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ナツの作戦
しおりを挟む…──ガコン
「くぁ~、危ねぇ」
寮を出てすぐの外にある自販機で、飲み物を買いながら大きく溜め息。
ボタンを押すと飲み物が落ちる音がして、取り出し口にシュッと滑り出てきた。
“ 俺って枢木さんに惚れてんの? ”
いや~やっぱりなぁ。確かに普通に可愛いし。少なくとも高校の時の同級生達より可愛いし。
「でもまだ……うん、早いよな」
正直なところ、中高時代のナツはむちゃくちゃモテた。
頭が良く、スポーツもできるし、背も高い。
だがLGAに進学すると決めた以上、女っ気のある生活は完全に捨ててきたのだ。
なのに……偶然にも、入学式でミレイと知り合ってしまった……。それから昼休も放課後も、一緒にいることが多い。
「いいのか……?」
高校を卒業したばかり。ナツだって、まだまだ恋愛を楽しみたい年頃だ。
でも今は駄目だ。
告白するには早すぎるし、弱っているところにつけこむようなやり方が好みじゃない。
それに
《久保山くんといるとホッとする》
──ミレイのあの言葉。ポジティブに捉えることもできるが、ようは異性として意識されてないってことだ。
“ …っていうかヤバイ!本棚に、隣の奴から借りたエロ本が普通に置いてある…っ ”
まさか女の子が来るなんて思ってもいなかったし、いろいろ無防備すぎる。
ミレイが風呂から上がる前に戻って隠すという使命ができたナツは、急いでもう一本の飲み物を買おうとした。
チャリン
お金を入れて……
「枢木さんって何飲むんだ?」
お茶?
珈琲……は苦手だったら困るしな……
「あ、オレンジジュースとかありかも。嫌いな女子はいなさそうだ……──しッ」
ピッ
は?
──ところが後ろから、自分ではない別の指が伸びてきて
オレンジジュースの左下
ミルクティーのボタンを押してしまった。
「…!! だ…ッ!?」
「……フ」
他人の金で勝手にミルクティーを買ったその相手は、滑り出てきた缶を掌で受け止めた。
ナツが後ろに振り返ると、そこにいたのは自分よりも背の低い黒髪の男──。
「誰…!?」
不意をつかれたせいで小さな声しか出ない。
「……」
相手の男は悠々と缶を開けると、その少量を口に含み……、そして顔をしかめた。
「……うん、予想通りの酷い味だね」
「いやッ、いきなり何してんだよ‥っ──お!?」
「……これ」
「…っ」
怒ろうとした矢先、ナツは顔の前にミルクティーを突き付けられる。
ピチャンと跳ねた中身がナツの顔に少しだけ散った。
「これ、君にあげるよ」
「……はぁ」
鼻に付くぐらいに差し出された缶を、状況の呑み込めないナツは両手で大人しく受けとる。
そして相手の顔をまじまじと見詰めた。
「だ、誰ですか……」
思わず敬語になってしまうのは、相手の余裕たっぷりな笑みに気圧されてしまっているからだ。
暗い外──
自販機からの明かりを正面から浴びたその男。
長い睫毛の影を目の下に落とし、その影の隙間から、色っぽいホクロをひとつ覗かせていた。
「そのミルクティー。あげたお礼に頼み事があるんだけどね」
「……っ」
「彼女の居場所……。僕に教えてくれないかな」
男のジャケットの内ポケット。
そこに収まった短銃が、ちらりとナツの視界に入った。
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