成長チートになったので、生産職も極めます!

雪華慧太

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298、二つの力

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「おぉおおおおおお!!」

「死ねぇええい!!」

 凄まじい闘気に、迷宮の中の空気が震えている。
 聖堂の中でのデュランとラエサルとの激突。
 それさえも超える程の戦いが今、雌雄を決する時を迎えていた。
 エリスは、右手の腕輪を握りしめて必死に祈り続ける。

(エイジ! お父様、お母さん、エイジを守って!!)

 エリスの腕輪に浮かび上がる獅子の紋章。
 そこからは、強い光が放たれている。
 それに反応するかのように、エイジの大剣の紋章も輝きを増す。
 ぶつかり合う剣と剣。

「うぉおおおおおお!!」

 強烈な闘気が大剣を覆っていく。
 時魔術の力で加速した大剣が、勢い良く振り抜かれた!

「馬鹿な! 何だこの力は!!」

 ラエサルの手から弾き飛ばされた漆黒の剣が宙を舞う。
 黒い瘴気がラエサルの体からあふれ出し、その剣を追っていくのをエイジの黄金の瞳は捉えた。

 凄まじい悪意の塊。
 常人ならばそれを感じただけで、身動きが取れないであろう。
 悪魔とも呼ぶべき何かの叫びが、辺りに木霊した。
 それは魔剣の中に巣くう何かだ。
 黒い瘴気は剣からも溢れ、無数の漆黒の蛇の頭となりてエイジの頭上から襲い掛かあるべく身構える。

 ミイムがエイジの肩の上にとまる。
 勇気を振り絞ったのだろう、両手をしっかりと握りしめてエイジに言った。

『ミイムも戦うです! エイジとリイムと一緒に戦うです!!』

 溶け合うエイジの闘気とミイムの姿。
 エイジは振り抜いた大剣を左手一本に預けると、右手でロイが息子の為に鍛えた剣の柄を握った。
 極限まで高められた集中力、そして闘気。

『ああ、ミイム、リイム、俺に力を貸してくれ!!』

 青く輝く大剣、そして赤く輝く右手の剣。
 青と赤の二刀。
 少年の左右の手が握る、二刀の剣が振り抜かれるその速さ。
 それは、もはや神域と言っていいだろう。

「うぉおおおおお!! バニシングクロス!!!」

 それぞれの剣が放った絶技ともいうべき一閃が、襲い掛かる黒い蛇の鎌首を全て刎ね飛ばすと、瘴気の本体に激突し十字を描く。
 相反する属性の精霊剣が放つ衝撃波。
 それが恐るべき速度で激突し合い、そこにあるものを全てを消滅させていく。
 魔剣は砕け散り、そこに巣くう黒い瘴気ですら吸い込まれていくのが見えた。

「あり得ん、この俺をただの人間ごときが! うぉおおおおお!!」

 人ならざる者の断末魔が、辺りに響き渡った。
 魔剣に巣くうモノは、最後に己の主の名を叫んだ。

「アンリーゼ様ぁあああああ!!」

 二人の精霊と、二刀の剣に導かれるようにして放った技。
 強烈な光を放つ十字が、その声すらも飲み込んでいく。
 その名を聞いて呆然と立ち尽くすエイジ。

(アンリーゼ……アンリーゼ・リア・エルゼスト。ラエサルさんが言っていた『殺せずの聖女』の事か)

 いや、今はそれよりも、とエイジは思う。
 エイジは、フラフラとよろめくラエサルの体を抱き留めた。

「ラエサルさん!!」

 精悍な顔に笑みを浮かべて、エイジに身を預けるSランク最強の冒険者。

「……エイジ、強くなったな。見事だ」

 エイジは首を横に振った。

「いつものラエサルさんだったら、きっと俺は勝てなかった」

 あの夜のことを思い出す。
 まだ脳裏に焼き付いている、ラエサルの鮮やかな身のこなし。
 先程戦ったのは、あの時の男でありそうではない。
 エイジにはそう思えたのだ。
 少年のその言葉を聞いて、ラエサルは思った。

(俺は見誤っていた。こいつは強い、俺が思っていたよりも遥かに……)

 エイジは、自分たちの後ろに立っている少女の気配に気が付いて振り返る。
 アンジェだ。
 普段の少し生意気な様子は影をひそめ、その目には溢れるほどの涙が浮かんでいる。
 ラエサルはアンジェの頭を優しく撫でた。
 一気に緊張が解けたのか、ラエサルに抱きついてまるで子供のように泣きじゃくるアンジェ。

「お父さん……おかえりなさい」

 少女はずっと言いたかった言葉を彼に言った。
 ラエサルは、しっかりとその体を抱き締めて答えた。

「ただいま、アンジェ。心配をかけたな」

 ─────

 いつもお読み頂きましてありがとうございます!
 雪華慧太です。
 この度、本作の第三巻が発売されることになりました。
 いつも応援して下さる皆さんのお蔭です!

 書籍版は三巻で完結という形になります。
 エイジたちにこんな未来があったのかもと思いながら書いた一冊になります。
 WEB版とは大きく違う内容になっていますが、自信をもってお届けできる内容に出来たと思います!
 書籍版ならではのストーリーをぜひご覧くださいませ。

 書籍の出荷日は6月21日となります。
 早い所では出荷日の翌日には書店に並ぶと思いますが、地域によっては数日お時間がかかることもあるそうですのでご容赦ください。
 書籍の発売に伴いまして『134、激突』~『203、額の宝玉』までが非公開になり、書籍版の三巻が代わりにレンタルとして掲載されるようになりますのでご注意ください。

 もちろんWEB版はこのまま連載を続けていく予定ですので、エイジたち共々これからもどうぞよろしくお願いします!
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