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第2章 いつか、あなたに会う日まで

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 寮生の1年生女子が囲むランチのテーブルに、メリッサが案内してくれた。
 明日からはこの1年席に、絶対に座ろう。
 気を取り直して、クラスメートの女子達と会話をやり取りして。
 今日がいつなのか、判明した。

 月曜日に入学して、今日は木曜日。
 火曜日から授業選択のオリエンテーションが2日あって、今日から午後も授業があり、この後、決定された時間割りをひとりひとり受け取るらしい。


 午後からの授業の予鈴が鳴り、全員でだらだらと教室へ向っていると。
 今日も早めに下校出来そうだし、授業が始まって宿題に追われる前の最後の日だから、夕食まで皆で街に繰り出そうと意見が出た。


「シーズンズに行きたいね」

「予約いっぱいだって」

「じゃあ違うとこ?」


 10人以上で甘いものを食べるのは、女子の連帯感を共有するのに必要だとは思うけれど、わたしは不参加を伝えた。
 以前のわたしなら、他に用があるからと行かない選択はなかった。
 皆と同じ様に行動しないと、外れてしまうと思っていたのだ。
 外れてしまうことが一番怖かった。


「ジェリー、何で行かないの?」

 行かない理由を尋ねられたので、今日は祖父と約束があって、と答えた。
 これなら、協調性のない女だと文句は出ないと思う。




 お酒を提供しない飲食店やカフェは朝食を食べさせる店が多く、早朝開店して18時前には閉店していた。
 そんな中、シーズンズは11時開店22時閉店で、学校や仕事帰りに寄ってもゆっくり出来ると、食事やお酒を出さなくても人気があった。
 イートインは予約がなければ無理だったし、21時までのテイクアウトは行列が名物扱いされる程だった。

 それで、わたしとシーズンズの関係を学院内で明かすのは、面倒の元としか思えなくて秘密にしていた。
 前回はメリッサにだけ、半年以上経ってから告白したけれど、彼女の性格も口の堅さも既に知っているから打ち明けるのは、もっと早くてもいいかな。



 放課後、寮に戻り私服に着替えて、寮母さんに祖父の邸に行く旨と夕食不要の届けを提出した。
 そして学院前のバス停から2階建てオムニバスに乗り込んだ。
 上級生と思われる何人かは一緒に乗り込んだが、幸い街へ繰り出すと言ってたクラスメート達とは時間がずれていたようで、ホッとした。


 屋根無しの2階部分に乗って、午後の風に吹かれて振動に揺られながら、わたしはオルとの会話を思い出していた。


 それは時戻しの魔法に掛けられる前に、確認したことだった。


『わたしが3年後に時戻しの魔法に掛けられて、16歳からやり直しになったこと』

 それを誰かに打ち明けてもいいのか、という……




「君のひとりだけの力では無理なこともあると思う。
 この人なら、と協力を仰げそうな人になら打ち明けてもいいんじゃないかな。
 それを信じるか信じないかは、相手次第だけどね」



 魔法士の誓いは、魔法士だけに発動される。
 元々、時戻しは術者が行うもので、他者に時戻しを掛ける等今まで無かったのだと言う。
 オルはその盲点を衝ける、と笑っていた。


「今回、君が俺から掛けられたことを報告すれば、また新たに誓約が増えると思うけど、現状では掛けられた君には何の制約もかけられていない。
 だけど、呉々も神の領域だけは触れないように気をつけて」


 それならば、協力を得たいのは先ずはこの人しか居ない。
 

 わたしはこれから、ムーアのじぃじ。
 ヒューゴ・ムーアに『時戻し』を打ち明けて、協力して貰おう、と決めた。


 わたしの祖父は、いち早くモニカの本性に気付いていた。
 王都に出てきたモニカを身近で牽制出来ずに、素行調査をフィリップスさんに依頼するくらいに。


 この年のじぃじが、既にモニカに目を付けていたかは、わからないけれど、全てを話すならじぃじしか居ない。


 時戻しを信じるか信じないかは、祖父次第。
 信じて貰えないなら、乙女の夢物語で終わらそう。


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