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番外編
小さな少女は凄腕の薬師だった(マルケス商会西通り支店長視点)
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その少女は、エアハルト様と一緒にいらっしゃいました。初めてお見かけしたお客様で、珍しそうに店内をご覧になっておりました。
つい微笑ましく見ていたのをエアハルト様に見られ、その少女を紹介してくださいました。
「はじめまして。リンと申します。他国から来たのでどんな品物があるのかわからないので、教えてください」
「これはご丁寧に。わたくしはこの通りの支店長をしております」
「よろしくお願いいたします」
丁寧に頭を下げて挨拶をしてくださる少女に、とても好感が持てました。このときは成人していると思っていなかったのです。
親と一緒にこの国に越してきたのだとばかり思っておりました。ですが、ご本人から孤児であることと、途中まで一人で旅をしてきたこと、王都の手前でエアハルト様やビルベルト様と出会い、ここまで連れてきていただいたと聞いて、さらに驚きを隠せませんでした。
そして薬師であることも。
とりあえずと、エアハルト様と一緒に店内をご案内させていただきましたところ、どの商品に対しても、キラキラとした目で説明を聞いておられるのが印象的でございました。そして、薬草の発注も、他の薬師や医師に迷惑がかからないよう、必要最小限のお買い物をされたうえで、前もってどれくらいの量が欲しいと、仰ってくださったのです。
しかも、期間をとても長くとってくださいました。
このような発注をなさる薬師は初めてでしたし、とても可愛らしい方でしたのでつい贔屓をしそうになりましたが、グッと我慢をいたしました。もちろん、余裕を持って発注してくださいましたのは、わたくしどもとしてもとてもありがたいことです。
その日を皮切りに、少女――リン様はいろいろなものを買ってくださいました。
薬草はもちろんのこと、日用品や食材も買ってくださるのです。その中で一番の衝撃は、不良在庫となっていた米でした。
王都ではココッコを飼う方がほとんどおらず、いても少数ですので、なかなか売れなかったのです。それが、リン様が米を見て目を輝かせたあと、買えるだけ欲しいとおっしゃいまして、驚きました。
お金はあるのかと心配をしていたのです。
ですが、それは杞憂に終わりました。なんと、こちらが提示した金額をあっさりと、しかも一括で支払ってくださったのです。
いくら薬師が西地区にはリン様しかいないといえど、そこまで儲けられるとは考えられません。ですが、ご本人様から神酒やハイパー系のポーションを作って売っているとお聞きし、納得したのです。
そして震えもきました。
見た目が少女ですが、成人している方が、伝説とさえ言われている神酒やハイパー系を作れることに。
だからこそ、滅多に出ない薬草を買ってくださることに納得もいたしました。きっと、それらは上級ポーションの材料なのだろう、と。
毎日来られて、いろいろ買ってくださるリン様でしたが、ある日を境に、食材を買う量が増えました。どうしたのかお聞きすると、従魔が増えたとのことでした。
その時はエンペラーハウススライムとデスタラテクトを両肩にのせておいででしたが、そのうちグレイハウンドやビッグキャットをお連れするようになりました。リン様の護衛としてついてきているからと。
王都周辺のダンジョンや森には生息していない魔物でしたので、最初は震えておりましたが、こちらがなにもしなければ、とてもおとなしい魔物でした。理知的な目をしていて、リン様をとても尊敬や敬愛している目で見ていたのです。
ある日、グレイハウンドにどうしてリン様の従魔になったのか、聞いてみました。すると、とても酷い怪我をして死を覚悟していたのに、リン様は躊躇うことなく神酒を使い、酷かった怪我を治してくださったのだと仰ったのです。
それは他にも従魔となった魔物たちも同じで、怪我を治してくれたばかりか、ご飯もきちんと出してくださると、とても嬉しそうに話してくださいました。
リン様の優しさを垣間見ることができたお話であり、従魔となった魔物たちもリン様を大事に思っていると伺えるお話でございました。
わたくしはそのお話を聞いて、心が温かくなったものです。
他にも、わたくしどもではどうやって使用するのかわからない食材を購入してくださったり、リン様から教えていただいたと冒険者が米を買ってくださるようになったり、ダンジョンで出たよくわからない、シューユとミソというものをたくさん買ってくださったり。
まさか、シューユとミソが調味料だと思いませんでした。もちろん、リン様はその使い方を教えてくださっただけではなく、レシピも無料で教えてくださったのです!
妻や従業員と一緒にその話を聞いて、そして間近で実践してくださいましたが、薬師とは思えないほど、手際がよかったのです。孤児だと仰っておいででしたので、なんでも一人でこなすしかなかったのでしょう。
教わったレシピはとても簡単なものでしたが、アレンジがきくレシピでしたので妻も気に入り、我が家の食卓が豊かになりました。それは今でも感謝しております。
そんなある日、貴族のご友人に贈り物をしたいが、どのようなものがいいのかと聞かれました。他にも珍しい果物はないか、とも。
わたくしどもでも貴金属を扱っておりますが、西地区のほとんどが庶民のみなさまが買いにこられる店です。ですので、中央地区にある本店をご紹介させていただきました。
売り上げの額も、リン様の丁寧な物腰も、貴族のみなさまに引けを取らなかったからです。きっと、本店の店長も気に入ってくださると、自信を持ってご紹介いたしました。
どうやらそれは当たりだったようで、すぐに本店からお礼の連絡が来ました。エアハルト様とご来店なさったそうです。
かなりの高額商品になったそうなので、エアハルト様がお支払いするのかと思いきや、やはりリン様が一括でお支払いをされたそうで、店長も驚いていらっしゃいました。
やはり驚きますよね。貴族が買いに来る中央地区の店に庶民が伺っただけではなく、呆気なくお支払いをされたのですから。
ですが、店長は貴賎で商品を売るような方ではありませんから、すぐに本店に入店するためのカードをご用意したと仰っておりました。
さすが、リン様です。
それからずっと中央地区で買い物をなさると思っておりましたが、リン様はなんら変わることなく、わたくしども西地区をご利用くださいました。あちらは高級すぎて、そんなにちょっちゅう買いにいけないからと仰って。
そんなことはないと思うのですが、まったく買いに行かないというわけではなく、特別なことがあった場合に本店をご利用なさっているようでした。それ以外は、ずっとわたくしどもの店で買い物をしてくださっているリン様に、感謝の念しかございません。
そんなリン様が薬師の神となられると聞いて驚きましたが、神酒を作れるのです。納得もいたしました。
神となられても変わらずに買い物を続けてくださるリン様。
ある日、妻が刃物で指を切り落としてしまったのです。たまたまそこに居合わせたリン様は、躊躇う素振りを見せることなく、わたくしに神酒を差し出してくださったのです!
「あとでいいですから、先に奥様のところに行ってください」
「ありがとうございます!」
「お大事に!」
心配そうに、すぐに妻のところに行くように言ってくださったリン様に感謝し、すぐに妻のところに戻ると、神酒を飲ませました。すると、薄紫色の光が妻の指に集まり、すぐに再生したではありませんか!
しかも、子どもができずにずっと悩んでいた妻のお腹のあたりも、同じ光が現れていたのです。
「あなた……これって……!」
「神酒だよ。凄腕の薬師がいると言っていただろう? その方がたまたま店にいらして、僕に渡してくださったんだ」
「で、伝説の神酒を!?」
「ああ」
「指をなくしたから、諦めていたのに……。それに、なんだかずっと痛かったお腹も、痛みがないの」
小さなころに転んで、当たり所が悪かったのか、お腹の一部を怪我してしまった妻。そのあたりが子を授かる場所だったから、医師には子ができないと宣言されていたそうだ。
わたくしはそれを知ってはいましたが、諦めることなく励んできたのです。ですが、そろそろそれも限界にきていて、二人して養子をとろうかという話をしていた矢先でしたので、もしかしたら……という希望が湧いてきたのです。
それはともかく、指が治った妻と一緒に、リン様のところにお礼を言いにまいりました。そしてすぐにお支払いをしようとしたのですが、その分はリン様が欲しい商品で代用してくれないかと、提案してくださったのです。
欲しいのは米とアジュキ、モチゴメでした。特にアジュキとモチゴメは不良在庫でしたのでありがたいのですが、どうしてリン様がそれを欲しがるのか、不思議で仕方がありません。
しかも、全部かき集めたとしても、どう考えても神酒の値段と吊りあいません。ですから、代金の不足分は金銭でと申し上げたのですが、リン様はいらないと仰いました。
いつも自分の我儘を聞いてもらっているし、奥様の素敵な笑みを見たから、と。
「神酒を割引したのは、内緒にしてくださいね」
「……っ! は、はいっ!」
今回限りですけどね、と茶目っ気たっぷりに話してくださったリン様に、妻と二人で感謝いたしました。
そして数ヵ月後、子を授かりました。翌年には元気な男の子が誕生したのです。
しかも、結果的には三人の子に恵まれたのです!
本当にありがたいことです。リン様が薬師の神となられたことは、必然なのだと感じました。
その後、ひ孫がわたくしどもの話を聞き、リン様に憧れ、リン様のお孫様の弟子となり、立派な薬師となりました。神酒を作ることはできませんでしたが、万能薬とハイパーポーションを作れるまでになったのでした。
つい微笑ましく見ていたのをエアハルト様に見られ、その少女を紹介してくださいました。
「はじめまして。リンと申します。他国から来たのでどんな品物があるのかわからないので、教えてください」
「これはご丁寧に。わたくしはこの通りの支店長をしております」
「よろしくお願いいたします」
丁寧に頭を下げて挨拶をしてくださる少女に、とても好感が持てました。このときは成人していると思っていなかったのです。
親と一緒にこの国に越してきたのだとばかり思っておりました。ですが、ご本人から孤児であることと、途中まで一人で旅をしてきたこと、王都の手前でエアハルト様やビルベルト様と出会い、ここまで連れてきていただいたと聞いて、さらに驚きを隠せませんでした。
そして薬師であることも。
とりあえずと、エアハルト様と一緒に店内をご案内させていただきましたところ、どの商品に対しても、キラキラとした目で説明を聞いておられるのが印象的でございました。そして、薬草の発注も、他の薬師や医師に迷惑がかからないよう、必要最小限のお買い物をされたうえで、前もってどれくらいの量が欲しいと、仰ってくださったのです。
しかも、期間をとても長くとってくださいました。
このような発注をなさる薬師は初めてでしたし、とても可愛らしい方でしたのでつい贔屓をしそうになりましたが、グッと我慢をいたしました。もちろん、余裕を持って発注してくださいましたのは、わたくしどもとしてもとてもありがたいことです。
その日を皮切りに、少女――リン様はいろいろなものを買ってくださいました。
薬草はもちろんのこと、日用品や食材も買ってくださるのです。その中で一番の衝撃は、不良在庫となっていた米でした。
王都ではココッコを飼う方がほとんどおらず、いても少数ですので、なかなか売れなかったのです。それが、リン様が米を見て目を輝かせたあと、買えるだけ欲しいとおっしゃいまして、驚きました。
お金はあるのかと心配をしていたのです。
ですが、それは杞憂に終わりました。なんと、こちらが提示した金額をあっさりと、しかも一括で支払ってくださったのです。
いくら薬師が西地区にはリン様しかいないといえど、そこまで儲けられるとは考えられません。ですが、ご本人様から神酒やハイパー系のポーションを作って売っているとお聞きし、納得したのです。
そして震えもきました。
見た目が少女ですが、成人している方が、伝説とさえ言われている神酒やハイパー系を作れることに。
だからこそ、滅多に出ない薬草を買ってくださることに納得もいたしました。きっと、それらは上級ポーションの材料なのだろう、と。
毎日来られて、いろいろ買ってくださるリン様でしたが、ある日を境に、食材を買う量が増えました。どうしたのかお聞きすると、従魔が増えたとのことでした。
その時はエンペラーハウススライムとデスタラテクトを両肩にのせておいででしたが、そのうちグレイハウンドやビッグキャットをお連れするようになりました。リン様の護衛としてついてきているからと。
王都周辺のダンジョンや森には生息していない魔物でしたので、最初は震えておりましたが、こちらがなにもしなければ、とてもおとなしい魔物でした。理知的な目をしていて、リン様をとても尊敬や敬愛している目で見ていたのです。
ある日、グレイハウンドにどうしてリン様の従魔になったのか、聞いてみました。すると、とても酷い怪我をして死を覚悟していたのに、リン様は躊躇うことなく神酒を使い、酷かった怪我を治してくださったのだと仰ったのです。
それは他にも従魔となった魔物たちも同じで、怪我を治してくれたばかりか、ご飯もきちんと出してくださると、とても嬉しそうに話してくださいました。
リン様の優しさを垣間見ることができたお話であり、従魔となった魔物たちもリン様を大事に思っていると伺えるお話でございました。
わたくしはそのお話を聞いて、心が温かくなったものです。
他にも、わたくしどもではどうやって使用するのかわからない食材を購入してくださったり、リン様から教えていただいたと冒険者が米を買ってくださるようになったり、ダンジョンで出たよくわからない、シューユとミソというものをたくさん買ってくださったり。
まさか、シューユとミソが調味料だと思いませんでした。もちろん、リン様はその使い方を教えてくださっただけではなく、レシピも無料で教えてくださったのです!
妻や従業員と一緒にその話を聞いて、そして間近で実践してくださいましたが、薬師とは思えないほど、手際がよかったのです。孤児だと仰っておいででしたので、なんでも一人でこなすしかなかったのでしょう。
教わったレシピはとても簡単なものでしたが、アレンジがきくレシピでしたので妻も気に入り、我が家の食卓が豊かになりました。それは今でも感謝しております。
そんなある日、貴族のご友人に贈り物をしたいが、どのようなものがいいのかと聞かれました。他にも珍しい果物はないか、とも。
わたくしどもでも貴金属を扱っておりますが、西地区のほとんどが庶民のみなさまが買いにこられる店です。ですので、中央地区にある本店をご紹介させていただきました。
売り上げの額も、リン様の丁寧な物腰も、貴族のみなさまに引けを取らなかったからです。きっと、本店の店長も気に入ってくださると、自信を持ってご紹介いたしました。
どうやらそれは当たりだったようで、すぐに本店からお礼の連絡が来ました。エアハルト様とご来店なさったそうです。
かなりの高額商品になったそうなので、エアハルト様がお支払いするのかと思いきや、やはりリン様が一括でお支払いをされたそうで、店長も驚いていらっしゃいました。
やはり驚きますよね。貴族が買いに来る中央地区の店に庶民が伺っただけではなく、呆気なくお支払いをされたのですから。
ですが、店長は貴賎で商品を売るような方ではありませんから、すぐに本店に入店するためのカードをご用意したと仰っておりました。
さすが、リン様です。
それからずっと中央地区で買い物をなさると思っておりましたが、リン様はなんら変わることなく、わたくしども西地区をご利用くださいました。あちらは高級すぎて、そんなにちょっちゅう買いにいけないからと仰って。
そんなことはないと思うのですが、まったく買いに行かないというわけではなく、特別なことがあった場合に本店をご利用なさっているようでした。それ以外は、ずっとわたくしどもの店で買い物をしてくださっているリン様に、感謝の念しかございません。
そんなリン様が薬師の神となられると聞いて驚きましたが、神酒を作れるのです。納得もいたしました。
神となられても変わらずに買い物を続けてくださるリン様。
ある日、妻が刃物で指を切り落としてしまったのです。たまたまそこに居合わせたリン様は、躊躇う素振りを見せることなく、わたくしに神酒を差し出してくださったのです!
「あとでいいですから、先に奥様のところに行ってください」
「ありがとうございます!」
「お大事に!」
心配そうに、すぐに妻のところに行くように言ってくださったリン様に感謝し、すぐに妻のところに戻ると、神酒を飲ませました。すると、薄紫色の光が妻の指に集まり、すぐに再生したではありませんか!
しかも、子どもができずにずっと悩んでいた妻のお腹のあたりも、同じ光が現れていたのです。
「あなた……これって……!」
「神酒だよ。凄腕の薬師がいると言っていただろう? その方がたまたま店にいらして、僕に渡してくださったんだ」
「で、伝説の神酒を!?」
「ああ」
「指をなくしたから、諦めていたのに……。それに、なんだかずっと痛かったお腹も、痛みがないの」
小さなころに転んで、当たり所が悪かったのか、お腹の一部を怪我してしまった妻。そのあたりが子を授かる場所だったから、医師には子ができないと宣言されていたそうだ。
わたくしはそれを知ってはいましたが、諦めることなく励んできたのです。ですが、そろそろそれも限界にきていて、二人して養子をとろうかという話をしていた矢先でしたので、もしかしたら……という希望が湧いてきたのです。
それはともかく、指が治った妻と一緒に、リン様のところにお礼を言いにまいりました。そしてすぐにお支払いをしようとしたのですが、その分はリン様が欲しい商品で代用してくれないかと、提案してくださったのです。
欲しいのは米とアジュキ、モチゴメでした。特にアジュキとモチゴメは不良在庫でしたのでありがたいのですが、どうしてリン様がそれを欲しがるのか、不思議で仕方がありません。
しかも、全部かき集めたとしても、どう考えても神酒の値段と吊りあいません。ですから、代金の不足分は金銭でと申し上げたのですが、リン様はいらないと仰いました。
いつも自分の我儘を聞いてもらっているし、奥様の素敵な笑みを見たから、と。
「神酒を割引したのは、内緒にしてくださいね」
「……っ! は、はいっ!」
今回限りですけどね、と茶目っ気たっぷりに話してくださったリン様に、妻と二人で感謝いたしました。
そして数ヵ月後、子を授かりました。翌年には元気な男の子が誕生したのです。
しかも、結果的には三人の子に恵まれたのです!
本当にありがたいことです。リン様が薬師の神となられたことは、必然なのだと感じました。
その後、ひ孫がわたくしどもの話を聞き、リン様に憧れ、リン様のお孫様の弟子となり、立派な薬師となりました。神酒を作ることはできませんでしたが、万能薬とハイパーポーションを作れるまでになったのでした。
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