102 / 143
第十四章
焦がれる身体
しおりを挟む「手酷い熱を…‥っ‥…僕に‥…わたせ」
「‥…ッ」
「‥ハァ‥…!!」
片腕をバヤジットのうなじに巻き付かせたシアンは、左手が使えないのをもどかしそうに、代わりに強く唇を押し付けた。
それから大きく口を開けて舌を突き出す。
抵抗のしかたを忘れたバヤジットの口内をなぞり…舌を捕まえ、絡めた。
「ん…‥バヤジ…ッ‥‥ト‥…!!」
一度絡んで、引っ込み、切なく苦しげな声で呟いて、下唇の膨らみを食む。
引き締まったバヤジットの薄い唇に、何度も自分の唇を擦り付けるしぐさは、主を前に必死に甘える飼い犬のようで、とにかく性急であった。
「…は、っ‥…シ、…アン……!?」
バヤジットの驚きは少し遅れてやってきた。つまり、思考というものが一時的に殴り飛ばされた状態にあった。
口の中の柔らかな感触も、脳に響いてきた口付け音も、他人事のように理性の枠を滑り落ちる。
だからシアンの舌が歯列の隙間をなぞってくると、大人しく口腔への侵入を許していた。
《 バヤジット…… 》
‥‥‥‥ッ
「‥シ、ア……ンっ‥…」
ようやく…シアンの肩を掴む手に力が戻る。
カラクリ人形で例えるなら、やっとゼンマイが巻かれ始めたところだ。
だが不味いことに、今すぐシアンを引き剥がすべき両手なのに、むしろ背中にまわして力いっぱい抱き締められないもどかしさを感じてしまっていた。
どういうわけだ
シアンの身体が傷だらけでなかったなら、無我夢中でかき抱き、本能にまかせて押し倒していた予感がする。
そんなバヤジットの舌はシアンを迎え入れ、受け入れて絡まってしまった。
必死に突き出してくる舌先を吸ってやると、「うっ」と鼻にぬけた色めいた声でシアンが応えるので、目頭が熱くなった。
頭に血が逆流している。
大きな手をシアンのうなじにまわし、彼の口腔を侵し返した。
「はぁッ……シ アン……!」
「ん、ぅっ…‥ふ‥‥‥」
先刻前まで彼の生死がわからず潰れそうな胸で名を叫び続けていた。今も猛る思いとともに、熱い息を吐き出して彼の名を呼ぶ自分がいる。
バヤジットの口付けは興奮とか欲情というよりも、愛おしさがまさっていた。
たまらない気持ちになったのだ。
今のシアンは、正気ではない。弱ったところに付け込んでいる自覚があっても、止められないほどの情があふれる。
口付けだけで喘ぐほどに感じたシアンが、もっともっとと強請るように擦り寄ってくると、そんな彼を広い胸と腕でしっかりと支え、貪るキスで唇に蓋をした。
感情が膨れあがって、零れる
すべて奪ってしまいたい
身体も心も包み込んで…もう傷付けられないように
その衝動を堪えるために、バヤジットの鼻息が荒々しくなる。
《 すまない……バヤジット…… 》
・・・ポタ
…どういう理由か到底わからない涙が、バヤジットの目尻に滲み、一筋の線となって顎をつたう──。
男らしく動く喉を掠めて、冷たい石床に落ちていた。
──…
一刻後、明け方の王都ジゼル。
円形広場の石畳に倒れたふたりを、仕入れに出てきた商人達と、店の亭主が発見した。
「誰だ?」
「この方は……バヤジット将官じゃないか!抱いてる女は……いや男か?…っ…酷い怪我だぞ」
「医者に連れてったほうがいいんじゃないか」
力尽きたらしいそのふたりは、息をしているので生きてはいた。眠っているのか?
何が起こっているかわからないまま、人々は慌てるだけで時が過ぎていく。
....
「──…どけ」
そこへ、数人の男達が近付いた。
その装束は街の者ではない。
突如現れた男達は倒れた二人を囲うように立ち、静かに見下ろした。じろじろと観察する目付きは、彼等が二人の味方なのか敵なのか…判断できないものだった。
彼等が見ているのは、大柄な男に庇うように抱かれ、羽織らされた服の中で眠っている美しい青年──。片腕は失い、他方の腕には手枷がはめられている。
「こいつが、そうだな」
すぐさま男達は、抱かれた青年をバヤジットから奪って肩にかついだ。
そして周囲の見物客を押し退け、広場をあとにし姿を消した。
0
あなたにおすすめの小説
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる