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東城家
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LGAには学園の敷地内でありながら、指導官の自邸が並ぶエリアがある。
渡された位置データを確認しながらミレイは東城家の門までたどり着いた。
そこは寮からそれほど遠い場所でもない。
“ これって男女差別だよね? ”
まさか寮に入れてくれないとは。
風紀のため……だなんて、自制がきかない子供の集まりでもあるまいし。
ミレイは納得できないまま門をくぐって、恐ろしく広い東城家の敷地に入った。
ドアの横にチャイムがない。
ピピピピ…と
頭上で電子音が微かに鳴っているのが気になるが、それは無視して彼女は鍵のかかっていないドアを開けて玄関へはいった。
「お待ちしていましたよ」
「あ、ごめんなさい勝手に入って……」
すると玄関でミレイを迎えたのは、スーツを着た強面の大男だった。
使用人?…違う。恐らく、この家の専属ガードマンのひとりだ。
「東城ヒデアキ様から伺っています。枢木ミレイ様で間違いないですか?」
「ええ、あの……わたしは本当にここに住むのでしょうか……?」
「そのように取り計らっております」
強面の男は見た目こそ迫力があるが、話し方は丁寧だった。
“ 何かの手違いではないのね ”
寮に入れてもらえない話はやっぱり本当らしい。
「それなら理事長に挨拶をした方がいいですよね」
「ヒデアキ様は式典が終わり次第、次の仕事のために外国に向かいました。よって暫くはこの家に戻ってこられません」
「家に、いないんですか……」
ミレイは知らない土地にポイ捨てされた空き缶の気分だった。
まぁ、拾う相手も用意してくれたことはまだ良心的だが。
「じゃあ、その、宜しくお願いします」
「はい、お部屋まで案内します」
強面大男が歩きだした。
ミレイは慌てて靴を脱ぎ、後に続いた。
──
外観からだとわからなかったが、東城家の中の造りは和洋折衷──歴史的な建築を彷彿させる。
板張りの細長い廊下を歩きながら、この家の不思議な雰囲気に見いっていた。
間仕切りは全て障子。
ダイニングらしき部屋がちらりと見えたが、畳張りの大空間に堂々とテーブルセットや食器棚が置かれていた。
明るすぎない照明が素敵だ。
“ 理事長の趣味かしら ”
趣のある旅館のようだとミレイは感じた。
そして彼女は長い廊下を進んだ先にある部屋に案内された。
「あれ、普通…」
ガチャリと開けられたそこに広がる部屋は、よく見るいわゆる洋室だった。
障子に畳、そこにソファという雰囲気がとても素敵だったので、連れてこられた自室がそうでないことに少しだけがっかりする。
「何か仰りましたか」
「いえっ、ただ……この部屋だけ雰囲気が違うなぁと思いまして」
「ここから先は来客用の部屋ですから。使いやすいように洋室となっています」
冷静に考えれば、普通、なんて言うのは失礼な広くて綺麗な部屋だ。
彼女は思い改めて、ありがたく使うことにする。
「ベッドや机、クローゼットは完備しております。あちらの扉は洗面所です」
「わかりました」
「それと鍵ですか……こちらに」
部屋の鍵を渡されるのかと思ったら、男はドアを一旦閉めてドアノブの方を示した。
「こちらに枢木様の指紋データを登録します。手を置いてもらえますか?」
“ さすが東城家…、厳重ね ”
言われた所に手をかざすと手相のスキャンが始まった。
完了の合図が鳴り、情報が取り込まれる。
これで彼女が手をかざさないと部屋には入れない。
「立ち入り禁止の部屋には全て鍵がかかっていますから、基本的にこの家の中を自由に使っていただいて構いません」
「ありがとうございます。あとひとつ、お風呂はどこを使えばいいですか?」
「先ほど左に曲がった所を、真っ直ぐ進んだ所です。女性はあなたひとりなので、使用時は内鍵をお忘れなく」
「わかりました」
一度にいろいろ教えられても覚えられないので、必要最小限のことだけ聞いて、ミレイは男と別れた。
部屋に入り、ぐるりと見渡す。
届けられた荷物をほどき、数少ない手持ちの服をクローゼットにかけていった。
白を基調とした家具が可愛らしい。
生まれて初めての自分だけの個室に、今の今まで懐いていた不満もやわらいでいく。
そんな具合で荷解きを進めていくと、荷物は多くないのですぐに片付いた。
「お風呂に入ろうかな」
朝からの様々な手続きですっかり疲れてしまった。浴槽でゆっくりリフレッシュしたい。
ミレイは着替えとタオルを持って、教わった場所を思い返しながら部屋を後にした。
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