転移先は薬師が少ない世界でした

饕餮

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本編 2

カルティス領へ行こう 6

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 紙芝居のやり方を教えたあとは実践。この実践がとても上手だったのが、意外なことにレイラさんのお母さんであるイヴェットさんだった。
 今までは娘であり領主であるレイラさんを支えていたけど、いつまでもそんなことばかりしていられないし、できれば孤児院関係でなにかできないかを探っていたんだって。そんな手探りの中、子ども向けの本――絵本の作成をすると知って、読み聞かせをしようと考えた。
 だけど、いざレイラさんが私から借りた絵本を持って読み聞かせをしてみたけど、なかなか難しいことが判明。どうしようかと悩んでいたところに私たちが持ち込んだ紙芝居を見て、これならばできそうと普段と同じようにやってみたのがよかったみたい。

「素敵でした!」
「ええ、本当に!」

 私とナディさんで拍手をしつつ感想を言うと、イヴェットさんは照れつつも嬉しそうにはにかんだ。その顔はレイラさんそっくり!
 そこからは私たちが驚くほど行動が早かった!
 まず、紙芝居用の木枠をレイラさんのお父さんであるパウルさんが、木枠のレシピというかサイズなどが書かれているものを工房に持っていくために離席。次に今回紙芝居用に持ってきた話をレイラさんとイヴェットさんに渡し、絵本にしてあるものを参考に、あれこれと議論が始まる。
 それを聞きながらカールさんが紙芝居用と絵本用に、文章を一ページ分の長さにそれぞれ調節。見本という形で一冊分を作り上げた。もちろんこれは見本なので、糸で閉じただけの、簡素な本の状態だ。
 本の綴り方に関しては、まずは縦と横を揃えたあと、背表紙になる部分に糊を塗り、洗濯ばさみなど挟めるもので固定。ある程度乾いたら糸か細くて丈夫な革紐で綴る。
 その上に背表紙側のところに細く切った紙か極薄の革を貼ったあと、表紙となる装丁をを被せてはどうかと話す。
 装丁の仕方はわからないので、そこはイヴェットさんたちに丸投げだ。

「なるほど……背の部分をある程度丈夫にすればいいんですのね」
「綴るのも糸ではなく、捨てるような革紐でいいんじゃないかしら」

 レイラさんとイヴェットさんがそんな話をし、追加でどこそこの工房で捨てる革紐の利用方法を打診しましょう、なんて言っている。こうなってくると私たちの出番はないので、彼女たちの意見が出尽くすまで放置した私たちは悪くないと思う!

 そうして滞在できる期限ギリギリまで絵本と紙芝居の製作の手伝いをし、貴族向けと庶民向け二種類の装丁を作った絵本は、発売前に両方とも王家へと献上することに。まあ、こういうのを発売しますよという宣伝と、よかったら貴族に紹介してね、という思惑もあるみたい。
 とはいえ、まずは自分の領地内から始めて評判や様子をみつつ、絵本の内容や評判がよければ、商人さんたちが買ってくれるはず。なので、まずは領内の普及から始めるんだって。
 うまくいくといいなあ。
 あと、領内限定の魔物図鑑や植物図鑑に関しては、冒険者ギルドにお願いして情報を集めてもらっているそうだ。特にダンジョン自体の攻略が終わっておらず、踏破している階層の魔物やそのドロップ品、植生などしかわからないからだ。
 そうはいっても現在までわかっていることは、第一階層と第二階層は有用なものが多く、魔物はスライムしかいないとのこと。しかも、生えているのは領内では作れない果物や野菜、薬師ではポーション系とハイポーション系、医師は特殊な病気以外の薬がほぼ作れてしまう薬草が多く、隣の領地から購入していたものも生えているので、人材育成に役立ちそうなんだとか。

 そんなこんなで、帰る日の朝。領都の門前でご挨拶。

「よかったですね!」
「ええ! お義兄様、お義姉様。いろいろとありがとうございました」
「また来てください、兄上、義姉上。そしてアレクとナディも」
「ああ」
「はい」
「また来ますわ」

 忙しいだろうに、レイラさんとカールさんが見送りにきてくれた。しかも、お土産にできたばかりの絵本と領内の野菜やダンジョンで採れた野菜と果物、薬草を手渡されたのだ。
 みんなで食べようと思います!

「それじゃあ」

 門をくぐり抜けてからもう一度振り返り、レイラさんとカールさんに手を振る私たちに、二人も振り返してくれる。それを見たあと、そのまま街道を少し歩き、人気ひとけのない場所までくると飛び立つ準備をする。

「準備は終わったな? じゃあ、帰るぞー」

 エアハルトさんの号令で一斉に飛び立つ従魔や眷属たち。
 かなり長い期間いたけど、たまにはいいよねー、と思ったり。

 数時間後、無事に帰宅。お土産を渡すために店に行ったんだけど……

「お帰りなさい」
「た、ただいま、ママ」

 長く開け過ぎたらしく、笑顔なのに目が笑ってない母がいた。
 その後、あれが足りない、これが足りないと言う母の指示に従い、許してくれるまでポーションを作りまくったのだった。 

    
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