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第21話  空を見上げる見栄っ張り

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「今日、来なかったから心配したよ。大丈夫だったか?」

ライネルはシェイナを気遣った。
そんなライネルにシェイナは申し訳なくて顔があげられず俯いたまま。

「どうしたんだ?やはり何か‥‥されたのか?」

シェイナは首を横に振った。

「違うんです。私…汚いなって…ズルいなって…」

立ったまま俯くシェイナにライネルは席を立つと近寄り、背を撫でた。

「どうしてそう思うんだ?」
「判らなくなっちゃって。教会には危ないからって両親も言うし、私も行かない方がいいかなって」
「危ないとは…元婚約者?」
「はい。彼…怒るとどんな行動に出るか判らなくて。でもそれだけじゃないんです」

シェイナは1人になって考えたのだが、考えれば考えるほど混乱してしまった。
恋愛経験など場数を踏んでいる訳でもなく、今の気持ちを軽く相談できるような友人はいない。友人はいるのだがどう切り出していいのかも判らない。

「俺に言ってみな?壁だと思ってさ。独り言だと思えばいい。吐き出してしまえ」

――吐き出せって…簡単じゃないのよ――

体を寄せて肩を抱かれるとライネルの体温が伝わってくる。
もう全部もたれかかってもいいかな。そう思えるくらいにシェイナは解らなくなっていた。

「彼が謝ったんです。全部俺が悪いって。それを聞いたら許さなきゃいけないのかなって思って」
「うん。それで?」
「でもビヴァリーとなんて…許せなくて…。だって私の部屋だったんですよ?」
「酷い裏切りだね」
「でしょう?だから絶対許せないって‥‥思ったの。でも…」
「俺が悪い!全部俺の責任だ。君は何一つ悪くない。愛しているのは君だけだ…とでも言われた?」

シェイナはハッとした。全てが同じではないがチャールズの言いたかった事は今、ライネルの言った言葉じゃないかと。

シェイナの驚く顔を見てライネルは「あ~」天井を見た。

――昔の俺、まんまじゃねぇかよ――

チャールズに同情はしない。ライネルもやらかしたので同類と言えば同類だが同情する気にはなれなかった。かと言って弱っているシェイナを取り込もうとも思わない。
それは卑怯だと思うし、何よりライネルは自分には人に思いを告げる資格はないと思っている。

「良いんじゃないか?」
「良いの?」
「良いと思うよ。とっても素直な感情だと思う。嫌な事をされてもう受け入れる事は出来ない。素直な感情だ。でも相手は謝っている。許さなきゃいけないのかなと思う。それも素直な感情。相反するものだから悩むんだよ。それは…シェイナさん。君が彼の事を本当に好きだったから迷いが出る。それだけなんだ」
「でもっ!!」

シェイナは体をライネルに向けて真っ直ぐに向き合った。

「でも、この事で家の商売は行き詰まってるし、変な噂がどんどん広がってるし、お父様もお母様も困ってるし、なのに私が彼を許してもいいのかなって…」

「関係ないよ。色々と詰め込んで考えるからややこしいんだ。そうだ…シェイナさんは茶葉を作るだろう?」

突然話題を変えたライネルにシェイナは「???」疑問符が飛んだ。

「さぁ、茶葉を作るのに摘み取ろうとした時、ヤブガラシが絡まってる。どうする?」
「どうするって…取るけど…面倒だけど取るしかないわ。ブチブチって千切りながらでも」
「だよな?今、シェイナさんの頭の中は色んなことをヤブガラシがツルを巻き付けて絡まってるんだよ。いいか?」

ライネルはシェイナの肩に手を置いた。

「君が彼を許せない気持ち、許そうかなって気持ち、家のこと、ご両親のこと、噂のこと。全部別物なんだよ。同じなのは土から生えてるそれぞれの植物だと思えばいい。それをヤブガラシが絡まって1つにしちゃってるから判らないんだ」

「別々にすればいいの?でも…彼とやり直すにしても…」

「判るよ。人間だからね。色んな事が複雑に絡み合うのが人間だ。でもやり直したいと思うのなら、その時はやり直すのではない」

「違うの?」

「そう。1から始めればいいんだよ。マッサラな状態で今まで知り得た事も全部ナシ!それで2度目の恋を始めればいい」

「出来るのかな…そんな事」

「どうだろうな。人によると思うよ。でもさ、同じ人だと思うから前はあぁだった、こうだったとなるだろ?これが他人だったらどう思う?前の恋人はこうだった、そんな事言われたら喧嘩になるだけだ。同じ人間なんだけど、この人とは初めて。前の恋を踏み台にして2度目の恋なんだ、別人なんだと思えばいい。やり直すのならね」

「考えて…みるわ」

「おぉ~。悩め。悩め。いっぱい考えろ。いいか?30になるとそんな事考える暇もなくなる。10代のうちに思いっきり悩め。30まであと10年もあるじゃないか」

「失礼ね!20歳になりましたっ!」

「うぇっ?!イツダヨ‥‥」

シェイナの顔に笑顔が戻った。ライネルは嬉しかったが心の中は複雑だった。まるでシェイナがさっきまで悩んでいた思いがそっくりそのままライネルに移ってしまったかのように。

――これで良いんだよ…ビオレッタのように幸せになってくれればそれでいい――


エスラト男爵家からの帰り道、ライネルは空を見上げた。

「涙なんか…零れ…ねぇぞ‥‥くそっ!やっぱ俺には独りぼっちがよく似合うんだよっ!」

ライネル31歳。見栄っ張りなボヤキに月がクスっと笑った気がした。


★~★
部分的に表現を変えました<(_ _)>
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