成長チートになったので、生産職も極めます!

雪華慧太

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230、騎士の笑顔

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(ジーナ隊長が言っていた、剣の力を引き出すというユニークスキル。今のが彼の本当の力か、凄まじいなこれは)

 オリビアに向かって突進してきたリザードドラゴン、そしてその背に張り付いていた巨大なパラサイトアントは白い炎に焼かれている。
 美しい女騎士は、呆然と目の前の少年の背中を眺めていた。
 自分を守るように立ちはだかっている。
 オリビアの脳裏に、一瞬懐かしい後ろ姿が浮かんだ。

(ミハエルお兄様……)

 幼い時から、いつもその背を追いかけていた自分。
 兄に剣を教わって、褒められるのが何よりも嬉しかった。

 そして、半年前のあの時。
 兄は目の前の少年のようにオリビアの横を駆け抜け、敵に向かっていった。
 地面に倒れる仲間の騎士たちの姿、そして最後は兄のミハエルも。
 傷を負い何も出来ずに意識を失った自分。
 フラッシュバックしたかのように、その光景が彼女を襲う。

 自分に背を向けている少年が振り返る。
 オリビアの心を激情が支配した。
 一瞬とはいえ、兄の背中と少年の背中が重なって見えた自分が許せない。
 オリビアは怒りにまかせて叫ぶ。

「余計な真似をして! 貴方に助けてもらわなくても、敵の気配には気付いていたわ。私を誰だと思っているの? ロードファエル家の人間よ!」

 オリビアの言葉に、エイジは困ったように笑うと。

「そうだろうな。でもさ、オリビアが危ないって思ったら勝手に身体が動いたんだ。仲間だろう? 理屈じゃないさ」

 その言葉と笑顔を見てオリビアは立ちすくんだ。
 
(馬鹿な男……)

 名門の出にも関わらず部下たちにも分け隔てをすることなく接していた、そんな兄を見て甘いと小言を言っていたオリビア。
 上下関係や規律を厳しく守ることが組織を引き締めるのだと。
 しっかり者の妹に、兄はいつも困ったように微笑んでいた。

『仲間だろう? 身分や難しい理屈なんて俺たちには必要ないさ』と。

 仲間思いの人だった。
 そんな兄が、本当はオリビアの誇りだったのだ。
 目の前の少年の笑顔は、どこか兄の笑顔に似ていた。
 オリビアは一筋の涙が自分の頬を伝うのを感じた。

「お、おい。オリビア、そんなに気に障ったのか……」

 エイジは、自分を見つめるオリビアの瞳から涙が零れているのを見て動揺する。
 それほど目の前の少女を怒らせたのかと。
 シェリルがオリビアに駆け寄って、エイジを睨みつけた。

「エイジ、何言ったにゃ!? エイジは確かに強いにゃ! でも、私の仲間を馬鹿にするのは許さないにゃ!」

 オリビアは、シェリルを右手で制しながら言う。

「気に入らない男。貴方を見ていると思い出すわ、お人好しで……でも、誰よりも誇り高かったあの人のことを」

 オリビアの言葉にシェリルは首を傾げた。

「思い出すって誰をにゃ?」

 その時、オリビアとエイジは通路の先に目をやった。
 エイジが放った一撃の白い炎で通路の奥に引いていた魔物が、またこちらに向かってくる気配を感じる。

「行くわよ、エイジ!」

 初めてエイジの名を呼ぶオリビア。
 エイジは驚いたように彼女を見る。
『ソード・オブ・エンジェル』が今までになく強く輝いた。
 同時に彼女の背には美しい翼が広がっていく。

「ああ、オリビア」

 エイジは力強く頷いた。
 オリビアの美しい横顔には笑みが浮かんでいる。
 隣に居る仲間を信じて、己の背中を任せられるといったその表情。
 それは誇り高いロードファエル家の騎士に相応しい笑顔だった。
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