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△嵌められた王太子

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ラウール殿に蹴り飛ばされた肩がまだ傷んで腕があげられないがこれ以上城の中で報告を待っていても仕方がない。ラウール殿とファティマ夫人にはあれから何度面会を申し出る先触れを送っても、開封すらされずに戻って来る。

頭を抱える日々を過ごしていたが、私を悩ませるのはそれだけではなかった。


『明らかに王家に対する謀反、逆臣ですぞ』

目の前の貴族はそう言うが、私は知っている。
その貴族たちは連座こそ逃れたが、ギレイム侯爵の腰巾着だった者達だ。
そして色々な事実が明るみに出てくるとガルティネ公爵代行と共に娼館を一晩借り上げて飲み明かしたり、視察と称して各地の色街や酒場で連日豪遊をしていた者達だ。

パトロンだったガルティネ公爵代行が居なくなり、当主がラウール殿になってからは徒党を組んで次のパトロンを探しているのだが、物騒な動きがあると執事や従者からも報告を受けている。

しかし「付き合いを断る事は出来なかった」と言われればそれまで。
ガルティネ公爵代行やギレイム侯爵は彼らよりも爵位が上。誘いを断る事が出来ず付き合っただけのものを処分する事は出来なかった。

王家に対しての態度がなっていないと【年下】であるラウール殿が【公爵】となった事で過激な言動が目立つ者が擦り寄って来るようになったのだ。

そして彼らはプリエラが行方不明でフローネも侯爵家が没落。それ以外に女の影が一切なかった私に己の娘はどうか、娘が気に入らないなら親戚筋から気に入る娘を選んでほしいとこの頃は歯に衣着せぬ物言い。


それにも苛立つが、最も苛立つのは一向に捜索に兆しも見えない事だった。

父上には【廃太子、廃籍も覚悟の上】と告げて私は痛む体に鞭打って、自ら馬に跨り捜索に出る事にした。王太子である私が直接捜索に乗り出した事は直ぐ、民衆に知れ渡った。







3名の兵士を連れて先ずは王都内の宿屋を回っていた時だ。
この宿屋にもいないと建物を出て馬に跨ろうとした時だった。
護衛の騎士もそれぞれの馬の元におり一瞬の隙をついて一人の女が近寄ってきた。


「ジョルジュ殿下、お話が御座います」

言葉の語尾などからしてボンヌ国の人間ではないと思ったが30代にも見えるその女は私にそっと告げた。

【ガルティネ公爵令嬢の件でお話が御座います】


しかし、女はここでは話せないと言った。
周りを伺う様子から誰かに狙われているのではないかと思った私は、一緒に捜索に当たってくれている兵士に先程までプリエラが泊まっていないか、立ち寄っていないかと聞いた宿屋に部屋を一つ用意するようにと頼んだ。


宿の廊下でも周囲を気にする女は【人払いをして欲しい】と私に言った。
背中に冷たいものが伝っていく。

プリエラが暴漢たちに慰み者にされたのであれば、そんな話を護衛の兵士にも聞かれるのは良くないと判断したのだ。渋る兵士を説き伏せ、部屋の前で待つように言って私と女は部屋に入った。

椅子に腰かけようかとした時、私を呼ぶ声がした。

「ジョー!!」

「どうしてここに…」

声の主はフローネだった。そして扉の内鍵がカチリとかかる音がした。

一瞬脳裏を不安がよぎったが、フローネは私に抱き着き、泣きながら訴え始めたのだ。


「聞いてよ!ジョー。貴方だけは信じてくれるでしょう?私がガルティネ公爵当主代理だった男と共謀したなんて!酷い嘘よ。お願い。信じて。私はジョー、貴方とした事しか知らないの」


声をあげて私に抱き着いたまま泣き出したフローネを体から離した。
もう間違いは犯してはならないのだ。


プリエラの情報があると言う女と2人きりというだけでも危ういのに、抱き着いて泣くフローネ。

突き飛ばせば、大きな物音に周囲が集まって来るだろう。鍵のかかった部屋で力の弱い女性に暴力を振るう暴虐非道ぼうぎゃくひどうな者だと知らしめることになる。

かといって、ここで慰めるために抱きしめればただの浮気者。
これでどれだけ間違ってきたのかと自分を戒めた。


「フローネ、手を放してくれないか」

「嫌っ。ジョーにやっと会えたのよ?お願いよ。私の話を聞いて!」

「判った、判ったからとにかく離れてくれないか」


フローネの腕は私の胸の前にあったのに、それが腕を包むように背に回される。

「フローネ、やめ――ウゥッ!!」


――なんだ…どうして――


背後から話があると言った女が甘く香る布で私の鼻と口を背後から塞いだ。
抵抗をしようにも抱き着き、腕を背にしたフローネは渾身の力で私を拘束する。

通常なら抵抗できたはずだった。
だが、肩が痛くて上がらない上に、痛む肩の上に背後の女の腕がのしかかり重みをかける。
ビリビリとした激痛だが、深く何度も吸い込んだ甘い香りに目の前が歪み、痛みも痛みと感じているのだがそれ以上に目の前がぐるぐると回り始めた。


心地よい風に目が覚めれば寝台に裸で寝ていた。
隣には同じく全裸のフローネ。そして窓際のテーブルで煙管をふかしている女。
私を見てニヤリと笑った。

――やられた――

掛布を跳ねのけると、シーツに散った僅かな赤い飛沫と私の残滓がそこにあった。
フローネの下生えも、まだ濡れているのが見える。

私の股の間にも同じように擦れた血液と、嗅ぎなれた匂いが薄く残る。
この状況をなんとかしなくてはと寝台から降りようとしたが、脚が震えて立てず大きな音を立てて私は寝台から転げ落ちた。

ドンドンと扉を叩く音と兵士の声が聞こえてくる。

「殿下!どうされましたっ!?どうして?!何故鍵がかかっているのですか!」

ガチャガチャとドアノブを回す音に、私は咄嗟に「何でもない」と返事をしてしまった。それはこの場に扉を蹴破り踏み込まれれば言い逃れが出来ないと思ったからだ。

「何でもないんだ。は、話はもうすぐ終わる」

声をあげれば廊下は静かになった。
女とフローネの口角があがり、私は嵌められた事を認めるしかなかった。
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