転移先は薬師が少ない世界でした

饕餮

文字の大きさ
163 / 178
本編 2

アイデクセ国の出生率

しおりを挟む
 今日も今日とて、マルクさんが遊びに来てくれた。そのタイミングで私が休憩がてら様子を見に来たんだけど、隣の道具屋をしている魔神族のお姉様から、気になることを言われたのだ。

「そういえば、マルクさん」
「……」

 返事をしないマルクさん。あ~、これはおじいちゃんと呼ばないと返事してくれないやつだと察する。

「マルクおじいちゃん」
「なんじゃ?」
「聞きたいことがあるんです」
「儂でわかることならば」
「おじいちゃんが一番適任なんです」

 そう言いつつ、この国というか、この世界の出生率を聞いてみた。
 隣のお姉様が言っていたのは、「子沢山なのねぇ」だ。確かに四人は多いかもしれないけど、ガウティーノ家も四人兄弟だ。
 不思議だったんだよね、子沢山という言い方が。だからマルクさんに聞いたんだけど。
 マルクさんいわく、魔神族に限らず、長命種になるほど子どもの出生率は高くないという。だいたい、短くて十年か二十年間隔で一人産み、長いと五十年なんだとか。
 しかも、多くて三人、たいていは一人か二人しか産めない、らしい。

「え? でも、ガウティーノ家は四兄弟ですよ?」
「ガウティーノ家が特別なんじゃ。いや、ガウティーノ家というより、騎士の家系というべきかの」
「それは、どうしてですか?」
「今は平和な世の中じゃから関係ないが、昔は魔物の数も多かった。それに加えて戦乱があったからのう。戦乱があれば親兄弟は戦に駆り出される。もし後継者が駆り出されて戦死すると、次が必要になってくるからの」
「あ~……」
「言い方は悪いが、予備がたくさん必要だったんじゃ。そのため、割と短期間で産み育てることがおおくてのう」

 そういう時代が続けば、子も親に倣って子沢山になる。それを繰り返しているうちに血族の血に刻まれたんだろうというマルクさん。
 つまり、いつの間にか遺伝子に組み込まれたってことなんだろうね。
 とはいえ、それは遥か彼方のことであって、今は当時に比べたら魔物は少ないし、北大陸以外は戦乱もない。なので、病気や事故にあったことを考えて一人か二人産んだら終わりというのが主流の考え方らしい。
 それでも、現在も騎士の家系は多産の家が多いし、多産の家系同士で結婚すると、どうしても出生率は高くなる。なので、常に一人しか子どもができない家に嫁いだり、婿に行ったりしている国もあるんだとか。
 アイデクセ国はそこそこの出生率でちょうどいい人口だけど、他国だともっと少ないんだとか。

「そうなんですね」
「とはいえ、わりと長命種になる獣人族の中には、一回の出産で双子や三つ子を産む種族もおあるからのう。一概にこうだと言えんのが現状じゃな」
「なるほど~」

 種族に寄りけりなんだね。さすがは宮廷医師だったマルクさんだ。
 他にも、ドラゴン族のように卵を産む種族で天使のような羽根人はねびとという種族がいるそうなんだけど、彼らも卵を産んだあと、ドラゴン族のように両親の魔力を与えて成長させるんだって。
 本当にいろんな種族がいるんだなと勉強になった。

「他にはあるかの?」
「いえ、特には」

 とりあえず聞きたいことも聞けたしと二人してお茶を飲みつつお菓子を頬張っていると、小さくなって子どもたちを見守っていたロックが声をあげる。

<リンママ! アンナがうんちした!>
「あーーん!」

 ロックが叫んだあと、室内にアンナの鳴き声が響く。ほんと、ロックだけじゃなくて他の従魔たちがおしっことうんちを教えてくれるから、本当に助かっている。

「おやおや。どれ、儂がおむつを変えようかのう」
「え、でも……」
「よいよい。家でもやっているからの。手慣れたもんじゃて」

 お茶を飲み切ったマルクさんは、そう言って席を立つと、おむつを置いている棚に向かう。そこからおむつとおしりを拭くための濡れている布、父が開発したベビーパウダーを持ち、アンナのところへ向かう。
 マルクさんを追いかけてアンナのところへ行くと、汚れたおむつをはがし、濡れた布でおしりなどを優しく丁寧に拭いたあと、ベビーパウダーをはたいてから新しいおむつをアンナにつけるマルクさん。
 その手慣れた手つきが、家でもやっているという事実が伺える。

「ほれ、終わりじゃ」
「あ~い! じー、あ~と~」
「よいよい。……リン、アンナはだいぶ言葉を覚えてきたのう」
「そうなんですよ~。これもおじいちゃんやみなさん、従魔たちが話しかけてくれるおかげですね」

 本当にそう思う。もちろん私もエアハルトさんも子どもたちに話しかけているけど、一人よりも二人、二人よりも三人と、人数が多くなっていくごとに聞く機会も増えるし、話もしてくれるようになった子どもたち。
 
 アンナとマルクさんが話しているのを見て、このまま元気に育ってくれるといいなあと思った。

しおりを挟む
感想 2,061

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

お前は家から追放する?構いませんが、この家の全権力を持っているのは私ですよ?

水垣するめ
恋愛
「アリス、お前をこのアトキンソン伯爵家から追放する」 「はぁ?」 静かな食堂の間。 主人公アリス・アトキンソンの父アランはアリスに向かって突然追放すると告げた。 同じく席に座っている母や兄、そして妹も父に同意したように頷いている。 いきなり食堂に集められたかと思えば、思いも寄らない追放宣言にアリスは戸惑いよりも心底呆れた。 「はぁ、何を言っているんですか、この領地を経営しているのは私ですよ?」 「ああ、その経営も最近軌道に乗ってきたのでな、お前はもう用済みになったから追放する」 父のあまりに無茶苦茶な言い分にアリスは辟易する。 「いいでしょう。そんなに出ていって欲しいなら出ていってあげます」 アリスは家から一度出る決心をする。 それを聞いて両親や兄弟は大喜びした。 アリスはそれを哀れみの目で見ながら家を出る。 彼らがこれから地獄を見ることを知っていたからだ。 「大方、私が今まで稼いだお金や開発した資源を全て自分のものにしたかったんでしょうね。……でもそんなことがまかり通るわけないじゃないですか」 アリスはため息をつく。 「──だって、この家の全権力を持っているのは私なのに」 後悔したところでもう遅い。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。