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ヒルデブランドの四季 ~ 一年目・秋から冬

二日酔いの朝は

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 昨日ギルドのホールで切れまくった結果、チーム「雀のお宿」の他に手の空いた冒険者の皆さんがアンシアちゃんの悪い噂を消しに走ってくれた。
 私は刃物を振り回したことをギルマスと兄様たちに怒られた。

「当たりまえすぎて言っておかなかったが、ギルド関係の建物内での抜刀は禁止だぞ」
「大体お前は長刀なぎなたの経験があるのか」

 今度は私がホール内で正座して兄様たちから見下ろされている。
 そしてなぜかアルも一緒に正座している。
 対番としての教育不足、保護管理者としての責任があるそうだ。
 アル、ごめん。

長刀なぎなたの経験はないです。横で練習みてただけです。長刀なぎなた班への移動は勧められていますけど」
「じゃあ動きは見ただけで覚えたのか」
「参考資料として長刀なぎなたコミック全巻と映画のDVDを・・・痛い痛い痛いっ!」

 エイヴァン兄様が私の脳天をグリグリする。 

「お前の学校はどうなってるんだ。普通は教本とか試合の映像を渡すだろうが」
「あなたは感覚の人だから、まずはイメージから入るのがいいって言われたんですぅ」
「それでそれを見た感想を言ってみろ」
「みんな頑張っててすごいなあって、痛たたたたたっ !!」

 さらにグリグリされる。
 アルは次は自分の番と青い顔をしている。
 ダイジョブだよ、アル。
 兄様がこれやるのは私限定だから。

「つけ焼刃で真剣を振り回すんじゃないっ ! 練習しろ、練習っ !」
「まあまあ、もういいじゃないか、、エイヴァン」
「しかし、ギルマス、こいつときたら !」

 お説教と正座が一時間をこえたところでギルマスが止めてくれる。
 ・・・助かった。

「もう十分反省しただろう。色々ありすぎて、細かい指導を先送りにしていた私たちにも責任はある。ちょうどいい機会だから、アンシアと一緒にを学んでいきなさい」
「はい、ギルマス」
「それと武器として長刀なぎなたを選ぶのはいいね。どうも剣との相性は良くないようだしね。やってごらん」

 武道館は予約制だから、勝手につかっちゃダメだよと言って、ギルマスは部屋に戻って行った。

◎ 

 もちろんお説教だけで終わるわけがなく、ペナルティとして今日は孤児院のお掃除をすることになった。
 孤児院に行く前にまずアンシアちゃんの下宿による。

「どう、元気 ?」
「・・・全然元気じゃない。頭痛い、気持ち悪い」

 ベッドでゴロゴロしているアンシアちゃんの横で、ピンクウサギのモモちゃんもグッタリしている。
 部屋が酒臭いので窓を開けて空気を入れ替える。

「昨日のこと覚えてる ?」
女将おかみさんにジュースをごちそうしてもらったのは覚えてるんだけど・・・」

 ギルマスの言う通り、酔っ払いってなにも覚えていないんだ。
 じゃあ、あれは聞かなかったことにしよう。

「アンシアちゃん、間違ってお酒を飲んじゃったのよ。私がハイディさんを手伝いに行ってるあいだに、モモちゃんも飲んだみたい。市警のお兄さんに頼んでここまで運んでもらったの。後はお手伝いのおばさんが世話してくれたわ」

 サイドテーブルの水差しが空になっている。

「のどが渇いてお水を飲んだんだけど、戻しちゃうの。でも飲みたいし、どうしたら直るかわからない」
「そっか、つらいね」

 二日酔いは脱水症状が起きているから、体は水をほしがるけど、胃が疲れていて受け付けないことが多いんだって。
 だから少し工夫しなくちゃいけない。

「アンシアちゃん、これ、なにかわかる ?」
「おままごとの器 ?」

 私が見せたのは青い小さな器。

「これはね、お猪口。私の国のお酒を飲むコップ」
「おちょこ ? そんなに小さいのでお酒を飲むの ?」
「私の国のお酒はグラスでゴクゴク飲んだりしないのよ。少しずつ飲んで、その間に何かつまんだりお話したりするの。他の街にはないみたいだけど、昨日訪ねたキンバリーさんのところでは作ってるわ」

 お猪口にお取り寄せしたスポーツドリンクを小さじ一杯分注ぐ。

「ゴクッて飲まないで、口の中を湿らす感じでゆっくり飲んで」

 初めてのスポーツドリンクに不審な顔をしていたアンシアちゃんだが、飲み込んだところでハァッと息を吐く。

「これなら飲めるわ。不思議な味だけど」
「一度に飲むと胃がビックリしちゃうの。このくらいの量なら大丈夫だから、時間を空けて少しずつ飲んでね。今日は一日ゆっくり休みなさいってギルマスが言ってたわ」

 腰につけた冒険者の袋から鍋とスプーンとお椀を出してテーブルに置く。

「これは父が二日酔いの朝によく飲んでいたスープ。お腹が空いたら召し上がってね。ああ、そうだわ」

 エイヴァン兄様に教わった、綺麗にする魔法をアンシアちゃんに使う。
 ちょっとアレンジを加えて柑橘系の香りを添えてみる。
 さっぱりしたら気分も良くなるよね。

「じゃあ、これで失礼するわ。ゆっくり休んで。夕方またお鍋を取りに来るわね」
「あ、あのっ !」

 なあにと振り返ると、アンシアちゃんが顔を真っ赤にして言った。

「・・・ありがと・・・」
「どういたしまして !」

 さっと毛布にくるまって向こうをむいてしまったアンシアちゃん。
 少しづつだけど私たちの距離は縮まってきている。
 ゆっくりでいいから信頼関係を築いていけばいい。
 私たち二人、良いパートナーになると思わない ?
 アンシアちゃんが早くよくなるといいな。
 さあ、頑張って孤児院をピカピカにするぞ。
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