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♡妻の探求心、夫の使い道
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「情けない男ですまない」
「そんな事で情けないとは思いません。顔をあげてくださいな。今日はわたくしが夕食を作りますわ!」
「いや、それはやめたホウガ…」
「マクシム様!クルミの実を採りに参りましょう」
「お、おぅ‥‥ってそこから?」
わたくしとマクシム様は外に出てクルミの収穫を始めたので御座います。
「落ち込んだ時こそ、兎に角食べなさい。お腹が満たされれば半分忘れます」
亡くなったお母様がよく仰っておりました。
公爵家などで食していたクルミ。
クルミと言えば大抵はスープの具であったり、メインの肉と細かく砕いたクルミを一緒に香ばしく焼き上げたもので御座いましたが、小屋、いえ家屋の東側にクルミの木があったので御座います。
マクシム様が「旨いから!」と作って?割って?くださったことが御座います。
炒ったばかりの種の中身の美味しさといったら!至福で御座いました。
こんな美味しい物が世の中にあったなんて!!
クルミは緑色の実が6、7個まとまって実っているのですが、それを取り、土に埋めるのです。
「何故土に埋めますの?確か植物は土に埋めると芽が出るのでは?今から木々になる成長を待つのですか?」
「いや?落ちたままだとリスやら狸が食っちまう。イノシシもな。だから果肉の付いたまま土に埋めて果肉を腐らせるんだ。そうすると種が取りやすくなる。イノシシは鼻が利くから時々掘り起こされるけどな」
「そうなのですね。存じませんでしたわ」
「おっと!触るな」
緑色のクルミ。まだ果肉が付いているのですが手に取ろうとするとマクシム様に止められてしまいました。なんでもウルッシという樹木の樹液に触れると肌に酷い発疹が出ると言うのですが、それと同じような症状が出ると言います。
「気触れない事もあるが、基本は触れると気触れると思え。靴で蹴り飛ばして穴に入れるか、木の枝なんかで転がすんだ。絶対に触れるなよ」
少々マクシム様は過保護なところも御座いますが、わたくしも知らない事ばかりですので大人しく指示に従う事にしたのです。
3、4週間経つと緑色の実は腐ってきますので、掘り起こし中の種を取るのです。
その種を土鍋しか御座いませんので、土鍋で炒って割ると具材のクルミが出てくるのです。
具材のクルミが種の中だと言う事を知った日は目がドングリ、いえクルミかと思うほどに丸くなりましたわ。
どの木から生ったのかも知ってのクルミはとても美味しゅうございます。
殻が固くて多くは食せませんし、保存食ですので少量で御座いますがわたくし、大好きになったのです。
そうなれば【沢山食べたいな】と思うのは世の常と言うもので御座います。
わたくしの戦力外時のお仕事は家屋が見える範囲で散歩でございます。
そして画期的な発見をしたのです。ふふふ。
マクシム様が滝壺に水を汲みに行かれている間に散歩をしていた時の事で御座いました。クルミの木の回りを歩いていると足に違和感が。つまり地面に何かがあるのです。
それは熟れてしまってポトリと落ちたクルミ。
黒っぽくなっているのが不気味で御座いましたが、黒いのは果肉が腐っていたのです。
木の枝をナイフとフォークに見立てて腐った皮を取り除いてみると!!
なんとクルミの種が出てきたのです。
種は非常に硬い殻で覆われておりますから腐っているか、いないか判りません。
わたくしに割る事は出来ませんもの。
そのまま捨て置こうと思いました。思いましたが‥‥
――わたくし、クルミが大好きなんですの!――
もしかしたら食べられるかも?
念のため触れないように葉っぱで抓んで傾いたテーブルに並べておいたのです。
諦めきれない女の未練で御座います。
するとそれをマクシム様は「出しっぱなしだったか?」と呟きながらも片付けてくださいました。それは良いのです。それは。ですが混ぜられてしまったクルミの種。
――どれがどれだったか判らないわ!――
考えあぐねたわたくしはマクシム様に食して頂く事にしたのです。
マクシム様もクルミは大好きなのです。いつも3個割って、1つはわたくしにくださいますが、マクシム様は1つを食べて半分こと言いながらも三分の二を食される。ズルいですわ!
日頃の恨みなど御座いません。決して。決して!御座いません。
腐っているかどうか。知らずに混ぜたものをマクシム様がおやつ代わりに食されて、お身体に異変がなかった事を確かめました。
念には念を入れて数回。マクシム様に何の異常も見られないのでわたくしも一口。
――美味しい♡特に味が変わると言う事はないようだわ――
ニヤリ。
わたくし気が付きましたの。土に埋めてもそのまま落ちているのも同じだと。
果肉は食べられませんから落ちたものを拾うのです。果肉の皮が腐っていれば腐っているほど種は取りやすいのです。
「マクシム様!ここにも御座いますわ!」
「おぅ…凄いな。動物との競争になるがこれなら土に埋めなくてもいいな」
「そうで御座いましょう?拾い終わったら土鍋で炒って割ってくださいませ」
「よし!任せろ」
ゴリリ…ガリリ…ガシュっ
マクシム様がクルミの種を取り出してくださり、土鍋で炒ってくださいます。
「マクシム様、土鍋を洗って、ソルト草で湯に下味をつけてくださいませ」
「多めにクルミがあるから薄味にしとこうな」
「お任せ致しますわ。あ、ついでにタイーモも入れると美味しゅうございましてよ?」
皮を取るとヌメヌメして少し痒くなるタイーモも水で洗い、皮を取ってくださると湯に放り込むマクシム様。沸騰し暫くしたら炒って細かく砕いたクルミを入れるので御座います。
「よしできた!食うか?」
「はい。召し上がってくださいませ」
「えぇっと、作ったの俺…ま、いいか!」
「オホホ。些細な事を気にしては体に毒でしてよ」
いつもよりも倍以上入ったクルミ。ほくほくしたタイーモがソルト草の塩味を引き立たせます。
わたくし、もう戦力外では御座いませんわよ。
人類の飽くなき食への探求心。
何時だったか読んだ本に書かれて御座いました。
あとは、同じ方法で表面の皮を腐らせれば食べられであろうマクワウリリン。
様子をみていた物はブヨブヨになって中まで腐っていましたので、中の果肉が最高に感じる食べ頃を追い求めねばなりません。マクシム様、お付き合いくださいませね?
「ん?どした?おかわりか?」
「いいえ?デザートの事を考えておりましたの。フフフ」
「そんな事で情けないとは思いません。顔をあげてくださいな。今日はわたくしが夕食を作りますわ!」
「いや、それはやめたホウガ…」
「マクシム様!クルミの実を採りに参りましょう」
「お、おぅ‥‥ってそこから?」
わたくしとマクシム様は外に出てクルミの収穫を始めたので御座います。
「落ち込んだ時こそ、兎に角食べなさい。お腹が満たされれば半分忘れます」
亡くなったお母様がよく仰っておりました。
公爵家などで食していたクルミ。
クルミと言えば大抵はスープの具であったり、メインの肉と細かく砕いたクルミを一緒に香ばしく焼き上げたもので御座いましたが、小屋、いえ家屋の東側にクルミの木があったので御座います。
マクシム様が「旨いから!」と作って?割って?くださったことが御座います。
炒ったばかりの種の中身の美味しさといったら!至福で御座いました。
こんな美味しい物が世の中にあったなんて!!
クルミは緑色の実が6、7個まとまって実っているのですが、それを取り、土に埋めるのです。
「何故土に埋めますの?確か植物は土に埋めると芽が出るのでは?今から木々になる成長を待つのですか?」
「いや?落ちたままだとリスやら狸が食っちまう。イノシシもな。だから果肉の付いたまま土に埋めて果肉を腐らせるんだ。そうすると種が取りやすくなる。イノシシは鼻が利くから時々掘り起こされるけどな」
「そうなのですね。存じませんでしたわ」
「おっと!触るな」
緑色のクルミ。まだ果肉が付いているのですが手に取ろうとするとマクシム様に止められてしまいました。なんでもウルッシという樹木の樹液に触れると肌に酷い発疹が出ると言うのですが、それと同じような症状が出ると言います。
「気触れない事もあるが、基本は触れると気触れると思え。靴で蹴り飛ばして穴に入れるか、木の枝なんかで転がすんだ。絶対に触れるなよ」
少々マクシム様は過保護なところも御座いますが、わたくしも知らない事ばかりですので大人しく指示に従う事にしたのです。
3、4週間経つと緑色の実は腐ってきますので、掘り起こし中の種を取るのです。
その種を土鍋しか御座いませんので、土鍋で炒って割ると具材のクルミが出てくるのです。
具材のクルミが種の中だと言う事を知った日は目がドングリ、いえクルミかと思うほどに丸くなりましたわ。
どの木から生ったのかも知ってのクルミはとても美味しゅうございます。
殻が固くて多くは食せませんし、保存食ですので少量で御座いますがわたくし、大好きになったのです。
そうなれば【沢山食べたいな】と思うのは世の常と言うもので御座います。
わたくしの戦力外時のお仕事は家屋が見える範囲で散歩でございます。
そして画期的な発見をしたのです。ふふふ。
マクシム様が滝壺に水を汲みに行かれている間に散歩をしていた時の事で御座いました。クルミの木の回りを歩いていると足に違和感が。つまり地面に何かがあるのです。
それは熟れてしまってポトリと落ちたクルミ。
黒っぽくなっているのが不気味で御座いましたが、黒いのは果肉が腐っていたのです。
木の枝をナイフとフォークに見立てて腐った皮を取り除いてみると!!
なんとクルミの種が出てきたのです。
種は非常に硬い殻で覆われておりますから腐っているか、いないか判りません。
わたくしに割る事は出来ませんもの。
そのまま捨て置こうと思いました。思いましたが‥‥
――わたくし、クルミが大好きなんですの!――
もしかしたら食べられるかも?
念のため触れないように葉っぱで抓んで傾いたテーブルに並べておいたのです。
諦めきれない女の未練で御座います。
するとそれをマクシム様は「出しっぱなしだったか?」と呟きながらも片付けてくださいました。それは良いのです。それは。ですが混ぜられてしまったクルミの種。
――どれがどれだったか判らないわ!――
考えあぐねたわたくしはマクシム様に食して頂く事にしたのです。
マクシム様もクルミは大好きなのです。いつも3個割って、1つはわたくしにくださいますが、マクシム様は1つを食べて半分こと言いながらも三分の二を食される。ズルいですわ!
日頃の恨みなど御座いません。決して。決して!御座いません。
腐っているかどうか。知らずに混ぜたものをマクシム様がおやつ代わりに食されて、お身体に異変がなかった事を確かめました。
念には念を入れて数回。マクシム様に何の異常も見られないのでわたくしも一口。
――美味しい♡特に味が変わると言う事はないようだわ――
ニヤリ。
わたくし気が付きましたの。土に埋めてもそのまま落ちているのも同じだと。
果肉は食べられませんから落ちたものを拾うのです。果肉の皮が腐っていれば腐っているほど種は取りやすいのです。
「マクシム様!ここにも御座いますわ!」
「おぅ…凄いな。動物との競争になるがこれなら土に埋めなくてもいいな」
「そうで御座いましょう?拾い終わったら土鍋で炒って割ってくださいませ」
「よし!任せろ」
ゴリリ…ガリリ…ガシュっ
マクシム様がクルミの種を取り出してくださり、土鍋で炒ってくださいます。
「マクシム様、土鍋を洗って、ソルト草で湯に下味をつけてくださいませ」
「多めにクルミがあるから薄味にしとこうな」
「お任せ致しますわ。あ、ついでにタイーモも入れると美味しゅうございましてよ?」
皮を取るとヌメヌメして少し痒くなるタイーモも水で洗い、皮を取ってくださると湯に放り込むマクシム様。沸騰し暫くしたら炒って細かく砕いたクルミを入れるので御座います。
「よしできた!食うか?」
「はい。召し上がってくださいませ」
「えぇっと、作ったの俺…ま、いいか!」
「オホホ。些細な事を気にしては体に毒でしてよ」
いつもよりも倍以上入ったクルミ。ほくほくしたタイーモがソルト草の塩味を引き立たせます。
わたくし、もう戦力外では御座いませんわよ。
人類の飽くなき食への探求心。
何時だったか読んだ本に書かれて御座いました。
あとは、同じ方法で表面の皮を腐らせれば食べられであろうマクワウリリン。
様子をみていた物はブヨブヨになって中まで腐っていましたので、中の果肉が最高に感じる食べ頃を追い求めねばなりません。マクシム様、お付き合いくださいませね?
「ん?どした?おかわりか?」
「いいえ?デザートの事を考えておりましたの。フフフ」
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