのでございます。
わたくし自身が想うよりも、ずっとマクシム様を騙していた事が負担になっていたのかも知れません。
しかし、お兄様と叔母様には無事だと言う事を知らせたい気持ちは変わりません。
お兄様は隣国に留学をしておりますし、叔母様は遠い領地に住んでおられます。過去に1、2か月手紙などのやり取りが無かった事は多々御座いますが、今は状況が違います。
せめて無事だと言う事は知らせておきたいのです。
「マクシム様、実は事情があって偶然こちらに来ることになったのですけれど、お兄様とわたくしの母の妹である叔母様に手紙を出したいのです」
「兄上と叔母上に?それは構わないがご両親には手紙は出さないのか?」
「母はもう亡くなっておりますし、父は…なんと申しましょうか…」
「ふむ。言いにくい事は無理に言うな。しかし手紙か…受付所がある一番近い町はここから馬車なら1週間はかかる。馬車の停車場は隣国ボンヌ国からは終点の地。そこからアルメイテ国の王都行きの馬車に乗って3日、時に4日目に休憩する一番大きな町まで行かないとないな」
「1週間でございますか…往復で2週間でございますね」
「馬車でな」
「え…」
そうで御座いました。停車場からここまでは牛車も御座いましたが3日半かかります。
歩けば倍の日数はかかりそうです。それに折角交換して頂いた皮の靴もこの頃はつま先の部分がカパカパとしておりますし、1日歩くとなれば靴が靴として形を保ってくれるかも問題で御座います。
と、申しますか…
「マクシム様、今、何と申されまして?」
「言いにくい事は無理に言わなく――」
「もっと先です!馬車の停車場って…隣国ボンヌ国と聞こえた気がいたします」
「そうだが?」
「なれば、ここはアルメイテ国と言う事ですの?」
「何を今更。もう1週間もここにいるし、何よりアルメイテ国境行の馬車に乗ったのはプリエラじゃないか」
滞在期間が長いからと知り得るわけでは御座いませんのよ?
そもそも、その馬車に乗ったのは…行き先を確認していないわたくしが悪いのは判りますが、あの時は場所を確認する暇もなかったのです。
「馬車に乗った時は、急いでいたのです。行き先は全く存じませんでした」
「ブッ!!なかなかの豪傑だな。行き先も判らずに出発点から終点の馬車に乗るか?片道の馬車代だけでもボンヌの一般文官の飲まず食わずで貯めた給料2、3か月分になるぞ?」
「えぇっ?!飲まず食わずって…倒れますわ」
「‥‥‥‥うん。まぁ、倒れるよな。だからそこは普通、半年から1年弱貯めると思わないか?何よりプリエラは金を払って馬車に乗ったんだろう?」
「…ってません…」
「え?」
「払っていません」
「いやいや、流石に無賃乗車は無理だろう?」
「あの時は急いでいて…お金と交換してくれるお店に行けなかったのです。なので髪飾りを…」
「髪飾りか…」
どうされたのでしょう。髪飾りと聞いてマクシム様はわたくしの髪を撫でてくださいますが、目がトロン?となっておりますわよ?まさか髪飾りまでお手製を作ってくださるのでしょうか。
「判った」
――何が判りましたの?――
「近いうちに叔父が来るから頼んでみよう」
「え?でも街に行くのは半年後だからと湯船を…」
「それは俺がここから出向く時だ。叔父は年に数回、と言っても1、2回だがここに来るからな」
――そう言えばそんな事を仰ってましたわね――
「さて、チュールップルはまた今度にするか」
――今度も何も、今日のご予定ではなく明後日でしたわよね?――
木で作った大きなスプーンを手にされたマクシム様は鼻歌をフンフンと歌いながら溝を掘って行かれます。そう、わたくし専用の御不浄を作ってくださっているのです。
何かお手伝いする事はないかと辺りを見回しますが、力仕事は無理です。
水瓶の水すら持ち上げる以前に壺を動かせないのですから、何かしようとするとマクシム様のお手を止めてしまう事になってしまいます。
このような時は、ご本人に聞くのが一番間違い御座いません。
出来ない事であれば、わたくしが「出来ません」と言えばいいのですから。
「マクシム様、何かお手伝いする事は御座いませんか?」
ザクッザクッ 「ん~そうだなぁ」 ザクッザクッ
「わたくしに出来る事であれば、お手伝い致しますわ」
ザクッザクッ 「ん~だったら…」 ザクッザクッ
「なんで御座いましょう(わくわく)」
ザクッザクッ 「ふぅ~歌でも歌ってくれよ。プリエラの歌が聞きてぇな」
一旦手を止めて、汗をぬぐいながらわたくしに微笑まれております。
わたくし、笑顔が上手く返せているかしら…貼りついてませんかしら…
簡単に出来るけれど、ものすごく難しい事を要求されてしまいました。
――人前で、歌う――
確かに大なり小なりの機材も不要で御座いますし、作業をされておられるマクシム様に聞えるようにとなれば、お腹に力を入れて、かなり気合を入れねばなりません。
この場合の気合とは、発声に対するものではなく、発声する己への羞恥心を吹き飛ばす気合で御座います。
選曲も大事で御座います。士気が高揚するような歌となれば身振り手振りもあった方がいいのかしら。ですがそうなると更に己を、かなぐり捨てる覚悟が必要で御座います。
派手なアクションとなれば息が続くかしら。
「プリエラ!!歌って」
わたくしの勇気が試されたのでございます。
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